遅くなりました。
これから少しバタつくので、頻度落ちるかもです。
大きなグラウンドに、ポツリと十数名。
緑色のジャージを身に纏った俺たち青道高校野球部は、珍しくボールを蹴っていた。
「ヘイ!パス!」
走る倉持に、ゾノが的確にパスを出す。
その瞬間に倉持にマークが集中する。
倉持なら躱せる。
そう確信した俺は、幼なじみであり相棒でもある男にアイコンタクトを送った。
交差する俺と御幸の視線。
(いくぞ、一也。)
(任せろ。俺がマークを集めっから、お前が決めろ。)
互いに頷き、意思疎通を済ませる。
そして、御幸が倉持に声をあげた。
「ヘイ、倉持!」
「決めろや御幸!」
そうして出されるパス。
これを御幸が受け取って、シュートと見せかけて俺にパス。
の、流れを想定した俺。
地面を這う白黒のボール。
御幸はそれを受け止めようと足を上げ。
見事に、すり抜けた。
そしてその刹那、横並びでパスを待っていた俺もトラップを見事にスカる。
正に阿吽、俺と御幸はやらかす所まで一緒である。
結局フォローに入っていた白州が無難にシュートを決め、ゴールネットを揺らした。
流石、仕事人である。
「先輩たちがグレちまったぁぁぁ!」
唐突に飛ばされる、野次。
校舎上階から放たれたやけに通るその聞きなれた声の主を、俺はよく知っていた。
沢村である。
「うるせーぞ。」
「んでもって、なっさんも御幸先輩も下手すぎる!」
「「うるせーよ!」」
重なる、俺と御幸の声。
これぞまさしく、阿吽である。
まあなんで俺たちがサッカーをやっているかと言うと。
他の2年生たちは、修学旅行に行っているからだ。
高校の3大行事とも名高い一つ、この修学旅行。
無論、俺たちは大会と重なるため完全に不参加である。
別に構わない。
確かに修学旅行も行きたかったけど、今は何より野球だ。
大会で優勝したい。
そして、監督と最後まで野球がしたい。
今は、それだけだから。
さて、学校の授業も程々に。
俺たちは、いつもと変わらず練習を始めた。
今日は2年生が修学旅行の影響か、授業が早く終わった。
だからこそ、練習も長く取れる。
準決勝前にこうして長い時間が取れるというのは、かなりプラスだ。
今日もまた、天気がいい。
本当に、野球日和のいい日だ。
そんなことを思いながらアップをしていると、いつもよりも早く監督がグラウンドへとやってきた。
「紅白戦を行う。準決勝前に行える最後の実践形式だから、チーム全体で共通の課題を持つように。それと、しっかり個人でも課題を持って取り組むこと、以上だ。」
なるほど、紅白戦か。
ここ最近やっていなかったし、準決勝と決勝は連日で行う。
チーム分け自体は、今のスターティングメンバーとベンチ入りメンバー。
そしてBチームの方には監督が、Aチームの方には落合コーチが入るみたいだ。
「俺からは特に何も言わねーからな。お前達で話し合って、考えてやれ。そんで、勝て。大会中にベンチメンバーに負けるようじゃ、話にならねーからな。」
厳しいが、その通りだな。
ここで苦戦しているようじゃ、まず市大三校には勝てない。
しっかり勝ち切って、尚且ついい内容で。
今大会の課題は、得点力。
初回に得点を奪えても、中盤から終盤にかけて追加点が奪えなかったり、相手に反撃のチャンスを与えてしまって接戦になってしまったり。
とまあ、なかなか完璧な流れで進むことができていない。
まずは、初回にしっかり先制点を奪うこと。
相手投手に圧をかけて、試合の展開を楽にする。
そして、中盤での追加点。
相手に攻められている意識を植え付け、流れを渡さない。
あとは、連打。
得点を奪った後も簡単に終わるのではなく、食らいつく。
相手の心を折る攻めを。
そして、最後までこちらのペースで進めることを。
これが、今回俺たちの共通課題。
となると、俺がやるべきことはチャンスメイク。
連打のために、何より流れを止めないことが大事。
だからランナーを返すというよりは、チャンスを維持してクリーンナップに回すこと。
ということで、今日はいつもと同じような打順。
1番 遊 倉持
2番 中 大野
3番 二 小湊
4番 捕 御幸
5番 一 前園
6番 右 白州
7番 三 金丸
8番 左 麻生
9番 投 降谷
王谷戦で復活した倉持がリードオフマンに復帰。
その後ろは、いつもと同じように並んでいる。
先発は降谷で、後ろで投げる予定なのはノリ。
今の、ベストメンバーだ。
相手の先発は、沢村。
向こうもセンターに東条もいるため、試合途中で交代してだろうな。
先攻は、Bチームから。
という訳で、Aチームの先発である降谷がマウンドへ。
それに合わせて、Bチーム先頭打者の木島が打席に入った。
この木島は、とにかくいやらしいバッティングをする。
アベレージヒッタータイプで、とにかく粘る。
追い込まれてからはカット、カウントが悪くなって甘く入った所を狙うか、球数を投げさせてフォアボールを誘う。
3年生の亮さんに近い打撃。
そもそもこの木島は、亮さんをかなり意識している。
と言うよりも、崇拝に近いかもしれない。
この木島に、降谷はどう対処するか。
まずはストレート。
速いボールが真ん中に行くも、木島は見逃してストライク。
続く2球目も、外の高めに決まりストライク。
御幸も、木島なら追い込まれるまで手を出さないと分かっていたのだろう。
だからこそ、強気にどんどんストライクに構える。
しかしまあ、面倒なのはここから。
ここから如何に球数を投げずに抑えられるか。
一年生の時は、粘られてフォアボールが本当に多かった。
そうでなくても、中々球数を投げさせられる。
思い切りいけ、降谷。
攻めろ、一也。
2人が選んだボールは、高めのストレートであった。
最後は152キロの直球。
最後の一球にマックスのギアを入れて、いきなり三球三振で幕を開けた。
(これなら今日は、心配いらないかな。)
立ち上がりは、完璧。
いつも立ち上がりが悪い…所謂スロースターターというべきか。
今日は、いい。
この後関をセカンドゴロ、三番の日笠はレフトフライと、テンポ良く三者凡退に仕留めてみせた。
マウンドから戻る、バッテリー2人。
降谷の表情を見る限り、自分でも状態がいいと感じているのだろう。
ベンチで防具を外す御幸に、俺は近づいた。
「状態、いいみたいだな。」
「まあな、できれば試合にピークを持って行きたかったけど、こればっかりは降谷の特性だからな。」
絶好調があれば、絶不調もある。
その幅が、異常なほど大きい。
しかし、せっかくの紅白戦の場。
できることなら、試したいことはあるはずだ。
「カーブは使うのか?」
「そりゃあな。実戦で試せるうちに、使わねーと。」
丹波さんから教わった、降谷のカーブ。
というよりは、丹波さんと降谷の感覚と、落合コーチの知識を擦り合わせたカーブ。
練習でもだいぶ投げるようになり、だいぶ制球できるようになってきた。
握りとしては、ナックルカーブから少し変更。
人差し指を完全に離して、中指と親指でのみ支えるような握る。
降谷のオーバースローと相まって、高いところから縦に落ちるカーブが結構相性がいい。
「これを、どの場面で投げられるか。」
「フォークほど使えなくていい。追い込んでからというよりは、カウント稼ぎで使えることが理想、だな。」
まずは、試合で問題なく投げることができる。
そして、ランナーを背負っている場面でも投げることができれば良い。
コントロールに関しては、ストライクからボールに落ちる球なんて欲は言わない。
真ん中から低めに落ちれば、OK。
追い込んでから、三振を狙ってフォーク。
ストレートの目眩しというか、カウント球としてカーブ。
役割分担というか、そんな感じ。
さあ、降谷の話もそうだが。
今日の課題は、攻撃だもんな。
「じゃ、いくぞ倉持。」
ここ最近は不調だったこの男。
やはり彼が一番にいる方が、しっくりくる。
この間の試合では、猛打賞。
打撃は復調の傾向にある。
「繋ぐ準備しとけよ、大野!」
「おう、出ろよ倉持。」
青道のリードオフマンが、蘇る。