風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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オリキャラの紹介などは必要になるでしょうか。


ワン・フォー・オール『フルカウル』

「それじゃあ鳴神さん。今日からの特訓、よろしくお願いします!」

「オーケー。始めていこうか」

 

 翌日。この日も授業が終わってから、緑谷と飯田は個性研究所に特訓に向かっていた。飯田は幅の長い部屋でスタートダッシュを特に意識しながらの走り込み。緑谷は風華と組手である。

 

 真っ白な部屋の中で対峙する2人。右手に個性を発動させて構えを取る緑谷に、風華がまずは先制攻撃。下段蹴りで足元を注視させると、緑谷はパワーを足に移行させ跳んで避ける。着地際に再び腕にパワーを戻して殴りかかるも、あっさりといなされて背後に回られた。

 

「っ!くそ、背後に……!」

「隙有り」

「目潰しっ!?」

 

 咄嗟に振り向くも、そこに合わせるように風華の指が眼球に迫ってくる。なんとか頭にパワーを移行させて目潰しは回避できたが、代わりに避けた先の左拳によるアッパーを食らってあえなくKOとなってしまったのだった。浮き上がった身体が地面に叩きつけられ、天井を仰ぎ見る。ぐうの音も出ないほどの完敗であった。

 

 その後も休憩を挟んで何度か組手を続けたが、その悉くで実力も出せないまま緑谷は風華に負け続けた。ただ組手をするだけでなく、個性を使って効果的に動くとなると、使う部位へのパワーの移行に脳のリソースを割かなければならなくなる。そのために、それだけに神経を集中させる必要が出てしまっていた。ただでさえ、今は5%を維持するだけでも難しいというのに。

 風華はこの組手において、自分の個性を一切使っていない。なのに手も足も出ないことが、緑谷をさらに焦らせていた。

 

「また、わたしの勝ちだね。休憩しようか」

「はぁっ、はぁっ……!!鳴神さんって体術も強いんだね……技の選択肢が多彩だからどれも参考になるよ……!」

「出久も動きはいいんだけど、個性の維持に集中力を取られすぎてるね。それと、一つ気になったんだけど……どうして出久は一箇所ずつしか身体の強化をしないんだい?」

「それは……使う部位に対応させるようにって」

 

 緑谷にとって、個性とは特別なものである。彼はもともとは無個性であり、15歳になって授かった個性も見に余る代物であった。そのため、幼い頃から個性が発現している他の者達と違い、『個性はあって当たり前のもの』『単なる身体機能の一部』であるとは考えられなかったのだ。

 とはいえ、多少の進歩はしている。それまで彼は必殺技を使うように、個性をここぞという時でしか発動させていなかった。しかし、今は移動や防御などにも個性を使うよう心がけている。

 

『個性が発現して嬉しいのは分かるけど。あんまり難しく考えすぎなくてもいいんじゃない?』

 

 昨日、帰った後で個性の扱い方に頭を悩ませていた緑谷に、母のそんな言葉が気付かせた。個性は必殺技などではなく、あくまでいつでも使える通常技の一つでしかないのだと。それに気付いてからは動作の一つ一つに個性を対応させるように心がけていたのだが、それに対して疑問が出たことに緑谷は驚いていた。

 

「身体強化ならわたしにもできる。出久のそれとは原理が違うけどね。わたしの場合は、電気を全身に巡らせることで、身体機能を刺激して活性化させることで強化してる。使う電力によって出力は変わるけど……安定して使うなら出久の5%と同じくらいかな」

「既に僕の先の領域に……!」

「わたしと出久の違いは、強化が一部分だけか全身に及んでいるかってところだね。足や頭を強化することはできるみたいだけど、その都度個性を切り替えるのは面倒じゃない?」

「た、確かに……全身にくまなく個性を行き渡らせることができれば、その分切り替えに使う思考のリソースを割かなくて済むしタイムラグもなくなる!そのためにはイメージが必要になるけど今まで通りのレンジで卵が爆発しないやつじゃあ……」

「出久?顔が怖いよ」

 

 考え始めると周りが見えなくなる。緑谷の悪い癖である。今までの卵のイメージは一部分のみの強化に使っていたため、全身くまなく強化するイメージとしては使い辛い。ならば新しいイメージの方法を用意するべきだが、それはどうすればいいのか。そこに頭を悩ませていると、風華が口を開いた。

 

「レンジのイメージを使うなら、冷凍食品とかが」

「冷凍食品!なるほど、レンジの熱で全体を温めていくことで解凍するのをイメージ……!冷凍食品が僕で、レンジの熱が個性!熱を全体に広げて、僕自身を温めていく……!」

「おお……できたみたいだね……」

 

 風華が最後まで言い切るのを待たず、アドバイスを消化した緑谷。しっかりと新たなイメージを作り出して、全身に個性による強化を行き渡らせた。

 全身常時5%。オールマイトのお墨付きでもある地味なイメージによって編み出されたそれは、しかし使いこなせれば今までの自分とは全く違ったものとなるだろう。

 

「早速、試してみようか」

「うん……!お願いします!」

「今までは、わたしに一矢報いることもできてなかったから……今回はとりあえず3分。わたしに一発でも当ててみせな」

 

 不意打ち。ハイキックをガードした緑谷の左腕の強化が途切れる。そのまま風華は背後に回ってもう一発、強化の維持に気を取られている緑谷を蹴りつけた。ガラ空きの脇腹に突き刺さる前に、何とかこれもガードする。そして、蹴りの反動に乗って距離を取った。

 このままでは防戦一方。不意をついて先手を取ったアドバンテージを活かされたまま、何もできずに負けてしまう。ならば自分はどうすればいいのか。緑谷は考えて……壁の一部を引き剥がした。

 

「これでもっ……食らえ!」

「うわっ……!でも、遅いよ!」

 

 自身の身長をゆうに超える壁の破片を投げつけられ、驚く風華。しかし迫り来るそれの速度は大したものではないので、落ち着いて左に跳んで避ける。その先には、風華の動きを先読みしていた緑谷が待ち構えていた。

 

「5%……!デトロイトスマッシュ!!」

「わわっ……!」

 

 着地する瞬間の隙を狙って放たれた、緑谷の左ストレートが風華の腹部に迫る。目眩しに加えて態勢を崩させ、無理やり作り出した隙を逃すことなく活かし切る。

 ここからは風華には何もさせない。そのつもりで緑谷は攻勢に躍り出た。この拳が防がれたなら、そのまま頭突きを食らわせる。避けられたならその方向に追従して追撃する。一分の動きも見逃さないように、相手の観察は怠らない。

 

 次はどうくるか。考え、予測し、取るべき一手を組み立てろ。ただでさえ経験でも技量でも劣っているのだ、思考を続けなければ風華を相手に勝機は得られないのだから。

 

「まだまだ……甘い!」

「上っ!?」

 

 迫り来る左の拳、風華はそれを着地した瞬間に大きくジャンプすることで回避してみせた。そのまま天井に足を付けて、蹴り出す反動で緑谷の背後に着地。再び優勢を奪い返す。ここまで組手をしてきて、何度もこのパターンは繰り返された。こうなったら最後、振り向いた隙にエンドレス背負い投げか、振り向く暇もないまま足を掛けられて地面に叩きつけられ関節を極められるかのどちらかである。

 

「うしっ……ろぉ!」

「……を取られて取られてる時点で、これまでと変わらないよ!」

「っ……!いや!今度は違うぞ!」

 

 背後に着地した風華が引っ掛けようとした足を、軽く跳ぶことで避けて勢いで振り向く。そのまま身体を一捻りして投げの態勢を作り出す彼女の手を掴んで、上に放り投げた。見た目よりはかなり重い風華の身体が宙を浮き、突然の上昇に手足を驚きのあまりバタバタと動かす。それを好機と見た緑谷は地面を蹴り、すかさず風華に向けて渾身の右ストレートを放つ。

 5%では避けられるかもしれない。この大きな隙を狙うならばもっと先を目指してみよう。許容上限ギリギリを。腕を壊さずに済む、その範囲での全力の一撃を。

 

「12%……!デラウェアスマッシュ!!」

「衝撃波じゃあ……わたしには届かないよ!」

「んなっ……!?ぎゃあっ!」

 

 ただの組手で人体に当てるには、12%は大き過ぎる数値である。だからこそ衝撃波を攻撃方法に選択した。だが、それは空気を操る風華相手には最悪手であった。流れを掌握され、反転した衝撃波が逆に緑谷に襲いかかる。既に落下中であった彼に回避する手段はなく、吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。頭を守るのが精一杯であった。

 

「……3分」

「はあっ……あと少しだったのに……!」

「最後のは、普通に殴るべきだったね。あの程度の衝撃波じゃあ反転させて終わりだよ。まぁ、相手がわたしじゃなかったら決まってただろうけどね」

「うーん、要反省……!」

 

 着地した風華が倒れる緑谷に反省点を告げる。個性で全身を強化したことで、上がった身体能力と動体視力。それらを存分に活かしてそれまでとは比べ物にならない程に追い縋った。今まで使わせることすらできていなかった個性を、風華に使わせることができた。

 

「いい感じに戦法ができたし、これからはその状態を当たり前に維持できるようにならないとね。せっかくだし、何か名前でも付ける?」

「名前か……うーん」

 

 個性による全身強化。もはやそれ自体が必殺技と言っても過言ではないのだから、名前があった方が格好も付くだろう。そう思って風華が話を振ると、緑谷は少し考えて『フルカウル』という名前を捻り出した。個性をバイクに取り付けるカウルに見立てて、それを全身に纏うからという由来らしい。

 風華はバイクについて詳しい訳ではないので、そうなんだという感想しか出てこなかった。明らかな戸惑いを見て、落ち込む緑谷なのであった。

 

「必殺技もできたし、出久が実験室に来る必要はあんまりないかな。これからはそのフルカウルを使いながら、たくさん動いて身体に慣らしていこう。ちょうど天哉が走りに行ってる所みたいに、動くのにはもってこいなアスレチックとかもあるからね」

「うん。瞬間解放12%もできてたし、そっちも少しずつ慣らしていかないとね!」

「後は、身体が許容できる上限を増やすための基礎的なトレーニングもだね。家に帰ったらちゃんとご飯を食べて、お風呂に浸かって、しっかり寝て身体を休めること」

 

 今日も時刻は19時となった。学生は家に帰る時間である。様子を見に来た立甲が、緑谷と外での走り込みを終えて戻ってきた飯田にスポーツドリンクを渡す。冷たい甘味が疲れた身体に染み渡り、疲労を癒していくのを感じるのだった。

 

「わたしの分は無いの?」

「生憎、僕の手は2本しかなくてね。しっかし君達はよく頑張るね。ウチの娘にも見習わせないとな」

「娘さんがいるんですか?」

「うん、ちょうど体育祭の日に雄英に編入することになってるんだ」

 

 えええ!?と2人の絶叫が響いた。それもそうだろう、雄英に編入生が入るなんてそうそう無いことなのだから。

 雄英の入試は受けていたが、実技で上手く動けて調子に乗ったせいで0ポイントにやられて不合格になったらしい。その後滑り止めで受けていた他の高校に合格、編入試験を受けて改めて雄英に合格したのだという。

 本当なら、彼女も個性研究所を利用しているので顔を合わせられたはずなのだが。編入試験に合格したことで舞い上がって、車に撥ねられて入院しているのだと立甲は言った。体育祭の日が初雄英になるのはそのためだという。

 

 立甲葵。その強力かつ暴走しやすい個性で、何度も研究所に大きな損害を与えてきた問題児。実の父親である立甲が、何度も実験を共にした風華が。彼女がそれまでにやらかしてきた所業を思い出して頭を抱えるのだった。

 

 なんて奴だ……。緑谷と飯田の考えていたことがこの時シンクロした。

 

 

 〜

 

 

「飯田君は加速の特訓をしてるんだったよね。進捗はどんな感じなの?」

「あまり芳しくはないが、そんなすぐに成果が出るものでもないからな。焦らずじっくりとやっていくさ。それよりも、必殺技の構想ができたんだよ!」

「必殺技!?いったいどんな!」

「秘密だ!」

「秘密か!」

 

 帰り道を一緒に歩く2人は、今日行っていた特訓について会話を弾ませていた。緑谷は組手で何度も風華にボコボコにされたことや、必殺技ができたこと。飯田はひたすらスタートダッシュを繰り返したり、アスレチックコースで立体機動をしたり、必殺技を考察したりなど。

 個性研究所に来てまだ2日目だが、お互いかなりの手応えを掴んでいるようであった。

 

「しっかし!立甲さんに娘さんがいて、なおかつ雄英に編入してくるとは!」

「聞いた話だと、かなりおっちょこちょいな人みたいだけど……どんな個性なんだろうね」

 

 お互いの話を終えて、次に話題に出るのはまだ見ぬ新たなライバルのこと。『疾風迅雷』という強力な個性を持つ風華を以てして「強い」と評する彼女はいったいどのような人物なのだろうと、2人して頭を悩ませるのだった。

 その後、実際に会ってから考えればいいと思考を打ち切る。ちょうど帰路が別れる所であった。

 

「体育祭まであと二週間。緑谷君……俺は君にも鳴神君にも、他のみんなにも勝つ。そして、一番になるぞ」

「うん……僕も、全力で獲りにいくよ」

 

 ガッチリと握手を交わし、2人はそれぞれの家へと帰っていった。

 

 

 〜

 

 

 参加種目の決定に、個々人の準備。二週間の猶予はあっという間に過ぎていった。そして、体育祭当日を迎える。

 

「入場検査長くない?」

「仕方ないさ、敵の襲撃なんて大事件があったんだからな。今年に限っては、開催自体に懐疑的な声もあるし……」

 

 始まる前の正門には、数多の報道陣が入場するための審査待ちをしていた。今年は例年の5倍の警備を動員した上での開催となっており、マスコミは不法侵入した前科もあるため厳しく検査されているのである。

 

「まぁでも、『物議をかもしている』ということは=『数字が取れる』ということよ!待っていなさい1年A組!今年の目玉!」




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