燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

93 / 283
エピソード91

 

 

 

 

 

「っしゃあ!」

 

 

一塁ベースを踏みしめたと同時に、右腕を突き上げた金丸。

彼が放った打球は、低い弾道のまま外野の奥へと突き刺さった。

 

 

ノーアウトで、ランナー一塁。

チャンスでは無かったが、一発出れば同点という、大事な局面。

 

この場面で結果を残せたのは、やはり金丸の心の強さなのだろう。

 

 

ただのチャンスヒッターではない。

自分が決めなければいけない、試合展開の上で重要な局面で真価を発揮する。

 

同じクラッチヒッターでも、御幸とは違う。

大舞台、特に逆境の場面で、結果を出す。

 

何処と無く、前キャプテンで4番の結城と重なる所があった。

 

 

 

まだ、彼のような圧倒的な打撃力はない。

しかしここぞという場面で打ってくれる。

 

それが、投手にとって…特に同じ学年の1年生3人にとって、かなりの精神的な安定剤となった。

 

 

「カネマール!」

 

「ここで叫ぶな、五月蝿い。」

 

 

ブルペンで騒ぐ沢村に、大野がチョップを入れる。

そうして、大野は息を吐いてまたボールを投げ始めた。

 

淡々と、御幸へボールを投げ込んでいく。

 

 

8-8、同点。

これ以上、点はやれない。

 

残り3回で、残っている投手は2人。

沢村と東条、沢村は昨日登板している為、あまり長いイニングは投げられない。

 

 

その為、確実に東条の回跨ぎが必要になる。

 

しかし。

 

 

(きついな、多分。)

 

 

準備をする東条を横目で見ながら、御幸は大野にボールを投げ返した。

 

東条は、登板回数が少ない。

中学の時こそエースとして投げる機会が多かったが、高校の公式戦はこの大会が初めてとなる。

 

普段ならそこまで心配する必要は無いのだが、状況が状況なのだ。

 

この緊迫した空気の中で、それも会場が鵜久森サイドで盛り上がっている。

精神的にかかる重圧も、かなりある。

 

 

できれば、沢村に8回から投げてもらいたい。

しかし、どうだろうか。

 

(もし夏輝が投げることができたら…)

 

 

そう思ったと同時に、御幸はハッとした。

そしてその感情を払拭するように、首を大きく横に振った。

 

 

 

 

この後、さらに倉持が出塁。

続く小湊がタイムリーヒットを放ち、すぐさま逆転に成功する。

 

 

8-9、青道リードで迎える、7回の表。

鵜久森の攻撃は、5番の犬伏から始まる。

 

 

ここでマウンドに上がるのは、1年生の東条。

今大会初登板と不安材料はあるが、致し方ない。

 

 

「東条。」

 

「はい。」

 

御幸が、東条に声を掛ける。

 

少し、表情が硬い。

やはり、緊張しているか。

 

 

「相手はガンガン振ってくるのは、見ててわかったよな。」

 

ミットで口元を覆い、御幸が小さく言う。

東条も同じようにして答え、小さく頷いた。

 

「だからこそ、インコースですね。」

 

「お前のコントロールなら、できるはずだ。幸い、ボール球でも結構手を出してくるから、動くボールをインコースに集めて打たせていこう。」

 

 

少し間を置いて、東条が再び口を開いた。

 

 

「信二も、大野先輩も、自分の気持ちを思い切りぶつけてましたよね。」

 

「そうだな。」

 

「俺も向かっていかないと、置いていかれちゃいますよね。」

 

東条の表情を見て、御幸は少し目を見開く。

そして、東条の胸元にミットを当てた。

 

 

「俺もあいつには、驚かされっぱなしだよ、いつも。今日だって本当に投げる勢いで準備してたしな。」

 

「投げさせるわけにはいきませんからね。」

 

そう言って、互いに笑う。

しかし東条の瞳は、鋭く、闘う瞳をしていた。

 

 

「負けんなよ、東条。」

 

「…はい!」

 

 

ここからの東条は、圧巻だった。

 

球速こそ120キロ台なものの、インコースにツーシームやカットボールなどを集めて、打ち気のバッターからどんどんゴロを奪ってゆく。

特に梅宮に対しては、インコースのツーシームを使ってファール2球で追い込み、最後はストレートで見逃し三振。

 

他の2人にはなかった攻め方で、梅宮をねじ伏せた。

 

7回はたった7球で、8回も9球で三者凡退に抑えて見せる。

この東条のピッチングが流れを呼び、8回にはさらに2点を追加して勝負を決めた。

 

 

最終回は、沢村。

昨日も登板したこの男が、今日は夏同様クローザーとしてマウンドに上がる。

 

帝東高校に対しても好投したこの男が、その名の通り試合を締め括る。

 

 

最後まで諦めない鵜久森打線を寄せ付けず、三者凡退。

 

 

8−11で、後攻めの青道高校が勝利。

試合開始直後から続いた熱戦は、拍子抜けするほどにあっけなく終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃー、危なかったなほんと。」

 

わざとらしく猫背で歩く御幸に対して、俺は逆にポップに背中を叩いた。

 

案の定、面倒くさそうにこちらに視線を向けてくる。

普段こういうテンションで絡まないというのもあるが、まあ、疲れたのだろう。

 

 

 

シーソーゲームというほどではないが、やはり逆転して逆転されてというゲームは、疲れる。

 

特に帝東のときとは全く逆の展開だっただけに、な。

 

 

降谷は課題だらけだった。

だが、それでもよく投げた。

 

ノリも、まあ課題だな。

火消しをすることを期待されていただけに、正直物足りない。

 

東条は完璧。

ココ最近で一番いいピッチングが出来ていた。

 

沢村は、いつも通り。

むしろ昨日の勢いそのまま出てくれたから、良かった。

 

 

(人のこといえねえんだけどな、俺は。)

 

 

やはり、自分の力不足というか、無力さを感じた。

 

投げられないのが、こんなに辛いのか。

チームの為に全力を尽くせないのが、こんなに辛いのか。

 

 

俺は己の右肘にちらりと視線を送って、歯を食いしばった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。