風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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職場体験:その3

「何を成し遂げるにも、信念……想いが要る。それがない者や弱い者は淘汰される……当然だ」

「ちっくしょう、痛え……!」

「だから死ぬ(こうなる)

「ハハッ、強過ぎだろ何だよコイツ……!おい黒霧コイツ元の場所に返せ!早くやれ!」

 

 死柄木の肩を突き刺し、首元にもう一つの刃を添えるステイン。生殺与奪を握られた死柄木は彼を元の場所へ返すよう黒霧に言うが、黒霧はステインの個性によって身体の自由を奪われていた。

 指一本動かせず、個性も使えない。これでは死柄木を助けに行くことはできないと舌打ちする。

 

「ヒーローが本来の意味を失い、偽物が蔓延るこの社会も……徒に力を振りまく犯罪者も……全て粛清対象だ」

「!おいおい待て待て……この掌はダメだ」

「……!」

「強いていうのなら……オールマイトだな。あんなゴミが祀り上げられてるこの社会を、めちゃくちゃにぶっ壊したいなあとは思ってるよ」

 

 首元に突き立てたナイフを動かし、死柄木の首を掻き斬ろうとしたステイン。顔を覆う掌に刃が触れたところで、死柄木は慌ててそのナイフを鷲掴みにする。皮と肉が裂けて血が滲むのも構わず握りしめていくと、五指が触れたことで個性の影響を受けたナイフは粉々に崩れ去った。

 目先の危険を排除した死柄木は、ステインに反撃の平手をぶつけようと右手を横薙ぎに振る。ナイフが崩れたの見ていたステインは、その掌に触れるまいと大きく跳んで回避した。その結果、拘束が解かれて自由になった死柄木が再び立ち上がる。

 

「こちとら、あのクソガキにやられた傷が癒えたばっかりだってのに……ウチにはヒーラーなんていねえんだよ。どう責任とってくれるんだ?」

「なるほど。それがお前か……」

「は?」

「俺とお前の目的は対極にあるようだが……今を壊すというその一点においては共通している」

 

 お前はいずれ始末するが、それはお前がどう芽吹いていくかを見届けてからでいい。ステインはそう結論付けた。

 先程までは、死柄木の真意を試していた。死を前にすれば、人はその本性を表す。異質で歪なものではあるが……死柄木の中には確かな信念の芽があることを、ステインは感じ取ったのだ。

 

「結局始末すんのかよ……こんなイカレ野郎がパーティメンバーとか嫌だぜ俺は……」

「死柄木弔、ステインの存在は我々にとって大きな助けとなる。交渉は成立した!」

「用は済んだだろう……俺を保須へ戻せ!あそこにはまだ『やるべきこと』が残っている……!」

 

 

 

 

 

 所変わって、保須の町。

 

「いやあ、こんだけ町中が警戒モードだと、敵だって出てこれないよね」

「……そうでしょうか」

 

 パトロールを終えた飯田と彼の職場体験先のヒーロー『マニュアル』は、事務所に戻って休憩しているところだった。

 ヒーロー殺しが現れたということで、町の中は厳戒態勢。もはや敵どころか、鼠1匹だって出てこれないだろうとマニュアルは言う。しかし、飯田は情報を調べる中で、ヒーロー殺しは再び保須に現れるという確信を持つに至っていた。

 

 ヒーロー殺し『ステイン』が現れたのはこれまで7箇所。その全てで最低4人のヒーローを殺傷していた。

 目的があるのか、そういうジンクスに則っているのかまでは分からないが。ステインが保須で手に掛けたのはインゲニウム1人のみ。ならばあと最低3人のヒーローを殺すために、ステインは再び現れるだろう。それが、飯田の出した結論であった。

 

 来るなら来いヒーロー殺し。兄さんの敵……俺がこの手で始末してやる。

 

 

 〜

 

 

 職場体験2日目。

 

 今日も前半はパトロール、後半は課題達成のためのトレーニングというスケジュールである。爆豪はサイドキック相手に大立ち回りを繰り広げ、風華はベストジーニストと共に怒りのオリジンを探る。

 爆豪はベストジーニストとも戦いたそうにしていたが、少しだけ不満げな顔をするとすぐに去っていった。風華に優先させてやる、ということなのだろう。さっさと赫災領域(レッドゾーン)を制御できるようになって、より超える甲斐のある踏み台となれ、と。その好意に甘えて、風華は道場へと足を運んだ。

 

「今日は、昨日よりも更に深く潜ってみよう。君のオリジンはきっと、相当記憶を遡らなければ見つからないはずだ」

「そうですね……やってみます」

「では、昨日のように」

 

 座禅を組み、精神を統一する。頭の中に眠る記憶を少しずつ遡っていって、赫災領域(レッドゾーン)の原点を見つけ出すのだ。

 昨日は初めてということもあり、あまり前まで遡ることはできなかった。ある程度慣れた今日ならいけるだろうと、風華は確信している。

 

 赫災領域(レッドゾーン)は絶対に制御してみせる。改めて気合を入れ直して、風華は自身の記憶の底深くへと潜っていった。

 

 

 ──ダメだ、俺の『個性』じゃコイツ相手には何もできない!

 

 

 ──アタシだって打つ手ないんだけど!?

 

 

 ──こんなの、応援を待つしかないじゃないか!

 

 

 記憶を遡っていって、次に見たのは中学校に上がったばかりの頃の記憶だった。身体から離れた老廃物が爆発するという『個性』を持った敵が街中で暴れ回ったことで、十余名の死者とその五倍の怪我人を出した上にヒーロー2人が殉職した痛ましい事件であった。

 当時、風華はその場面に立ち会っていた。妹と一緒に買い物に出掛けている時に、偶然巻き込まれてしまったのだ。

 

 敵自体は、相性の良いヒーローが駆けつけたことですぐにお縄となったのだが。問題なのはそのヒーローが来る前である。

 避難誘導もせず、建物を保護することもせず。ただ敵を睨みつけていただけの役立たずしか現場にはいなかったのだ。そのせいで抑えられたはずの被害は恐ろしく拡大し、罪なき市民が何人も命を散らすこととなってしまったのだ。

 

 この時の風華は、怒りというよりも呆れや憤りを強く感じていた。ヒーローを名乗っておきながら何も動こうとしない役立たずに。そして当時はまだ個性の修行中であり、助けに行く訳にはいかなかった自分の不甲斐なさに。

 

 この時も、違う。まだまだ深く潜らなければ。

 

 

 ──良いじゃないですか、赫災領域(レッドゾーン)。僕はカッコいいと思いますよ。ちゃんと制御できてたなら、もっとカッコよかったんですけどねえ。

 

 

 違う。

 

 

 ──無個性に価値なんてないって!

 

 

 ──わー!無個性菌が感染るぞー!

 

 

 ──ははっ……ざまあ、みやがれ……!

 

 

 これも、違う。

 

 

 ──てめェのことなんてどうでもいいんだよ!いいからそのガキを寄越せって言ってんだろ!?いつもいつも『無個性』を虚仮にしやがってよお……ストレス発散くらい気持ちよくさせてくれよ!

 

 

 ──せっかく強い『個性』持って生まれたんだからさあ……!ちゃんと活用しなきゃ損じゃないか!自由を謳歌するのは最っ高に楽しいよ!

 

 

 これだ。

 

 廃墟となった君沢市で、まだ赤ん坊だった妹を抱えて彷徨っていた風華を襲った敵。この町で敵に襲われたことなんて何度だってあるが、コイツらに共通していたのは。風華ではなく、雷羽を狙っているというところであった。

 

 無個性だったせいで、社会に虐げられてきたから個性を持った赤子を殺す。

 

 強い個性を持って生まれたせいで、社会に適応できなかったから快楽のために赤子を殺す。

 

 あまりにも下劣な人間性。自分よりも弱いと見做した相手を、片や自尊心、片や欲望を満たすために殺そうとする矮小で品性下劣な敵。君沢市を市の町に変えた下手人を倒すために出力を増強させた風華の個性は、ここでその色を赫く染めた。

 

 こんな奴らに雷羽を殺させる訳にはいかない。

 こんな奴らのために死んでやる訳にはいかない。

 こんな奴らを、生かしてはおけない。

 

 

 ──何でだよ……ずるいぞ、ちくしょう……!

 

 

 ──えへ……凄い個性……快、感……☆

 

 

 ──仕方ないだろ?俺だってプロである前に一人の人間なんだよ。だからこれは。仕方のないことなんだよ。

 

 

 こんなゴミが生きることなど認めない。

 

 逆恨みと嫉妬で狂う無個性も。

 

 徒に力をひけらかす敵も。

 

 我が身かわいさに、その本分を果たそうともしない偽物のヒーローも。

 

 全部。全部この手で殺してやる。

 

 こんな社会では、安心して────

 

「……痛っ」

「座禅はこれで終わりだ。明日からは次のステップへと進むとしようか」

「次のステップ……?つまり」

「赫いスパークが迸っていた。驚いたよ……長年ヒーローとして活動している私が、その片鱗だけで戦慄させられた。もしも抑えるのに失敗していたと思うと……ゾッとするな」

 

 思考が染まりそうになったところで、ベストジーニストに現実へと引き戻される。どうやら、風華は赫災領域(レッドゾーン)へ入りかけていたらしい。引き戻されるのが少しでも遅れていれば、理性を失った風華によってこの辺りは大惨事となっていたであろう。

 

 じっとりと肌に張り付く汗を拭い、投げ渡されたボトルから水分を補給する。その間も、怒りの記憶は頭の中で反芻していた。

 これからは、この記憶を起点とすることで瀕死の大怪我などを必要とせずに赫災領域(レッドゾーン)に入ることができる。少しだけ進歩はあったようだ。

 

 明日からは、次のプロセス……即ち、赫災領域(レッドゾーン)に入った状態でも意識を保ったまま動けるようにする訓練に入る。とても危険な訓練になるだろう。それを抑える役に回る、ベストジーニスト達プロヒーローにとってはだが。

 

「暴走は私達が抑えると約束しよう。君も、全力で取り組みなさい」

「もちろんです。絶対に……モノにしてみせます」

 

 明日……もしも風華が赫災領域(レッドゾーン)の制御に失敗したら、その時点で彼女のヒーローとしての道は閉ざされてしまう。今後の人生を占う大事な試練。流石に緊張が強くなってきていた。

 

 不安はある。USJで峰田を大怪我させてしまったように、赫災領域(レッドゾーン)に入れば敵味方の区別はつけられなくなってしまう。暴走した自分を抑えるためにヒーロー達が動くとなれば、確実に風華は彼らを敵と見做して殺そうとするだろう。今からでも、そこは確信を持てた。

 

 絶対に、そんなことになってはならない。震える腕を無理矢理掴んで留め、風華は改めて気合を入れ直した。

 

 

 〜

 

 

「うーん……これ以上俺ばっかりと戦ってたら変な癖が付いちまうかもなあ。よしっ!今日は外出して敵退治といくか!」

「えっ、今からですか!?」

「今からだ!夜中は小競り合いが多くて楽しいぞ!渋谷辺りが特に多いな!と言う訳で向かう先は渋谷だ!着いてこいよ!」

「は、はい!」

 

 職場体験3日目。

 

 ここに来てからの日課となっていたグラントリノとの組手を終え、緑谷は彼に連れられて一緒に渋谷へと向かった。

 新幹線に乗ってグラントリノから駅弁を受け取ると、スマホを取り出してメッセージを送る。相手は飯田だ。渋谷行きのこの新幹線は途中で保須を通るため、ふと彼のことが心配になったのである。

 

「座りスマホ!これだから最近の若者は!」

「おかしい。返事が来ない……?」

 

 グラントリノの戯言は無視して、緑谷は液晶に注目する。いつもならば送信から長くとも20秒以内には返信をくれていたのに、今は3分経っても返信が返ってこない。普通なら大したことのない出来事であるが、相手が相手だけあって緑谷の不安は更に増していった。

 

 ……飯田君、大丈夫かな。

 

 緑谷はまだ知らない。この後すぐ、飯田と共に死地を駆け抜けることになることを。

 

 この時の彼は、まだ知らない。

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