3月3日。雛祭り。別名桃の節句。その際に飾る雛人形はパターンやバリエーションが多く、関東地方のタイプと関西地方のタイプで大別される。
「・・・ん」
3月3日まであと1週間を切ったある日、私―――ミホノブルボンは、寮のロビーに出現した雛人形を見つめていた。それもチープなものではない。かなり本格的で(雛人形に本格も何もあるのかは謎だが)豪華絢爛なものだった。ちなみに関西地方のタイプである。
「・・・なぜこんなものが寮のロビーに?」
少なくとも昨日、トレーニングから寮に帰ってきたときにはこれは存在しなかったはず。ということは一夜のうちに出現したのか・・・?
「これ、いいでしょ。骨董市で見つけてさ、衝動買いしちゃった」
横からそんな声がしたので、声の主のほうへ振り返る。・・・いつの間にか横に立っていたフジ先輩が、雛人形を見つめる私を珍しそうに見つめていた。
「・・・こんな豪華なものを?」
「うん。おかげさまで、もう今月の予算すっからかん・・・エアグルに怒られるかもなぁ・・・」
フジ先輩はそんなことを言って、ばつが悪そうにぽりぽりと頭を搔く。・・・寮の予算が毎月いくらくらいなのかは知らないが、きっとものすごく高い買い物だったに違いない。
「・・・でも、こんなに豪華で素敵なものを、雛祭りが終わったらすぐに片づけてしまうのは・・・少々寂しい気がします。」
「あっははは。だよねぇ・・・。
でも、雛人形って、雛祭りが終わってすぐに片づけないと、お嫁さんに行くのが遅れるって言うじゃん?・・・ま、結構最近になって作られた俗説らしいけどね~?」
それでも気にする子はいるだろうし、と先輩は付け足すように言う。
「・・・ま、ブルボン君はお嫁さんに行くって言うよりかは、どっちかっていうとお嫁さんを貰うサイドじゃないかなぁ~?」
「!?
・・・フジ先輩、その台詞そっくりそのままあなたにお返ししますよ」
「えぇ~?
・・・まぁでも、ブルボン君のお嫁さんになりたいっていう子は、きっといると思うよ?・・・いや、絶対いる」
フジ先輩のその言葉はやけに真面目で、有無を言わせないようなトーンを含んでいた。だがそれを言い終わると同時に、彼女の口調はいつもの揶揄うようなものに戻る。
「・・・今の、ちょっとお節介だったかな・・・失敬失敬。それじゃ、私はまだ仕事が残ってるから、この辺で~」
彼女はそうとだけ言い残すと、寮長室へと戻っていく。
――――私のお嫁さん、か。
私がずっと隣に居たいと、添い遂げたいと思っている相手は、ひとりしか思い浮かばない。そしてその相手はきっと、私の事を何よりも大切に思ってくれている。
ふと、部屋に置いてあったカレンダーを思い出す。3月3日・・・の2日後である3月5日には、しっかりと赤ペンで記入がしてあった。【ライスの誕生日】と。
はてさて、彼女へのプロポーズはいつにしようか。なんだかんだで毎年悩んでいる気がする。今年はまだ早いのではなかろうか。でも1年後の3月は相当遠いしな・・・。
「分析。【今年の3月5日に、ライスさんに告白するか否か】。」
まだ雛祭りにすらたどり着かない、2月の終わりの出来事だった。