「獲るぞ1000万。上鳴は放電を、八百万は伝導の用意を頼む」
「いいのか!?多分鳴神にゃ効かねえぞ!?」
「大丈夫ですわ上鳴さん。私達の相手は鳴神さんのチームだけではありませんもの!」
「よっしゃあ!それいけ障子!」
「奪われた分取り返す!」
「10000000ポイント、リベンジだー!」
そういうことなら、と上鳴はありったけの電力を作り出して放電の用意をする。バチ、バチと黄色い電閃が上鳴に纏わり付くのを見て、八百万は電撃を拡散させるための棒と巻き添えを防ぐための絶縁シートを創造した。
騎馬全体を覆うように絶縁シートを被せる。完全に電撃の影響を回避してから上鳴が放電を開始。漁夫の利を狙おうと迫って来ていた騎馬を何組か感電させて停止させた。
無差別放電、130万ボルト。上鳴にできる中でほぼ最大の電撃が、数多の騎馬を襲った。
「アバっ、アババババっ!」
「上……鳴ぃ……!」
「残り時間は7分ちょい……絶対に獲るぞ!」
「面白れぇ、かかってきやがれ!」
「足を止めないように!」
『上鳴の放電で動きを止めてから改めて凍らせて完全に拘束する。障害物競走で結構な数に避けられていたのを省みてるな』
『ナイス解説!』
電撃によって足を止められた騎馬を、今度は轟の生み出した氷が拘束する。足下を完全に凍らされてしまっては、単体でも機動力のある爆豪のような騎手しか動けない。しかし、凍らされた中にそんな奴はいないということを轟は把握していた。
肝心のチーム鳴神といえば、電撃の時点からしてピンピンしている。彼女らに向けて放たれた電気は全て吸収されてしまい、逆にあちらのパワーアップに貢献してしまっていた。そうなればもちろん、氷結攻撃も避けられている。最も対策しなければならない相手が健在となっていた。
ダメだったものはまぁ仕方がない。そもそも周りの野次馬を留め置くためにやったことなのだ、チーム鳴神に対して効果が薄いことは最初から分かっていた。
「葵、尻尾で牽制!一本だけでいいから!」
「分かりました!」
百足のようにしなる龍の尻尾の一つが、飯田のエンジンによって高速で近付いてくるチーム飯田を牽制する。すかさず八百万が分厚い鉄板を創造してそれをガード。騎馬の3人を巻き込んで拘束する試みだったが、失敗に終わった。
「個性『創造』……やっぱ厄介だな!」
「いや……猿夫、それ以上に天哉だよ」
「飯田を?」
「個性研究所での訓練の中で、天哉はとにかく走り込みを繰り返してた。その中で新しい技を身に付けたみたいだけど……それをまだ使っていない」
緑谷が個性研究所で5%フルカウルの維持とその状態でのごく自然な行動、12%の瞬時の引き出しができるように訓練していたように。飯田もまた自身に課題を設けて、それをクリアするべく訓練に励んでいた。
彼の課題は加速力の強化。スピードが最高に達するまでに少し時間がかかるという、自身の弱点を克服するべく走り込みを続けていた。
ひたすら実験室の長い直線を。研究所外のアスレチックコースを。ひたむきに走り続けた結果、彼は一つの結論へと至る。
今の自分に、この課題はクリアできない。
もともと、一朝一夕でクリアできるような課題とは思っていなかった。だから一応仕方のないことである。だが、それならばどうするべきなのか。
飯田の出した答えは「初速」の強化。初速と最高速の差を縮めることで、擬似的に加速を早めることにしたのだ。スタートする際の姿勢やフォームなどにも気を配り、個性を使うことも怠らず。これにより彼はスタート及び個性の強化に成功した。
更にアスレチックの複雑な動きを強要する地形を走り続けたことで、加速の維持もある程度可能になっている。その伸ばした力は、障害物競走で遺憾無く発揮されていた。
そしてもう一つ。スタートダッシュ強化のためにひたすらエンジンを回し続けた経験が、彼に新たな技をもたらした。一緒に訓練していた風華にも緑谷にも見せていない秘密兵器。彼のしてきた努力を知っている風華を警戒させるには、十分なプレッシャーを持っていた。
「なるほどな、そりゃ警戒だ!」
「僕が天哉君を見張っておきます!」
「俺は引き続き漁夫の利を防ぐよ!」
警戒は怠らない。二強の対峙は続く。
〜
「なるほど、爆発性の汗をかける個性か。なかなかいいものを持ってるじゃないか!」
「がっ……!?」
爆発。掌の汗腺から分泌される、爆発性の成分を含んだ汗を使って行われる爆豪勝己の代名詞。だがそれは今、爆豪ではなく物間の掌で行われた。
すかさず反撃を仕掛けるも、それを物間は攻撃を受けた箇所を硬化させることでやり過ごす。またしても現れた己と似た個性に、切島が「また俺と被る個性かよ!」と叫んだ。
「違ェ、こいつ……個性を『コピー』してやがる」
「正解!まぁ馬鹿でも分かるよね」
物間寧人、個性『コピー』。
触れた相手が持つ個性を、自身で最大5分間使うことができる。ストックしておけるのは2つまでであり、同時に使うということはできない。それ故に状況を判断して的確に使う必要がある、テクニカルな個性である。
「おわぁ!?何だこれ、動けねっ……!」
「凡戸か……仕掛けてきたな!」
「B組の中でポイントを持っているのは、お前達だけだ!残り時間もあと少し……逃げ切れ!」
追い討ちをかけるように、チーム拳藤の騎馬凡戸が個性で切島を拘束する。芦戸の酸で何とか突破を試みるも、その間にも物間はどんどんチーム爆豪から距離を離していた。
「ま、悪く思わないでくれよ?最初に煽ってきたのは君なんだからさ。えっと……何て言ったっけ?最初のあの恥ずかしいやつ!」
「……!」
「ま、いいや!お疲れ様!」
俺が一位になる。
開会式で言い放った自らの言葉が、爆豪の頭の中で繰り返されていた。怒りのボルテージが引き上げられていく。
「ただの一位じゃねえ……!俺が獲るのは完膚なきまでの、誰も文句のつけられない完璧な一位だ!」
「おいっ、爆豪!?」
〜
『チーム飯田が氷結と機動力であっという間で首位に躍り出る!かと思ってたよさっきまではな!』
『フィールドを氷で覆って一対一の状況を作り、その上で戦っていた。鳴神の風なら氷は剥がせるだろうが、そうしたら自分のチームを崩しかねないからやらなかったな。有利状況を作ったまでは良かったが、決め手に欠けていたのが残念だ』
「残り時間はあと1分……!この調子なら逃げ切れそうだが!」
「警戒は怠らない!」
周りの邪魔を排除してから、轟はチーム鳴神と自分達の周りを氷で囲い強制的な一対一の状況を作り出した。無理矢理な脱出は自分の首を絞める結果となるし、飯田がいるおかげで機動力でもこちらが勝っている。それに氷を使って空間を更に限定していけば、身動き取れなくなってポイントを奪取できるはずだった。
で、あるのに。残り時間が1分になるまでチーム飯田がポイントを奪うことはなかった。常に轟の右手側に位置することで氷攻撃に対しては飯田が巻き添えになるようにし、無闇な凍結では逆効果になるように仕向けられていた。
電撃で足止めをしてもらう目的でチームに引き入れた上鳴も、風華の前では充電器。八百万が創造した道具は葵に弾かれて意味を成さない。完全に手をこまねいていた。
「残り1分か……ならばもう、いいだろう」
「飯田?何か策が……」
「轟君、この後俺は使えなくなる。しっかり捕まってポイントを獲るのに集中してくれ」
「くるよ!警戒して!」
「遂に切り札切ってくるか!」
「しっかり掴まっていろ!絶対に獲ってくれ1000万!トルクオーバー『レシプロバースト』!」
超加速。トルクの回転数を無理矢理上げることで反動でエンストすることと引き換えに、爆発力を生み出す飯田の切り札。効果時間は約20秒程で、早くなり過ぎるために複雑な動きはできない。
それでも、風華が咄嗟に作った空気の壁と、葵の尻尾をぶち抜いてポイントを奪取するには十分な速度であった。
『逆転ー!チーム飯田、飯田の超加速によって1000万を奪取し急転直下一位へ!てか飯田そんな技あるなら障害物競走で使っとけよ!』
『何かしらデメリットが有るんだろうな』
「鳴神さん……君に見せたのも初めてだな。これが俺の切り札『レシプロバースト』だ!」
「流石天哉だ……やるね……!」
「クソ1000万取られた!取り返すぞ!」
「いや……ここは退きましょう!」
葵は取られた1000万を取り返すよりも、このまま撤退するべきであると進言する。あのポイントがなくなったところで、チーム鳴神はチーム蛙吹に奪われた120ポイントと最初に奪えなかった3チームのポイント以外を全て持っている。その合計は1910。全体二位であり予選突破圏内。
ならば残り時間も少ない中で、無理をする必要はどこにもない。残ったポイントを死守して、確実に次へ進むべきだ。そう結論付けた風華は、葵の案を採用することにした。
「……!退いたか……」
「私達も防御に専念しましょう!」
10000000ポイントを奪取して、一躍首位となったチーム飯田もその場を離れてポイントの防衛に徹する。この時点で、騎馬戦の順位は半分が決まったようなものであった。
残り2チーム、勝ち残るのは誰なのか。
〜
『残り時間は1分を切って、現在の首位はハチマキ2枚所持のチーム飯田だ!ガン逃げするチーム鳴神から10000000ポイントを見事奪い去りやがったぜぇ!』
現在の順位はこうなっている。
1位 チーム飯田
2位 チーム鳴神
3位 チーム円場
4位 チーム緑谷
既に上位4チームは全員キープに専念しており、最早順位が入れ替わることはないだろうという予想が立てられていた。
「待てい!待て待て待てい!」
「しつこいなぁ、その粘着質はヒーロー以前に人としてどうかと思うけど……」
「待てい!勝手すなぁ爆豪!」
切島の叫びに気付き、振り向いた物間。嫌味を口にしつつ振り返ると、そこには爆破の推進力で迫ってくる爆豪がいた。
「円場、ガード!」
「了解!」
円場硬成、個性『空気凝固』。空気を固めることで即席の壁や足場を作ることができる。その強度は爆豪の爆破も通さない程である。爆豪の進行方向壁を作って、激突させて攻撃を防いだのだった。
舌打ちを残して、爆豪は瀬呂に回収されていく。刻一刻と終了時間が迫ってくる中で、遂に彼はプライドを捨てた。
「もう一回行くぞ!次で終わらせる!」
「おい!」
「ポイント取り返して、1000万に行く!俺一人だけじゃあ踏ん張りが効かねえ、お前らの協力が必要だ!力を貸せ!」
「……へっ!お前にそこまで言われちゃあやるしかねえな!」
「しっかり獲ってきてよね!」
瀬呂が進行方向にテープを貼り、チーム円場を警戒させて足止めする。そこに芦戸が弱めの溶解液を塗って推進力に。最後に爆豪が、ありったけの力を込めて爆発を起こす。
3人で協力したからこそできた、120%を超える爆発力によって繰り出された一撃は、円場のガードすら打ち破ってハチマキを奪い返した。
『爆豪、容赦なし!アレだなあいつは、完璧主義者ってやつだな!』
『常に上を狙い続ける者と、そうでない者の差。爆豪の執念が勝ったって感じだな』
物間は、ヒートアップしやすい爆豪が与し易いと見て彼を標的に選んだ。惜しむらくは、彼の勝利に欠ける執念の強さを考慮しきれなかったこと。明暗を分けたのは、そんな想いであった。
「次!1000万獲りに……!」
『TIME UP!』
「終わった……?」
「逃げ切れた、かな……」
「し、しんどかった……!」
「何もできなかった……!」
「ケロ……これじゃあ足りないわね」
プレゼント・マイクの大声が、騎馬戦が終了したということを伝える。そのままの勢いで最終種目への進出チームを発表。
1位 チーム飯田 10001125ポイント
2位 チーム鳴神 1910ポイント
3位 チーム爆豪 640ポイント
4位 チーム緑谷 515ポイント
以上、4チーム16人が最終種目へ駒を進める。