放課後。おそらくトレーニングに勤しんでいるであろうライスさんを、私は教室の窓から身を乗り出して探す。
窓から見えるグラウンドの光景は確かに広いが、本来この学園の広さはこんなものではない。窓から見える範囲内にライスさんがいない可能性だってある。
「・・・お。あれは・・・」
そんなことを思っていると、恐らくタイムを計測していると思われる彼女の姿を見つける。
一本走り切ってタイムの計測が終わると、彼女はトレーナーから受け取ったタオルで軽く汗をぬぐった後、ぐぐっと伸びをした。
・・・最近、なんだか無意識のうちにライスさんを目で追っている気がする。寮の部屋などにいる際は、『気持ち悪く思われたりしてないかな』なんて思って意識的に目で追わないようにしているのだが、ふと気を許すとまたしても彼女を目で追っている。・・・いったいなんなのだ、これは。
「・・・あっ・・・」
そんな彼女に近づくウマ娘がひとり。
特徴的な透き通った茶髪のロングヘア。・・・ミホノブルボンだ。
彼女たちがどんな会話をしているのかはさっぱり聞き取れないが、まぁ後でデジタルさんあたりに聞けばきっと快く会話内容を教えてくれるだろう。
(・・・というかそもそも、私がライスさんとブルボンさんの会話内容を気にするなんて、そんな無駄なこと必要ないはず・・・)
彼女とブルボンさんが仲良くしているのを見ると、なんだか心がもやもやする。・・・そして、私のこの言葉を聞いて多くのひとが頭の中に思い浮かべるであろう内容も、見当がついていた。
「・・・・。」
でも、私は信じられない。この感情は、きっと『それ』とは違う。きっとまだそこに届かない何か・・・またはまったく別の何かだ。そうだ。そうに違いない。
「・・・あっ!!」
知らず知らずのうちに、持っていた文庫本を強く握りしめていたようだった。表紙に爪の後が付いている。・・・自分で買ったやつで助かった。
「・・・今度から布製のブックカバーをかけたほうがいいかもしれませんね・・・」
小説を読むのは好きだ。だが最近はそれに飽き足らず、小説を書くことにすら手を伸ばし始めた。
最初の頃は原稿用紙に書いていたが、2日後くらいに後から編集もしやすいし完成時に読みやすいという理由でパソコンに乗り換えた。少々視力が落ちているのが難点だが。
「どう?完成しそう?」
夜。いつものようにパソコンを立ち上げて小説を打ち込んでいると、入浴から帰って来たライスさんが、パソコンの画面を横からのぞき込んでそう言ってくる。ほのかに香る、彼女のお気に入りのシャンプーの香り・・・おっと失敬。
「はい。あとは見直しして微調整で終わるかなって感じですね」
・・・最初は暇潰し目的で書き始めた小説のはずなのに、今は暇じゃない日にもパソコンを立ち上げて書くようになった。
なぜそんなことをするのか、理由はわからなかった。暇潰しを暇じゃないときにやるなんて、文字的にもニュアンス的にも明らかにおかしい。そして最初にそう思い始めてから数日後、その理由がようやくわかった。
・・・そうだ。私は彼女に、・・・ライスさんに読んでほしくて、小説を書いているのかもしれない。だがら時間も労力も惜しまないで、それにつぎ込めるのだ。
「・・・・・。」
・・・今書いている小説は非常に切ないエンドを迎える予定だったが、ハッピーエンドに切り替えてもいいかもしれない。
ラストシーンに存在していた、主人公のどろどろとした曖昧な心情をすべて画面から消し去る。backspaceのキー長押しで画面から消えていくその心情たちは、私自身の心情を投影したものに違いなかった。