風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

28 / 88
最終種目:二回戦(1)

「出久」

「あ、鳴神さん。どうしたの?」

 

 一回戦の試合が全て終わり、次は二回戦。第一試合を戦う緑谷は、フィールドに行こうとしたところで風華に呼び止められた。どうやら激励に来てくれたらしい。

 

「聞いてるよ。勝己とは昔、いろいろあったんだってね」

「うん……そうだね。かっちゃんとは小さい頃から一緒の幼なじみってやつでさ。昔からずっとあんな感じなんだ」

「そうなんだ……でさ、出久。君はちゃんと勝己に勝ちたいと思ってる?」

「えっと……そりゃそうさ。どうして?」

 

 風華は飯田や麗日を経由して、緑谷と爆豪の関係性について少しだけ理解していた。2人は所謂イジメっ子とイジメられっ子の関係で、緑谷はずっと爆豪に虐げられてきたのだと。

 どんな形であれ、緑谷にとって爆豪は日常的に暴力を仕掛けてきた相手。対人戦闘訓練では味方がいたこともあってどうにか戦えていたようだが、一対一のこの試合で彼がちゃんと爆豪と戦えるのか。そこを風華は心配していた。

 

「確かに、かっちゃんは嫌な奴さ。すぐ怒鳴るし、性格悪いし、すぐ人を見下すし、そのくせ妙なところでみみっちいし。でもね、オールマイトを超えるヒーローを目指して努力していたことも知ってるから。そこだけは素直に凄いと思ってるんだ。嫌な奴なことは変わらなくても……彼は、僕の憧れでもあるんだよ」

「そんなことを……」

「でも、僕だって誓ったんだ。絶対に最高のヒーローになるって。だから彼には負けられない。憧れるのはもう止める。せっかくここまで一緒になったんだから、これからは切磋琢磨し合うライバルでいたい……僕はそう思ってるよ」

「……ふふ、いい夢じゃないか」

 

 緑谷の胸に拳を当て、頑張ってこいと言う風華。そして最後にもう一言だけ加えて、彼を戦うべきフィールドまで送り出した。

 

「勝己には言いたいことも、思うことも、たくさんあるだろうけどね。そういうのは全部、拳に乗せて送っちゃえ」

「……!そうだね。応援ありがとう、鳴神さん。僕からも一つだけ、決勝で会おうね!」

「そうだね。いってらっしゃい」

 

 悠然と、フィールドまで歩いていく。いつものオドオドした雰囲気は何処にもなく、その背中は頼もしさを湛えていた。

 

「ああ、緑谷少年もう行っちゃった」

「……オールマイト?どうして此処に」

 

 緑谷の姿が見えなくなってシートに戻ろうとした風華の前に、オールマイトが立ち塞がる。どうしてこんな所にいるのかと聞くと、彼は「私も緑谷少年の激励に来たのさ!」と答えた。

 そういえば、オールマイトはいつも緑谷のことを過剰なまでに気にかけていたなと思い返す。正直嫉妬心を覚えた風華だが、憧れのヒーローの前でそんな感情を表に出すような真似はしない。努めて平静に、オールマイトと会話を始めた。

 平和の象徴は話が長い。ようやく風華がシートに戻れた時には、既に第一試合は終わっていた。

 

 

 二回戦第一試合 緑谷出久VS爆豪勝己

 

 

『さぁしばしの休憩も終わって、始まるぜ二回戦!第一試合を戦うのはコイツらだぁ!ヒーロー科緑谷出久!並びに、ヒーロー科爆豪勝己!勝利の女神はどちらに微笑むのか!』

『戦闘能力的には爆豪が上手だ。だが、ここまでで緑谷もだいぶ個性が成長していることが分かってるからな。それでどう差が埋まっているのかが勝負の分かれ目だな』

 

「……かっちゃん」

「あァ?」

「僕は、君に勝つよ。君に、挑戦させてもらう!」

「生意気言ってんじゃねえぞ、クソデク……!」

 

 互いに構えを取り、戦闘開始に備える。2人の間にある微妙な雰囲気を感じ取ったのか、観客席からは応援も野次も聞こえない。静けさの中で、2人は勝利のために集中力を高めていた。

 

「それじゃあ始めるわよ……試合開始!」

「先手必勝……デトロイトスマッシュ!」

「やらせるかよ、クソが!」

 

「因縁の戦い」

「どっちが勝つのかねえ……分かんねえや」

「爆豪有利だとは思うけど……緑谷も爆豪のことはよく知ってるし、対策立ててるだろうし。確かにどっちが勝つか分かんないかも」

「立甲さんよ、アンタはどう見てる?」

「あ、僕ですか?そうですねえ……より意地っ張りな方が勝つ。そう思っていますよ」

 

 意地っ張りな方が勝つ。戦闘能力や相性を丸ごと無視した感情論に、質問した砂籐が首を傾げる。しかしそれに対して葵が解説を加えることはなく、ただ一言「見ていればきっと分かりますよ」とだけ答えた。

 

 まずは緑谷の右ストレート。顔面狙いの一撃を爆豪が右フックで迎撃する。互いの攻撃の威力は互角のようで、この一撃は両者共に弾かれて痛み分けとなった。爆豪がすかさず爆速ターボで距離を詰め、反撃の一撃をぶちかますのを、緑谷もフルカウルで防御力を高めて受ける。そのまま爆破のために伸ばした腕を掴み、爆豪を背負い投げた。

 受け身を取り、追撃を食らう前に離れる。一瞬の睨み合いの後に、2人は同時に駆け出した。

 

「がっ……!?」

「こういう時は……右の大振りがくる!」

 

 カウンター。爆豪の癖として、初撃に右の大振りを選びやすいというものがある。緑谷はそれを読み切って爆撃を掻い潜り、ボディブローを右脇腹に突き刺した。肝臓を激しく揺さぶられ、爆豪が苦悶の声を漏らす。

 さらに追撃。身体を「く」の字に折った爆豪の顎を目掛けてアッパーカット。下を向いていた頭を思いっきり跳ね上げた。

 

『緑谷、容赦なし!これはいいモン入った!』

『爆豪の動きをしっかり読んで動いているな』

 

「はぁ……クッソがあ……!」

「どうしたんだい、かっちゃん。動きにいつものようなキレが無いよ!僕なんかには負けないんじゃなかったのか!?対人戦闘訓練の時みたいにボコボコにしにはこないのか!?」

「うるせえっ……黙れ!」

「僕のことが嫌いなんだろ!?体育祭で一番になるんだろ!?だったら何で、僕なんかには手こずってるんだ!」

「黙れって言ってんだろうがっ!」

 

 爆豪が叫ぶが、緑谷は気にしない。自分の言葉を紡ぎ続ける。

 

「僕だって、君のことは嫌いだよ。言いたいことはたくさん有るし、勝つために君を蹴落とす覚悟だって決めてきた!なのに何で、君がその覚悟を決めていないんだ!?開会式で俺が一位になるって言ってたのは嘘だったのか!?」

「うるせえっ……!てめェに俺の何が分かる!」

「怒鳴るな!そんなことばかり言ってるからいつも会話にならないんだよ!何年も同じ学校に通ってるのに、それでも僕らが分かり合えた時なんて一度もない!君がいつもそうやって怒鳴って、コミュニケーションを取ろうとしないからだ!言いたいことや伝えたいことがあるなら、ハッキリと言葉にしなきゃ分からないよ!」

 

 緑谷が爆豪の襟首を掴み、地面に叩きつける。フルカウルによって強化された身体能力で強く打ち付けられ、肺の中の酸素を全て吐き出した爆豪。ゲボォ!と、酷い音が響いた。

 倒した爆豪に馬乗りになりながら、緑谷は自身の心情を吐露する。2人は幼なじみでありながら、これまで腹を割って関わり合ったことがない。緑谷はこの試合をその機会にしようとしていた。

 

 しかし、何故か爆豪の歯切れが悪い。これでは腹を割って話すこともままならないし、何よりいつも傲岸不遜で自意識過剰な爆豪が自分程度に遅れをとっているということが緑谷には許せなかった。

 緑谷に、爆豪の心は分からない。だが、これではまるで爆豪が緑谷に対して何か負い目を持っているようではないか。

 

「がふっ!?」

「……俺は、ずっとてめェのことが嫌いだった」

 

 顔面に爆破を食らわせ、緑谷を引き剥がす。ゆっくりとした動作で立ち上がると、爆豪はぽつぽつと語り始めた。

 

「昔から、ずっと!無個性のくせに俺の前にでしゃばって!何の躊躇いもなく人助けができるてめェが嫌いだったよ!何で俺を助けられる!?俺はてめェのことをずっと遠ざけてたんだぞ!なのにいつもいつも、性懲りもなくヒーローの真似事しやがって!心の底ではヒーローになんかなれっこないって!無個性にヒーローなんか務まらないってずっと思ってたんじゃなかったのか!?」

「かっちゃん……」

「今までずっと、俺が一番だったんだ!てめェは俺の下だっただろうが!何でいきなり個性を出してんだよ!これからもずっと俺は一番で!オールマイトを超えるまで、誰にも負けるはずなんてなかったんだ!なのにてめェは俺と同じ土俵に立って!雄英ではてめェにも鳴神にも轟にも八百万にも虚仮にされた!今日来たばかりのポッと出にも並ばれてB組のカスにも出し抜かれて!てめェから始まって俺の人生設計はもうめちゃめちゃだよ!」

 

『あー、こりゃミュートしとこうかな』

『体育祭は喧嘩の場じゃねえんだぞ……』

 

 心情を吐露する爆豪。過激な叫びの数々は、プレゼント・マイクもミュートして聞こえなくすることを選択する程。そんなことも戦う2人が気にすることはなく、爆豪は心の底に溜まったものを吐き出し続けた。やがて、息を切らして肩を上下する。

 

「僕はね、かっちゃん。君の強さにずっと、憧れてきたんだいつも自信に満ちていた君の背中は、僕はとてもかっこいいと思ってた」

「俺は、誰よりも強かった。誰よりも優秀だった。お前は一番弱くて、凄くなくて。だからお前が俺を助けようとするのが気に入らなかった。誰であろうと助けるために動けるお前のことを、怖いと思っていた」

 

 2人の顔は、憑き物が落ちたかのようで。

 

「もう、君に憧れるのはやめる」

「もう、てめェを怖がるのはやめだ」

 

 個性が、躍動する。

 

「一番になるために!君に「てめェに勝つ!」

 

 両者の意地が激突する。長年奇妙な関係でい続けた幼なじみであり、今は互いの夢のために乗り越えるべき相手。ライバルとして、鎬を削る。

 

「何だ、なんか言い合ってると思ったら!」

「いきなり続きを始めたな」

 

「腹に溜まった鬱憤を吐き出して、楽になったんでしょう。ここからが本当の勝負ですね」

 

 最早、試合とは名ばかりの殴り合い。駆け引きも何もあったものではない。殴って、蹴って、爆破して。高校生の……それもヒーローを志すような者がやっていい戦いではなかった。

 

「いい加減倒れやがれ!」

「そっちがね!」

「デクはデクらしく、やられてりゃあいいんだよ!てめェは這い蹲ってる姿がお似合いだ!」

「そう言うかっちゃんこそ、最近落ち込んでる姿がお似合いだったよ!」

「んだとォ!?」

「事実じゃないか!」

 

『何だよこりゃ、ガキの喧嘩じゃねえか!』

『観客のいる中で何やったんだか……』

 

「止めなくていいのか?」

「先生なんか震えてるぞ?」

 

「男の子の青春って、こんな感じなんでしょうか」

 

 売り言葉に買い言葉。どちらかが相手を口汚く罵れば、応じて同じように罵声を返す。一緒に拳と蹴りをセットで添えて。

 口元が切れ、青痣が広がり、身体中が腫れ上がっていく。決着が近いことを表すかのように、動きが段々と鈍くなってきている。

 

 緑谷は爆破で上着が粉々になり、爆豪は顔面が歪んだ苺のようになっていた。それでも尚倒れないのは、「コイツに勝ちたい」という意地が身体を突き動かしているからだろう。

 

「デトロイト……スマッシュ!」

徹甲弾(A・Pショット)!」

 

 渾身の右ストレートと、一点に集中させた爆撃が激突する。その結果、緑谷の腕が弾かれて大きな隙を晒した。爆豪はそれを見逃さず、頭を抑えつけて拘束する。馬乗りになって胴体も抑え、片手で細かい爆破を繰り返して脅迫するのも忘れない。

 

「がっ……!はあっ……!」

「俺の……勝ちだ!」

 

「そこまで!爆豪君の勝ち!」

 

「お疲れ様でした。いい勝負でしたよ」

 

 勝利宣言と同時に、ミッドナイトによる試合終了のコールが為された。激しい喧嘩が終わって安心したのか、静まり返る会場で葵の拍手の音だけが小さく響いていた。

 

「負けちゃった、かあ……」

「おい、デク」

「何だい?かっちゃん」

「これで終わったわけじゃねえからな。次も、そのまた次も、勝つのは俺だ」

 

 ニヤリと笑う爆豪。その表情にもう、試合前のような緑谷への忌避は感じられない。同様に、倒れたまま爆豪を見上げる緑谷の目にも彼への恐れや嫌悪はなくなっていた。

 まだまだ、蟠りが完全になくなった訳ではない。それでも、少しは健全な関係に戻れただろう。共に同じ頂を目指すライバルとして。

 

「……いいや。次は僕が勝つよ」

「言ってろ」

 

 

 第一試合 WINNER、爆豪勝己。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。