風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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原作を読み返して、尾白がいたのは火災ゾーンだったことに気付いた。


後始末

「まさかこれだけ派手に侵入されて、逃げられちゃうなんてね……」

「本当に、なんてことだ……!」

 

 集まってきた教師陣が、既に首魁の消え去った現状を前にして悔恨を漏らす。日本一のセキュリティを誇るとも言われる雄英に進入され、生徒に危害を加えられ、信用に大きな傷を付けられた。

 完全に、虚を突かれた。しかし、そう悲観してばかりでもいられない。彼らはプロヒーローである前に教師。子どもの命を預かる者として、生徒の安否を確かめなければならなかったから。

 

「意識不明の彼女と……全身に火傷と裂傷を負っている彼を除いて、ほぼ全員無事か」

 

 今回、敵の襲撃を受けたA組一同。死柄木や黒霧に脳無といった中心人物を除けば殆どがチンピラ同然の雑魚だったということもあり、せいぜい上鳴の頭がショートしたままというくらいで、ほぼ全員無傷で生き延びることができていた。通報を受けてやって来た警察官が、連行されていく敵の数を見て感心するように言う。

 

「刑事さん、相澤先生は……」

「両腕の粉砕骨折に、眼窩底骨をはじめとした顔面骨折。幸いにも脳の損傷は無かったようだが……眼の方には何かしらの後遺症が残る可能性がある……だ、そうだ」

「けろ……」

 

 13号は自身のブラックホールに巻き込まれたことで背中から上腕部にかけて酷い裂傷を負ったが、命に別状はなし。リカバリーガールの治癒で十分に治せる圏内であった。

 峰田は大量出血により貧血を起こしてしまっているが、傷自体は幸いそこまで深いものではなかったので治療可能。ただし、裂傷はともかく電流痕は残ってしまうとのことだった。

 風華に関しては、身体の方に目立った傷はないどころか無傷の健康体そのもの。体力切れのために、身体が休眠状態に入っているのだろうという診断が成された。点滴でエネルギーを補給していけば、じきに目覚めるだろうと言われている。

 

「でも、やっぱり心配だよな……」

「うん……私、見ちゃったんだ。風華ちゃんがでっかい敵と戦ってボコボコにされてたとこ。自分のことで精一杯で応援に行けなくて……空気が赤くなった途端に無傷になってたからビックリしちゃった」

「あれ、鳴神の仕業だったんだな……」

「……先生に聞いたけどよ、あの赤い空気はドームの外にまで広がってたらしいな。こっちに来るのが遅れたのは、アレの原因を調べていたからでもあるそうだ」

 

 風華が引き起こした赫い風のことは、警察以外の全員がその光景を把握していた。肌を撫でる風から感じた、あまりにも大きな怒り。思い返すだけでも恐ろしいと、最も間近で風華を見た耳郎と八百万が身震いする。

 

「事情聴取をいきなりするわけにもいかないし、生徒のみんなは教室に戻っておいてくれ。校長先生、念のため校内を隅々まで見て回りたいのですが、よろしいですか?」

「もちろん、頼んだよ塚内君!とやかく言われることもあるが、権限は君たちの方が上さ!捜査は君達の分野!」

 

 よろしく頼む、そう言って校長は塚内と呼ばれた警察官が去るのを見送る。その後ろ姿を見て、生徒達も教室に戻るためバスに乗り込んだ。揺れ動く車内で、後で入院した二人のお見舞いに行こうなどと話があった。

 

「塚内君、手伝うよ」

「オールマイト、助かるよ。まぁ正直言ってあんまやることないだろうけどね」

 

 USJを出て付近を捜索していた塚内に、彼の手伝いをしようと同じく出て来たオールマイトが声をかける。ただ、不審な点がないか見て回るだけなので、あまり手伝いが必要なことはない。

 なので今回現れた敵について、オールマイトなりの見解を聞かせてほしいと塚内は言う。生徒達からいくらか聞いていた情報を元に、オールマイトは少し考えてから答えた。

 

「相澤君がやられてから、鳴神少女があの脳味噌の敵……脳無とかいう奴と戦うまでをずっと見ていた子が言ってたんだ。なんでも脳無の個性を自慢げに話したり、相澤君に対してもっともらしい暴論を捲し立てたりしていたらしい……」

「それは、まぁ……」

 

 思いついたって普通はやらない大胆な襲撃。コマを集め、少人数が孤立する時間帯を調べ上げ、周到な用意がされていたのにも関わらず。個性不明のアドバンテージを簡単に放棄し、少し都合が悪くなると途端に苛つき始める。

 もっともらしい稚拙な暴論に、自分の所有物の自慢。なんでも思い通りになると思い込んでいる思考や襲撃を決行した事実。それらの少ない情報を鑑みて、オールマイトは今回の主犯格……死柄木弔と呼ばれた男をこう評した。

 

「幼児的万能感の抜け切らない『子ども大人』か。成る程、力を持った子ども……見方によってはとてつもなく厄介な存在だね」

「話を聞く限り、今回の襲撃に参加していた敵はどれも路地裏に潜んでいるようなチンピラだったそうだ。それらが全て、あの男の稚拙な思想に賛同して来たのだと思うと……頭が痛くなるね」

 

 死柄木弔が『子ども』大人ということは。子どもから真の大人へと成長する余地があるということ。もしもアレに優秀な指導者(ブレーン)でも付いたりしてしてしまったら……考えたくもない可能性に、オールマイトは頭を抱えた。

 

「今回は災難だったけど、プロヒーローの尽力のおかげで生徒達はみんな無事だった。それだけが幸いだよ」

「……それは違うよ、塚内君」

「ほう?」

 

 生徒達もまた戦い、身を挺した。

 まだ一年生の4月。こんなにも早く実践を経験し生き残り、大人の世界を……恐怖を経験したクラスなどあっただろうか。

 敵も馬鹿なことをした。このクラスは必ずや強いヒーローになるぞと、オールマイトは確信するようにそう言った。それを聞いて、塚内はその将来を思い浮かべてフッと笑う。

 

「ずいぶんと買ってるんだな」

「もちろんさ。……そうだ、鳴神少女が目を覚ましたら脳無とやらについて話を聞かないといけないな」

「個性の複数所持……親の個性を両方引き継いだとかなら可能性としてあり得なくはないが……」

 

 オールマイトが突入した時、棒立ちのままピクリとも動こうとしなかった脳味噌の敵、脳無。風華がほぼ瀕死まで追い込んだからこそ生徒達への被害はなかったが、イレイザーヘッドを瀕死の重傷に追い込んだ化け物。しかも元々は、オールマイトを殺すために用意された秘密兵器だったという話ではないか。

 自分を狙い撃ちにした作戦。複数所持した強力な個性。風華の言っていた『操り人形』という言葉。倒したはずの「宿敵」を思い浮かべ、その想像を振り払うようにオールマイトは首を振った。

 

 ……巨悪はもう、倒されたのだ。

 

 そう。己の身体を犠牲として、オールマイトはかつて裏を牛耳っていた巨悪を討ち取った。もう、奴の毒牙にかかり不幸になる人間は決して生まれ得ないのだ。頭の中を過った悪い想像を、オールマイトは奥底へとしまい込んだ。

 

 

 〜

 

 

「完敗……だったな。脳無は倒されたし、手下共も瞬殺だった。オールマイトには、エンカウントすらできなかった」

『今回は見通しが甘かったね』

『うむ……ヒーローの実力を舐めていたな』

 

 日本のどこかに存在する、死柄木の隠れ家。黒霧のワープによってそこに帰還した死柄木は、カウンターに置かれた目の前にあるモニターから聞こえてくる声の主と話をしていた。

 

『ところで、脳無はどうした?回収はできなかったのか?』

「回収は断念せざるを得ませんでした。多くの子ども達に警戒されている中で、そこまでの時間は取れなかった……」

『せっかく強い個性を付けて、パワーもオールマイト並にしたのに。残念だなぁ……まぁ、嘆いても仕方ないか』

「パワー……そういや、脳無を倒した女生徒もえげつない出力の個性だったけど、一人オールマイトような奴がいたな」

 

 死柄木のその言葉に、モニター越しに映る声の主は興味深そうに『へぇ……』と呟いた。その後で、その二人はどんな生徒だったのかと情報を出すように死柄木へと促す。

 

「一人はスマッシュとか言って、オールマイトの真似事をしていた……もう一人、脳無を倒した奴は赤い風と電気を操っていた……今思い出しても冷や汗が出るぜ」

 

 あの邪魔が入らなければ、脳無は無事だったしオールマイトも殺せたかもしれないな。そこまで残念でもなさそうに死柄木は言った。

 

『悔やんでいても仕方がない!今回の失敗だって決して無駄にはならない!精鋭を集めよう!じっくり時間をかけて!』

『我々は自由に動けん。だからこそ、貴様のようなシンボルが必要になるのじゃよ、死柄木弔』

『次こそは……君という脅威を知らしめよう!』

 

 決して見えることのない水面下、悪意は新たなる破壊に向けてその力を蓄えようとしていた。

 

 

 〜

 

 

 翌日。学校は再びの襲撃と生徒の心身の疲労を考慮して臨時休校となった。緑谷、耳郎、八百万の3人は、たまたまできたこの休みを利用してある病院の待合室にやって来ていた。

 

「峰田君と鳴神さん、ここに入院してるんだよね」

「そのはずですわ」

「大丈夫かな……特に鳴神。気落ちしたりしてないといいけど……」

「お、なんだお見舞いか?」

 

 看護師に面会が可能かどうかの確認をしてもらうために待っていると、包帯で全身をぐるぐる巻きにした峰田が現れた。

 いつもの峰田ならば、女子二人と共にやって来た緑谷に対して凄まじいまでの怒号をぶつけていただろう。しかし、今の松葉杖を支えに歩く彼にはそこまでの気力はなかったようだ。

 

「鳴神なら今は会ってくれないぜ。オイラに怪我を負わせたこととか、敵を普通に殺そうとしてたこととかで、オールマイトに昨日しこたま怒られたみたいだからな」

「オールマイトに?そりゃあキツイな……」

「オイラが会った時にはめちゃくちゃ謝ってきたし、オールマイトに叱られてから少しは立ち直ってるみたいだけど。まだまだやったことと折り合い付けるにはかかるだろうな……あの暴走の記憶、思いっきり残ってるみたいだし……」

「それもキツいですわね……」

 

 会えないというのなら仕方がない。緑谷は確認を終えて戻ってきた看護師からペンと紙を借りて、風華に手紙を書いた。宛名にはもちろん、耳郎、八百万、峰田も連名で。

 

『君が敵を倒したから上鳴君や梅雨ちゃんは助かったし、相澤先生も脳無に殺されずに済んだ。確かにやり過ぎではあったかもしれない。それでも、僕も含めて誰も動けなかったあの場で、君がいなければ少なくとも二人は殺されていた。どれだけ悔やんでいるのか知らないけれど。君は、ヒーローだ』

 

 手紙が、心が届くかは分からない。罪悪感に潰されて、ヒーローを目指すのをやめてしまうかもしれない。それでも、彼女はまた学校に戻ってきてくれると信じて、緑谷は病院を後にした。




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