風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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個性研究所〜課題を見つけよう〜

『まずは緑谷君から行こうか。風華ちゃんから君らの個性はある程度聞いているよ。緑谷君は確か、全力を出すと身体が自壊する程の『超パワー』という個性だったね』

「はい!最近壊れない程度の出力で放つことがようやくできるようになったんですけど、なかなかその状態を維持することが難しくて」

「緑谷君の課題は、自壊の克服という訳だな!」

 

 風華には後ろを向いてもらい、同じ空間に女子がいながらの着替えに恥ずかしさを覚えながらも2人は着替えを終える。まずは先に着替えが終わった緑谷から見ていくことになった。

 

 超パワーの制御に関してすることは、まずは最大でどれくらいの出力を出せるのか、制御可能な範囲はどのくらいかということの測定である。

 白い地面が割れて、中から巨大なマネキンのような物体が出てくる。立甲がアナウンスで『腕を壊してもいいから、それに全力で打ち込んでくれ』と語りかけた。腕が壊れることが当たり前というような言い草に、緑谷が抗議の声を上げる。

 

「全力でですか!?」

「大丈夫だよ、あの人回復系の個性だからね」

「そ、そうなんだ……じゃあ……遠慮なく!」

 

 風華の言葉をとりあえず信用して、緑谷はマネキンに近付く。大きく深呼吸を一つしてから、腕に力を込めていった。

 大事なのはイメージすること。緑谷の個性を使うイメージは、『レンジで温めた卵が爆発する』というものである。普段なら爆発する寸前で止めるよう心がけているが、今回は全力で打つ必要があるので爆発させてしまう。

 

「DETROIT……SMASH!!」

 

 個性の全力を乗せて放たれた一撃が、マネキンの胴体部分にクリーンヒットする。マネキンはインパクトの衝撃で胴体から粉々に砕け散り、跡形もなく消えてしまった。

 あまりの破壊力。その余波で近くで改めて観察しようとしていた飯田が吹き飛ばされ、風華が空気を押し固めて作り出したバリアは霧散してしまった。この状況を生んだ緑谷の右腕は、破壊力の反動を受けて青黒く腫れあがり焼け焦げてしまっていた。

 立甲も、想像以上の破壊力に息を呑んだ。何せこのマネキンは、対戦車砲でも傷一つ付けられない硬度と柔軟性を持っている代物。それがただのパンチ一発で粉々になってしまうなど、想像できる訳がなかったのだ。

 

『……凄いね。僕は仕事柄多くの個性と出会ったけど、ここまでの超パワー個性は初めてだよ。治しに行くから少しだけ待っていてくれ』

「はぁっ……は、い……」

「出久の個性を見たのは、戦闘訓練以来かな。あの時も思ってたけど、凄いパワーだよね」

「うむ!これを制御できるようになった時のことを考えると恐ろしいな!」

 

 実験室に入ってきた立甲が、ぐしゃぐしゃに潰れた緑谷の腕を取る。すると、桃色の光が彼の腕を包んだ。立甲の個性『ヒーリングパルス』である。

 立甲の個性は掌から回復効果のある桃色の光を出して、それで対象を癒すというもの。生物しか治せないし、よほど重い怪我や病気は少しマシになる程度のものでしかない。しかし、緑谷の腕は少しずつ元の様相を取り戻していき、完全に回復した。

 

「光を出して直接触るのが一番効果有るんだよね。昔の風華ちゃんは、個性の制御ができずによく自爆していたから鍛えてたんだ」

「そういうことは言わなくていいから」

「鳴神君にも、そういう時期があったんだな!」

「データはしっかり取れた。次は、腕を壊さない範囲で個性を使ってみてくれ」

 

 マネキンは派手に爆散したが、それでもデータはしっかりと取れていたらしい。新たなマネキンが地面を開いて現れ、さっさとこいと挑発するように聳え立つ。治された腕が違和感なくちゃんと動くことを確認してから、緑谷は再びマネキンの前に立った。

 

 さっきのイメージは、レンジ(個性)に放り込んだ(身体)を爆発させてしまっていた。しかし、今度は卵を壊さないようにする必要がある。そのために、温めた卵が爆発する前に取り出すのをイメージする。

 

「レンジで卵が……爆発しないイメージ!!」

「今度は壊れてないね」

「それでも凄い衝撃だ……マネキンがぐらんぐらんに揺れているぞ!」

「よしっ、痛くない……!成功っ!」

 

 身体を壊さず個性を使えたことで、緑谷がガッツポーズを取る。初めて成功したのがUSJで死柄木を殴ろうとした時で、それ以降使っていなかったから心配だったのだ。

 

「今の一撃もデータが取れたよ。本当なら何度も何度も同じことを繰り返して、データを貯めていくんだけど。そんな時間はなさそうだからすぐに結果言っちゃうね」

「ど、どうだったんですか!?」

 

 制御に失敗した時のために、今度は近くで控えていてくれた立甲が測定された結果を伝える。最初に放った出力を100%とすると、今の一撃の出力は5%程。緑谷が無理なく扱えるのは、せいぜい全力の1/20くらいでしかないということが分かったのだった。

 

「1/20かぁ……まだまだ遠いなぁ……」

「緑谷君は確か、個性が発現したのがそもそも遅いということだったじゃないか!それで5%も使えるなら大したものだと僕は思うぞ!」

「それに、『ここまでなら壊れない』っていう上限はまだ分かっていないからね。今度はそこを確かめていこうか」

「風華ちゃん……僕の台詞取らないでよ」

 

 あくまでも5%とは『無理なく怪我せず出せる』出力である。少しの無理が必要になっても、怪我はしないというギリギリの範囲を次は確かめてみるべきだと風華はいった。出せる力が大きいに越したことはないのだから。

 緑谷が個性を使う時にイメージしている『レンジで温められた卵が爆発しない』というのを、レンジの出力を少しずつ上げていくという形で取らせる。そうしてギリギリを探っていくのだ。暴発しても、そこは立甲が治せるので問題はない。

 

「っぐ……!痛い、けど……折れてない!」

「これは……だいたい12%くらいだね。これ以上出力を上げると、骨や筋肉に影響が出ちゃうね」

「12%……ここが、今の僕の限界……」

「よし!では次は俺の番ですね!」

 

 自分の現状が分かったなら、そこから後は上げていくだけ。一歩ずつ、歩みは遅くとも確実に進んでいこう。オールマイトの後継として、相応しいヒーローになるために。緑谷は拳を強く握って決意を固めた。次は飯田の番だ。

 

「飯田君の個性は、足のエンジンを起動することで加速するというものだったね。最高速度や加速力を確認していこうか」

「はい!よろしくお願い致します!」

 

 今度は床ではなく壁が開いて奥にある部屋と交わり、実験室がより広くなった。飯田が加速を存分に行えるよう、走行距離を広く取ったのである。

 走り始めた時点で測定はできるから、走れなくなるまで存分に走ってくれと言われ、飯田は早速スタートを切った。排気筒から蒸気が噴き出して、走りに素晴らしい加速をもたらす。せいぜい数秒程しか経たぬ内に、彼の姿は彼方へと消えていく。戻ってきた頃には横腹を抱えてグロッキーとなっていた。この間だいたい15分くらい。雑談に花を咲かせるのには十二分な時間があった。

 

「……なるほど。結果が出たよ。飯田君は最高速度が76Km/h、そこに至るまでに13秒かかっていた。最高速度を維持できていたのは40秒くらいで、個性による速度を維持したまま走れていたのは10分くらいだね」

「なるほど……俺の課題は加速力ですね!できれば一桁台で、最高速度になれるようにしたい!それに最高速度自体もより向上させたいですね!」

「体育祭まで二週間。見つけた課題を全部クリアできるような時間は流石に残ってない。だから、ここでは解決する課題を一つに絞っておこうか」

 

 緑谷は5%の維持に慣れること。飯田は最高速度に達するまでの時間の短縮。それぞれが体育祭に向けて解決するべき課題を決めた。後は、ひたすら特訓あるのみである。

 

「今日はもう19時だし、特訓は明日からにした方がいいだろうね。緑谷君は個性を維持しながら風華ちゃんと組手。飯田君は加速力向上のためにスタートダッシュの訓練。風華ちゃんと一緒にくれば施設は使えるから、安心してまた来なさい」

「は、はい!」

「本日はありがとうございました!」

「お礼なんていいさ。その代わり、本番ではいい活躍を見せてくれよ?」

「もちろんです!」

「わたしもしっかり付き合うよ。強くなってみんなをとびきり驚かせてやろう」

 

 今日の個性分析のおかげで、緑谷と飯田は体育祭までに克服するべき課題が明確になった。わざわざ付き合ってくれた立甲に2人は礼を言うが、立甲はそれを受け取らない。代わりに体育祭で2人が活躍しているところが見たいと言う。

 ならば、その期待に応えよう。2人は……特に緑谷はそう強く決心した。

 

 緑谷出久はオールマイトに見初められ、選ばれた平和の象徴の後継者である。もうヒーローとして動ける時間が長くないオールマイトに変わって、新たなる平和の象徴となる責任がある。その最初の一歩である体育祭では、『君が来た!ということを世の中に知らしめてほしい』とオールマイトから言われていた。

 そのためにも、体育祭ではできる限り良い成績を残したい。しかし、ろくに個性を扱えない自分には難しいと思っていた。だから、今回の風華の提案は緑谷にとっては僥倖であった。

 新たなる平和の象徴となる、そのための一歩を踏み出させてくれた。ならば尚更、彼は勝たねばならないのだ。オールマイトに、ヒーローになる道を進むことを許してくれた母に報いるためにも。

 

 もう一度、拳を固く握る。オールマイトの個性、ワン・フォー・オール。受け継いだ個性の重みを改めて感じた。

 

「今日は本当にありがとうございました!また明日もよろしくお願いします!」

「僕達はここで失礼します!鳴神さん、立甲さん!本日は誠にお世話になりました!」

「気をつけて帰ってね」

「また明日、学校でね」

 

 帰っていく2人を見送り、姿が見えなくなってから風華と立甲は研究所へ戻った。自分の部屋へ戻る途中、2人で雑談などをする。その中身は風華がUSJで赫災領域(レッドゾーン)に入ってしまったことや、課題を克服した緑谷と飯田がどのような成長を見せてくれるかということなど。10年の付き合いがある2人というだけあって、短い道のりの間にもかなり会話は弾んでいた。

 

「あー、そうだ。言うのを忘れてたけど、葵のやつが雄英の編入試験に合格したんだ」

「……え、マジですか?葵が?」

「マジ。多分クラスはB組になるだろうけど、学校で会ったら仲良くしてやってくれ」

「分かりました」

 

 自分の部屋に着いた風華は、扉を開けて中に入る直前に、不意打ちのように立甲の問題発言を聞いてしまった。あまりの驚きにドアノブを握る手が固まってしまう。正気を取り戻すのに、たっぷり1分もかけてしまった。

 

「あいつが雄英かぁ……うるさくなりそうだなぁ」

 

 いつからになるのかは知らないが。個性研究所きってのお騒がせ女が編入してくるという情報に、憂鬱になる風華なのであった。

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