風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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地名などは原作に出たものか、架空のものです。


鳴神風華:オリジン

「……オールマイト。わたしは……あなたのようなヒーローになれるかな」

 

 帰宅した風華は玄関に置いてある写真立てを手に取り、そこに映る人物へと語りかける。かつて常に死と隣り合わせの地獄にいた風華と雷羽をそこから救い出してくれたヒーロー、「平和の象徴」オールマイト。写真に写っていたのは、恩人と、彼に頭を撫でられている幼い頃の風華であった。

 あの日の出来事から、もう10年の月日が流れている。それでも、風華がオールマイトへの恩を忘れたことは1日としてなかった。

 

 10年前、某県君沢市を襲った集団敵襲撃事件。

 数千人の死者とほぼ同数の行方不明者、数万人もの重軽傷者を出して、人口20万人以上の大都市は一夜で廃墟となった。後にこの事件は敵集団の名乗った名前から「君沢の悲劇」と呼ばれ、語り継がれることとなる。幼い頃の風華は、そんな事件の渦中にいた。

 

 幸せな家族だった。

 頼れる父、優しい母。いつでも甘えさせてくれた祖父母。産まれたばかりの小さな妹。どんな時でも笑いの絶えない、仲の良い家族だった。

 

「ねぇ……!お母さん!お母さんってば!おばあちゃんも……!ねぇ、返事してよ!」

 

 いくら呼びかけても、瓦礫の内側からは返事は返ってこない。当然だろう。中にいた二人は、既に家の残骸に押し潰されて事切れていたのだから。

 たまたま、ぐずる雷羽を連れて、風華は庭に出ていた。たまたま、母と祖母が姉に妹の世話を任せて家事をしていた。たったそれだけの偶然が、家族の命運を分けてしまった。

 

「おぉ、ガキが生き残ってるじゃねえか」

「……!?誰だ……!!」

 

 突然の別れにも、泣いている暇はなかった。泣きじゃくる雷羽の声に釣られて、駆動鎧で武装した集団が現れたからである。悪意と殺意に溢れた声で先頭の男が話すのを聞いて、風華は警戒レベルを最大限上げた。

 雷羽の小さな身体を抱きしめ、普段は禁じられている個性を発動する。翠緑の稲妻が全身を迸り、鎧の集団を威嚇した。

 

「リーダー、俺にやらせてくださいよ。花火大会も楽しかったけど、やっぱこういうのは、自分の手でやらなくちゃ!」

「……ああ、良いだろう。せいぜい派手に苦しめてから殺してやれ」

「オーケー♪」

「な……なんで」

 

 なんでこんな事をするの。自分達を殺そうと前に出た鎧に風華はそう問いかける。一瞬、何を言っているのか分からないとでも言いたげに鎧は首を傾げる動作を見せたが、すぐに嘲笑を隠さない語気で彼女の疑問に答えた。

 

「なんで……か。決まってんだろ?そんなの。凄い力が手に入ったから、楽しそうだしみんなで試しに使ってみた。それだけだ。この町が標的になったのも、お前が巻き込まれたのも、単なる偶然さ」

「偶然……?そんな、そんなくだらない理由で?」

「そうだよ!世の中ってのは理不尽なものさ!お前の言うようなくだらない理由で振るわれる力ってのがたくさんある!楽しいぜ!お前のように理不尽を食らって絶望してるような奴の顔を見るとな、そりゃあ最高にスカッとするんだ!」

 

 雷羽を抱く腕に力が入る。鎧の集団への怒りが、沸々と込み上げてくるのが感じられた。その怒気に呼応するように、全身を迸るスパークもその勢いを増していく。

 

「ま、俺達から言えることは一つだけ。お生憎様。お前は運が悪かった」

「……ざけるな」

「は?」

「そんな、そんな下らない理由で……!何かを壊したり、奪ったりしていいものか!ふざけるな!!」

「へあぅ」

 

 風華の身体を迸っていた稲妻が、怒りの叫びと共に飛び出していく。360度、半球を描くように翠色の電撃が閃き、数多の駆動鎧を貫いた。

 先頭にいた鎧が、間の抜けた断末魔の声を残して倒れる。それを起点に、ドミノ倒しのように倒れていく鎧の集団。初めての大規模な個性の行使に肩で息をしながら、風華は辺りを見回す。ショートした部分が小さな爆発を起こし、鎧の集団は肉と金属片の塊となって血溜まりに沈んでいた。

 

「はぁ……っ!はあっ……!」

「ふゃあ……!ふゃあ……!」

「大丈夫だよ……雷羽は……!絶対、お姉ちゃんが守るからね……!」

 

 弱々しく泣きじゃくる妹を強く抱きしめ、風華は決意する。絶対に、この子を守って見せると。

 指先に風を集めて圧縮し、弾丸として撃ち放つ。浮き上がった血溜まりが風に乗って舞い、アーチ状になったそれをくぐる。安全な地を求めて、風華は歩みを始めた。

 

 その道のりは、長く険しいものであった。

 駆動鎧の仲間や、生き残った市民達。悪意を以って迫り来るそれらを、恐怖と焦燥を以って襲いくる彼らを払い除けながら、隣の市を目指す。時に無人となったスーパーやコンビニで食料を集め、妹のためにおむつやお湯を用意した。

 最初に君沢市を襲った爆撃によって猛毒を帯びた空気は、個性による気流の操作で吸い込まないように。360度全てに気を張り続けながら歩いて、およそ10日が経った頃。幼い妹を抱え、常に個性を使い続け、張り詰めていた精神に限界が来ようとしていた。

 

「はぁ……まだまだ遠い……いったい、いつになったら隣町まで辿り着けるの……?」

 

 近くの瓦礫に腰を下ろし、大きくため息を吐く。ここまでほぼ休憩も睡眠もなしに歩き続けてきたのだ、緊急時で火事場の馬鹿力的なものがあったとはいえ、流石に消耗し過ぎである。肉体も、精神も、限界に限りなく近付いていた、その時だった。

 

「お、見ろよ。こんな所にガキがいやがるぜ」

「……!また……!!」

 

 新手の鎧の出現。その言葉に呼応し、ぞろぞろと鎧の集団が奥から現れる。

 腰が上がらない。個性もろくに使えない。眠気と疲労で視界が霞む。まさに絶体絶命の状況。もはやこれまで、と風華はこの後の自分と妹の末路を想像し、ギュッと目を閉じた。

 

「ギャアッ!?」

「何だ、何がっ……!あっ!」

「うっ!」

「寄ってたかってこんな小さな子どもを……人間の風上にも置けん奴らめ!」

 

 もはやどうにでもなれ、と覚悟はした。しかし、想像した未来は一向にやってこない。聞こえた悲鳴を不思議に思い、そっと目を開ける。そこに立っていたのは。

 

「こんな所まで……よく頑張った!遅くなってしまってすまない!だが……もう大丈夫」

「……オール、マイト?」

「私が来た!」

 

 恐る恐る目を開けて、そこにあった光景。立っていたのは日本が誇る平和の象徴。No.1ヒーローオールマイトの姿がそこにあった。

 

 それ以降のことは、記憶にあまり残っていない。

 姉妹共に助かったことへの喜びに涙が止まらなかったことや、病院で目を覚ましてから、医者にいろいろと検査をされたことくらいしか風華の記憶には残っていない。

 

 その後、家族を失った雷羽は叔父夫婦に養子として引き取られ、風華は生き抜くために使い続けたことで年齢に見合わぬ程に強くなりすぎた個性を制御するべく、個性研究所に入所することとなった。

 姉妹は離れ離れになったが、2度と会えないわけではない。叔父夫婦は定期的に雷羽を連れてきてくれたし、風華の方から会いにいくこともできた。そうした交流は、事件から10年が経った今でも続いている。近所では仲良し姉妹として有名である。

 

「……こうして振り返ってみると、懐かしいな」

 

 断じていい思い出ではない。両親を失い、祖父母を失い、友達や近所の親しい人達、果ては故郷をも失ったのだから。それでも、今こうして自分が生きていけているからか。振り返った忌まわしきはずの記憶を、風華は妙に懐かしく感じていた。

 

 事件を乗り越えて、個性は大きく成長を遂げた。個性研究所での制御練習の一環で、使い道も大きく増えた。

 個性『疾風迅雷』に並ぶ者など、同世代ではあり得ないという自負もあった。

 

 きっと、自分なら。オールマイトのようなヒーローに。あの安心をもたらす背中を持ったヒーローになれる。あの時助けられ、憧れた人のような者になれたなら。それは、どんな素敵なことなのだろう。

 

「……受けよう、雄英高校」

 

 写真立てを元の場所に戻して、誰に聞かせるでもなくそう呟く。

 ふわふわと、漠然としか将来像を見ていなかった少女が、己の望む未来を決した瞬間であった。

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