「ふわぁ、もう朝かよ……早すぎるだろ。もっと寝たい……」
愚痴を言いながらも身体を起こし、俺は一階のリビングに向かう。
「おはよう。じいちゃん、ばあちゃん………ばあちゃんどうしたんだ!?」
「ん?あぁ、クロちゃん。おはよう……ゴホッ、ゴホッ!」
リビングの方に行くと布団を敷いてばあちゃんが寝込んでいた。いつもなら俺の弁当を作ってくれてるのに、何か今日は顔色悪いし、咳もしている。
「おぅ、クロ。ちょっと婆さんが風邪をひいてしまってな。今日は弁当を何処かで買ってくれないか?」
「それは別に大丈夫だけど……俺も休もうか?俺だってばあちゃんの事が心配だし………」
「大丈夫じゃ。わしがしっかり看病しておくからのう。お前は学校に行ってくるといい」
「………わかった」
自分で適当に何か作って、洗面所に向かい歯を磨き、学校の準備をして玄関に向かう。
「じゃあ、行ってくるよ」
「おう、行ってらっしゃい。気をつけてな」
ばあちゃんもじいちゃんも俺が中2の時から世話してくれてるとはいえども、2人とももうすぐ七十歳になる。
俺の事はいいからそろそろ2人で仲良く田舎の方でのんびりと暮らして欲しいんだけど………
扉を開けて外に出て、ポケットの中にあるフリスクを2個口の中に放りこむ。何か、朝フリスク食べないと調子出ないんだよな………
学校に向かって歩く途中に宮本を見かけて俺は声をかけた。
「おはよう、宮本」
「クロ君!?……おはよう」
何だ?いきなり俺を見た瞬間驚いて……何かを携帯の空いてる所に貼ってるみたいだったけど……
「まぁいいか。……あ、今日の部活休もうと思うんだけど、別にいいかな?」
じいちゃんとばあちゃんが心配だから今日は早く帰って看病してあげたいんだよね。
「私は別にいいけど、あなた最近部活休むこと多い気がするわよ。大会もまだまだってわけじゃないんだし……何か用事でもあるの?」
うっ、それを言われると少し痛い。最近は楽の探し物を手伝ってたりしてたからな。
「用事っていうか、俺のばあちゃんが風邪を引いちまってよ。心配だから俺も早く帰って看病したいんだよ」
「………なら、仕方ないわね。部活終わったら私もクロ君のおばあさんに何かお見舞いでも渡そうかしら」
「本当に!?ありがとう、絶対喜ぶよ!」
俺のじいちゃんとばあちゃんは時々学校まで来て俺達に差し入れを渡してくれる時がある。だから、宮本もお世話になってるんだよな。つまり、そのお礼って事か?
「………ねぇ、昨日の一条君と桐崎さんの事どう思う?」
話しているうちに学校について靴を履き替える時にそう聞かれる。
「やっぱり宮本も気になるか?まぁ、桐崎さんみたいな美人な女の子が楽を好きになるとは思えないけど……」
「………私達の友達の美人な子は一条君を好きになったんだけど?」
「あれは美人っていうより、可愛いだろ。どっちかっていうと」
そんなことを話しながら教室に入って自分の席に着く。
「まぁ、俺が今日楽に聞いとくから。それで、多分解決するだろ」
「そうね………ところで、何かクラスのみんなそわそわしてない?」
「言われてみれば………」
何かクラスのみんなが異様にそわそわしている。何かを言いたそうにしてるよな……
「なぁ、城野崎。何かみんなそわそわしてるけど、一体どうしたんだ?」
俺は俺の右隣りにいる男子、城野崎に声をかける。俺の事をあまり嫌がらずに普通に接してくれる凄えいい奴。
「ん?何だ、知らないのか。一条と桐崎さんの2人がカップルになったそうだぞ」
「はっ?」
それを聞いた俺と宮本が素直に驚く。昨日のアレ、マジの方だったの?
「お!噂をすればって奴だ!!」
廊下を見ると、楽と桐崎さんの2人で一緒に歩いている。そして、教室のドアに手をかけて開けた瞬間……
『おめでとーーー!!!』
クラスにいる全員が楽と桐崎さんに声援と拍手を送った。
「「はい?」」
2人は一体なんの事かわからないという顔をしている。
「もうネタは上がってんだよ!昨日この2人がお前ら2人でデートしてるのを見たって言うのをな!」
よかった!本当によかった!俺が小野寺と宮本と一緒に遊びに行ったのはばれてない!
「楽ー!!羨ましいぞ!俺より先に彼女ができるなんて!」
集が楽の両肩を掴んでブンブン揺らす。
「桐崎さん………どうしてこんなもやし野郎の事を……」
「おい、まて城野崎!どこの誰がもやしだ、この野郎!」
泣きながら桐崎さんを見る城野崎に楽が睨みつける。まぁ、今のは怒っても仕方ない………
「じゃなくて!おい、どういうことだよ、楽。桐崎さんと付き合うって!」
「クロ!違うんだ。これには深い事情が……!?」
いきなり、楽の言葉が止まる。何だ、あいつ?何を見てるんだ?
『何だよ、深い事情って……』
『一体なんなんだ?』
『お前ら付き合ってるんだよな?』
クラスの男子がざわざわしだす。すると……
「そうそう!俺達は最高のラブラブカップルなんだよ!!」
さっきとは雰囲気がガラリと変わりいきなりバカップルをしだした。
「もう、ダーリンったら……変なこと言わないでよ!」
「ごめんよ、ハニー!クラスのみんなをちょっとからかいたくって」
あはははと笑いながら2人は肩を取り合う。何だこいつらいきなり。凄ぇ怖いぞ。
「はっ!?そうだ、小野寺は……」
後ろに振り返り小野寺の方を見ると、まるで石のようにカチンと固まっていた。
「ダメだな、これは。宮本、小野寺を屋上に連れて行ってくれ。俺は何か飲みもん買ってくる」
「それはいいけど……授業はどうするの?」
宮本は少し不機嫌になりながらも俺と会話している。やっぱり、楽の事が許せないのだろうか。
「どうせ、こんな状態で授業受けても一緒だろ。俺達は成績がいい方だし大丈夫だしな」
「………それもそうね。じゃあ先に行っとくわ。ほら、いくわよ小咲」
宮本は小野寺の手を引いて屋上に向かった。俺も鞄を持って、食堂の方へ向かい、3人分の飲み物と昼飯のパンを買って屋上に向かった。
「おい、大丈夫か?小野寺」
俺は買ってきたミルクティーを渡しながら小野寺に聞く。
「うん。ありがとう、2人とも。私のために……」
「いいよいいよ。俺たちは小野寺の方が心配なんだし」
「でも、2人とも授業が……」
「私達は成績いい方だから別に気にしないわ。それより、あんたは今自分の心配をしなさいな」
小野寺は半泣きながらも頷いてミルクティーを飲む。今泣きかけなのは楽と桐崎さんが付き合ったせいか、それとも、俺たちの優しさになのかどっちかわからない。
「にしても、どういうことだ?あいつらなんで付き合いだしてんだよ」
「さっきまで、あの2人が付き合うことなんてないとか言ってたくせにね」
「うっ………それ言われるときついからやめてくんない?」
「そうね。今更こんなこと言っても仕方ないもの」
宮本ははぁ、と溜息をついて、ミルクティーを口に含む。
「で、どうするのさ、小咲」
「どうするって?」
「一条君の事よ」
「そんなどうするって言われても……」
「もういっそのこと告っちゃいなよ」
「えぇ!!?でも、付き合ってるんだよ!」
「そんなの知らないわ。あんたが一条君が好きなら好きで告ればスッキリするでしょうが」
「いや、でも………」
小野寺はまたうつむいてしょんぼりする。
「あぁ、もう!じれったいわね!じゃあ、クロ君で告白する練習でもしなさい!!」
「はぁ!?」
「ちょっと、るりちゃん!何でそうなるのさ!!」
いきなりすぎることでびっくりする俺と小野寺。てか、何で今の流れから俺で練習することになるんだよ!
「中学を見る限り、あんたと一条君は凄いお似合いそうだったわよ!高校に入ってもそう!だから、あんたと一条君は付き合うべきなのよ!」
「だからって何でクロ君で練習する事に!?」
「今のあんたには告白する勇気が足りないんだわ!だから、このイケメンでかっこいいクロ君を使って練習するの!」
宮本にイケメンでかっこいいって言われた。すげぇ、嬉しい。
「でも、クロ君だって告白されるのは好きな人がいいに決まってるよ!そうでしょ!?」
「いや、まぁ………そうだな」
「ほら!!だから、私が告白を練習するのは悪いことだよ!………それに」
「告白するならやっぱり、一条君が誰とも付き合ってない時に私はしたいよ。そうじゃないと、桐崎さんがかわいそうだよ………」
頬を赤らめながらも小野寺はそう言い切った。
「……やっぱり小野寺は小野寺だな」
「へっ?どういうこと?」
「いや、別に。気にしなくていいよ」
小野寺が頭にクエスチョンマークを浮かべてる。てか、マジで小野寺に練習とはいえ告白させたらどうしたようかと思ったぜ。大体、俺は告白されるなら小野寺より………
「宮本に告られる方がいいしな……」
「へっ!?」
………………しまったー!!!声に出しちまった!!何てことだ。これじゃ俺めっちゃ変なやつじゃん!!
ちょっと待って今他2人どんな反応してるか超気になる!気になるけど、そっちへ向きたくない!!!
「……クロ君」
宮本に呼ばれそっちへ顔を向ける。小野寺は顔をゆでダコのように顔を真っ赤にさせていて、宮本は少し顔を赤らめながらも俺を見ている。
「はい?」
「今のはどういうこと?」
「いや、えっとー……その」
嫌だ!!助けて、この空気。俺もう耐えられないんだけど!!今なら屋上からダイブきても生きてられる気がするぐらいだぜ!!
「もしかして………今の反応……」
宮本が一歩前に近づいてくる。それにつられて俺は一歩下がる。
「もしかして………クロ君って私の事…………好
「コラアアァァアア!!!お前ら授業サボってなにしてるじゃあぁぁ!!」
いきなり、屋上のドアを蹴り破ってキョーコ先生が入ってきた。
「キョ、キョーコ先生!?」
「もう一限目は始まってるんだ!!さっさと教室に戻ってこい!!」
「………わかりました」
そう言うと、宮本は俺から離れて鞄を持ってきた。
「はい、クロ君の鞄」
「あ、あぁ。ありがとう」
何だかいきなりでよくわからないけどキョーコ先生最高!!マジでありがとう!あの空気から何とか抜け出させてくれて!!!
(さっきのクロ君の言葉はどういう意味だったんだろう……また、今度ちゃんと聞こう)
(やっぱり、クロ君ってるりちゃんのこと………じゃなくて、今は人の事より自分の事だよね!2人の期待に答えられるように頑張らないと!)
(キョーコ先生、マジ助かりました!ありがとうございます。……でも、本当に宮本に告られたら、俺どうしてただろうな………)
それぞれ何を思ってたのかわからないけど取り敢えず俺達はキョーコ先生の言う通り、一限目を受けるために教室に向かった。
感想と訂正があればお待ちしております。