燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード83

 

 

 

 

 

試合は中盤。

5回の裏と、折り返し地点まで進む。

 

 

5回の攻撃を無失点で抑えた沢村に対して、向井。

 

ここまでの投球内容は、御幸が放ったヒット1本のみ。

好投を見せている沢村よりも、正直圧倒的な内容であった。

 

 

(やるな、向井太陽。)

 

 

低めの制球力は、やはり抜群。

ストライクからボール、ボールからストライクを徹底してるから、長打が生まれにくい。

 

甘く入るボールは、未だに0。

雨の影響もあまり受けていないように見える。

 

 

この回の攻撃も8番の金丸をセカンドゴロに打ち取ると、沢村を三振、倉持をライトフライで打ち取り、この回を終えた。

 

 

 

乾とのコンビネーションか。

互いに一球一球目的を理解し合って投げているから、とにかく投げミスがない。

 

正に、阿吽である。

 

 

 

 

 

6回の表。

雨は強まる中、沢村はマウンドへと向かう。

 

冷え込み、少しばかり雨が煩わしい。

そんなことを思いながら、沢村は利き腕である左手に息を吹きかけた。

 

 

体温は高いはずなのに、雨と時折吹く風で若干冷える。

 

なんとなく、嫌な感触であった。

 

 

「沢村!」

 

ホームベース後方から届いた声に反応し、振り向く。

そして投げ返された白球を、右手で受け止めた。

 

 

息を吐き、頷く。

そして、迎える打者が打席に入るのを待った。

 

 

 

この打席は、1番から始まる高打順。

しかし、雨の影響を感じさせない沢村は、先頭打者に対してカットボールでセカンドゴロ。

 

 

ここにきてもなお、テンポが崩れない沢村に帝東打線も打ちあぐねていたが、このリズムを絶ったのは、他でもない、味方のエラーであった。

 

 

 

グラウンドコンディションの悪化により、イレギュラーバウンドをした打球は二塁手小湊の前で不規則に変化。

と言うより、小湊の前で急激に減速し、止まる。

 

ぬかるんで足の遅くなった打球に小湊も猛チャージをかけるも間に合わず、内野安打となった。

 

 

この回出したくない先頭打者を出してしまった沢村。

 

続く2番が堅実にバントで送ると、1アウト二塁のチャンス。

 

この場面で迎えるはクリーンナップ。

ここまで当たりがないだけに、怖い。

 

 

 

声を上げ、バットを掲げる3番。

しかし沢村もまた、このピンチで集中力を最大限まで高めていた。

 

煩わしい雨。

そして、味方のエラー。

 

集中力も切れそうなこの場面。

中学時代、弱小高校のエースであった沢村には、こんな逆境には慣れっこだった。

 

 

 

ふうっと一息。

それは、エースである大野夏輝と同じ仕草。

 

そしてその瞳は、黄金色に輝き始めていた。

 

 

(この雨じゃ打球が読めねえのは仕方がないことだ。後続たって、切り抜けるぞ。)

 

御幸のサインに、沢村が頷く。

そして、セットポジションに入った。

 

 

初球、アウトコースのストレート。

少し高めに浮いたものの、これに手が出ず、1ストライク。

 

 

続く2球目はインコースわずかに外れボール。

 

3球目も同じくインコース。

これにはバッターも手が出てしまい、三塁線切れてファール。

 

 

追い込んだ。

このストライク先行のカウントこそが、沢村の真骨頂。

 

最後はアウトコース低め、131キロのストレートで見逃しの三振。

目一杯サイドのゾーンを使った投球で、まずは2アウトまで漕ぎ着けた。

 

 

「ナイスボー沢村!いい球来てるぞ!」

 

 

左手に収まった最高のボール。

これを握り、沢村に投げ返す。

 

特に表情を崩さず、マウンドの土を鳴らす沢村。

その姿は、やけにエースの姿に重なった。

 

 

(すげー集中力。できればこのまま行きたいけど。)

 

 

心の中でそう思いながら、御幸は曇天の空に視線を向けた。

 

明らかに雨が強い。

そして審判団も少し、ざわついている。

 

 

できれば、この回までは続けてほしい。

 

沢村の状態がいいと言うのもあるし、一旦区切ったことによって気が散る可能性も考えられる。

特にまだムラっ気の多い一年生の沢村にとっては、中断という初めてのことにはかなり影響があるはずだと。

 

 

しかし御幸の祈りは届かず、審判から届いたのは、試合中断の合図であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌なタイミングだな。」

 

ベンチで防具を外す御幸に、そのエースである大野が声をかけた。

 

「まあな。ピンチになってからの状態がよかっただけに、できれば続けたかったよな。」

 

 

しかし、いっても仕方がない。

互いにわかっているし、このあとどう対応するかが重要なのだから。

 

 

「どうなの、沢村は。」

 

「どうかな。気は抜いていないんだけど。」

 

「入れ込みすぎってことか。」

 

「抜けてなさすぎるっていうかな。」

 

 

いつまで続くかわからないこの中断。

そんな中でずっと気合を入れていては、肝心の再会後にベストに持っていけない。

 

というか、疲れてしまう。

ただでさえ長いイニングを投げているわけで、肉体的な疲労はかなりあるはず。

 

 

 

そんな懸念点もありながら、試合は再開した。

 

 

 

中断間、気を抜かなかった沢村。

集中力は保ったままだが、御幸の懸念は、当たった。

 

 

人間の集中力は、長くても20分しか持たない。

そんな中集中しきっていた沢村。

 

長い中断でも集中はしていたが、逆に集中のピークを過ぎたためか、逆に少し注意力が散漫している。

 

 

 

2アウトランナー二塁。

打席には、4番の乾。

 

 

(この状況で本当に迎えたくないバッターが来たな。)

 

 

甘く入ればスタンドへ。

気が抜ければ間違いなく長打。

 

さっきも初見のカットボールを上手く弾き返された。

 

 

 

御幸が要求したコースは、インコース。

中断明け、あえて厳しいコースを要求した。

 

 

 

(一に攻めのインコース。時点で様子見の外角か。)

 

 

しかし乾も、このコースを狙っていた。

 

先ほどは外角のボールを流して長打。

バッテリーとしても外には、投げづらい。

 

さらに言えば、強気なバッテリー。

きっとインコースでいきなり勝負しにくる。

 

 

身構えた乾。

沢村が放ったコースは乾の読み通り、インコースの低めに投げ込まれた。

 

 

 

 

乾の目つきが変わる。

その変化に御幸が気がついた頃には、もう遅かった。

 

金属の快音。

完璧にアジャストした打球はライナーで右中間を抜けていった。

 

 

俊足の二塁走者は一気にホームへ。

この乾の一振りで、試合は動き始めた。

 

 

 

先制は、帝東高校。

4番の乾の一振りで、投手戦と予想されていたこの試合は再び動き始めた。

 

 

 

再開後、嫌な予感が的中してしまった御幸。

先制点を打たれた沢村に声をかけようとタイムをかける。

 

しかしそれを阻止したのは、紛れもなく沢村本人であった。

 

 

2アウトに追い込みながらも失点した沢村。

こちらも負けていない。

 

失点を取り返すべく、彼は息を吐いて、また息を吸った。

 

 

「皆様、再開後バタバタしてしましたが、もう大丈夫です!雨にも負けず、風にも負けず!力足らずで失点してしまいましたが、なんとか最小失点に抑えたいと思います!ではバックの皆さん、残りアウト一つ、お力添えお願いします!」

 

 

 

この切り替えに、場内が一瞬固まる。

そして、湧きあがった。

 

このあと5番を高速チェンジアップでセンターフライに抑えると、このまま沢村はお役御免。

 

 

6回1失点というナイスピッチングで、マウンドを後続に任せた。

 

 

失点を喫した青道。

しかし、打順は2番の大野から。

 

 

青道高校の逆襲が、始まる。

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