風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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最終種目:一回戦(1)

「ルールはさっき説明した通りよ!相手を降参させるか場外にさせるか、私達審判に続行不可能と判断させることで勝利となるわ!準備はいい!?」

「大丈夫です!」

「僕も、大丈夫です!」

 

 お互い所定の位置に付き、ミッドナイトによる合図が出るのを待つ。鞭が振るわれ、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 一回戦第一試合 緑谷出久VS立甲葵

 

 

 開始の合図と同時に、葵の姿が変わっていく。宝石のように輝く鱗が何枚も重なり合って堅牢な甲殻となり、腰の辺りからは3本の百足を思わせるような長い尻尾が生える。まるでそれ自体が意思を持つかのように、尻尾はぐねぐねと蠢いていた。

 牙や爪はより鋭利に。四肢はより太く、力強く。2mを優に超えた体躯に、最早小柄な少女の面影はない。幻想の頂点に立つ者、『蒼龍』の姿がそこにあった。

 

 変身する様を観察していた緑谷は、終わったとみると自身も『フルカウル』を発動。出力を5%に設定した個性を全身に巡らせる。強化されていることが見ただけで分かるような緑色のスパークが迸り、身体は紅潮するかのように赤く染まっていた。

 

「いくぞ、立甲さん!」

「何処からでもどうぞ!」

 

 まずは突撃……と見せかけて、緑谷は12%の力を瞬間的に解放。地面を思いっきり殴りつけ、粉塵をフィールド全体にばら撒いた。

 突然の視界を遮る一撃に、葵が警戒体勢を取る。右、左と見回して、何処から来られてもいいように体勢を取るが、緑谷が来たのは上からだった。跳躍の勢いで足に個性を起動し、全力で蹴りを放つ。咄嗟に守りに入った3本の尻尾ごと、葵の巨体を吹き飛ばした。

 

「惜しいっ……!もう一発!」

「そう何度もやらせませんよ!」

 

『緑谷、不意打ちで先制の一発!そのまま追撃を仕掛けていったぁ!』

『だが、動きが直線的だな。あれではすぐに対応されるぞ』

 

 葵が後退した方向へ向かって、追撃の回し蹴りを放った緑谷。それを横っ飛びして避けると、鞭のようにしなる尻尾を使って反撃の一打を放つ。ジャンプしてそれを避けると、2本目が今度は槍のように鋭く襲いかかってくる。それも受け止めたところで第三の尻尾が緑谷を絡め取った。

 拘束に成功した葵は、このまま緑谷を締め付けて意識をオトそうとする。もちろん、突破されても場外に落ちるように位置を変えて。場外か、戦闘不能かの二択を突き付けようとしたところで、緑谷は個性の出力を更に引き上げることで拘束を突破した。およそ40%程。超過こそしているものの、脱出を果たせる最低限の出力へと。

 

 場外ギリギリで何とか着地した緑谷は、再び『フルカウル』を今度は12%で発動。一気に葵の懐に潜り込み、取っ組み合いの形を作った。拘束を脱するために、一瞬とははいえ許容上限を超える出力を出さざるを得なかった。全身の筋繊維がぶちぶちと音を立てたのがまだ耳に残っている。

 正直なところ、これ以上はとてもキツいと緑谷は感じていた。しかし負けてはいられない。最後まで力を振り絞る。

 

『緑谷、何とか拘束を脱っした!だがめちゃくちゃ苦しそうだぞ大丈夫か!?』

『上限を超える出力を出しちまったんだな。見た目で分かるような怪我はしてないが、相当な反動を食らっただろう』

 

「12%……さっきまで使ってたのが、制御可能な最大出力と聞いていたのですけど。いつの間に成長したんですか……!?」

「ちょっと……無理しただけさっ……!」

 

 膠着状態が続く。互いに手を掴み合って、相手を場外へと押し出そうと力を込め続けている。だが、12%に加えて個性の反動を受けた緑谷と肉体的にほぼ万全の葵では、力にかなりの差ができている。実際に緑谷の方が押され始めた。

 抵抗も虚しく、じりじりと場外に向かって押し出されていく緑谷。全身に脂汗を垂らしながら踏ん張り続け、それでもライン際まできてしまった。

 

「ふふふ……後もう少しですよっ……!」

「ぐぎっ……!ぐぎぎぎぃぃ……!!」

 

「やべぇよ鳴神ぃ!緑谷のやつ負けちまうよぉ!」

「……勝機は有るよ。葵のやつ、もうほぼ勝ったものだと思って油断してる。その隙を突くことができれば……」

 

 絶望する峰田に、風華はまだ勝機は有ると言う。緑谷は拘束を解くために、許容上限を超えた力を使って全身にロクに力を込められない状態となっている。その上龍化した葵と12%の緑谷では、葵の方がパワーで勝っている。このまま押し合いが続けば、緑谷は確実に白線を越えて場外負けとなるだろう。そこに彼の勝機がある。

 葵はもう八割がた勝利を確信し、力を若干緩めてしまっている。爪が甘く抜けている、彼女の欠点の一つだ。何故緑谷がまだ押し合いに耐えられているのかという理由がそれである。その隙を突くことができたなら、まだ緑谷は勝利できる可能性が有るのである。

 

『緑谷ライン際で踏ん張る!いったいいつまで粘り続けるつもりだぁ!?』

 

「そろそろっ……観念したらどうですかっ!?」

「諦めて、たまるものか……!僕は……負ける訳にはいかないんだ!」

「でも、流石にもう限界のはずです……!このまま場外押し出しで終わ……わゎっ!?」

「まだ……終わってない!そして、僕の限界はここじゃない!」

 

『緑谷、立甲の巨体を持ち上げたぁー!ウッソだろお前何処にそんな力残ってたんだよ!』

『全身が黒ずんでいっている……あいつ、限界を超えて個性を使ってやがるな』

 

「よし……!そのままいけ!」

「頑張れぇ!緑谷ぁ!」

「ここで決めなきゃ男じゃねえぞ!」

 

 ワン・フォー・オール100%。己の出せる安全圏をぶっち切った出力を出して、緑谷は葵のパワーを超える。許容上限を軽く超えた力の代償に、その四肢が瞬く激痛を伴いながら間に黒ずんでいく。

 だが、気にしない。ここで出し切らずに負ける方がよほど辛いことだから。緑谷は痛みを振り切るべく、叫んだ。

 

「『僕が来た』って……知らしめるんだ!」

「わわゎっ、ぬ、抜け出せない!?」

「『デラウェア……スマッシュ』!!」

 

 体育祭の前に、緑谷はオールマイトと話す機会があった。彼の『個性』の、そして平和の象徴の継承者として、「君が来た!」ということを知らしめてほしいと。そう、オールマイトに頼まれていた。

 正直、あまりピンときていなかった。いくら弱っているとはいえ、オールマイトは未だ健在だし、一生ないはずだった『個性』を貰えたことやそれに関してオールマイトに指導をしてもらえていることもあって、自分は恵まれ過ぎていると思っていた。これまで歩んできた人生が基本抑圧されてきたものであったことも起因している。

 

『常に上を目指す者と、そうでない者。その心構えの差は社会に出てから……いや、出る前の段階から大きく響くぞ』

 

 その言葉を思い出した。個性を貰って、オールマイトに指導してもらって。それだけで満足してはいけないのだ。

 緑谷が目指すべきは、オールマイトのような平和の象徴なのだから。

 

『緑谷ぁぁ!!アイツ、龍化した立甲の巨体を投げ飛ばしやがった!ドームの掲示板すら越えてってるぞぉ!?』

『飛行系の個性でもない限り、自由には動けない空中へしっかり遠くを目掛けて投げる……お粗末だが有効な方法だな』

 

「へぶうっ!きゅうぅぅ……」

「PLUS……ULTRA!!」

 

「立甲さん、場外!緑谷君の勝ち!」

 

 その瞬間、万雷の喝采が起こった。勝った緑谷と負けた葵の、両者の健闘を称えて。緑谷は完全に青黒くなってしまった両手を見て、喝采を受けるのもそこそこに、そそくさとリカバリーガールの元へと向かうのだった。

 その間、油断して勝てたはずの試合を落とした葵が風華の正座説教を食らっていたのだが、それを知る者は何処にもいない。せっかく騎馬戦ではいつものような大ポカをやらかさなかったから、良いところまでイケると期待していたのにと、風華の怒りの声が狭い通路の中で響いていた。

 

 

 第一試合 WINNER、緑谷出久。

 

 

 ある程度の治療を終え、次の試合で戦う麗日の控室へ足を運んだ緑谷。そこには既に、同じく激励に駆けつけていた女子陣や飯田の姿があった。「どうして女子に混ざって飯田君が……?」などと思ったが、自分のように友達として応援に来たのだろうと納得する。

 

「う、麗日さん。次試合だね、応援するよ!」

「うん……が、ががががんばばりゅ」

「大丈夫なの……?」

「ケロ、さっきからずっとこの調子よ」

 

 だったら少しでも緊張を解せるようにと、緑谷は懐にしまっていたノートを渡した。ずっと付けてきたヒーローノート。爆豪の個性や戦法について記した巻であった。友人に対して少しでも助けになれたらと思っての提案だったが、それを麗日は「ありがとう。でも、いい」とはっきりと断った。

 

「騎馬戦の時、デク君と組む時に仲が良い人とやった方がいいって言ったでしょ?でも、飯田君がデク君に挑戦するってチーム組むのを断った時、ウチはちょっと恥ずかしくなった。仲良いからとか言ってデク君に頼ってたんじゃないかって」

「麗日さん……そんなことを考えていたのか!」

「やっぱり、自分の力でウチは勝ちたい。だから、デク君の申し出はありがたいけど受け取れない」

 

『さぁ第二試合が始まるぜ!戦うリスナーはさっさと会場にレッツゴー!』

 

「……いってくる」

「……お茶子。勝己にも言ったけど、君にも言っておくよ。頑張ってくれよ」

「うん!デク君……二回戦で会おうぜ!」

 

 全力のサムズアップ。力強く立てられた親指が、彼女の覚悟を表していた。緊張に震えていた面影はもう何処にもない。今の麗日は、困難を打ち破ろうともがく一人の戦士であった。

 

『さぁ両リスナーが揃ったところで、お客さんらに紹介をしてやるぜ!』

『何でそんな偉そうなんだ?』

『言動はやべえが成績優秀!今年の一般受験で同率の主席合格を果たした爆発ヤロー!爆豪勝己!』

 

「んだとこらァ!紹介に悪意有んだろ!」

 

『俺はこっちを応援したい!無重力系キューティーガール!麗日お茶子!』

『依怙贔屓が過ぎるぞ』

 

「きゅ、キューティー……!?」

「おい、麗日。棄権するなら今の内だぞ」

「……!しない!」

「そうかよ……なら、ブッ殺す!」

 

 爆豪の言葉に、会場から非難が巻き起こる。だが彼がそれを気にすることはなく、掌を小さく爆発させてより一層の気合を入れていた。

 対する麗日は、深呼吸を繰り返しながら震える足を止めるよう努めている。覚悟を決めたとはいえどA組でも三指に入る強者との対決。緊張は避けられないようであった。

 

「それじゃあ2人とも、準備はオーケー!?」

「ああ」

「……はいっ!」

「それじゃあ始めるわ一回戦第二試合!爆豪勝己対麗日お茶子のスタートです!」

 

 

 一回戦第二試合 爆豪勝己VS麗日お茶子

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