風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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決意を新たに

 敵によるUSJ襲撃から2日後。個性研究所の中にある自室の布団で、風華は目を醒ました。まだまだ夜は冷える季節だというのに、汗で全身がぐっしょりと濡れている。どうやら、悪い夢でも見ていたらしい。

 時計を見てみると、針はAM4:00を指している。風華が布団に入ったのがAM2:30頃であるので、せいぜい一時間半程度しか寝ていないことになる。頭がぐらぐらと揺れているように痛いのはそのせいだろうと風華は考えた。

 

「わたしは、ヒーロー失格……」

 

 頭を枕の上に戻し、昨日一昨日にあった出来事を思い返す。ボンレスハムのような敵に瀕死にさせられてから、ずっと抑えていた怒りを爆発させてしまった。敵に対して私刑のような真似をして、あまつさえ仲間にも手を掛けてしまった。八百万と耳郎が治療をして助けていなければ、脳無に再生能力がなければ、今頃自分は殺人犯となっていただろう。

 悔しくて、同時に情けなかった。『君沢の悲劇』以来ずっと、個性をひけらかし暴れる敵に、いざという時に我が身かわいさに勝手に動くことしかできない名ばかりのヒーローに怒りを覚えていた。だが、風華は今回の件で、自分にそんな奴らに怒る資格はないと思ってしまった。

 

 個性を暴走させて暴れ回り、躊躇いなく敵の命を斬り捨て、それ止めようとしてくれた仲間すら手に掛けた。こんな馬鹿な女が、どうしてオールマイトのようなヒーローになるとほざけるのだろう。この有様では、己が忌み嫌い、怒りを向ける者達と同じではないか。

 

『君がやったことは、確かにヒーローとしては失格だ。だけど、同時に忘れないでほしい。君が暴走していた中でも、確かに君に助けられた者がいるということを。君はまだ学生で、成長できる余地がまだまだたくさんあるのだということを。これからまた、その怒りと向き合いなかわらヒーローとなる道を探っていってほしい。私は、君は立派なヒーローになれると信じているよ』

 

「オールマイト……本当に、ごめんなさい……」

 

 一昨日、目を醒ましてから最初に聞かされたオールマイトによる説教。憧れのヒーローに叱らせてしまったことを、風華は申し訳なく思っていた。病室を出る前、最後に見せてくれた笑顔が鮮明に思い返される。こんな愚かなことをしでかした生徒を、まだ信じてくれているということが申し訳なく思うと同時に嬉しかった。自分にそこまでオールマイトに合わせる価値などないと思っていても。

 

 これからどうしよう。風華は頭を悩ませる。

 相澤先生は、見込みのない生徒は容赦なく除籍する先生だ。USJでの自分の行動は、見込み無しと見做されても全くおかしくない。ヒーローの本質である人助けを完全に無視していたばかりか、敵を殺す気で戦っていたのだから。

 除籍されるかどうかは、明日学校に行けば分かるだろう。退院はできたが今日は大事をとって学校を休むように言われているため、今日は風華が登校することはできないからだ。

 

「はぁ……」

 

 働かない頭で考えたところで、アイデアや結論などが出るわけがない。このまま二度寝できるわけでもないのに布団に入っていてもしょうがないと、風華はいつもの黒いレインコートを羽織って外へと出かけていった。

 

 

 〜

 

 

 まだ朝日の登っていない早朝の道を、風華は特にアテもなく歩いていた。ただの散歩だし、最初からどこへ行こうとも考えてはいなかったのだが。

 いつもなら行手を阻んでくる横断歩道の信号機が止まっていたり、車道に一台も車が走っていなかったり。通り慣れた道であるはずなのに、昼間とは全く違うのが少しだけ面白かった。

 

「……あれ?勝己?」

「あぁ?誰だてめェ……鳴神か?」

 

 河原まで移動したら、奥の方から見覚えのある顔が近付いてきた。逆立った金髪に、自分以外の全てを見下しているようなキレた瞳。風華の覚えている人の顔の中で、異形系でもないのにここまで人相の悪い人間は一人しかいない。

 近付いてくる男に声をかけると、彼は足を止めて風華の顔を見た。そして、一瞬だけ考えてから風華の名を呼ぶ。普段は髪を三つ編みにしている風華だが、今は特に何も髪型をいじらずにいたので少し分かり辛かったようだ。

 

「……何してたの?こんな朝早くから」

「……走り込みだよ。もうすぐ雄英体育祭が始まるからな。いつも以上に負荷かけてんだ」

 

 特段返事に期待はしていなかったが、風華の予想に反して爆豪は反発することもなく普通に返事をした。雄英体育祭に向けて、走り込みをしているところだったらしい。「ちょうどいいからお前も付き合え」という言葉に、特にすることもなかった風華は応じることにした。

 

「俺とてめェで選手宣誓があるからな。本番までに何を話すかちゃんと考えとけよ」

「わたしが?」

「……入試主席がやるのが伝統らしい。今年は俺とてめェの2人だったから、選手宣誓も2人でやるってわけだ」

「……そうかい。務まるとは、思えないけどね」

 

 弱々しくそう呟く風華。USJでヒーローにあるまじき行為をしでかした自分に、雄英を代表する資格など有るのだろうかと考えていた。そんな考えを察したか、爆豪が口を開く。

 

「……USJのこと、考えてんのか」

「……うん」

「ウジウジすんのも大概にしろよ。てめェはデクじゃねえんだからよ」

 

 爆豪は語る。

 

 入試で圧倒的一位を取るはずだったのに、風華に並ばれていてプライドを傷付けられたこと。

 

 個性把握テストで、自分の出した記録を軽々と上回られて悔しさに歯噛みしたこと。

 

 今まで無個性でモブの一人でしかなかったはずの緑谷に戦闘訓練で負け、風華にも瞬殺され、アイデンティティが揺らいだこと。

 

 轟や風華の個性を見て、自分では敵わないのではと思ってしまったこと。

 

 八百万の評を聞いて、今まで自分が井の中の蛙であったことを思い知らされたこと。

 

 USJで風華の赫災領域(レッドゾーン)に入れられて、感じた怒りに恐ろしさを覚えたこと。

 

 プライドの高い彼がこんな弱音のようなことを言うなんて、風華は想像すらしていなかった。

 なぜこんなことを自分に聞かせたのかと風華が問うと、爆豪は恥ずかしそうにぼりぼりと頭を掻きながら答える。

 

「……雄英に入ってから、俺のプライドは傷付けられてばかりだ!特にてめェにだよ、鳴神!俺のプライドを簡単に粉々にして、井の中の蛙だってことを教えたてめェが!こうしてウジウジしてるのを見るのが嫌だったんだよ!」

「勝己……そんなことを、思ってたんだ」

 

 意外過ぎる告白に、風華はそんな単純な感想しか言えなくなる。周りを見下し、自分がトップに立つと公言して憚らない爆豪が、自分を励ましているということが信じられなかった。だが、そんな風華の感想など知らないとばかりに爆豪は言葉を続ける。

 

「明日、ちゃんと学校来いよ。今の俺よりも遥かに強いてめェが、くだらねえことで悩んでるなんて認めねえ。俺がNo.1になるっつー道筋にはなぁ!既にてめェを超えることも含まれてんだ!敗北感だけ植え付けておいて、勝ち逃げするなんて許さねえからな!」

 

『誰が何と言おうとなぁ!お前はオイラのヒーローだ!』

 

『君のおかげで助けられた命があるということは、忘れないでほしい』

 

「あぁ……」

 

 思い出される昨日の出来事。

 

 オールマイトが帰った後、同じ病院に入院していたという峰田が見舞いに来てくれた。全身に痛々しく包帯を巻いた彼は、風華に付けられた傷痕に決して文句や恨み言を言わず、自分が風華に正気を取り戻させたのだと誇っていた。

 

『オイラのヒーローを取り戻しただけだ』

 

 そう言って、誇らしげに自分の病室に帰っていく彼の姿はまさしくヒーローそのものであった。

 

 面会しようとしない風華のために、わざわざ見舞いに来てくれた緑谷、八百万、耳郎の3人は手紙を残してくれた。手紙には暴走したこと自体は咎めつつも、心配する文言が書かれていた。敵に人質に取られていた上鳴が、脳無にやられた相澤先生が助かったのは、他でもない風華が動いたからこそだと言ってくれていた。

 

 それとはまた毛色が違うが、落ち込んだ様子の風華を見て爆豪も彼女を自分なりに励まそうとしていたのだろう。不器用な言い方だが、それを口にする表情はこれからも学び舎を共にし、競い合うライバルを心配するものであった。

 

 ……みんな、わたしを心配してくれているんだ。

 

 そうだ。飯田も、麗日も、蛙吹も、他のクラスメイト達も。風華のことを案じてくれている。風華のために心を砕いてくれている。それが堪らなく嬉しくて。気が付けば、風華の目からは涙が止めどなく溢れていた。

 

「おい、大丈夫かよ。必要なら使え」

「……ありがとう。本当に……本当に、みんなはヒーローだね」

 

 その働きで、その存在で、人々を助け安心を与える。それが風華の思うヒーローの姿。風華は今まさに、クラスメイトのみんなから安心を貰っていた。

 借りたハンカチで目元を拭いて。涙が引っ込んだ頃には朝日が昇り、空が紫色に輝いていた。

 

「ありがとう、勝己。おかげでもう一度、ヒーローを目指す決心がついたよ。みんなの心遣いのおかげで、わたしは立ち直れた。だから……みんなの心に恥じないヒーローになってみせるよ」

「ケッ、やっとそれらしくなりやがったな」

 

 じゃあ俺は行くぜ。そう言って、爆豪は再び走り出していった。風華の手に返しそびれた自分のハンカチを残して。しょうがないから洗って明日返そうと、そう思うのだった。

 

 彼もまた、己と向き合って自分を見つめ直した。そして、砕けたプライドと共に再び夢に向かって歩むと決めたのだ。

 粗暴で性格は悪く、変なところでみみっちい奴。それでも、彼は確かにヒーローであった。過ぎ去っていくその背中に、風華は朧げながらオールマイトを見た気がした。

 

「……朝日、綺麗だなぁ」

 

 明日、ちゃんと学校に行こう。オールマイトのようなヒーローになる、そのためにちゃんと勉強をしよう。みんなに改めて「ごめんなさい」と「ありがとう」を伝えよう。そう風華は心に決めた。

 

 心を閉ざす靄はもうない。今の風華の心は、この昇る朝日のように晴れやかであった。

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