準決勝第一試合 爆豪勝己VS切島鋭児郎
『爆豪のカウンターが決まったああぁぁぁ!しかし切島ビクともしねえ!硬化凄えや!』
「ッチ、流石に硬えだけじゃねえな」
「効かねえっての!爆発さん太郎が!」
「切島ァ!顎狙えアゴだァ!」
「感化されてら」
爆豪と切島の試合は、激しい殴り合い叩き合いの様相を呈していた。切島の個性によって強化された拳を受ける訳にはいかない爆豪は、回避と反撃に徹することで何とか立ち回れている。愚直にパンチを当てにくるだけの切島と比べれば、高い技術があることが窺えた。
しかし、反撃したところで切島の硬度の上がった肉体を貫ける火力を爆豪は出せない。緑谷戦で負ったダメージが、今も尚後を引いていた。治癒で消費した体力が戻り切っていないのだ。
少しずつ、丁寧に攻撃を積み重ねていく。今は大した効果を見込めなくとも、どこかで必ず芽が出るように。次の舞台に立つため、爆豪は更に集中力を深めていった。
「どっちが勝つかな?」
「今のところ切島君が優勢のようだが……互角にも見えるな。今の段階では俺には分からん」
「攻撃多く当ててるのは爆豪だけど、切島には全然効いてないしね」
「鳴神はどっち予想?」
勝敗予想で盛り上がるA組。みんなが自分の考察を語っていく中で、横で聞いていただけの風華にも話が振られる。
風華の予想は「爆豪の勝利」であった。二回戦を戦った時の消耗がまだ癒え切ってないとはいえ、それでも尚動き続け、考え続けることができるだけのタフネスが彼には有る。実際、今でも切島の猛攻を上手く捌いて的確に反撃ができている。
「しかし、流石に爆豪君の方が先に力尽きるのではないか?あれだけ無駄撃ちをしているのでは」
「無駄なんかじゃないさ。爆発の威力は、鋭児郎もしっかり身体を硬化させてないと防げない。個性も身体機能……常に使い続けるには体力が要る」
「つまり、爆豪にとっちゃ持久戦って訳だ」
「そうだね。鋭児郎は何処を攻撃されるか分からない以上、全身を硬化させて対応するしかない。けどそんなことをしてたら、必ず何処かが綻ぶ。そこを突けるまで粘れたなら、勝己の勝ち。それ以外なら鋭児郎の勝ちだね」
こうして話をしている間にも、2人の攻防は続いていた。爆豪は手先に震えが出てきて、動きも鈍くなっている。まだガードすることで対応できてはいるが、確実に消耗していた。
とは言え、切島もそれなりに消耗している。繰り出すパンチには腰が乗らなくなり、テレフォンパンチ気味になっていた。何度か直撃させることには成功しているが、爆豪を倒せる程のダメージにはなっていない。全身をガチガチに固めながら動き回るのには、集中力が要るということなのだろう。
「っはあ……!いい加減観念しやがれ!」
「てめェこそ、パンチが弱っちいんだよ!」
「……なあ、鳴神君。少しいいか?」
「天哉?」
試合が佳境を迎える中で、飯田が神妙な顔をして風華に話しかけてきた。随分と真面目そうな雰囲気に、いったい何を話すつもりかと問いかける。
「俺は、兄がヒーローをやっている。「ターボヒーロー」インゲニウムというのだが、知らないか?」
「知らない」
「そうか……兄さんは俺の憧れなんだ。同じ個性を持ち、俺の何倍も強い。兄さんのような凄いヒーローになるために、俺は雄英を目指したんだ。確か、この話をした時君はいなかったな」
「そうだね。初めて聞いたもの」
インゲニウムの弟として、無様な試合をする訳にはいかない。だからお互い全力を尽くして戦おうというのが飯田の話であった。
ベスト4までは、辿り着くことができた。どうせなら、No.1になってから胸を張って兄に成果を報告したい。だから第二試合、必ず君には勝たせてもらうと。飯田は至極真面目な面持ちで、自身の勝利を宣言した。
見てくれている兄弟のためにも、絶対に優勝を掴みたい。妹がいる風華には、その気持ちはよく分かっていた。
飯田もきっと、風華が雷羽に「見にいけないけど応援してるからね、お姉ちゃん!」と言われたように兄から激励を受けていたのだろう。その気持ちを無碍にすることは、その気持ちがよく分かっていた風華にはできなかった。
全力で戦うというのなら、それに応えよう。
「お互い、負けてられないね」
「そうだな。俺は全力を尽くさせてもらうよ」
「わたしも、全力で戦うよ」
『おーっとお!ここで遂に切島がよろけたあ!』
「おふたりさん、戦局が動きましたよ!」
「おおっ、切島君!」
「もう準備した方がいいね」
「がっ……!?」
「ようやく隙見せたな!死ねえ!」
切島が顔面を狙って放った渾身の右ストレートに対して、クロスカウンターの要領で反撃をしてみせた爆豪。ここまでロクなダメージにならなかった爆破が、遂に切島の硬い装甲を貫いて彼に苦悶の表情をさせた。
全身にくまなく気を回していれば、いずれは必ず何処かが綻ぶ。そのいずれがきてしまった。
よろける切島に対して、爆豪は間髪入れず爆破の波状攻撃をぶつける。一度ダメージをいれてしまえば、後はリカバリーさせる暇もなく攻撃してしまえばいい。息を吐く暇もない絨毯爆撃で、切島を場外まできっちりと押し切ってみせた。
「……っら、オラァ!死ねェ!」
「がはっ……!」
「切島君、場外!爆豪君の勝ちよ!」
『決まったああぁぁぁ!最初に決勝の舞台へ駒を進めたのはA組の爆豪勝己だあ!』
『隙を見逃さず、しっかりと押し切ったな』
「……先行って待ってるよ」
「ああ。いい試合にしよう」
「い、飯田君、鳴神さん!頑張ってきてね!」
第一試合 WINNER、爆豪勝己。
『準決勝第二試合だ!この試合の勝者が決勝に進み優勝争いの資格を得るぜ!ヒーロー科鳴神風華と、ヒーロー科飯田天哉!勝利の女神が微笑むのはどっちだ!?』
「微笑まなくたって、わたしが勝つさ」
「いいや、俺が勝つ!」
「それじゃあいくわよ!試合開始!」
準決勝第二試合 鳴神風華VS飯田天哉
合図と同時に、飯田がエンジンを起動した右足で渾身の中段蹴りを放つ。風華は『纒雷』を発動してそれをガード。しかしその反動で2歩程左へよろけさせられる。
体制を立て直すと、追撃のため近付く飯田の頭を掴んで宙返りのように背後へ回る。そのまま半回転して彼の右脇腹へ膝を突き刺した。手を掴んで回避を妨害することも忘れない。だが、飯田は直撃する前にエンジンを起動することで無理やり身を捩って回避した。
「ぐっ……危ないところだった!」
「今のは入ったと思ったのに。やるね」
掴んでいた左手も振り払われ、再び向き直る。少しの膠着状態の中、風華は飯田に勝つための作戦を考えていた。
風華の勝ち筋は、『纒雷』が使える内に拘束するなり気絶させるなりして、飯田を戦闘不能にまで追い込むこと。彼の速さは『
本当なら、纏う電力をそのまま使って攻撃することができたらいいのだが。今回、飯田が取っている戦法はヒットアンドアウェイ。普段はなるべく離れた所へ位置取り、攻撃の時だけエンジンの機動力で素早く近付いてくる。長く距離を取られている間は電気を伸ばしても大した威力は見込めず、近付いてこられた時はその速さに脳が追い付かない。単純な格闘術なら一歩勝っていると言えるのだが、流石に相性が悪過ぎるのだ。
二回戦では、温存するつもりだった電力を轟相手にかなり使ってしまった。そのせいで『纒雷』の維持時間が予定よりも短くなってしまっている。
自家発電だけでは、飯田のスピードに対応できるだけの出力は維持できない。その上、彼には奥の手『レシプロバースト』がある。故に、風華はさっさと決着を着ける必要があった。
……さっき掴んだ時、電気を流してればよかったな。反省しないと。
制限時間がくる前に、レシプロバーストを使わせることなく飯田を倒す。大変だが、決勝に上がるためにはやるしかなかった。
まずは牽制程度に『
「風か!だがこれくらいならば……問題ない!」
「まあ、そうなるか……」
『飯田、風の弾丸を突っ切って進む!』
数を重視して寄せ集めた程度の風では、飯田を吹き飛ばすどころか身じろぎすらさせられない。しかしそれで別に良かった。
「あふっ……」
「あっ……」
「眼鏡が……」
狙いは飯田本人ではなく、彼が掛けていた眼鏡であるのだから。
顔面に着弾した『
「吹き飛べ……『
「ぐはああぁぁぁっ!?」
「飯田君、場外!鳴神さんの勝ち!」
眼鏡を失くしたことで狼狽える飯田から離れ、その間に風力を左掌に掻き集める。気付かれても大丈夫なように、とにかく多く。そうして十分な風が集まったら、風華はそれをすぐに『
その規模は、フィールドの全てを包む程。絶対に逃しはしないという強い意志を感じられた。暴風に巻き上げられた飯田は何とか着地に成功するも、ミッドナイトの宣言を聞いて自身の敗北を知る。悔しさを隠そうともせずに地面を強く叩いた。
『決着ゥー!これで決勝を戦う2人の生徒は爆豪と鳴神に決定だあ!』
『眼鏡が勝負を分けたか。これを機にコンタクトに鞍替えするってのもアリかもな』
「眼鏡を奪って勝つとはなあ」
「視力には個人差がありますが……眼鏡が失くなるだけであそこまで狼狽えるあたり、天哉君は相当な近眼だったようですね」
「アイテムが邪魔になっちまったか」
「負けてしまったよ、鳴神君。やはり君は強かったな……俺ももっと精進せねば」
「天哉……それ、瓦礫だよ……?」
一通り悔しさを発散させて、立ち上がった飯田は風華に握手を求めて手を差し出した。もっとも、彼の手を差し出す先には風華はおらず、そこにあるのは『
第二試合 WINNER、鳴神風華。
〜
『こちら保須警察署!至急応援頼む!』
「どいつもこいつも……ヒーローなんか名乗りやがって……」
『インゲニウムがやられた!』
「てめぇらはヒーローなんかじゃねえ……本物のヒーローは彼だけだ……!」
『「ヒーロー殺し」が現れた!』
「俺を殺していいのは……オールマイトだけだ!」