「ふうちゃん!一緒に学校行きましょう!」
「いいけど……確か葵ってバイク通学にするんじゃなかったっけ?」
「後ろ乗せますよ!大丈夫ですよ、もう免許取って一年経ったので二人乗りもできますから!」
「まあ……そういうことなら、いいかな」
バス代が浮くし良いかなと、風華は葵のバイクに乗せてもらうことにする。投げ渡されたヘルメットを被り、葵に続いて後部座席に跨った。風華はバイクに乗るのは別に初めてではないが、運転するのがおっちょこちょいで有名な葵ということで、やはり心配になるのであった。
まあ、運転中にドジを起こされてはたまったものではないため、親によってしっかりと必要な技術については叩き込まれているのだが。
「それじゃあ行きます!ふうちゃん、落ちないようにしっかり掴まっててくださいよ!」
「そっちこそ、安全運転で頼むよ!」
ブォン!とエンジンが重たく音を鳴らし、鋼鉄の車体を発進させる。葵の愛機『ブルドラ号』は雄英に向けて走り出した。
ちなみに。二輪車の運転免許は、普通は16歳になってからしか取れない。しかし、特別な事情があれば申請することで、特例として免許証を発行してもらうことができるのだ。
葵はまだ誕生日が来ていないため、今は15歳。普通なら免許を取れる年齢ではない。では、どうやって彼女は免許を取ることができたのか。それには葵の個性『蒼龍』が関係している。
立甲葵、個性『蒼龍』。肉体を蒼い甲殻と3本の百足のような形状をした尻尾を持つ、約2mサイズの龍に変えるというもの。龍化する際は体格相応に体重も増える。
他の異形系の『個性』と比べても一線を画す程のエネルギーを、葵は普段身長150cm程しかない小さな身体に溜め込んでいる。龍化せずとも高い身体能力を得られるメリットこそあれど、それ以上に大きすぎるエネルギーのせいで常に身体が高い熱を持っているという問題を抱えているのだ。
熱が42℃以上になると、身体を構成する蛋白質が変性してしまい元には戻らなくなる。熱が45℃を超えれば、それが僅かな時間であっても死に至る危険性がある。そんな問題を解消するため、エネルギーを「安定して」「大量に」消費する機会を作る必要があったのである。
この問題に対して葵が出した答えが、自分のバイクを持つということであった。選んだ理由は、ただ単に「カッコいいじゃないですか!」というものであったが、乗り手のエネルギーを吸収して走る独自機構を備えた専用のバイクは、しっかりと葵の体温を下げるという役割を果たしてくれた。
効果があると認められたことで、国も特例による免許証発行をしてくれた。これにより、葵は公道でも人目や警察を気にせずバイクに乗ることができるようになったのだ。
龍化しなくても大量のエネルギーを消費できるこの専用機を葵は『ブルドラ号』と名付け、入手して以降研究所の職員や風華を後部座席に乗せて積極的に走らせていた。今はこうして、通学のために使われているのである。
「なーんか、ジロジロと見られてませんか?歩道の方から視線を感じてむず痒いのですが」
「わたし達のことを見てるんだと思うよ。体育祭が終わってから、まだそんなに経ってないしね」
信号待ちをしていて、二人は通りがかる通行人がこちらに視線を向けてくるのを感じていた。
理由はまあ、明白だろう。雄英高校の制服を着た女子生徒が、厳ついバイクで二人乗りをしているのが目立たない訳がない。それに、後ろに乗る風華は先日行われた雄英体育祭で優勝している。体育祭が終わってまだ2日しかたっていないのだから、ヘルメットから覗く金の三つ編みは、未だ多くの人々に覚えられていた。
「確かにそうですね。体育祭優勝したふうちゃんは一躍有名人になりましたものね」
「優勝効果か。ちょっと恥ずかしいね」
「一回戦で負けた僕への嫌味ですか?」
あれは勝てる試合で油断して負けたお前が悪いと受け流し、風華は道行く人々に視線を向ける。皆一様に期待や応援の眼差しを向けており、中には「体育祭凄かったよ!」とか、「これからもいろいろと頑張ってね!」と直接声をかける者もいた。
将来のヒーローとして、期待されている。その事実に2人は気を引き締めるのだった。
〜
「それじゃあまた後で!」
「また後で。居眠りとかしないようにね」
「僕を何だと思ってるんですか!?」
教室の違う葵とは別れ、風華は2日ぶりのA組の教室の扉を開けた。授業が始まるまでまだ20分程あるが、既に爆豪や八百万といった真面目な面子は揃っている。その中に飯田がいないことは、珍しいものであったが。
……お兄さんの件、引きずってないといいけど。
飯田は体育祭の日、ベスト4に入れたにも関わらず表彰式の前に早退することとなった。プロヒーローとして活動する兄が、敵によって重傷を負わされたらしい。
あの時の狼狽ぶりは相当なものであった。尊敬する兄がやられたとあれば、弟として心配するのは当然だろうから理解はできる。風華なら、雷羽が敵に襲われたと知ったなら確実に
「おはよう!みんな今日は早いな!」
「天哉……おはよう。あのさ……」
「分かっている。兄の件なら大丈夫だ。要らぬ心労をかけたようで済まなかったな」
「……なら、いいけどね」
席に着いてから10分程経ち、飯田は緑谷と共に勢いよく扉を開けて入室してきた。風華と話す彼はいつも通りの真面目な表情……のようではあったが何か、激情を隠しているようにも見えた。
本人が大丈夫だと言っているなら、風華が無理に踏み込むこともできない。彼を心配に思う気持ちは有るが、それは心の内に押し留めた。
予鈴が鳴るまで、教室の中は登校する時の話で持ちきりになる。みんな道行く人々から応援なり激励なり、さまざまな反応をされたそうだ。瀬呂なんかすれ違った子ども達に「ドンマイ!」コールをされたらしい。
「おはよう」
予鈴と共に現れた相澤先生の姿を見て、話に花を咲かせていた生徒達は一斉に自分の席に戻った。姿勢もきっちりと正し、「おはようございます!」と挨拶も忘れない。
「相澤先生、包帯取れたのね。よかったわ」
「婆さんの処置が大袈裟なんだよ。そんなことよりも今日のヒーロー基礎学はちょっと特別だぞ」
「特別授業……!?」
「まさか抜き打ちテストか!?」
特別という言葉に、上鳴が唾を飲む。ただでさえ法律などに関しては苦手だというのに、小テストは勘弁してほしいところであった。しかし、その心配は杞憂に終わる。
「コードネーム……ヒーローネームの考案だ」
「胸膨らむヤツきたああぁぁぁ!!」
「うるさ……」
「というのも、プロからのドラフト指名に関係してくるからだ。指名が本格化するのは、経験を積み即戦力と判断される二年、三年から……つまり、今回の指名は君たちのこれからへの興味に近い」
今回この指名を元に、所謂『職場体験』に全員行くこととなる。A組は一足先に経験することになってしまったが、プロの活動を実際に体験することでより実りのある訓練をしようということだ。
指名を受けている者はその中から。受けていない者も学校が用意した受け入れリストの中から行きたい体験先を選び、職場体験に行く。プロの現場に入る以上は、生徒であろうとも一人のヒーローとして扱われる。だからこそのヒーローネームという訳なのである。
「だいぶ白黒ついてんな!」
「爆豪と轟が2000越えで、鳴神は3000越えてんのか……めちゃめちゃ指名きてんな!」
「爆豪より轟の方が多いじゃん」
「緑谷と喧嘩してたもんなあ」
ドラフト指名は、決勝トーナメントで大きな活躍を見せた者に偏っていた。風華の元にも3000件以上の指名が来ているようだ。これら全てが自分に課せられたハードルである。しっかりと応えなければならないなと、風華は改めて気を引き締める。
「仮のモンではあるが、適当な名前は……」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!この時付けた名前が定着して、プロ名になってる人多いからね!」
「ミッドナイト!?」
「名前のセンスを判断してもらう。俺にはそういう判断はできんから代理だ」
将来を強くイメージし、名前を付けることで理想の自分に近付いていく。それが「名は体を表す」ということである。
そう、『オールマイト』のように。
〜
「そろそろみんなできたかしら?できた人から発表していってね!」
「発表形式!?」
「これは恥ずい……!」
まずは青山が壇上に上がる。ヒーロー名を書いたプラカードを机の上に置き、それが見えるようにひっくり返した。
「輝きヒーロー『I can not stop twinkling』☆」
「短文!」
「キラキラが止められないよ……」
「そこは「I」を取って、「can't」に略した方が呼びやすいわね!」
「次は私ね!『エイリアンクイーン』!」
「2!?血が強酸性のアレを目指してるの!?」
「バカヤロウ……!」
「大喜利みたいな雰囲気になってる……」
先に発表した2人がとびきりの変なネーミングだったせいで、この場の雰囲気はほぼ大喜利のようなものになってしまった。次に発表した蛙吹が『フロッピー』という普通の名前を出さなければ、そのままボケ倒されていただろう。
「俺は『烈怒頼雄斗』!」
「漢気ヒーロー『紅頼雄斗』リスペクトね!」
「ヒアヒーロー『イヤホン=ジャック』です!」
「いいじゃない!」
「『テンタコル』」
「触手の意ね!」
「『セロファン』!」
「これもアリ!」
「『テイルマン』」
「そのまんま!」
「しゅ……『シュガーマン』」
「まさかの被り!」
「『ピンキー』!」
「こっちならイイかな!」
「『チャージズマ』だあ!」
「充電器!」
「『インビジブルガール』!」
「オーケー、いいわよ!」
「『クリエティ』……この名に恥じぬ働きを」
「素晴らしい心意気!」
「『ショート』」
「名前でいいの?」
「漆黒ヒーロー『ツクヨミ』」
「夜の神様ね!」
「『グレープジュース』!」
「ポップ&キッチュ!」
「ふれあいヒーロー『アニマ』です……」
「うん!」
「『爆・殺・王』」
「そういうのはやめた方がいいわね!」
「何でだよ!?」
「実は前から決めてたんです……『ウラビティ』」
「洒落てるわね!」
みんなが続々と考えた渾身のヒーロー名を発表していく。爆豪は考え直しになったが、概ね好評であった。
「さて、これでまだなのは飯田君と緑谷君、そして鳴神さんね!」
「僕は……名前のままで」
兄のことを聞いて、すぐに病院へ向かった。ギリギリのところで命を繋いだが、もうヒーローとしての活動は不可能らしい。
インゲニウムはここで終わりだ。だから天哉にこの名を受け継いでほしい。今にも消えいるような声でそう告げる兄に、飯田は応えることができなかった。多くの人々を救ってきたターボヒーローの名を継ぐ覚悟はできていなかった。
「それじゃあ、次はわたしが」
「鳴神さんね!さあ、あなたはどんなヒーロー名にするのかしら!?」
「赫き空の下を駆ける風雷……赫嵐ヒーロー『フーライ』」
「赤き空……なるほどね」
風華のオリジン。
「僕のヒーロー名は……これです」
「『デク』……本当にそれでいいの?」
「はい」
今までずっと、そう呼ばれてバカにされてきた。けれどある日、その意味を変えてもらった。それはとても衝撃的なことで、嬉しいことだったのだ。
『頑張れ!って感じで好きだな、ウチは!』
いつまでも、雑魚で出来損ないの『木偶』のままじゃない。これからはそう、この名が平和の象徴となるのだ。
「これが僕のヒーロー名です!」
〜
「爆殺卿!」
「そういうのもダメ!」