風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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職場体験:その1

「正直言うとね、私はあまり君達のことが好きではないんだよ」

「は?」

「どうせ、ウチを職場体験先として選んだのは私が日本で五指に入る超人気ヒーローだからだろ?」

「指名入れたのアンタだろうが」

 

 ベストジーニストヒーロー事務所。ヒーロービルボードチャートJPで、堂々のNo.4に輝く男が経営するヒーロー事務所。

 2人は更衣室に案内されてそこでコスチュームに着替えた後、ベストジーニストから開口一番好きではないと言われた。初対面であるのにこのあんまりな物言いに、爆豪が当然噛みつく。しかしベストジーニストはむしろそういった反応が欲しかったというように、ビシッと爆豪を指差した。

 その後に風華のことも指差す。2人して問題児扱いされていることは遺憾だが、まあ爆豪に関しては事実なので不満げな表情を取るだけに留める。

 

「そう!その眼が気に入ったんだ。最近の子どもはみんないい子達ばかりでねえ……久々にグッと琴線に触れるような子に出会えたよ」

「ッチ」

「そうですか」

「君達のような凶暴な人間を矯正するのもヒーローの仕事だ。そのギラギラと輝く眼に、何が人をヒーローたらしめるのか……私の仕事ぶりを焼き付けてやろう」

 

 改めて、一週間よろしくお願いしますと深く頭を下げる。お辞儀をしようとしない爆豪にも頭を押さえつけてやらせる。風華の職場体験は、あまりいいスタートは切れなかった。

 

 

 〜

 

 

「え〜、ヒーローってのは国からお給金をいただいてる訳で。一応公務員なんだけど、成り立ちからして他の公務員とは著しく異なるんだ」

「……!」

「何でお前がここに!」

「聞けや。指名は2票入れられるんだよ。んで実務が具体的に何かって言うとだね……」

 

「基本的には犯罪の取り締まりだね。個性を使った犯罪者……敵が出た時に警察からの応援要請が入ってくるんだ。逮捕協力や人命救助などの貢献度を申告してから、専門機関の調査を経てお給料が振り込まれることになっているよ」

「喋り方、カワイイ……」

「基本はまあ、歩合制だね」

 

「それにね、副業が許されているのよ。ヒーローの活動が公務と定められた当時は、だいぶ揉めたみたいだけど。市民からの人気と、需要に後押しされて生まれた職業であるが故の名残ね」

「……」

「という訳で、これからCMの撮影があるからあなた達も一緒に映りなさいな」

「もっと、こう……ヒーローらしい活動を体験してみたいんだけどなあ……」

「いえ、拳藤さん!こういうのもプロとなれば避けられぬ道ですわ!それに、良いとこなしだった私を見初めてくださったんですもの……たんと勉強させていただきますわ!」

「気張ってるねえ……」

 

「ムニャムニャ!Z!Z!Z!」

「寝てる……んだよな……!?」

 

 他のクラスのみんなは、体験先のプロから活動の基本的なことを教えてもらいながら、パトロールなどの業務に帯同していた。緑谷は特に何も教えてもらっていないようだが。

 

 グラントリノ。学生時代のオールマイトを鍛えた彼の師匠であり、緑谷を指名したヒーローの一人である。

 事務所に入った当初、グラントリノの言動はまさしくボケ老人であった。ネットで調べてみてもロクに情報が出てこず、オールマイトもあまり多くを語ってくれない。話している時凄く足腰がガタガタに震えていたので、相当厳しい人間であったということは想像がついたのだが……今のグラントリノにそこまでの実力があるのか疑問に思っていた緑谷の思いは、すぐに修正を余儀なくされる。

 

『ワン・フォー・オールの後継者……まだまだこの程度か。オールマイトのやつめ、教育に関しちゃあてんで素人だな』

 

 手合わせをして分かった。圧倒的なまでのスピードに身のこなし。見た目や言動からは想像もつかない巧みな技術に翻弄され、緑谷は成す術なく地べたを舐めさせられてしまった。

 自分に足りないもの、戦闘技術と経験。それらを高いレベルで持っていることが分かった。彼から学んでその技術をモノにしたいのに。肝心のグラントリノは思いっきり爆睡してしまっている。

 

「一週間……時間は短い。自主練行かないと!」

 

 悩んでいる時間はない。フルカウル状態を維持したままでの行動や出力の更なる向上など、やらなければいけないことはたくさんある。悩む前に行動あるのみ。緑谷は事務所をこっそりと抜け出し、人気のない所まで自主練へと向かうのだった。

 

 

 〜

 

 

「さて、各々の達成するべき課題だが……フーライの課題は制御したい力がある、だったな」

「はい。やらなければいけないんです」

「爆豪は特に課題はないんだったな。ならば自分が苦手なことやできないことを、ここを利用する中で見つけていくといい」

「おうよ」

 

 管轄する町のパトロールを終えて、鳴神風華ことフーライと爆豪勝己……ヒーロー名が決まらなかったので名前のまま。は、ベストジーニストが所有するトレーニング施設に来ていた。

 個性研究所には及ばないものの、多くの設備があることに風華は感心した。自分の課題に役立つものが在るかは分からないが、期待はできた。

 

「では、何かを教える訳でもない爆豪は放っておくとして。フーライの課題を考えていこうか」

「よろしくお願いします」

「まずはその力がどんなものなのかを、できるだけ具体的に教えてくれ。例えば、名前や発動条件、発動した際の特徴、どんなことができるようになってどんな弱点ができるのかなどが知りたいな」

「はい、まず名前は……」

 

 風華は説明した。

 

 赫災領域(レッドゾーン)。そよ風を起こし少しの電力を生み出すだけだった風華の個性を、「君沢の悲劇」の犯人達や利己的なヒーロー達への怒りによって天災にまで押し上げたもの。その発動経緯から、何かへの強い怒りや死を思わせる経験がこの状態となるトリガーとなっている。

 発動することで、辺り一帯の空気を掌握して赫く染め上げる。発電能力が大幅に向上し、溢れた電力が全身でスパークして常時『纒雷』状態となる。

 一度に集められる風力も増えて、常に空気を掌握した状態になるということで酸素濃度の操作や衝撃などの反射もよりやりやすくなる。遠い所から雷雲を呼び寄せることも可能だ。

 

 今までできていたことがより早く、より高い出力でできるようになるのが赫災領域(レッドゾーン)に入ることによる恩恵である。しかし、その真髄はそんなものではない。肉体が傷付いた時、赫い風や雷を取り込むことで元通りに再生することができるのだ。

 

 風華はそれに『風雷回帰』と名付けた。赫災領域(レッドゾーン)にいる間、彼女に死は有り得ない。USJで敵に殺されかけた時、それでも尚動くことができたのはこの力のお陰だったのである。

 死地の中で、自分と妹の身を守るために成長していったことでこの力は身に付いたと研究所では言われていた。空気、そして電気と一つとなることこそが、『疾風迅雷』の本質なのであろうと。

 

 当然、デメリットも存在する。赫災領域(レッドゾーン)に入った風華は怒りに頭を支配され、敵も味方も区別しなくなってしまう。その上、相手の生死にも何一つとして頓着しなくなる。

 上鳴を人質に取った敵の頸動脈を、躊躇いもなく掻き斬ったように。

 再生する脳無に対して、普通ならば何千何万と死んでいるような攻撃を与えたように。敵と見做した相手に対して、一切の情け容赦を持たなくなってしまうのだ。

 

 殺人などご法度なヒーローとしては、このデメリットは絶対にどうにかしなければならない。この怒りをコントロールすることが、風華が果たすべき課題であった。

 

「ふむ……なるほどな。その状態となることのメリットとデメリットは理解した。だが、君はその状態にならなくても体育祭を優勝できたように、十分な実力を今の内から備えている。今のまま強くなっていけばいいし、無理に暴走を克服する必要はないと思うのだが?」

「……それでは、ダメなんです」

「ほう?」

 

 怒りは、風華のオリジンである。

 

 個性をひけらかし、欲望と衝動のままに破壊の限りを尽くす敵への怒り。

 

 個性へのコンプレックスを爆発させ、傍迷惑な逆ギレを行う無個性への怒り。

 

 ヒーローを名乗っておきながら、困っている人を助けようともせず自分のためだけに働くヒーローへの怒り。

 

 この怒りの感情があったからこそ、風華はヒーローを目指した。こんな奴らが存在するから世の中は危険が多くなるし、人々は不安に怯える。

 ならばせめて、自分だけでもそんなことはない人間になろう。オールマイトのような、そこに在るだけで誰もが安心するようなヒーローになろう、そう思ったのだ。

 

「わたしは、この力から……この気持ちから逃げてはいけないんです。この身に抱いた怒りと共に、ヒーローになりたいんです」

「……分かった。君に必要なのは、怒りを制御するための精神修行だな。これからはしばらくの間、君の職場体験は精神面の訓練に終始する。ある意味とてもキツいだろうが……しっかりと成し遂げてもらうぞ」

「……もちろん。覚悟はできています」

「よろしい。では、着いてきたまえ」

 

 

 〜

 

 

「DNA検査?脳無のかい?」

「ああ。捜査協力を依頼している訳ではないし、情報漏洩になるが……君には伝えなくてはならないと思ってね」

 

 黒幕への手がかりだ、そう塚内は言う。

 USJを襲った『敵連合』を名乗る集団。オールマイトの殺害を目的としていた彼らは、そのための秘密兵器として「脳無」という敵を用意していた。風華によって機能停止に追い込まれた脳無は警察に確保され、その後は何をしてもうんともすんとも言わなかったが……素性を調べるためにDNA検査をしたところ、悍ましい事実が明らかとなった。

 

「奴は文字通りの思考停止状態……特に暴れたりもしなかったし、検査は簡単に終わったよ。その結果コイツは」

「……いったい、どんな奴だったんだい?」

「傷害、恐喝の前科持ち……いわゆるチンピラってやつだな。そしてコイツの身体には少なくとも、全く別人のDNAが4つ以上混在していることが分かった」

「なっ……!?」

 

 人間なのか、それは。オールマイトが当然の疑問を口にする。その言葉に答えるように、塚内は説明を続ける。

 

「全身を薬物などで弄くり回されていたようだ。安っぽい言い方になるけど、つまりは『複数の個性使用に耐え得る身体に改造された強化人間』ってところだな。脳の著しい機能低下は、その改造の負荷によるものというのが警察の見解だ」

「複数の、個性……」

「そう。問題なのはコイツが身体を弄られていたというところよりも、複数のDNAを持っていたということだ。他人のDNAを内に取り入れたって、それが“馴染み、浸透する”特性でもない限りは個性の複数所持なんてことにはならない」

「つまりは、そういうことなのだな」

「ああ……恐らく、個性を与えることのできる個性を持つ者がいる」

 

 冷や汗が止まらない。何度拭いても流れてくる額の汗が、悪い予感をさらに加速させる。

 オールマイトの頭に浮かぶのは、一人の巨悪の名前。超常黎明期、たった一人で日本の裏社会を掌握した最悪の宿敵にして、ワン・フォー・オールの産みの親。

 

 オール・フォー・ワン。

 

 ここまで聞いてきた情報が、奴の存在を補強してくる。それでも、オールマイトは頭に浮かんだこの仮説を信じたくなかった。

 

「そんなことはないさ……そう、そんなことはないんだ。奴は、私が討ち取ったのだから」

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