番外編3はセイエンです。
では、どうぞ〜。
「いよいよ明日だな」
「……えぇ、そうね」
今の季節は夏。明日、というのは夏の水泳大会の事だ。そのための練習で俺は日が暗くなるまでるりと一緒に残っていた。
「全国に行けるように頑張ろうな」
「……別に私は全国なんで興味ないわ」
「はぁ?水泳部に入ったなら大会で優勝する事を目指すのが普通なんじゃないのか?」
「水泳は私の趣味よ。元々泳ぐのが好きで健康にもいいって聞いたから始めただけ。私は水泳の勝ち負けなんて特に気にしてないの」
「……そう言うわりには中学の時に結構な数のトロフィーを獲得してたよな」
「それは……やるからには本気でやらないといけないからよ。手抜いたりしたら相手に失礼でしょ?」
「まぁ、そうだよな」
「……とにかく私は勝ち負けなんて気にしてないの。まして、全国なんて……」
この時のるりがいつもと違う様子だったと思うのはきっと俺じゃなくても気づくことができただろう。明日本番なのに大丈夫なのか?
大会当日
大会本番のため選手や観客がガヤガヤと集まり出していた。大会は男子と女子が別々の場所で行う。といっても、そんなに離れているわけではないので、るりに会いに行く事はすぐできる。そして今、るりに会いに来たわけなのだが。
「……えへへ〜、来ちゃった」
俺たちの目の前には小咲がいる。小咲だけじゃない。楽や桐崎さんやマリーや鶫とみんないる。
「……応援いらないって言ったのに」
「だって、次の大会で優勝したら全国行けるんでしょ?だったら来るよ、応援」
「…私は別に全国なんて」
「まぁ、そういうなよ。応援ある方がきっと力が出せるからさ」
「別に応援で自分の実力が変わったりしないわ」
俺がるりに励ます言葉をかけてもるりはそれを否定してくる。ふと、横を見ると桐崎さんと鶫が何かの準備をしていた。
「見てるりちゃん。徹夜でこんなの作っちゃった」
「頑張ってください、宮本様」
「…気持ちは嬉しいけど」
桐崎さんと鶫が『がんばれるりちゃん!!』と書かれた手作りの布をるりに見せる。
「私はクロ様の応援に来ました。もちろんクロ様の彼女であるあなたも応援してあげますけどね」
「…ありがとう」
「サンキューな、マリー」
楽に抱きつきながらマリーは言う。
「…そしてなんであんた達まで?」
あんた達というのは集と城野崎の事だ。城野崎の横には中村もいる。
「いやぁ、そりゃあ。ねー?城野崎隊員」
「俺にとっても舞子隊長にとっても大事な大事な宮本のためですからな〜」
「帰れ」
相変わらず集と城野崎には冷たいるり。これはいつもと変わらない。
「城野崎君、るりちゃんをそういう風な感情で見ていたの?私、君の彼女なのに」
「えっ?や、これは……」
そう。城野崎と中村はマラソン大会が終わった付き合い始めていたのだ。あの時、1位になって告白したかった相手は中村で、告白したら中村にOKしてもらったらしい。例のごとく、それは集のせいで一瞬でクラスに広がってしまったが。
「酷い。城野崎君は私と遊びのつもりで付き合ってたんだね!」
そう言って中村は顔を手で覆う。一見泣いているように見えるがそれは違う。あれは絶対泣き真似だ。だが、それに気づかない城野崎はオロオロしている。
「いや、違うって。俺は、その……中村…………いや、愛音の事を大事だと思ってるから!!」
今まで苗字で呼んでいたのにいきなり名前呼び。城野崎は以外と男だったようだ。
「え、あ……そうなんだ。……嬉しいな」
いきなりの名前呼びで中村までパニクっている。まさか名前で呼ばれるとは思ってなかったのだろう。
「さて、こんなイチャイチャしてるカップルはほっといて。るり、そろそろ時間だろ?行こうぜ」
「えぇ。……小咲、応援は勝手にどうぞ」
「うん!」
俺とるりはみんなに手を振って別れた。
「私に付き添うのはいいけど、クロ君もそろそろ時間じゃないの?」
「まぁな。でも、もうちょい時間はあるから。るりと一緒にいてエネルギーを充電って感じだな」
「…………勝手にして頂戴」
最近俺が恥ずかしい事を言ってもるりは顔を赤くするだけでリアクションはあまり取らなくなった。もう慣れてしまったということなのかな?
「失礼。あなた凡矢里高校の方ですわよね?少し尋ねたいのですが…‘‘凡矢里高校のマーメイド”と呼ばれる選手は今日来てるのかしら?」
それはあなたの目の前にいます。そう突っ込みたい。てか、こいつは女子水泳大会の全覇者の四狩女学院、‘‘水上のバタフライ”こと蝶ノ内羽子じゃねえか。
「中学時代…あらゆる大会記録を塗り替えて来たと言われている宮本選手が今は弱小校の凡矢里高校に入ったと聞いて、私是非お会いして見たかったのですが」
「宮本なら私だけど」
「……ん?は?えぇ!?」
蝶ノ内羽子は後ろにのけぞりながら驚く。そこまで驚くことなのか。
「あなたが宮本!?‘‘マーメイドの宮本”!?なんというみすぼらしい肢体。貧困な胸、くびれのないボディ」
こいつなんて失礼な奴なんだ。なんか腹立ってきた。
「おい、黙って聞いてたらるりをボロクソ言いやがって」
「クロ君!?」
俺はるりを庇うように前を立つ。
「あら?あなたは……誰?」
「俺はこいつと同じ学校の男子水泳部の神崎黒だ」
「……ということはあなたが中学時代の大会にクロールで新記録を出した‘‘マーメイドの彼氏”ですか」
……改めて人にそう言われると恥ずかしい。なんか他の二つ名が欲しいよ。
「私は蝶ノ内羽子。‘‘水上のバタフライ”といえば少しは有名なのだけど」
「バタフライ?じゃあまさかあなた、次の自由形……」
そうだ。水上のバタフライと言われるほどの二つ名があるんだ。次の自由形はきっと……
「フフッ、それはもちろん……クロールで参加しますけど」
「バタフライじゃねえのかよ!!」
……ってヤバい。蝶ノ内と話してたら時間が。くそ、俺とるりの時間を邪魔しやがって。
「悪いな、るり。時間だからもう行く。予選が終わったらまたこっち来るから」
俺はるりに手を振って男子会場の方へ向かった。俺も頑張らないとな!
「なんだクロ。圧勝じゃねえか」
「凄いねクロ君」
「流石クロ様ですわ〜」
城野崎と中村とマリーが予選で1位通過した俺を迎えてくる。というか、予選は圧勝だった。どうやら男子は女子と違い強い奴がいなかったみたいだ。
「なんかもっと強い奴が来て欲しかった」
「そればっかりは仕方ないよ」
「そうそう。どうせ全国では強い奴が山ほどいるんだし、楽しみはそこで取っておけ。それにまだ決勝があるだろ?」
「……それもそうか。女子の方はどうなったんだろ?」
「予選は蝶ノ内とかいう人が1位で2位が宮本さんでしたわよ」
「何?」
るりなら1位を取れると思ったんだけど……昨日話してた通り、モチベが低いのかな?
「悪い、俺ちょっとるりの所に行ってくる!」
「えっ、ちょっと、クロ様!」
「るり!いるか!?」
「つっ……クロ君」?
大急ぎで走ってきて、俺はるりのいる女子更衣室についた。………女子更衣室?
「クロ君、ここって女子の更衣室よ。何当たり前のように入ってきてるのよ」
「あだだだだ!すいませんすいません、わざとじゃないんです!」
女子更衣室に入ってるりに近づいた俺をるりは右手でアイアンクローを決めてくる。やばい、すごく痛い。
「ったく…………いつっ!」
「るり、どうかしたのか?………ってお前その足」
「大した事ないわ。ただちょっと足を捻っただけよ」
るりの右足が結構腫れていた。本当にちょっと捻っただけなんだろうか?
「……まさか、その足で決勝に出るのか?」
「どうしようか考えていたところよ。趣味で始めた水泳をここまで無理して頑張るか、それとも棄権するかどっちかをね」
俺としてはるりと一緒に全国に行って大会に出たい。そして、高成績を残したい。だけど、これでは……
「あれ、るりちゃん?どうしたのこんなところで。それにクロ君も」
「小咲」
どうしようか悩んでいるところにいきなり小咲の登場。……小咲に相談したらなんていうのかな?
「るりちゃん、決勝も頑張ってね!私次はも〜っと応援するから」
「いいっていってんのに。水泳はただの趣味だから、特に全国に行きたいわけでもないし。だから応援なんて」
そう言うと小咲はキョトンという顔をした。
「……私は全国の舞台で泳ぐるりちゃんを見たいけどな。だって、泳いでる時のるりちゃんすっごくかっこいいんだもん。見てたら応援せずにいられないよ」
…………やばい。天使だ。ここに天使がいる。これほど元気の出るような言葉はないだろう。流石は小咲。俺にもそれ言って欲しい。
「あ、もう時間だから行くね」
「………やれやれ」
「決意は決まったみたいだな」
「えぇ。本気で全国を目指そうって思っちゃったわ」
さっきとはまるで違う、本気で勝ちに行くような表情。
「その足でいけるのか?」
「………応援されちゃったからね」
「そうか………じゃあ俺もるりが元気の出るような事を言ってみるかな」
とんでもない死亡フラグのような気がするが関係ない。それでも俺は言う。
「この大会終わって、俺たち2人とも優勝したら…………」
「つっ!!」
これを言った後のるりの顔はトマトのように真っ赤になった。俺もそれは同じだろう。
「じゃあ俺行ってくるから!」
そして、俺もまた全速力で走って男子会場の方へ向かった。
大会が終わりその帰り道
結果的に俺とるりは全国への切符を手に入れることができた。俺は一番得意なクロールで。るりはと言うとバタフライで優勝をもぎ取ったらしい。弱小とも言われた凡矢里高校がいきなり全国に行って大暴れする。とんでもないダークホースだ。
「はぁ、結局決勝でも強い相手はいなかったよ。俺、更衣室から全速力で走ってきて、疲れてたのにさ」
「いいんじゃない?別に」
今日は俺とるりの全国行きおめでとうパーティを楽の家でするらしく、夜にあっちに集合らしい。と言っても今が夕方なのでそんなに時間はないけど。
「いいよな。女子の方は強い奴がいっぱいいてよ」
るりは足をくじいてしまった事もあるので俺がおぶって家まで連れて行っている。
「………ちょっとクロ君の家に寄っていい?」
「ん?なんで?」
「私の足の治療とか」
「それはるりの家でもできるんじゃ?」
「と、とにかく行くわよ!」
「痛っ!なんで俺命令されてんの!……まぁ別にいいけど」
今日はばあちゃんとじいちゃんは旅行に行ってていないし、母さんも今の時間ならまだ仕事をしてるだろう。
俺の家が見えてきたので、家に入り俺の部屋へと向かう。そして、ベットの上にゆっくりとるりを降ろす。
「湿布と包帯取ってくるからちょっと待ってろよ」
「えぇ」
リビングへと向かい湿布と包帯を見つけてまだ俺の部屋に戻る。
「お待たせ。俺がやろうか?それとも自分でやる?」
「クロ君に任せるわ」
「りょーかい」
湿布をゆっくりと足の腫れているところに貼って、そして、包帯を巻いていく。
「………ねぇ、クロ君」
「んー?」
「なんで決勝前にあんなこと言ったの?」
「ぶふっ!!」
いきなりの発言で包帯を巻いていた手元が狂ってしまった。
「いや、なんでとか言われても」
この大会が終わって、俺たち2人とも優勝したら……キスしような。
「だって俺たちもう付き合い始めて9ヶ月だぞ。なのにさ……をした事ないんだしそろそろ次に進んだって…」
「まぁ、確かにそうだけど」
「でも、約束は約束だしさ。……いい…よな?」
まぁ、半強制的に約束させたみたいなもんだけど。
だけど、俺の言葉にるりは顔を赤くしながら無言で頷いた。頷いたるりを見て、俺はベットに座っているるりの横に座る。
「じゃ、じゃあ………俺初めてだから上手く行かないかもだけど」
「そ、そんなの私もよ。だから…」
るりは黙って目を閉じる。いつ来てもいいというゴーサインのようなものだろうか?
「い、いくぞ」
るりの肩をキュッと掴んで、顔を近づけてそっと、ただ単に触れるようなキスをした。
初めてのキス。俺たちがした初めての。俺はマリーから頬にされた事はあるけど、唇ではない。何秒、何十秒だったかわからない。ただ、お互いがお互いを離そうとしなかった。だが、いつまでもこうしてるわけにはいかなく、俺から唇を離した。とても名残惜しい気分になる。
「ど、どうだった?」
「よく……わかんなかった」
そう言って顔を背けたるりの顔は真っ赤だった。更衣室で俺がこの約束を言った時よりも真っ赤になっていた。
「るり、顔が真っ赤だな」
「それはクロ君もよ」
「そっか………」
それだけ言うと俺たちは何も話さなくなる。いつまでもこうしてるわけにはいかないので何か話さないと。
「と…とりあえず、この後楽の家に行かないといけないんだし一度るりの家に行こうぜ。俺送るから」
「そ、そうね」
もう一度るりを背負い、靴を履いて家を出る。
「クロ君」
「ん?」
「これからもよろしくね」
「………おう」
なぜここまで恋愛がうまくかけないんだろう。
彼女作ったら、こういうの上手く書けるのかな?
まぁ、彼女いない歴=年齢の私が言っても何の意味もないですけど泣
感想と訂正があればお待ちしております