2〜3週間に1回を目処に投稿しようと思います。
文化祭が終わって2週間が経ったある日の出来事。それは突然起こった。
「なぁ、るり。ちょっといいか…………ってあれ?メガネは」
廊下で棒立ちしているるりを見つけて声をかけると、こっちに振り返った。ただし、いつもつけてるメガネを何故かつけてない。
「あ、クロ君。ちょうどいいところに来た。ちょっとお願いがあるの?」
「いや…………そっちに俺いないんだけど。こっちだぞこっち」
全く逆の方を向いて俺に話しかけてくる。
「あ、ごめん。メガネかけてないから周りが見えないの」
「まぁ、いいや。それでお願いって?」
「うん。実はメガネをなくしちゃったみたいなの」
「メガネを?」
水泳とか何か特別なことがなければいつもメガネをかけているるりには珍しい事だった。もしかしたら、そんなのこれが初めてかもしれない。
「さっきメガネの汚れに気づいて教室にメガネを拭きを取りに行ってそのあと戻ってきたら……」
「無くなってた訳か。でも、メガネが勝手に動くわけなんかないしそんななくなるわけ…………」
「うん。だから、今から中庭に探しに行こうと思って。ついてきてくれない?」
「るりの頼みならお安い御用だ」
るりの頼みを了承して中庭に向かおうとする。
「じゃあ、早速…………」
ビターン!!
るりが歩こうとした瞬間、何もないところで転んだ。
「…………るり、大丈夫か?」
「問題ないわ」
何事もなかったかのように起き上がりそのまま廊下を歩き出す。
「そっち、昇降口とは逆の方向だぞ」
「あ、そうだった。ごめんなさい」
狂って反転して歩き出した。るりは反転したつもりだったのだろう。だが、それは540度回転して歩き出したため今度は壁に激突した。
「だ、大丈夫なのか?」
「なんともないわ」
「いや、でも」
「今はメガネを探しに行くのが最優先だわ」
「あ、うん。そうだな」
今度は転んだりしないように俺がるりの隣をピッタリついて歩いていく。
「階段だぞ。転ぶなよ」
「えぇ、わかって」
「って、言ってるそばから躓いてんじゃねえか!!」
階段まで来て下の階に降りようとすると、るりは階段で躓いた。俺はそんなるりを助けるためるりを自分の方に抱き寄せ俺が下になるように体を反転させて庇った。庇うために階段から落ちて俺の背中が床に激突する。
「ぐっ!!」
「えっ?」
るりは何が起こったかわかっていないようだった。
「ちょ、クロ君!?大丈夫!!」
「あ、あぁ。なんとかな。そういうるりは?」
「私はクロ君が守ってくれたからなんともない」
「そうか……それは良かったよ」
日頃から鍛えていたのが功を成したのか、背中から激突したのに体に以上はなんともなさそうだった。
「ったく、そんなに視力が悪いのなら先に言っといてくれ。るりが怪我でもしたら悲しいだろうが」
「だからってクロ君が怪我するかもような行動しなくても」
「アホ。こういう場面は彼氏が彼女を守るもんなんだよ。俺は鍛えてるけど、るりはそんな事全くしてないんだからな」
俺は背中に走る激痛を我慢しながら起き上がりるりに手を出す。
「ほら、行くぞ。このままだと俺の命がいくつあっても足りないからな。さっさとメガネ見つけようぜ」
「え、えぇ…………」
るりは俺の手を握って起き上がった。
「ちなみに、このまま行動してまた転んだりしたら俺が傷つくからこれから手繋いで歩くからな」
「……わ、わかったわ」
あれ?いつもなら『嫌よそんなの!』っていうところなのに、今日はやけに聞き分けがいいんだな。どうしてだ?
「ほら、早く行くわよ」
「あ、あぁ」
俺はるりの手を握ってそのまま歩き出した。その間、るりはずっと俯いていた。…………それにしても背中痛いな。
「さて、どうするか」
「ここにないならどこにあるのかしらね」
数十分探したが、結局メガネを見つける事はできなった。
「るり、今日はコンタクト持ってきてないのか?」
「あ、あれは特別な時にしかつけないわ。だから、今日は持ってきてない」
「特別な時って?」
「それはその………………クロ君とで、デートする時…………とか」
顔を真っ赤にしてぼそりと言う。付き合いだしてからるりは時々こういう恥ずかしい事も言うようになった。そして、こういう事を言う時のるりはすごく可愛い。まして、メガネをかけてない状態なのだからその威力は壮絶だった。
「いや、その……そうか、コンタクトないのか」
「え、えぇ」
お互い何も言えなくなってしまう。るりも顔は真っ赤だが、俺もおそらく赤くなっているだろう。
「ど、どうするか。このままだと日常にもさしつかえるしな」
「そうね」
「るり、予備のメガネは?」
「あるにはあるけど、ここ最近ぐっと視力が落ちて。あのメガネじゃないと視力が合わないのよ」
そういえばあのメガネ以外のメガネをかけてるところは見たことがなかった。
「そうか…………じゃあ、楽や小咲に頼んでもっかい探すとするか」
「そうするわ」
「それでは教室に向かいましょうか、お姫様」
「その言い方はなんか癪だけど、まぁ、エスコートよろしくお願いするわ、王子様」
文句を言いつつ俺の悪ノリにちゃんと乗っかってくる。うん、いつものるりだ。
「え?宮本メガネなくしたの?」
「そうみたいなの。クロ君に頼んで中庭まで一緒に探してもらったんだけど見つからなくてね」
教室まで戻り小咲と喋っていた楽に声をかける。小咲もこっちに耳を傾けていた。
「そりゃそうだろ。いくら、クロがいるからってメガネがなきゃ探しにくいだろうし………………わかった。それ探すの手伝うよ」
「私も手伝う。るりちゃんにはいつもお世話になってるしこれくらいしないと!」
「かたじけないわね」
小咲も楽もメガネを探す事に了承してくれた。
「他に手伝ってくれそうな人は…」
「なになにー、メガネなくしたの?俺も探すの手伝う〜」
「あんたには頼んでないから結構よ」
「……仕方ない。じゃあ、俺が協力するか」
「あんたにも頼んだ覚えはないわ」
集と城野崎は両断、と。
「「……いや、待った!!」」
両断された集と城野崎がるりを止める。
「何よ?」
「やっぱりメガネを探しに行くのはやめよう」
「そうだな。俺も城野崎に賛成だ」
「どうして?」
「メガネをかけてないるりちゃんも素ー
バゴォン!!
「お前はメガネをかけてない方がきっといー
ドゴォン!!
るりは集と城野崎の首を思いっきりチョップして2人も倒してしまった。なんかすげえ可哀想だな。
「こんな2人はほっといて私達だけで探しましょ」
るりは1人で廊下に出ようとする。
「あ、おい!そんな1人で行ったら」
ガン!
案の定るりは閉まっている扉におでこをぶつけた。おでこをさすりながら扉を開け教室から出ようとすると、今度は躓いてこけた。
「「宮本(るりちゃん!?)」」
「だから言ったのに」
倒れているるりを抱き起こす。幸い怪我とかはしてなさそうだった。
「ここ最近でぐっと視力が落ちてね。私クロ君と中庭に向かうから一条君先に行っててくれない?」
「そいつは俺じゃねえ!!」
目が見えないせいか、一条ではなくこの学年の男子生徒に声をかけるるり。どこまで視力が悪いんだ。
「まぁ、とりあえずるりは俺が連れて行くから小咲と楽は先行っててくれ」
「あ、あぁ」
「るりちゃん、気をつけてね」
楽と小咲は並んで先に中庭に向かった。
「これで少しは2人っきりだ。何か進展があるといいんだが」
「これで2人の仲が深まるならもう付き合っててもおかしくないと思うんだけど」
「………………それもそうか」
何かいい方法はないもんかな。
結局、2人に進展はないまま中庭でるりのメガネを探す事となった。
「うーん…この辺に落ちてんならすぐ見つかりそうな気がするけどな」
「………あっ……あった!」
「えっ!?」
「違った。ただの上履きだわ」
「るりはそれを一瞬でもメガネに見えたのか!?」
るりが手に取ったのは田中と書かれたすごくボロボロの上履きだった。てか、なんでそんなものがこんなところに。
「……ハッ!」
「それはただのペットボトルだよ!」
「……ハッ!」
「それはダルマ…………何でこんなところにダルマが!!?」
「……ハッ!」
「それは水筒だよ!!」
「あ、それ俺のなくした水筒」
「お前のかよ!!」
るりは次々とメガネとは関係のないものを手に取っていく。そのたびに楽は突っ込んでいた。
「……しかし見つかんないな」
「ここじゃないならどこなんだろう」
「さぁな。でも、学校でなくしたんならきっと見つかるはずだ。楽のペンダントも1週間経った後でも見つかったんだしな」
そう言うとるりはいきなり閃いた、という顔をした。何か思い出したのか?
「もしかしたら……あそこにあるのかもしれない」
「何か他に心当たりがあるの?」
「特別棟の裏にね、めったに人が来ない薄暗い茂みがあるの。さっき私はそこに行って頭ブンブン体操をしていた。メガネはそこで落としたのかも」
頭ブンブン体操って一体なんなんだ!!
「悪いけど、私は目がこれだから小咲と一条君で探しに行ってくれない?」
「えっ!?その話マジなの!」
小咲と楽を2人っきりにしたいのはわかるが説明がいきなりすぎる。そんなの信じる奴いないだろうよ。
「てか、それはクロと2人で行けばいいんじゃないのか?」
「嫌よ。めったに人が来ないって言ったでしょ?襲われたらどうする気よ」
「少なくとも俺はそんなことするわけないけどな」
「わからないわよ。そこに行ってクロ君が覚醒するかも」
「しねえよ。俺はるりが好きだからるりを悲しませる事は絶対しない!!」
ってしまった。勢いに任せて俺はなんて事を…………
「クロ君…………」
「るり…………」
「小野寺、なんかあの2人の背景に花畑が見えるんだけど」
「うん、私も見える。とりあえず私は職員室行ってくるね」
「はっ?ちょ、待ってくれよ、小野寺!!」
小咲は楽を置いて職員室に行ってしまった。
「………………なぁ、クロ、宮本」
「ん?どした?」
「何?」
「いきなりなんだけど…………小野寺って誰か好きな人いるの?」
…………………………。
「何であなたにそんな事教えなくちゃいけないの?」
「ご、ゴメンナサイ」
こいつどこまで鈍感なんだ。まぁ、それが楽のいいところなのかもしれないけど。
「……つくづくあなたは何も見えてないのね。メガネをかけてない私よりも見えてない。もう少しあなたのそばにいる女の子の事を考えてあげたら?」
「…………千棘の事か?」
「小咲の事よ!!」
だんだんるりが怒ってきている。ここまで鈍感なら仕方ないかもしれないけど。
「わからないハズないのよ。あの子の事をもう少し……あと少しだけ見てあげたら」
「なんの事だよ。俺はちゃんと見てるぞ」
「見えてないのよ」
「なんだよ。もうちょっとわかりやすく言ってくれ」
「だから…………小咲が好きな人は………あなー」
「ヤッホー、メガネ見つかったー?」
「暇だから来てみたぞー」
るりが楽に小咲の好きな人を言おうとした瞬間、集と城野崎がるりに話しかけた。いきなりの事で2人とも驚いたような顔をしている。
「集、城野崎。何やってんだよ」
「いやいや、2人の姿がたまたま見えたからさ。声をかけてね」
「俺は暇だったからな」
「……ここでなにやってるの?別に手伝って欲しいなんて言ってないわよ」
「やだなー、手伝うつもりなんてないよ」
「俺も。また殴られるのはやだし」
「…………あれ、舞子君、城野崎君」
職員室に行った小咲がこっちに戻ってきた。
「小野寺、どうだった?」
「ううん。なかったよ」
「そうか………じゃあ、俺たちは上の方を探してくる」
「おう。頼んだぞ、2人とも」
楽と小咲に手を振って見送った。さてと…………
「で、たまたま見えたから声かけたとか、暇だったからとか嘘なんだろ?」
「ありゃ、さすがクロ」
「ばれてたのか」
「当たり前だ。話しかけてくるタイミングが良すぎるだろ。まぁ、来る事わかってたから俺も止めなかったんだけどな」
この2人が来なければるりは楽に小咲の好きな人を伝えてそれで楽は告白して付き合えたかもしれない。
「るりちゃん、助けてあげることは親切だ。でも、最後の最後に勇気を出して告白するのは、やっぱり当人達じゃないと」
「なぜ?結果は同じなのに?」
「同じように見えて違うのさ。感情論だけど自分の力で手に入れるものと人に力を借りて手に入れるものでは重さが違う」
「多分、宮本が小野寺にクロの好きた人を聞いてたら告白してただろ?」
「まぁ、わからないけど多分……」
「それで付き合えたとしてもきっと文化祭の時みたいな感動は絶対得られなかったと思うぞ。あれは2人が互いに気持ちが知らなくて、でも2人は想いあってたからあれほどの感動を得られたんだよ」
集と城野崎が説得するようにるりに話す。集も城野崎も言うことはすごく正しいと思う。
「…………知ったように言うのね。2人とも人を好きになんてなった事をないくせに」
「いや、俺は今好きな人いるよ」
「ちなみに、俺もな」
「うぇっ!?」
集の好きな人は知ってるけど、まさか城野崎にも好きな人がいるなんて思わなかった俺は素直に驚いた。
「なんだよ、クロ。俺に好きな人がいたらおかしいか?」
「いや、おかしくないけど。ただ以外でさ」
「それはさておき、俺にとっては親友にそういうハードルをキチッと乗り越えて幸せになって欲しいのさ」
「…………そんなの私だって」
「おーい、宮本ー!メガネあったぞー」
楽と小咲が手にメガネを持ってこっちまでやってきた。何故か2人とも服がボロボロになっていた。
「どうしたの、楽?ボロボロじゃん」
「いやー、まさかあんなところにあると思わなくて」
「まさに盲点って感じだったね」
「そうそう。メガネならではって場所にさ」
「どこにあったのよ」
いろいろあったが、無事にるりのメガネが見つかってよかったと思ってる。これで、るりは2人のことをじっと見守ってくれたらいいんだけどな。
「無事にメガネ見つかってよかったな」
「えぇ、2人には感謝しないと」
メガネを見つけた俺たちは小咲と別れた後、2人で手を繋いで下校している。
「…………クロ君、ちょっと我慢してね」
「ん?何が………………痛った!!」
いきなりるりは立ち止まり、繋いでいた手を離したと思ったらその手で俺の背中を思いっきり叩いてきた。
「い、いきなり何すんだよ!!」
「今日、私を庇って背中打ったところ、痛いんでしょ?クロ君、気づいてたか知らないけど背中を曲げる事ずっと避けてたわよ」
「………………まじか」
確かに俺は今日、強打した背中の痛みをずっと我慢してるりのメガネを探していた。あまり、かがんだりすると背中が余計に痛いだろうから曲げなかったけど。
「そうか…………気付いてたのか」
「これでも、あなたの彼女よ。ちゃんと見てるわ」
「まぁ、大丈夫だ。これでも体は強い方だしな」
また歩き出そうとするとるりは俺の手をギュッと握って俺を引き止めて来る。
「るり?」
「……クロ君言ったわよね。私に何かあったら悲しいのは俺だって」
「あ、あぁ。そう言った」
「私も同じなのよ。もし、クロ君の身に。まして、私のせいで何かあったら悲しいのは私だって同じなんだから」
「るり…………」
「お願い。今回は私の不注意でこうなったけど、自分の身を削ってまで、私の事を守らないで」
どうやら、るりは内心では今日自分が庇われた事を気にしているようだった。確かに、あれはかなり危なかった。けど…………
「ごめん、そのお願いは多分聞けない」
「どうして!?」
「だって、俺はるりの事が好きだから。好きな女の子を守れなかったら俺は一生後悔することになるから」
「でも、今日あんなに危ない目にあったのよ」
「そうだな。これから何回ああいうことがあるかわからない」
「だったら!」
「でも、俺は例えるりを守るために自分が傷ついても絶対に骨折したり、入院したりしない気がする」
「どうして?」
「それは…………俺がお前とずっと一緒にいたいって思ってるからだよ」
そう言って俺はるりを抱き寄せた。
「ちょ…………いきなり何を!」
「俺がそう思ってる限り、絶対大丈夫な気がする。なんか不思議とそう思うんだ」
こんなのただの約束にもならない。でも、俺は不思議とそう思うことができた。
「………………バカ。そんなの誓うことにはならないわよ」
「そ、そうかな?」
「えぇ。…………でもそんなクロ君がもし怪我をしたら私が治さないとね」
「じゃあ、今日から早速お願いしようかな。背中に湿布貼って欲しいんだよ」
「わかった。場所は?私の家でいい」
「いいぞ。早速行こうぜ」
抱き締めていた体を離してるりの家に向かった。俺はこんなに優しい彼女を持てたことを幸せに思う。
新たに春&小咲のダブルヒロインの作品を投稿しました。
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