帝東高校との試合を2-1と接戦の末に勝利した俺たち青道高校。
初戦、2回戦と強豪続きで疲労は出てきたものの、次の試合が一つターニングポイントとなる。
なぜなら。
3回戦目の相手は、夏に敗れた、因縁の稲城実業高校なのだから。
今頃彼らも試合を終えているだろう。
もしくはそうだな、コールドで一足早く終わってるかも?
「向こうはもう終わったかな」
「んー、今白州がナベに電話してる。」
因みに夏の大会同様、ナベが偵察と分析を行ってくれている。
「にしてもゾノ、ナイス引っ張り。」
「ほんまええ感触やったわ!それにあの向井の表情、ほんまスカッとしたで!」
あぁ、わかる。
俺はピッチャーだから逆の立場だけど、自分が苦労して相手を越えた時は本当に気持ちが良い。
何より、負けず嫌いのあの悔しそうな顔が、特に。
どっかの誰かさんに、似ているからな。
(あいつ、もっと凄くなってんだろうな。)
因縁の相手は、きっとあの時よりも成長している。
できれば一緒に投げ合いたかったけど。
今は勝って、片岡監督と次の夏も一緒に戦うことを目標に。
それだけを、目指して。
ゾノと軽く会話を交わしていると、白州の方もナベと繋がったみたいだ。
「お疲れ様、取り敢えず勝てたよ。そっちはどう?」
電話口で話す白州。
向こうが何を言っているかは分からないが、まあ多分結果報告かな。
そんな事を思いながら見ていると、明らかに白州の表情が歪む。
どうしたんだろう。
なんかあったのかな。
「あぁ、ありがとう。そしたら俺たちも帰るから。うん、気をつけて。」
電話を切る白州の表情は、少し暗い。
というよりは、疑念を持ったような表情であった。
「どうした。まさか稲実が負けたとか?」
冗談でそう言うと、白州はふぅっと息を吐いて。
ゆっくりと、頷いた。
「え?嘘でしょ?」
少し冷たい風が、吹き抜けた。
なるほどな。
対戦相手は、鵜久森高校。
東東京地区の無名校で、到底稲実に勝てるようなチームとは思えない。
2-1か。
確かにロースコアゲームだ。
あの稲実打線を初回の1失点で抑えたのも凄いし、成宮から2点も取ったことも。
試合の流れとしては、そうだな。
初回に稲実の速攻で先制点を上げ、1-0の所からスタート。
そこからは、鵜久森も粘りながら追加点を許さない展開。
対する稲実先発の平野。
スライダーとカーブを低めに集めてゴロを打たせるこの投手が好投し、途中まで失点を許さない。
特に鵜久森の打者たちは、かなり積極的に振ってくる。
その為、平野自体も球数を抑えて投げていた。
しかし、7回の裏。
先頭打者のセンター近藤がヒットで出塁すると、すかさず二塁へ盗塁。
続く大西はスライダーでファーストゴロに抑える。
この間にランナーは二塁から三塁へ進塁。
1アウトランナー三塁のチャンスで、クリーンナップへ。
3番の丸山がフォアボールを奪い、迎えるバッターは4番。
背番号1、エースの梅宮。
この男こそが、今日の試合の主役と言っても過言では無い。
対する稲実は、ここで投手交代。
捕まり始めた平野に替わり、温存していたエースの成宮が向かう。
初戦では、参考記録ながら5回を投げてパーフェクトピッチ。
状態としては、かなりいいと思う。
投打の要である、エースの梅宮。
対してマウンドに上がったのは、甲子園準優勝のエース。
この2人の対決で、勝負は決まった。
先手を打ったのは、成宮。
初球、低めのフォークを空振り。
2球目は、内のストレート。
緊急登板にも関わらず、147km/hの力のある速球で梅宮に対して力で押していく。
このボールは梅宮もバットに当てたものの、前に飛ばずファール。
追い込んだのは、稲実バッテリー。
続く3球目は、インコースのスライダー。
ストライクからボールになるこのボールに梅宮は反応し、粘った。
4球目、ストレート。
外角低め、ボール少し外れている。
しかし梅宮はこれを強振。
痛烈な当たりだが、これは一塁線切れてファールとなる。
梅宮は、確実にストレート狙いだろう。
あの感じだとフォーク、若しくはチェンジアップなら三振を奪える。
少なくとも、ヒットになることはない。
勝負の5球目。
首を振った成宮。
バッテリーが…というより、彼が選んだボールは。
ストレートだった。
案の定、速球狙いだった梅宮は低めのこの直球をフルスイング。
快音とともに、場内の観客は湧き上がった。
高く上がった打球はライトの頭を越え、長打コース。
ライトが処理を若干もたついた隙をつき、一塁ランナーの丸山も三塁を蹴る。
丸山とキャッチャー多田野のクロスプレーになるが、多田野がボールを零しセーフ。
瞬足のランナー2人が生還し、三塁上で梅宮が大きく右腕を突き上げた。
これが決勝点となり、最後まで追加点を奪えなかった稲実は、2回戦で敗退となってしまう。
という訳で、俺たちの次の対戦相手は、鵜久森高校に決定した。
にしても。
「成宮さんが打たれるなんて。」
沢村がそう言うと、御幸は溜め息を吐いた。
まあ、何となく俺も共感してしまうがな。
「どう見たって、梅宮はストレート狙いだったからな。首を振ってまでに投げる必要は、ない。」
腕を組み、目を瞑りながら御幸が答える。
少し間を置いて、俺も答えた。
「鳴が首を振った時点で、バッテリーは破綻していたな。」
恐らくあの捕手は、変化球を要求していた。
ボールになろうがカウントは有利なままだし、投球の幅も広げられたはずだ。
その上で、成宮は首を振った。
真っ直ぐでねじ伏せることができるとおもっていたのか。
引っ張らなくてはいけない立場である成宮が自分勝手にうごいてしまえば、ああなるのは当然だ。
キャッチャーの多田野が成宮に一声かけに行くことができたらもう少し結果も変わったのであろうが。
成宮がどう思っているかはわからないが、それ以上に多田野はチームの勝利を考えていたと思う。
「悪いが、今のあいつを俺はエースとは言えないな。」
とはいえ、だ。
「今は、成宮の話をしている場合じゃないだろ。な、白州。」
「そうだな。次の対戦相手が変わった以上、いつまでも稲実の話をしている暇もないぞ。」
予想外とはいえ、これがトーナメントだ。
勝ったチーム同士が対決するのだ。
「寧ろ好都合だな。稲実を倒した鵜久森の勢いそのままもらっていこーぜ。」
御幸がそういうと、チームのメンバーも頷いた。
リベンジはいったんお預け。
次の鵜久森、必ず勝つぞ。