前回の続きです。
「けど、この梅宮もいい選手だね。」
MAX138km/hのストレートに、100km/hに満たないスローカーブを上手に制球して試合を組み立てる。
リーゼント頭に切れ長の鋭い目付きに似合わず、コントロールが良い。
稲実との試合で出したフォアボールも試合を通じて2つ。
それも主砲の山岡をやむを得ず出したものと、もう1つだけ。
基本的にはゾーンで勝負してくる。
そして、何より稲実のド肝を抜いたのは。
「この…縦スラかな?」
「っぽいな。」
試合終盤から使い始めた、この縦変化。
カーブよりも鋭く、滑るようにして落ちる。
ビデオで見る感じだと、縦スラっぽい。
稲実との試合の秘密兵器として出したのだろう。
これも混ざるとなると、結構厄介な感じがするな。
ストレートと近い軌道で沈む変化球と、ストレートと球速差の大きい変化球。
んでもって、そこそこコントロールも良い。
またこの鵜久森、攻撃も中々厄介。
4番の梅宮を中心に、ガンガンスイングしてくる。
特にクリーンナップはかなり積極的に強振してくる為、長打も多い。
逆に1番、2番に関しては、足で掻き回すタイプ。
内野安打や四死球で出すと塁上でもかなり動いてくる為、投手は神経を使うはずだ。
似ているチームとしてはそうだな、薬師が近いかな。
積極的で強気なプレーで流れを引き寄せ、勢いそのまま自分たちのペースで試合展開していく。
しかしまあ、薬師よりも丸いかな。
あそこは全員が一発狙ってるわけだし。
鵜久森は、割とそれぞれが役割を全うしてる感じもあるからな。
鵜久森を相手にする上で最も意識しなければいけないのは、梅宮にいい場面で回さないこと。
ピンチの場面は勿論だが、特に気をつけなければいけないのは、接戦の場合。
一打同点、もしくは逆転の場面では確実に回してはいけない。
それほどまでに、勝負強いバッターである。
良くも悪くも、鵜久森というチームは梅宮を中心に動いていく。
梅宮を止められるかどうかで、決まると言っても過言では無い。
「明日の先発は降谷。沢村と川上、東条も準備しておいてくれ。あまり長いイニングを投げさせるつもりはないから、各々しっかりと準備しておくように。」
「「「はい」」」「イエスボス!」
英断だ、稲実を倒した勢いもあるだけに、やはり出し惜しみはしていられない。
野手先発は、初戦と殆ど同じ。
で、打順が少し弄られている。
先頭打者に指名されたのは、なんと小湊。
走力で言えば倉持が群をぬけている訳だが、彼の打撃低迷もある為、今大会チームトップの打率を誇る小湊がリードオフマンとして起用される。
1番 二 小湊
2番 中 大野
3番 右 白州
4番 捕 御幸
5番 一 前園
6番 投 降谷
7番 三 金丸
8番 左 麻生
9番 遊 倉持
倉持は思い切って9番へ。
下位打線から上位打線にチャンスを作るために、敢えて。
今回の布陣は、こんな感じ。
今日の帝東戦も厳しい戦いだっただけに、試合展開によっては明日もかなり心臓に悪い試合になりそうだな。
ミーティングを終えた俺は、最終確認として御幸と一緒に室内練習場へと向かった。
side 鵜久森
甲子園準優勝高校である稲実との熱戦を終えた鵜久森は、軽めの確認を終えてロッカールームで談笑していた。
「やべー、ほんとに稲実に勝っちまったよ!」
「梅ちゃんほんと、最高だって!」
無論、梅ちゃんと言うのは今日の試合で投打に渡って大活躍をした梅宮のことである。
内容と言えば、その稲実に勝利したことで持ち越しであった。
「おう!自分で言うのもあれだけど、あん時が一番盛り上がったよな!ほんと、あの強えボールも打った瞬間は最高に気持ち良かったぜ!」
そうして、振り返るようにスイングをする。
梅宮のその姿にナインは笑い、盛り上がった。
すると、パンパンと手を叩く音と共に、1人の青年が口を開いた。
「ほら、梅宮もさっさと上がれよ。今日も完投して疲れ溜まってんだから、明日の為にさっさと休むこと。」
「わーってるよ、南朋。」
南朋と呼ばれた車椅子の青年がゼリー飲料を投げ渡すと、梅宮は笑って肩を回した。
「にしても、トーナメント鬼すぎね?」
「稲実倒しても青道だろ?じゃなかったとしても帝東って、甲子園レベルの相手と2連戦確定かよ。」
トーナメントの性質上、強豪と続けて当たることもあるのだが、それにしても酷い気がする。
松原も心の中ではそう思いながらも、飲み込んだ。
「打線は稲実ほどじゃないし、気をつけなきゃいけないのはクリーンナップぐらい。打率の高い小湊と白州、4番の御幸の3人を抑えれば、何とかなるはずだ。」
青道はどちらかというと、大量得点というよりは少ない点で粘り勝つチーム。
接戦になれば、まだ希望はある。
あとは、相手の投手陣。
ここまで先発している降谷と沢村、そして後ろを投げる東条と川上と質の高い全くタイプも違う投手が4人。
そして、今大会まだ登板がないエースの大野。
ここまでセンターとして試合出場はあるのだが、まだ登板はない。
「沢村は多分、先発ないね。今日もそこそこ長いイニング投げてるし、相性と実力も考えて降谷が先発だろうね。」
降谷が先発ならば、ある程度対策は取れる。
降谷の空振り率の高さの理由は、そのストレートの勢いから来るもの。
勢いに思わず手が出てしまい、高めのボールゾーンで勝負されてしまい空振りというのが、一番多いパターンであり降谷が勢いに乗るパターン。
敢えて、高めのストレートは捨てる。
ストレートを軸にする投手だけに、これが決まらなければリズムに乗れないはず。
あわよくば、勝手に崩れてくれれば。
(そう上手くいかないだろうけど。)
思い切って低めのみを狙って見た方が、当たるかもしれない。
ある程度希望的観測にはなってしまうが、絶好調じゃなければ何とかなる。
できれば、4~5点は欲しい。
梅宮も連投というのもあって、自覚はなくとも明日は今日より苦労する。
稲実に続けて、都大会準優勝の青道。
彼にとっても、精神的な疲労が必ず出てくる。
それに、稲実とは違い一度観られている青道。
初見では何とか抑えることができた、しかし手札を見られてしまった次の試合は一筋縄では行かないだろう。
対応力のある強豪校なら、途中で攻略されかねない。
余裕を持って得点を取れなければ、負ける。
それくらい、強豪チームの得点力というのは注意しなくてはいけない。
「とにかく、先制点だ。降谷は高めを捨てて、逆に低めを叩く。成宮のようにコントロールのいい投手じゃないから、甘いコースにも来るよ。」
「問題は、あのエースだよな。」
梅宮が呼ぶエースとは、青道の背番号1。
今大会はまだ登板ない、大野夏輝のことである。
針の穴を通すと称しても過言では無い、高い制球力。
それに加えて、加速するようなフォーシームと大きく沈むツーシーム。
落差のあるカーブと、完成度がかなり高い。
何より、その闘志。
夏の大会では、プロ注目の原田有する稲実に対して10回まで無失点、17奪三振という圧倒的な投球を見せていた。
「正直、あいつが出てきたら手がつけらんねえぞ。」
梅宮がそう言うと、松原は手元のノートを閉じた。
「彼は登板しない。怪我か理由はわからないけど、投げないだろうね。」
青道高校は、初戦でほぼ必ずエースを投げさせる。
大事な試合だという認識と、初戦を勝つ難しさを知っているから。
それにここまで全く投げていない。
予選も合わせると5試合。
全く投げずに温存とは、流石に考えられまい。
「大野の心配はしなくていい。降谷を打ち崩せば、相手は確実に投壊する。」
そう言って、松原は笑った。