風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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最終種目:二回戦(2)

「お疲れ様。どっちも酷い有様だね」

「バカにしに来たなら帰れ」

「しかし何も言い返せない」

 

 試合後、風華はリカバリーガールの元へと運ばれた2人の見舞いに来た。治癒されたおかげで真っ黒焦げになっていた緑谷も、潰れた苺になっていた爆豪も一応見てくれは改善している。しかし完治はどちらもしていないため、ベッドに入れられていた。

 爆豪は試合後、直接生徒用シートに戻ろうとしたそうだが、救護ロボに強制的に連れてこられたらしい。試合後で個性も使えない程消耗していたために抗えなかったそうだ。

 

「2人とも、いい顔してる。仲が悪いって聞いてるのが嘘みたいだね」

「まぁ……あれだけ好き放題言えばね」

「仲良いように見えんのか?コレが?」

 

 試合ということも忘れて、本音を出し合い喧嘩したからか。それまで2人の間にあった険悪な雰囲気はどこにもなくなっていた。教室内の不仲が少しだけとはいえ改善したことに、風華は安心したように微笑んだ。

 

「ごめんね鳴神さん。全部拳に乗せちゃえっていうアドバイス、実践し切れなかったや。それに決勝で会おうって約束したのも守れなかった」

「いいよ、気にしなくて。その分勝己に頑張ってもらうからさ」

「勝手に決めんな」

「それじゃあわたしは行くから。2人ともちゃんと試合見て休むんだよ」

 

 救護室を後にして、自分の控室を目指す風華。その道のりで、意外な人物に出会った。

 

「おや、こんな所で会うとは」

「……エンデヴァー?」

 

 日本のNo.2、「フレイムヒーロー」エンデヴァー。轟の父親であり、先程悪評を聞かされたばかりの人物と遭遇してしまった。

 警戒し身構える風華とは裏腹に、エンデヴァーは気さくに彼女に話しかける。しかし、その目は少しも笑っていない。何処かここではない遠い何かを見据える眼が、風華には酷く不愉快に感じられた。

 

「君の個性、凄まじいな。空気と電気を自在に操り使いこなす。高校生どころか、プロでもここまで強力な個性を自在に操れる者はそう多くない」

「……ありがとう、ございます」

「君の個性は、二つの個性の複合という点でウチの焦凍にそっくりだ」

「……それが、何か」

「第三試合、君との戦いは焦凍の力を周りにアピールする良い機会となる。くれぐれも第一試合のような、無様な試合はしないように頼むよ」

 

 エンデヴァーは言う。轟焦凍には最高傑作としてオールマイトを超える義務があると。そのためにも風華に踏み台になってほしいと。それだけのために彼は、わざわざ風華を探していたのだ。

 なるほど、こいつはクソ親父だ。風華は昼休みに轟から聞いていたことが事実であると痛感した。

 

 だが、それはそれとして。

 

「無様な試合なんてしませんよ。わたしが……この体育祭で、優勝するんですから。それに……」

「それに?」

「焦凍には、焦凍の人生が有る」

 

 返事など、聞かない。風華も言いたいことだけを言って、エンデヴァーからそそくさと距離を離していった。

 

 

 二回戦第二試合 常闇踏陰VS切島鋭児郎

 

 

『さあ第二試合は、ヒーロー科常闇踏陰VS同じくヒーロー科切島鋭児郎!黒き闇の使徒か、鋼鉄の化身か!軍配はどちらに上がるのか!?』

『数に勝る常闇が一応有利だな』

 

「常闇!恨みっこなしだぜ!」

「当然!全霊で戦うのみ!」

 

「立甲さん!どっちが勝つと思う!?」

「お、私も聞きたい!B組目線の分析!」

「うーん、難しいところですね。本当なら踏陰君が勝つと言いたいんですけど……彼は個性の使い方が勿体ないんですよね。その分上手く立ち回ることができたなら、鋭児郎君にも十分勝機があると思っていますよ」

「勿体無い?」

 

 葵曰く、常闇は『個性』の使い方に無駄があるという。せっかく自分とはほぼ切り離して動かせる第二の自分がいるのに、そちらに戦闘をほぼ任せ切りにして『数の優位を取りやすい』というアドバンテージを放棄してしまっているのだ。

 黒影は確かに強力だし、一回戦のようにそれ単体でも多くの手札を抱える八百万を一蹴できる実力がある。しかし、それにかまけているのかそれとも制御が難しいのか。黒影が動いている間、常闇自身は殆ど棒立ちであった。黒影が自由に動ける中距離の間合いなら勝ち目は無いだろうが、近距離まで寄ることができたなら十分勝機は有るだろうという見解であった。

 

「それじゃあ第二試合……始め!」

「おっしゃああぁぁぁ!」

「ゆけっ、黒影!」

 

 全身を硬化させ、突撃する切島。それを常闇の黒影が迎え撃つ。懐に潜られたらほぼ負けということを理解している常闇は、常に切島から距離を取るように立ち回る。

 対する切島は、実体が薄く触り辛い黒影を相手に苦戦を強いられていた。相手からは普通に触れるのに、自分から触ろうとすると擦り抜けてしまう。その上力も強く、硬化による防御力の上昇がなければパンチの一発でも意識を刈り取られているだろう。八百万とは違い男子ということもあって、常闇も容赦がない。防御力を維持しつつ、何とか黒影の突破を試みる。

 

 お互い、一瞬でも集中力を途切れさせてしまった方が負けると分かっている。その一瞬を掴むために神経を研ぎ澄ませていった。

 

「……もう始まっちゃってるか。どうなってる?」

「おかえりなさい、遅かったですね。黒影ちゃんと鋭児郎君が、我慢比べをしてるところですよ」

「ちょっといろいろあってね……踏陰め、せっかく自分はフリーなんだから黒影のサポートとかやればいいのに」

 

 エンデヴァーとの問答を終えてシートに戻ってきた風華は、隣の葵から簡潔な説明を受ける。常闇ではなく黒影が切島と我慢比べをしているというのを聞いて、「なぜ個性の方で呼んだのか」などではなく「やっぱりね」という感想を漏らした。

 常闇の強みは、今回のようなシチュエーションで強制的にニ対一の状況を作れることである。なのに戦闘は黒影に任せきりで、数の有利を彼は生かし切れていない。ちょっとしたダメ出しが出るのもそれに対して「なるほど」と返事が来るのも、ある意味当たり前のことであった。

 

「おうらぁ!」

「くっ……黒影、背後に回れ!」

 

 実体のない黒影の腕を振り払い、切島は決して自分を掴ませない。時に殴られ吹き飛ばされながらも着実に、常闇との距離を詰めていった。

 指示によって背後に回る黒影。その僅かな間に切島は常闇目掛けて一目散にダッシュし、一気に接近していく。そうはさせまいと腕を伸ばした黒影をヘッドバットで退け、動揺した常闇に全力のタックルをぶちかました。

 

「おお、惜しい!」

「威力が足りなかったね。でも、もう終わりだ」

 

「悪いな常闇!これで……終わりだあ!」

「ごふっ……!」

 

 白線ギリギリで踏みとどまった常闇に、間髪入れずに膝蹴りを叩き込む。右脇腹にクリーンヒットしたその一撃で、常闇は腹の中身を散らしながら場外へと転がっていった。ミッドナイトの「常闇君、場外!切島君の勝ち!」という宣言を聞いて、切島は大きくガッツポーズをした。

 

『決着ぅ!ベスト4の2人目の座は、切島鋭児郎が勝ち取ったあ!』

『少ない隙を、最小の動きで活かし切った。黒影の攻撃に耐え続けたタフネスの賜物だな』

 

「いい勝負だったね」

「どっちが勝ってもおかしくありませんでした!」

 

 お腹を抱えて蹲る常闇に、切島は立ち上がれと手を差し伸べる。その手を掴んで立ち上がった彼に肩を貸し、そのまま2人はリカバリーガールの元へと向かった。その光景を見て、多くの観客が惜しみない拍手を送り両者の健闘を讃えたのだった。

 

「さて……次はわたしだ」

「応援してますよ。頑張ってきてくださいな」

 

 

 第二試合 WINNER、切島鋭児郎。

 

 

『さあさあ始まるぜ第三試合!ここで優勝候補同士の激突だ!ヒーロー科鳴神風華と、同じくヒーロー科轟焦凍の登場だ!』

 

「悪いが……手加減はできねえぞ」

「へえ……じゃあ、左の力も使うのかい?」

「……」

「それとこれとは別って訳だ。……舐めるなよ」

 

「何だ、鳴神のやつ……怒ってる?」

「いつもよりバチバチしてんな」

「焦凍君と何かあったんでしょうか?」

 

 

 二回戦第三試合 鳴神風華VS轟焦凍

 

 

 ミッドナイトが試合開始を宣言する。同時に轟が個性により多量の氷を創り出し、風華に目掛けてぶつける。それを『吹き荒ぶ風(チープストーム)』で迎え撃つ。暴風が氷を砕いて一面にばら撒き、風圧で轟を吹き飛ばした。自身の背後に氷壁を創って持ち堪えるも、その表情は厳しい。

 間髪入れず、再び『吹き荒ぶ風(チープストーム)』を放つ。今度は前面に氷壁を創ってガードするが、無意味だと言わんばかりに風の弾丸は氷壁を粉砕した。

 

「くっ……なんて風圧だ!」

「まだまだ……こんなものじゃないよ」

 

 再三放たれる『吹き荒ぶ風(チープストーム)』。前面と背面、さらに足元も氷結させて固定しなければ飛ばされてしまう風圧。戦法を殆ど完封されていることに歯噛みする轟だが、対策ができない以上は同じようにやるしかない。氷を生み出してぶつけるしかなかった。

 しかし、どんなに大きく、分厚い氷を創っても風の弾丸が砕いてしまう。このままでは制限がきてしまうと、轟の顔に焦りが見え始める。

 

『氷が生えれば、風が刈り取る!カケラがキラキラ光って幻想的な光景ができてるぜえ!』

『今のところは鳴神が有利だな』

 

「轟君……何だか動きが鈍くなってる?」

「あんなバカスカ氷出してんだ、身体冷えんだろ」

 

 個性は身体機能。爆豪の個性は掌から爆発性の汗を出すというものだが、やり過ぎれば汗腺を傷付けるし脱水症の危険がある。それと同様に、轟の個性も使い過ぎれば身体が冷えて身体能力が下がるという危険があった。事実、氷結攻撃の繰り返しで彼の身体には霜が降りている。

 

「焦凍、動きが鈍くなってきてるね」

「それがどうしたっ……!?」

「氷の個性の弊害でしょ?身体に霜が降りて、白くなってるよ。でも、それって……熱の個性を使えば解決するんじゃない?」

「何が言いたい!」

 

『まーた何か喋ってんな。今度も喧嘩かあ?』

『体育祭を何だと思ってんだ、こいつら……』

 

「みんな、一位を目指して本気で戦ってる。もう敗退した子も、勝ち進んだ2人も、わたしだってそうだ。この場で本気を出していないのは焦凍だけなんだよ。わたしは、本気でかかってきて欲しいよ」

「うるせえっ……!」

「それに、昼休みに聞いた話は……エンデヴァーを全否定する、そのために氷の力だけでNo.1を目指すって話。アレを本気で言ってるのなら、焦凍を勝ち進ませる訳にはいかない。ヒーローが憎悪で動くなんて、あってはならないからね」

「うるせえって言ってるだろ!?お前だって風ばっかりで、電気の力を使ってないじゃねえか!それと俺の何が違うってんだ!?」

 

 全然違う。風華が電気の力を使わないのは、せっかく上鳴に増やしてもらった電力を無駄遣いしないためである。

 風華は0から電力を作り出せるが、一度に多くの発電はできない。そのため、『纒雷』や『雷上動』などの自家発電だけで十分に電力が賄える技以外を使おうと思えば、相応に時間を掛けるか外部からの充電に頼る必要があるのだ。轟が氷結攻撃しかしてこないと分かっている以上、無駄に電力を消費する必要はないのである。

 

 温存と縛りでは、やっていること自体は同じでも大きな違いがあるのである。

 

「全然違うよ。君の舐めプと、わたしの電力温存が同じなはずがないだろ」

「舐めプだとっ……!?」

「そうだよ。今だって互角なんだ、わたしが電力を解放すれば……」

「なっ……はっや……!?」

 

 風華が『纒雷』の身体強化を利用し、一気に轟との距離を詰める。轟は目の前に現れた風華を退けようと右手で触ろうとするが、間に合うはずもなく鳩尾、首、顎と連撃を叩き込まれ撃沈した。風華は倒れた轟の首元を押さえつけながら馬乗りになり、苦しそうに咳き込む彼に呟くように告げる。

 

「思い知ったでしょ?瞬殺だよ。君が熱の力を使っていれば、わたしは炎の回避を優先してたからこんなことにはならなかったかもね」

「黙れ……!俺は、親父を否定しなきゃならねえんだ!こんな忌まわしい力なんか無い方が良かったって、証明しなきゃならねえんだ!」

「よっと……それも、君の個性だろう」

 

 右半身から出した氷柱で、自身を拘束する風華を貫こうとした轟。しかし、身を翻して風華はそれを回避した。自由の身になった轟は首元を押さえながら立ち上がり、風華の言に反論する。いや、論にもなっていないただの叫びである。

 風華は言う。その「元」がどんなに忌まわしい者であろうと、その力は他ならぬ轟自身のものであるのだと。それを出し切りもせずに、オールマイトを超えてエンデヴァーを完全否定するだなんてふざけたことを言うなと。

 

「……あんな氷結くらい、お前ならどうとでも対応できただろ。何でわざわざ避けたんだよ」

「本気でなければ、意味がないんだよ。本気の焦凍と戦って、その上で勝たなければ何の意味もないんだ。エンデヴァーの方ばかり見て、他を省みようとしない君に勝っても仕方ないんだよ」

「……それでもっ、俺は「焦凍」

「わたしの、眼を見てくれよ。今、君が戦うべきはわたしだ。ちゃんとわたしを見ろ!」

 

 ……ははっ。

 

 そんな声が、聞こえた気がした。

 

「何で、こんなにするんだよ」

「言ったでしょ。オールマイトのようなヒーローになりたいって。わたしの理想像……命を守り、背中を支え、人々に安心を齎せる者。わたしは……君のことだって、支えたいんだよ」

「……ははっ、あはははは!」

 

 轟音と爆炎が、周りに散る氷塊を散らした。

 

『何だこりゃあ!?爆発が起きたぞお!?』

『散々冷やされていた空気が、いきなり高熱に当てられたことで膨張したんだ』

 

「左……戦闘では使わないと言っていたのに!」

「遂に、縛りを破った……!」

 

 轟焦凍、個性『半冷半燃』。右半身で低温を、左半身で高温を操ることができる。シンプル故に応用の効く二つの個性が掛け合わさった、最強クラスのハイブリッド。今までずっと縛り続けてきた左半身の力を、彼は遂に解放した。

 

「敵に塩送るような真似しやがって……どっちがふざけてんだって話だ。勝ちたいんじゃなかったのかよ」

「……それとこれとは、話が別さ」

 

 いつの間にか、忘れていたことを思い出した。

 

 幼い頃に母と見た、オールマイトの勇姿。液晶越しでもひしひしと伝わる彼の強さに、幼い頃の自分は憧れたのだ。だから自分は、ヒーローになりたいと思ったのだ。No.2の父から母を守れるような強いヒーローに。

 憎しみに……復讐に囚われている間に、こんな大事なことを忘れてしまっていた。

 

 ──なりたい自分に、なっていいんだよ。

 

「俺だって……ヒーローに……!」

「やっと、いい顔したじゃないか」

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