風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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1章
プロローグ:鳴神風華は進路に悩む


 秋の日は釣瓶落としと言うように。10月にもなれば、夏の長い昼間が嘘のように、あっという間に日は沈む。本日は雨模様ということもあって、まだ夕方の5時だというのに、空はすっかり夜のように黒みを帯びてしまっていた。

 普段は構わず遊び回るような子ども達も、こうも暗くてはろくに遊べもしないと、それぞれの家へと帰っていく。普段ははしゃぎ回る子ども達やそれを見守る母親で賑わうこの市民公園も、今日ばかりは静寂に包まれていた。

 そんな静かな公園に設置された遊具の一つ。「100人の大人が乗っても大丈夫」な耐久性が自慢の大型ジャングルジムの頂上で、雨粒を浴びながら一人黄昏れる少女の姿があった。

 

 薄汚れた黒いレインコートの下には中学校指定のセーラー服を身に付け、足下を包む靴は靴紐が見事なまでに千切れ、爪先が赤黒く染まっている。レインコートにはフードが付いているが、なぜか使っていない。

 腰まで届く金髪の三つ編みに、宝石を思わせる翠緑の瞳。露出している肌はボロボロに荒れており、少女のケアへの無頓着さを伺わせた。

 彼女の名は鳴神風華。公園のある校区の中学校に通う、三年生の生徒である。

 

 目を閉じて、静かに雨に打たれていた風華。しばらくそのままにしていたが、おもむろにポケットから棒付きのキャンディを取り出し、封を開けた。ショッキングピンクなキャンディを口に咥え、ゴミを持ったままの左手を挙げる。すると、ゴミはひとりでに発火し、そのまま燃え尽きた。

 燃えカスが風に攫われて流されていくのを目で追っていると、公園の出入り口に見知った人影が現れるのが分かった。レインコートに長靴に傘と、雨風対策に重装備している姿を見て、そんな大袈裟なと思わず苦笑する。

 

 人影はジャングルジムの前で立ち止まり、頂上に座る風華を見上げた。当然だが、彼女に対して用があるのだろう。中学生の風華よりもさらに小柄なその人影は、彼女を咎めるように大きく声を上げた。

 

「お姉ちゃん!またこんな所にいて……!風邪ひくから雨の日に寄り道しないでって、いつも言ってるじゃない!」

「……雷羽」

 

 怒声を上げるのは風華の妹、鳴神雷羽。雨の日になると、いつも濡れに行こうとする姉を連れ戻しにきたのだ。

 

「雨の日が好きだからって、何も毎回毎回濡れに行かなくたっていいじゃない……」

「好きなことはいつだってやりたいと思うものよ。いい加減あなたも諦めなさい」

「むぅ……!」

 

 ジャングルジムから飛び降りて、雷羽の差し出す傘を受け取る。受け取ったそれを広げると、風華は雷羽の手を引いて中に入れた。そのまま二人で一緒に公園を出る。降り注ぐ雨は、風と共にその勢いを増していた。

 

「お姉ちゃん、もう進路はどうするか決めた?」

「まだまだ。先生からも催促されてるけど、これといってやりたいことも無いわけだし」

「お姉ちゃんなら、どこを受けても大丈夫だと思うけど。頭もいいし『個性』も強いし、あの雄英高校だってお姉ちゃんなら……」

「雄英高校……ヒーロー、ねぇ……」

 

 雄英高校ヒーロー科。雷羽の言葉を受けて、その道に進んだ自分を想像する。個性で敵を倒し、人々を助け、喝采を受ける自分。どうにも想像し辛くて朧げにしか浮かんでこないが、確かにそういう道も「ナシ」では無いだろうと思えた。

 

 同時に、一人のヒーローを思い浮かべる。かつて地獄のような経験をした姉妹をそこから救い出してくれた、アメリカンなヒーロー。

 風華の思う、最高のヒーローの姿。あの時の彼のように、その名だけで人々を安心させられるようなヒーローを目指してみるのも良いかもしれない。個人的にヒーローにはあまり良い感情を持っていない風華だが、彼だけは別であった。

 

「雷羽、着いたよ。いつものことだけど。ちゃんとおじさんたちの言うことを聞いて、良い子にしてるんだよ」

「うん、分かってるよ!それじゃお姉ちゃん、また今度ね!」

 

 自分の家に着いた雷羽と別れ、風華は改めて帰り道を行く。すっかり暗くなった路地には彼女以外に通行人はおらず、悠々と歩いて行ける。稲光が空に奔り始めるのも、勢いを増す雨が身体中を打ちつけるのも気にしない。雨模様を好む風華にとっては、むしろ心地良いとすら感じられていた。

 

「雷まで落ちてきたか。本格的に天気が崩れてきたなあ」

 

 轟く落雷の爆音に、通りがかったトカゲ顔の主婦が全身を震え上がらせる。目の前を歩く少女に直撃したのだ、それは驚くだろう。それで何事もなかったかのように歩き始めたのを見れば、尚更。

 己の身へと落ちてきた落雷を取り込んで、風華の身体は激しくスパークを起こしていた。しかし、本人はさして気にする様子もない。雷の落ちるような日にはよくあることだからだ。

 

 翠緑の電閃が迸り、暗い夜道に光を灯す。鼻唄混じりに2本目のキャンディの封を開け、エメラルドグリーンなそれを口に咥える。風雨舞う夜を悠々と歩くその姿はまさに、現代の風神と呼ぶに相応しい姿であった。




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