風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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体育祭:幕間

 最終種目は午後から始まるため、一旦間に昼休みを挟むことになる。会場を去ろうと心操に、緑谷は慌てて声をかけた。

 

「心操君!君は、どうしてヒーローに……?」

「……憧れちまったもんはしょうがないだろ?」

 

 彼は語る。幼い頃、住んでいた町で活動しているヒーローに憧れていたこと。彼の勇姿を見て、自分もあんな風になりたいと思ったこと。この個性のせいで、ずっと「ヒーローよりも敵に向いてる」だの「悪用し放題」だの「人気が出そうにない」だのとレッテルを貼られてきたこと。それでも受けてみた試験では、その内容のせいで何も活躍を見せられずに不合格になったこと。

 彼の個性は『洗脳』。洗脳すると意識して他者に話しかけ、それに相手が言葉を返すと成立。自分の意思では動けなくなり、心操の出す命令を聞くことしかできなくなる。尚、「死ね」などといった洗脳された者に傷が付く命令や、心操自身を傷付けさせるような命令はできないし、あまり複雑な命令もできない。人間にしか効かない個性である以上、ロボット相手には何もできなかったのだ。

 

「……前にも言ったけどさ。ヒーロー科は編入枠をいくつか設けてる。俺は必ずそこに入り込む!お前らがしている以上に努力して、絶対に編入枠を勝ち取ってやる!……じゃあな、緑谷。2年生になった時にまた会おう」

 

 観客席で競技を見ていた普通科の生徒から、心操の健闘を讃える拍手が起こる。それを受けながら入場ゲートをくぐり、闇の中へと消えていく心操の姿はどこか、晴れ晴れとしているようであった。

 

「……うん。待ってるよ、心操君」

 

 

 〜

 

 

「……悪りぃな、時間取らせて」

「構わないよ。それで、話ってなんだい?」

 

 騎馬戦が終わった後、風華は轟に呼び出されて彼と一対一の状況となっていた。何やら話したい事があるようだが、生憎風華にはその内容の見当もつかない。彼が話し始めるのを、その辺の壁にもたれかけながら待ち続けていた。

 

「間違ってたら、謝る。その……お前の家って『個性婚』はしてねえよな?」

「……へ?」

「してない、のか。すまん、変に疑っちまって」

 

 個性婚。超常黎明期、人々に個性が芽生えて以降第二世代から第三世代で問題となったもの。より性能の良い個性を持った子どもを創り出すことを目的として為される婚姻のことである。

 轟の父、No.2ヒーローエンデヴァーは超えるべき目標としてオールマイトを常にライバル視していた。やがて自分ではオールマイトを超えられないと悟った彼は、高熱を操る自身の個性と相反する冷気を操る個性を持った女性と結婚する。自身の欠点であった熱が籠ってやがて個性が使えなくなるという点を、冷却する個性で解決しようとしたのだ。

 もちろん、そう上手くはいかない。何人も子どもができて、その度に失敗してきた。それでも諦めずに妻に子どもを産ませ続けて遂にできたのが末子の最高傑作、轟焦凍という訳である。

 エンデヴァーは幼い轟に何度も何度も辛い訓練をさせた。妻の静止も聞かず、轟をNo.1を超えたヒーローにするために。優しかった母を追い詰めていった父のことを、轟はそれはもう憎んだ。

 

 エンデヴァーを否定する。やがて家庭で唯一父から守ってくれた母も失ってからは、それが轟の行動理念となった。両親から受け継いだ氷結と熱の個性の内氷結の方だけを用いてNo.1となり、エンデヴァーなど必要なかったと証明する。轟焦凍という男のたった一つの目標であった。

 

「俺の左側が憎い。段々とあのクソ野郎に似てくる俺のことを怖いと思ってしまう。母はそう言って俺に煮湯を浴びせた」

「……」

「悪いな。気分悪くなる話だっただろ。それでもお前には聞いてほしかったんだ。同じオールマイトを超えようとする者として」

「……わたしは。オールマイトに命を救われた」

 

 去ろうとする轟に対して、風華も話す。妹以外の家族を失い、オールマイトによって救われるまで地獄を彷徨い続けた時のことを。

 そよ風を起こし、少し痺れる程度の電気しか作り出せなかった個性が、地獄の中で出力を増し、怒りによって赫く染まったことを。

 

 轟は目を見開いて驚いていた。親元を離れているということはこれまでの話から分かっていたが、どちらも既に亡くなっているとは考えてもいなかったから。何かを言おうと口を開いた彼を、風華は「君の過去を聞かせてもらったから。わたしも話しただけ」と制した。

 

「オールマイトだけじゃない……わたしが今日まで普通に生きてこれたのは、個性研究所や小・中学校のみんなが普通に接してくれていたから。妹が無事に育ってくれていたから。そうした助けがあるからこそ、今のわたしが在る」

「……」

「わたしがヒーローを目指すのは、わたしを助けてくれたみんなのように、人を安心させてあげられる人になりたいから。焦凍に比べれば、わたしの動機なんて大したものではないけど。それでも、わたしだって負けるわけにはいかない」

「……鳴神」

「最終戦、例年通りだと一対一のトーナメント形式だってね。もし焦凍と当たったとしても、勝たせてもらうよ」

 

 返事はない。ただ、小さくなっていくその背中が「受けて立つ」と雄弁に語っていた。

 

 

 〜

 

 

『予選落ちしたリスナーに朗報だ!あくまでこれは体育祭!全員が参加できるレクリエーションだって用意されてるのさぁ!本場アメリカからチアリーダーも呼んでいっそうの盛り上げを……!』

 

「……」

「どうしたの、A組……?」

 

『ありゃあ?』

『なーにやってんだ、あいつら……』

 

 視線を集めているのは、A組の女子陣。何故だか知らないが、雄英が招待したチアリーダーに混じって同じ格好をしていた。全員、この世の全てを恨むかのようにどこか遠い目をしている。

 事の発端は、上鳴の一言。みんながチアリーダーをしているところを見たがった彼が、騙されやすい上に衣装を用意できる八百万を言いくるめて女子陣に着させたのだ。

 騙していることに気付いた峰田が珍しく止めようとしていたが、「でもお前も見たいだろ?」という言葉に嘘は付けずに結局やらせてしまう。その結果この状況が出来上がったのだ。

 

『午後は女子全員でチアやって応援合戦しなきゃいけないんだってよ!』

『そんなこと、聞いていませんけど……?』

「信じる信じないは勝手だけどよ、これは……相澤先生からの言伝だからな!』

 

「騙しましたわね、上鳴さん!峰田さん!」

「ま、まぁ息抜きくらいにはなるだろうし……」

「お茶子ちゃん、庇わなくていいのよ」

 

 ちなみに、葉隠の「面白そうだし、衣装も勿体無いからみんなで踊ろうよ!」という鶴の一声で結局みんなチアリーディングをすることになった。上鳴と峰田は後で必ずシバく、と共通意識も持って。

 

 こうして、レクリエーションは過ぎていく。ちなみに、風華は轟に呼び出されていていなかったので不参加であった。代わりに参加しようとした葵が、足を滑らせてドミノ倒しのようにチアリーダー達を転ばせる事件があったが、それもまた一つのエンターテイメントとなった。

 

「よし……できた」

 

『おっ、遂に準備が終わったみたいだぜ!最終決戦の始まりだ!』

『よくそのテンション保てるよな』

 

 最終種目は一対一のガチマッチ。白線で囲われた範囲の中でその身一つで戦い、優勝する一人を決めるトーナメント。

 勝利方法は『相手の場外』『相手が戦闘不能になるか、降参する』『審判によって相手が試合続行不可能であると判断される』の3つである。アイテムなどの持ち込みは、これまで通り公正を期すためどうしても必要になるもの以外は禁止。相手を殺してしまうや降参しても尚攻撃を続けるなど、ヒーローに有るまじき行為も禁止である。

 

 一回戦の対戦カードは、これだ。

 

 第一試合

 緑谷出久VS立甲葵

 

 第二試合

 爆豪勝己VS麗日お茶子

 

 第三試合

 常闇踏陰VS八百万百

 

 第四試合

 鉄哲徹鐵VS切島鋭児郎

 

 第五試合

 瀬呂範太VS轟焦凍

 

 第六試合

 鳴神風華VS上鳴電気

 

 第七試合

 尾白猿夫VS芦戸三奈

 

 第八試合

 飯田天哉VS発目明

 

 クジ引きで決まった組み合わせ。最初に戦うこととなった緑谷と葵が互いに目を合わせる。風華も、一番当たりたかった相手に当たったことで喜びの表情を見せた。

 

「ひぃぃ……いきなり爆豪君と……!」

「おい麗日」

「はひぃ!」

 

 初戦から爆豪と当たることになってしまい、勝てる気の無さに絶望しかける麗日。そんな彼女に発破をかけたのは、他でもない爆豪自身であった。「全力で来い。俺も、お前を全力で叩き潰してやる」そんな爆豪からの宣戦布告。

 彼は、自分が超えるべきと認めた相手しか名前で呼ばないし、敬意も払わない。そんな彼が、自分の全力を超えてやると宣言したということはつまり。爆豪は麗日を超えるべき相手として見ているということであった。

 

「……うん。でも、勝つのはウチだから!」

「へっ、いい顔するじゃねぇか」

 

 組み合わせも決まり、第一試合に出る2人以外はそれぞれに割り当てられた控室か客席へ戻る。後はミッドナイトの一言で緑谷と葵がフィールドに立ち戦いが始まる。

 

「出久、葵の個性について教えておくかい?」

「立甲さんの個性?確か自分の身体を龍に変えるってものだったよね」

 

 試合が始まる少し前に、風華は緑谷に対して葵の個性について説明をしようとした。今日から雄英に入ったばかりの葵は、その個性や能力について誰も競技で見せた分以上の情報を持っていないというアドバンテージがある。そこを少しでも埋めてやろうとしたのだ。

 葵もまた、風華とは別のベクトルでやれることが非常に多い。風華も彼女の個性を全て把握しているわけではない。それでも、少しは情報の差がマシになるだろうと考えていた。

 

「気持ちはありがたいけど、いいかな」

「そうかい?」

「うん……やっぱり、自分の身で情報を暴き出して勝ってこそだと思うからね」

「なら、いいね。応援してるよ、頑張ってね」

 

『さあ、第一試合を始めるわよ!戦う2人はフィールドに来なさい!』

 

 風華の申し出を、緑谷は断った。これまでもいろいろなヒーローでやってきて情報分析には少し自信があったし、自分でやってこそだと思ったから。それを聞いた風華は、彼の意思を尊重してそのままミッドナイトに呼ばれていった彼を見送った。

 

「相対するのは、これで二度目でしたか。僕の力を見せてあげますよ、出久君」

「……お手柔らかに頼むよ」

 

 ー 最終種目『ガチンコトーナメント』 ー

 

 1年生の頂点が、ここで決まる。

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