燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード90

 

 

 

 

 

「おい、南朋。」

 

「あぁ、動いてきたね。」

 

 

ブルペンでキャッチボールを始めた「背番号1」。

その姿に、鵜久森の核である2人は息を飲んだ。

 

表情こそ崩していないものの、2人に少なからず動揺が走る。

 

 

ここまで、怪我の影響で投げていなかった大野。

勿論その事実を鵜久森サイドは知らないわけだが、少なくとも何らかの影響があって投げられないと確信していた。

 

そんな彼が、投球準備をしている。

甲子園を準優勝した稲実を、完璧に押さえ込んでいた。

 

 

鵜久森との試合のときのように、繋がりのない打線ではない。

 

チームとして完成していた、紛うことなき最強のチームを相手に、真っ向から立ち向かっていたあの無双のエース。

 

 

大野夏輝が投げると、青道ベンチが沸き立つ。

彼がエースたる所以は、そこにあった。

 

実力で言えば、降谷や沢村もかなり上がってきたのだろう。

 

 

しかし大野という存在がマウンドに上がるだけで、チームに勢いがつく。

投げれば、捩じ伏せて相手の心を折る。

 

チームを勝たせる、故にエースなのだ。

 

 

(大野が上がるってなると、かなり厳しいね。)

 

 

タイミング的には、抑えとして出てくるか。

そうなると、9回の攻撃はかなり厳しくなる。

 

 

そして、何より。

大野が後ろにいることに対して、他の投手への安心感にも繋がるはずだ。

 

 

だとしたら、なぜここまで登板しなかった?

怪我という線が一番有力だと思ったが、本当に温存していたのか?

 

もしかしたら怪我が治って、今日から復帰登板するつもりなのか?

 

 

少なからず、松原の脳内に迷いが生じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鵜久森ベンチがざわつく中、ブルペンにやってきた大野に対して、沢村が声を張り上げた。

 

 

「なっさん!なぜこんなところに!?」

 

 

ブルペンには、沢村と東条。

次の回から登板予定の東条と、なぜかブルペンにいる沢村である。

 

「予定が変わった。」

 

「肘は、大丈夫なんですか?」

 

「いいわけねーだろ。牽制みてーなもんだよ。」

 

御幸がそう訂正し、大野に白球を手渡す。

 

 

 

「無理すんなよ。」

 

「わかっている。」

 

間髪入れずに、返答する。

そして、2人はキャッチボールを始めた。

 

無論、大野の肘の怪我は完治していない。

投球練習自体は自主練でも少しずつおこなっているため、投げること自体は特段問題なく行えるのだが、流石に実戦登板はまだ無理だ。

 

しかし、そんなことは青道高校の中で浸透しているだけであって、他校が知る由もない。

 

 

故に、牽制にはなる。

 

相手には、「まだエースが残っている」という印象がつく。

そしてそれは、確実にプレッシャーになる。

 

 

「軽くでいいからな。準備をしている仕草だけで十分だ。」

 

 

無言で大野が頷き、軽く腕を振り始める。

あくまでキャッチボールをしているだけだが、それでいい。

 

 

それで、いいのだが。

 

「おい、夏輝。」

 

徐々に、力を入れ始める大野。

まるで本当に、登板準備をしているようなそんな姿に、御幸が釘を刺す。

 

 

「安心しろ、自分のことは自分が一番よくわかっている。」

 

 

投げられないことくらい。

そこまでは言わなかったが、大野の表情を見て御幸も理解した。

 

 

 

 

 

大野の投球練習の影響が出ていたのは、鵜久森だけではない。

その影響は、味方の青道高校の攻撃陣にも。

 

 

「大野のやつ、投げるのか?」

 

降板した降谷の代打で準備をする山口が疑念の言葉を投げかける。

すると、金丸が訂正するようにそれを否定した。

 

「まだ大野先輩は投げられる状態じゃないっすよ。」

 

同じ部屋だからこそ、わかる。

全開じゃないのに投げることがないことも、それほど無責任な投手ではないことも。

 

 

「俺たちに発破かけてんだよ。あいつは。」

 

 

少し間を空けて、倉持がそう言った。

 

大野はまだ、投げられない。

しかしいざとなれば、無理にでも投げるぞという心意気。

 

たとえ自分の身体が壊れようと、勝つという意志が。

 

 

続けて、白州も言った。

 

 

「挑戦的な鵜久森に、俺たちは無意識に受け身になっていたのかもな。」

 

 

だからこそ、つけ込まれた。

それを弾きかえすには、こちらも全力で迎え撃つ。

 

いや、向かっていかなければいけないのだ。

 

 

だからお前たちも、闘えと。

全身全霊をかけて、闘えと。

 

 

「俺たちは、王者なんかじゃない。」

 

力も足りなければ、課題だらけ。

何より、エースも不在。

 

だからこそ、チャレンジャーなのだ。

 

「喰らいつこう、泥臭く行こう。何としてでも、逆転するぞ!」

 

 

珍しく声を上げた白州に、ナインも自然と口角が上がる。

そして、山口が打席に向かっていった。

 

 

(レギュラーがあんだけ体張ってんだ。)

 

一度、ブルペンで準備をする大野に目を向ける山口。

そして、雄叫びを上げた。

 

(控えの俺が泥臭くやんなくて、どうすんだよ!)

 

 

「っしゃあ、いくぞオラア!」

 

 

その闘志は、梅宮にも伝わってくる。

 

 

(何だこいつら、急に雰囲気変わりやがった。)

 

そして、笑った。

 

こういう真っ向勝負が、したいのだ。

強気で、己の魂をぶつけ合うような勝負を。

 

 

(何が何でも弾きかえす!)

 

(やれるもんなら、やってみやがれよ!)

 

 

互いの闘志をぶつけ合った、真っ向勝負。

 

勝敗は、喰らい付いた山口に軍配が上がった。

 

 

低めのスローカーブを崩されながらも拾い、二遊間を抜けるヒット。

これでチャンスメイクをして、先頭の山口は出塁。

 

 

打席には、金丸が入る。

 

(大野先輩。)

 

部屋でもリハビリに勤しむ姿を見てきた。

 

怪我をしてからの、少し歯痒そうな姿も。

そして、引退したクリスの姿も見てきた。

 

 

(今、全力で闘える俺が…)

 

バットを一閃。

そのスイングは、今日の誰よりも鋭い。

 

 

そして、打席にはいって声を上げた。

 

 

(俺が決めんだよ!)

 

 

突き刺すような、視線。

それに、梅宮も応える。

 

(おめえもかよ、その闘志!)

 

 

そして、投げ込んだ。

初球のストレート。

 

 

金丸の集中力が、頂点に達した。

 

 

「っっうっらあああ!」

 

 

高めに浮いたこのボール。

これを、フルスイングした。

 

強い当たりは、レフト後方。

 

ライナー性で伸びていく打球を追っていく外野たち。

しかしその必死の追跡も、途中で終わった。

 

 

少し静まりかえる、会場。

その沈黙を破ったのは、一塁ベースを回って右腕を突き上げた金丸の影だった。

 

 







全く進んでなくて草


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