「焦凍ォォォォ!!ようやく己を受け入れたか!そうだいいぞここからがお前の真の始まり!俺の血を継ぎ俺を超えて、俺の野望をお前が果たすのだ!」
『何だエンデヴァー激励か?親バカ?』
『そんなもんか?』
遂につまらないエゴを捨て、左の力を解放した息子を最大の賞賛を以って祝うエンデヴァー。持てる力の全てが解き放たれて、『轟焦凍』がエンデヴァー……もとい『轟炎司』の完全上位互換となったことへの喜びを余すことなくぶちまける。
その勢いで彼を卒業後は絶対に自分の事務所に来るんだと勧誘するが、風華と相対する轟は彼のことなど意識もしていない。完全に無視されているともなれば、流石に黙るしかなかった。
「何だ、焦凍のやつ……笑っているのか?」
〜
『焦凍、見るな。お前と兄さん達では、生きるべき世界が違うのだ』
『お母さん、私もうダメなの……!焦凍の……あの子の左側が、時折とても憎く見えてしまうの!』
『おかあさんは?』
『お前に危害を加えたので入院させた。これからが大事な時期だというのに、まったく……』
『ふざけるな……お前のせいじゃないか……!』
思い返される、過去の記憶。
『個性というのは親から子へ……そして子から孫へと受け継がれていきます。しかし大事なのはそういった繋がりではなく、個性とは文字通り自分のものであるのだ!自分の力であり血肉なのだと認識することです!そう意味もこの言葉には篭っているんですよ。……私が来た!ってね』
『オールマイト、カッコいいなあ!ぼくもあんな風になれたら、おかあさんを守れるのかな……』
『ふふ……ありがとう、焦凍。でもね、そんなことを気にする必要はないのよ』
──いいのよ、お前は。エンデヴァーに……血に囚われることなんてない。
──なりたい自分に、なっていいんだよ。
「……凄い熱気だ。いい顔するじゃないか」
「何笑ってんだよ。どうなっても知らねえぞ」
冷やされ続けていた空気が大きな熱気を受けたことで膨張し、その反動で大爆発を起こす。風華自体はノーダメージだったが、攻撃ように保持していた氷塊は全て砕かれてしまっていた。
互いに最大攻撃を用意する。風華は大量の空気を押し固めて放つ『
対する轟はといえば。両掌を合わせて真っ直ぐに風華へと向けていた。右の冷気と左の熱気が絡まり織り重なって、莫大なエネルギーを内包した一つの塊となっていく。
イメージするのは、かつて見た映画。エンデヴァーに課された虐待じみた特訓の合間を縫って、母が見せてくれた昔の特撮。主人公が戦っていた怪物が自分と似たような力を持っていたから、印象に残っていたのである。
これは、その怪物が使っていた技。冷気と熱気という相反する二つの力を合わせることで、その反発で莫大なエネルギーを生み出す。こうして生み出された莫大なエネルギーは、向かうもの全てを貫く強靭な槍と化すのだ。
「最強の一発で、決着を着ける。風で吹き飛ばして終わりよりはよっぽど面白いんじゃない?」
「……そうだな。ちゃんと生きてろよ」
「何というエネルギーの奔流だ……!」
「空気がめちゃくちゃ揺れてるのが、こっからでも分かるよ……!」
「あんなん人に向けるもんじゃねえって!」
「さて……どれ程のものか、見せてもらいますよ」
「いくよ……『
「……超温差光線」
二つの膨大な力が激突する。万物を貫く氷炎の槍が、雷の速さを得た暴風をくぐり抜けて風華の頬を掠める。同時に暴風は轟に直撃し、背後に創り出された分厚い氷壁ごと彼を観客席まで吹き飛ばした。客が大事を取って離れていたことで、空席となっていた座椅子に頭をぶつけ、轟は意識を失った。
「轟君、場外!鳴神さんの勝ち!」
「……対戦、ありがとうございました」
「終わった、か……」
「いやあ、凄まじい威力でしたねぇ……見てくださいよあれ、綺麗に穴が開いてますよ」
「轟君が飛ばされた所、粉々になっとるわ……」
『ベスト4も3人目までが決まったぜ!フィールドを修復するまで第四試合はお預けだな!』
『尾白と飯田はちゃんと用意しとけよ』
第三試合 WINNER、鳴神風華。
審判を務めたミッドナイトに一礼し、風華はリカバリーガールの元へと向かう。風華がこの試合で受けたダメージといえば、最後の超温差光線が掠った時の一つのみ。それも皮膚が少し裂けた程度で、流血すらしていない無傷のようなものだ。
「……当たってたら、死んでたね」
裂けた右の頬を触りながら、さっきの試合を思い返す。最後に撃たれた超温差光線とかいう技。アレは自分の『
外れたからいいものの、身体に当たっていたなら確実に即死するレベルの一撃であった。加減くらいしてくれ、と苦笑する。それでも轟が自分に課した枷を破れたことは、素直に喜んでいた。
「失礼します。焦凍、いますか?」
「ああ、アンタかい。そこで寝てるよ、用があるならそこの座椅子使いな」
「ありがとうございます」
「……鳴神か。俺は、負けたんだな」
ベッドに寝かされていた轟は、既に意識を取り戻していた。その薄い表情からはエンデヴァーへの憎しみや、風華に負けた悔しさなどは感じ取れなかったが、どうやら試合前のような不安定な状態にはなっていないようであった。
壁際から座椅子を一つ取り、轟が横になっているベッドの隣に寄せる。落下防止用のベッド柵に膝をつきながら、風華は轟と会話をする。
「左の力、使ってみてどうだったかい?」
「……思ってたよりも、悪くはなかった。けどやっぱコントロールが甘えな。あの肝心なところで外しちまった」
「むしろ外れて良かったよ。アレが当たってたらわたしはお陀仏だったからね。人に撃つ技はちゃんとそれ相応の威力にしなくちゃ」
「……悪かった」
試合の内容やその反省点などについて話を膨らませていると、扉を勢いよく開けてエンデヴァーが入ってきた。ベッドに寝ている轟を見つけるや否や、風華のことなど眼中にないとでもいうように彼の元へと駆けつけた。
「エンデヴァー!ここでは静かに……!」
「焦凍!よくやったぞ、コントロールはまだまだ危なっかしいが、これでお前は晴れて俺の完全上位互換となった!卒業後は俺の元へ来い!No.1への覇道を歩ませてやる!ようやく子どもじみた駄々を捨ててくれたな!」
「……そう簡単に、捨てられるわけねえだろ」
「!?」
「何年お前を憎んできたと思ってんだ。そう簡単に覆せる訳がねえだろうが。でも……あの時だけは。あの一瞬だけは、お前を忘れられた」
エンデヴァーの眼を見ず、轟は語る。風華は邪魔をしないように静かに2人の話を聞いていた。
「それが良いことなのか、悪いことなのか、正しいことなのか……少し考える。治癒してもらった後で身体がダルいんだ、そっとしててくれ」
「……そうか。安静にするんだぞ」
「……案外、すんなり引き下がったね」
「流石に、自分の子どもだからね。それなりに気は遣うんだろうさ」
エンデヴァーが去った病室で、テレビから第四試合の始まりを告げるコールが流れる。見ると、次の試合を戦う2人がフィールドに揃い踏みしていた。
「それじゃあ、わたしは戻るよ。安静にしてね」
「ああ、わざわざ見舞いに来てくれてすまねえな」
二回戦第四試合 尾白猿夫VS飯田天哉
『真面目な2人の対決だあ!ベスト4最後に滑り込むのはいったいどっちだあ!?』
『スピードで勝る飯田が有利ではあるが……上鳴VS芦戸、常闇VS切島の時のように、相性差を覆して勝つことも有り得る。それに基礎能力に優れる者同士……勝負がどちらに転ぶかは分からんな』
「それじゃあ始めるわよ!用意はいい!?」
「はい!」
「準備万端です!」
「あれ?鳴神のやつ戻ってきてねえのか?」
「救護所じゃないかな。ちょうどさっきすれ違ったし……」
「ほう……戦いから芽生えるもの……」
「ないと思いますけどねえ」
構えを取り、集中する2人。尾白は尻尾を地面に付けて踏ん張りが効くようにして、飯田はエンジンを蒸していつでも最高のスタートを切れるように用意する。
「天哉君は恐らく、あのレシプロバーストとかいう技を使うでしょう。普通の格闘戦では、武術に長ける猿夫君に分が有るでしょうからね」
「勝負は飯田次第って訳か」
「どちらにせよ、勝負は一瞬……!」
「始め!」
「いくぞ尾白君!『レシプロバースト』!」
「っ……!来い、飯田!」
必殺の超加速を発動し、その推進力を利用した跳び蹴りを放つ飯田。腹部に狙いをつけた一撃を尾白は食いつつも、ガッチリと掴んで離さない。推力に押されてどんどん退がっていくが、尻尾をつっかえ棒代わりにして何とか持ち堪える。
押し込む飯田。堪える尾白。僅か数秒にも満たない攻防の末、軍配が上がったのは──
「尾白君、場外!飯田君の勝ち!」
飯田であった。
「くっそ……ダメだったか!」
「いや、危なかった。足を完全に掴まれていた以上、押し切れなければ逆に負けていたよ」
「おお!飯田が勝ったぞ!」
「ベスト4がこれで揃ったな!」
「爆豪!次の試合は負けねえぜ!」
「ブッ殺す」
「うーん……やっぱり、こうして唯見ているだけというのは悔しいですね」
「来年が有るさ。まぁ、今年の優勝はわたしが貰うけどね」
「そうしてくださいな」
互いの健闘を讃え、固い握手を交わす2人。これこそまさに青春の1ページだと叫ぶプレゼント・マイクに同調し、観客は2人に惜しみなく盛大な拍手を送った。
『これでベスト4が出揃ったぜ!何とその内訳は全員A組だとお!?しっかり期待に応えてんなコンチクショー!』
『お前のテンションどうなってんだ?』
また少しの休憩を挟んで、準決勝が始まる。第一試合を戦う2人は、既に勝利に向けてイメージトレーニングを行なっていた。優勝を目指すための用意はできているようである。
優勝者が決まるまで、あと三試合。