燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード84

 

 

 

高々と上がった打球を掴み取り、審判からアウトのコールが飛ぶ。

6回の攻撃を最小失点に抑え、赤いランプが3つ全て灯ったことを確認して俺はベンチへと引き上げた。

 

お決まりの掛け声を出そうと口を開き、抑える沢村。

 

 

「ナイスピッチ沢村。やらないのか。」

 

「点取られちゃったんで。乾さんへの初球は痛手でした。」

 

 

走りながら少し俯く沢村。

うーん、正直乾が上手く打った感じしたけどな。

 

コースも少し甘かったが、狙われる球でもなかった。

 

 

「試合自体は作ってくれた。ここまで失点しなかったのはかなり大きいと思うぞ。」

 

「ありがとうございます。でもやっぱ、悔しいっスね。先発任されて、先制点取られるって。」

 

「そうだろ。だから次は、点を取られないように投げる。」

 

 

しかし、それでもいい投球だったと思う。

 

帝東高校といえば堅い守備のイメージだが、打線も4番の乾を中心に繋ぎの打線はかなりの得点力を誇る。

 

 

そんなチームを6回1失点で抑えたことは、正しく沢村が好投手であることの証である。

 

 

 

 

「安心しろ、沢村。」

 

後ろからそう言われ、俺も思わず振り返る。

そこには我らが4番、御幸が立っていた。

 

 

「ちゃんと勝ち投手にしてやるからよ。」

 

「おっ、それかっこいいね。」

 

「るせ。」

 

 

この回得点を取り返すことができれば、勝利投手の権利を得ることができる。

プロ野球ほどの大きな意味は持たないが、それでも気持ちの問題である。

 

 

投手心理というか、点を取った次の守りで失点することは非常に多い。

試合の流れというか、気持ちというか。

 

だからこの回は、ある種大きなチャンスでもある。

 

 

「大野。」

 

 

聞き慣れた、低い声に俺も足を止める。

バッターボックスに向かう俺を、監督が引き止めた。

 

 

「ここまでの打席、意識してきたことを言ってみろ。」

 

「低めは捨てて、できるだけゾーンを高く。甘いコースに狙いを絞って、できるだけ球数を稼ぐ、ですかね。」

 

 

その成果もあってか、今の向井の球数は91球。

6回にしては、かなり多い。

 

そろそろ浮き球も増えてくるはず。

そして何より、失投が出てくるはず。

 

俺がそう言うと、監督は小さく頷いた。

 

 

「追い込まれるまではできるだけ粘ってみろ。アウトになってもいいから、できるだけ向井の球数を稼いでくれ。」

 

「亮さんのように上手くいくかはわかりませんが、やってみます。」

 

 

粘ってみろ、か。

 

 

 

マウンドには、変わらず向井。

疲れている仕草も見せなければ、表情も変わらない。

 

 

初球、ストレート。

これが外角低め少し外れて1ボールとなる。

 

2球目、今度はこれを入れてきた。

ほぼ同じようなボールだったが、ボール半個かそれ以下の変化でゾーンに入れてきた。

 

 

すごい集中力だな。

終盤にきて、少しギアを上げている感じだな。

 

球威もそうだが、本当に完璧に掌握している。

このストライクゾーンと言う「空間」を。

 

 

いいね、むしろコントロールがいい方が狙いやすい。

 

 

3球目、今度は同じコースから少し沈むスクリュー。

このボールになんとかバットが止まる。

 

ぶね、追い込まれてたら手ェ出てた。

 

向井も少し不服そうに表情を歪めたが、すぐに戻った。

おやおや、顔に出てますよ。

 

 

この後半戦、なおかつ雨。

向井としても、不安要素は多いのだろう。

 

できるだけ早く切り抜けたいのはわかるが、こちらも勝たなきゃいけない理由があるからな。

 

 

粘るなんて綺麗なもんじゃない。

できるだけ、食らいついて見せる。

 

 

4球目、外のスライダー。

ストライクゾーンからボールに逃げていく変化球を見逃して3ボール。

 

フォアボールでもいいと思うけど、向井がそう簡単にランナーを出すとは思えない。

 

 

5球目、インハイのストレート。

外から内、このボールに反応できず、フルカウントとなる。

 

ここから。

 

 

6球目、高めのストレート。

少しボール球だったが手が出てしまい、ファール。

 

 

7球目、今度は打って変わってアウトコース。

少しくさいコースだったが、ここはバットを出す。

ここで見逃し三振したら、流石に流れが悪くなるからな。

 

 

 

次はどのボールだ。

逃げるスライダーか、それともスクリューか。

 

ストレートもなくはない。

裏をかいて高めというのもありえる。

 

 

 

狙いは、ストレート。

変化球がきたら、食らいつく。

 

さあ、来い。

 

 

 

8球目、向井から投じられたコースは、やはり低め。

バットを出し始めるが、ボールはこちら側に沈みながら変化していく。

 

 

(スクリュー…!)

 

もうバットは止まらない。

反応しろ、粘れ。

 

下半身全部使って我慢しろ。

 

 

最後に。

 

拾い上げろ!

 

 

「っら!」

 

体制はかなり崩された。

しかし、なんとか右手一本で当てた。

 

あまり強い打球ではないが、超える。

 

 

打球は二塁後方。

ライトの前に落ちるヒットで、繋いだ。

 

 

 

 

一塁上、右手を上げる。

向井が一瞬こちらを見たが、すぐに視線を戻す。

 

 

 

続く小湊は、エンドランを試みるもファーストゴロ。

1アウトランナー二塁のチャンスで。

 

クラッチヒッター、恐怖の4番打者。

御幸一也が、打席にはいる。

 

 

ここまでは唯一まともにヒットを放っているのは、この御幸くらい。

どうやら配球を読むこいつは、制球が良い投手はとことん強いらしい。

 

 

相性としては、かなりいい。

向こうもそれをわかっているのだろう。

 

なんとここで、バッテリーは御幸を敬遠。

空いている一塁を御幸で埋め、次のバッターで勝負することを決断した。

 

 

 

5番は、今日久しぶりにクリーンナップに起用されたゾノ。

そのせいか少し空回りしている気がする。

 

いつもよりスイングが硬い。

 

少し前の、チームバッティングを意識しすぎているスイング。

すこし、鈍い。

表情も固いし、これじゃいいプレーはできない。

 

 

「ゾノー!」

 

塁上、大きな声でゾノを呼ぶ。

振り向いた彼に、俺は上腕で力こぶを作り、左手で触れる。

 

あまり声は掛けられないし。

思い出してくれれば、良い。

 

 

(自分のスイングだぞ。お前のプレーで、お前のスイングで、その結果チームに貢献できればいいんだぞ。)

 

 

できないことを無理にやろうとしても、空回りするだけだ。

監督だって、ゾノの思い切りのいい強い打撃を買って起用しているはず。

 

 

深呼吸をするゾノ。

それを遠目に、俺は祈るようにしてホームを見つめた。

 







細かく描写するとどうしても文字数が嵩んでしまう。
話数増えちゃうんだよなぁ
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