──考え過ぎかもしれない。
──確証も全くない。
──だからって、動かない訳にはいかない!
ヒーロー殺しが現れた街で、脳無のような敵が暴れている。保須にいる者の中で恐らく、緑谷だけが考えられる仮説。
敵連合は、ヒーロー殺しと繋がっている?
ということは、つまり。ヒーロー殺しはこの街にいるのではないか?あの真面目な飯田が現場におらず、監督するプロの目からも離れてしまっているのは……ヒーロー殺しを、見つけてしまったからではないか?
「よかった……ビンゴだ」
自分の推測が当たっていたことと、殺される前に2人を救出できたことで安堵する緑谷。倒れる飯田とステインの間に立ち、進路を塞ぐように構えを取る。
「緑谷君……!?何故君がここに!?」
「ワイドショーでやってた。ヒーロー殺し……被害者の6割が人気のない街の死角で発見されてる。だから騒ぎの中心から、ノーマルヒーローの事務所辺りを虱潰しに回ってきた!大通りに出ればヒーローが応援に来れるかもしれない!動けるかい!?」
「ダメだ、身体が動かせない……恐らく、相手の血を取り込むことで身体の自由を奪う個性……!」
「血を取り込む……だから刃物か!」
血を取り込むために、何が何でも相手に傷を付けさせる。身体中に備えた無数の刃物は、そのための装備らしい。
つまり。緑谷はあの刃を掻い潜りながら、2人をどうにかして大通りまで運び出す必要があるということ。相当な不利状況だが、切り抜けるためにはやるしかない。唇をキュッと引き締めて、緑谷はファインディングポーズを取った。
「仲間が「助けに来た」か、いい台詞じゃないか。だが、俺にはコイツらを殺す義務がある。ぶつかれば当然、弱いものが淘汰されるだけだが……どうする?」
「緑谷君……悪いことは言わないからここは逃げてプロを呼べ!俺のスピードにも、簡単に対応できる出鱈目な身体能力……肉弾戦特化で遠距離がない君では分が悪過ぎる!」
静かに燃える、思想犯の眼。USJを襲ったチンピラなんかとは訳が違う殺人者の眼。敵としてのレベルの違いが、緑谷の本能にその危険を分からせてしまった。
ステインに応戦しようとする緑谷を、どうにか止めさせようと叫ぶ飯田。力量の差を感じ取っているのか、忠告を聞く深緑のコスチュームに包まれた身体は小刻みに震えている。
「……そんなこと言ってたら、ヒーローは何もできなくなるじゃないか!」
確証のない推測でも何でも……緑谷はプロを説得して、一緒に来てもらうべきだった。焦り過ぎていたことを反省する。
ここからは身動きの取れない2人を守りつつ、
「君にも、言いたいことは色々有るけど……それは後にする。オールマイトが言ってたんだ……余計なお世話はヒーローの本質なんだって!」
「ハァ……!」
できる、できないの問題じゃない。やらなければいけないのだ。
先制必勝。右手をデコピンの形にして、左手で手首周りを掴んで固定する。ワン・フォー・オールの出力を20%に調整し、『デラウェアスマッシュ』を撃ち放つ。空気を揺るがす程の超パワーによって放たれた衝撃波は、真っ直ぐにステインを目掛けて駆けていった。
遠距離はない。そう叫ばれた矢先に飛んできた衝撃波に、流石にステインも面食らったのか大きく後退りする。
ワン・フォー・オール。脈々と受け継がれて来た正義の結晶。
緑谷の未完成な器では到底扱い切れぬ代物。個性研究所で自分の限界や使い方を知り、少しずつその扱いは前進してきた。毎日の弛まぬ研鑽のおかげで器も僅かではあるが強度を増してきていた。平和の象徴を継ぐ者として、完成しつつあるのだ。
現状、安定して出せる出力は9%。そして怪我をしないギリギリが20%である。単純に身体能力が向上しただけに留まらず、出力上限が15%を超えたことで、アクションに風圧が付随するようになった。それにより、風圧を活用した遠距離攻撃が可能となったのだ。
『デラウェアスマッシュ・エアフォース』
発現したばかりでまだまだ制御も甘く、射程距離も実際に遠距離と言える程長くはない。それでも、相手を近づけさせてはいけないこの戦いにおいては頼りになる新戦法であった。
「チッ……あるじゃないか……遠距離」
「これ以上は近付かせない……彼らは殺させないぞヒーロー殺し!」
「良い技だ……だが、まだ甘い」
刀を構え、ダッシュで近付くステイン。再び距離を開けようとエアフォースで牽制するも、一度見た技など食らわないとばかりにあしらわれてしまう。あっという間に、あと数歩で刀の間合いというところまで詰め寄られてしまった。
「ッ……!9%、『フルカウル』!」
「長物に対し間合いを詰める……良い判断だ」
エアフォースはもうダメだ。有効打にならない新技には見切りをつけて、緑谷は9%でフルカウルを発動。全身に強化を巡らせた。そのままの勢いで強く地面を蹴り、自分から間合いを詰めにいく。
ステインは腰に備えられた二つの鞘──うち一つは既に中身が入っていない──から残ったもう一本のナイフの柄を握り、引き抜く。懐まで潜り込んできた緑谷目掛けてナイフを振るが、緑谷はそこから更に前進して回避しつつ背後を取った。
機動力のアドバンテージを活かし、相手の死角に入ることで、無理矢理一撃を入れるための隙を作り出す。飯田もやっていた戦法、ステインは二度同じ手を食らうような馬鹿ではない。その動きを先読みして、視線は既に緑谷を捉えていた。
身体を捻り、背後に回った緑谷を右手の刀で斬ろうとする。対する緑谷も、地面に手を付いて踏ん張りを利かせながら両足の出力を20%に上昇。『マンチェスタースマッシュ』で迎え撃った。その結果ステインの刀は中程からへし折れ、宙を舞った刀身がビル横の排水管に突き刺さった。
「良い動きをする……」
「そりゃあ、どうもっ……!」
息吐く暇を与えないよう、ステインの腕を掴んで背負い投げの体勢を取る。虚を突くためとはいえ背後を取ったことで、ステインを動けない2人に近付かせてしまっていた。投げてやることで、再び距離を取らせようとしたのだが……密着したことは仇となった。
「がっ……!?」
「道具を使う敵に対して……不用意に触れれば怪我をするぞ。このようにな」
「暗器……!隠し持っていたのか……!?」
投げるために掴んだ、二の腕に巻かれた包帯の中に隠されていた小型のナイフ。その刃に思いっきり触れてしまい、緑谷は手袋ごと掌をザックリと切り裂いてしまった。不意に感じた痛みで、思わず腕を離してしまう。これ幸いと緑谷の血が付着したナイフを掴み、その刃を舐めようとして──
「やらせは……しない!」
「っ……!時間か……!」
──拘束から解き放たれた飯田が浴びせた蹴りによって、ナイフは弾き飛ばされた。ステインの手からこぼれたナイフは緑谷が回収し、粉々に叩き折って使えなくする。血の付いた刃は路地の外へ投げ捨てて、拘束される危険を排除した。
「緑谷君……助けに来てくれて、ありがとう。ここからは、俺も一緒に戦わせてはくれないか」
「あいつは……ヒーロー殺しは、君のお兄さんの仇だよ。本当に大丈夫だって、言えるのかい?」
「大丈夫さ……コスチュームを着て、ヒーロー名を名乗ったからには、俺はヒーローだ!私怨は置いておく……ヒーローとして、奴を倒す!」
「2対1……一筋縄ではいかないな」
肩を合わせて構えを取る緑谷と飯田。ステインの発するプレッシャーがより深く、重くなっていくのを2人は感じ取っていた。
ステインは、緑谷がここに来た時にスマホで誰かしらに連絡しているのを見ていた。彼との交戦を始めてから既に3分は経過しているが、未だに地べたに這い蹲る偽物……ネイティヴは殺せていない。
いつ応援のヒーローが来てもおかしくない。ただでさえ妙に強い子ども……英雄の資質を持つ者相手に苦戦しているのに、そこにプロまで来られたらいよいよマズい。
強引にでも邪魔を掻い潜り、ネイティヴを殺してここを抜け出す必要がある。雰囲気のせいで分かり辛いが、ステインもかなり焦っていた。
「来るぞ飯田君!気ぃ引き締めてよ!」
「分かっているさ!援護頼むぞ!」
飯田を前衛に、緑谷がエアフォースで遠距離から援護する構え。左右に衝撃波を飛ばして真ん中を飯田が塞げば、ステインは全てを避けるためには上に跳ぶか後ろに退がる必要がある。選択されたのは前者。隠していた折り畳みナイフを三つ投げて飯田の動きを牽制し、血を採られることを警戒させる。
動きを止められては敵わないと、飯田はナイフを拳で叩き落とした。その隙にステインは高く跳び上がって飯田の頭上を越えていく。同時に折れた刀を飯田の足元へ投げつけて貫通させ、右足を地面へ縫いつけた。
衝撃波で動きを制限してくる自分を優先した動きを受けて、緑谷は連射するのを止めて狙いを引き絞る。空中にいる間は大した身動きは取れなくなる。着地しようとするその瞬間を狙い撃つ。
チャンスは一瞬。撃ち損じは許されない。
ステイン側も、今が緑谷達にとって最大のチャンスであるということは当然分かっている。ならばするべきことは、衝撃波を撃たせないこと。
脇腹に携帯するナイフを抜き、自分に狙いを付けている右腕に向かって投げつける。ナイフは命中して苦悶の声を上げさせるが……緑谷は額に脂汗を浮かべながらも、決して腕を下げなかった。
コイツっ、腕を……!
敵ながら、天晴と思う程の精神性。己の犠牲を厭わず戦うその姿は、ステインの理想とするヒーロー像そのものであった。緑谷に対して尊敬の念を抱いたその一瞬が、ステイン最大の隙となる。
「デラウェアスマッシュ……エアフォース!」
「がっ……!」
「ヒーロー殺し……お前を倒そう!復讐のためではなく……ヒーローとして!」
「ごあっ……!」
エアフォースが直撃し、体勢を崩されたステインを飯田の蹴りが追撃する。奥の手レシプロバーストの更にその先、超必殺『レシプロエクステンド』。代償として、数秒と保たずにエンストする程の超加速は宙ぶらりん状態のステインに避けられるようなものではなかった。
蹴りは顎に直撃し、破砕音を響かせる。力を失った頭部がぷらりと動き、その重みで身体を地面に落とした。横たわった身体はピクリとも動かず、ステインの意識がなくなったことを伝えていた。
「ハアッ……ハアッ……勝っ、た……?」
「まだだ……!油断せずに縛り上げるまで……!」
「そう、だ……捕まえるまで……油断してはいけない……」
「っ!顎を砕いたはずだぞ……まだ動けるのか!?」
「なんて、タフネスだ……!」
ステインは意識を失った。衝撃波に全身を打ちつけられ、飯田によって顎を砕かれて。普通なら立ち上がれなくなる程のダメージを受けたはずなのに。甚大なダメージを受けたその身体で、ステインはゆっくりと立ち上がった。理不尽レベルのタフネスに緑谷が思わず愚痴を漏らす。
緑谷は右腕が使えず、飯田はエンジンが使えない状態。ステインの方も満身創痍だが、それでも勝てるとは思えない重厚なプレッシャー。いよいよ覚悟を決めるべきかと悲壮な決意をするが、ステインの方に戦う意思はもうなかった。
「お前達には……本物の英雄たる素質が有る。これからきっと……素晴らしい英雄となることだろう。その覚悟に免じて……ここは、引くとしよう」
「何だとっ……!?」
「これからも……研鑽を重ねていけっ……!?」
「ム、ムカデ……!?」
英雄たり得る者の覚悟に免じて、この場を去るというステイン。言葉通りにビルの壁を伝って小さくなっていくその姿を、蒼い百足が叩き潰した。反り上がった顔に向けて、追撃の炎が浴びせられる。燃焼によって酸素の減った空気を吸ったことで、ステインは失神。今度こそ倒すことに成功した。
「緑谷……こういうのは詳しく書くべきだ。お陰で説得に無駄に時間かけちまった」
「2人でヒーロー殺しを倒したんですね……凄いです!」
「轟君……立甲さん!」
「どうして君達がここに……!?」
ステインに引導を渡した援軍は、エンデヴァーヒーロー事務所で職場体験をしているはずの轟焦凍と立甲葵であった。
これまでの事例に則るなら、ヒーロー殺しは再び保須に現れる。そう判断したエンデヴァーが出張を決めたことで、2人は共に来ることになったのだ。到着してすぐに脳無への対処に追われ、その中で緑谷から送られて来た位置情報だけのメッセージ。それを『ピンチだから応援を呼んでくれ』ということだと解釈した轟は、同行した者の中で最も機動力に長けた葵を足にしてここまでやってきた。
最も。到着した頃には、ヒーロー殺しとの戦闘は終わっていたのだが。
「氷結じゃあ起きた時に身体割っちまうかも知れねえからな。取り敢えず縛っとくぞ」
「すまねえなお前ら……プロの俺が完全に足を引っ張ってた。運ぶのは俺がやるよ、ありがとうな」
「いえ……一対一で、ヒーロー殺しのあの個性じゃほぼ勝てないと思います。強過ぎた……」
「そういや……君は俺より後にやられたのに、俺より先に動けるようになってたよな。どういう条件だったんだ?」
「僕はヒーロー殺しが個性を使う瞬間を見てないので、あまり深く考察はできませんが……血を取り込むことで動きを止める個性、考えられるのは摂取量や鮮度……あとは血液型などですね」
血液型、それで正解である。
ヒーロー殺しステイン、個性『凝血』。他者の血を取り込むことで、最大8分間身体の自由を奪うことができる。止めていられる時間は血液型によって決まっており、O<A<AB<Bの順で増えていくようになっている。ちなみに、ステイン自身はB型である。
もっとも、緑谷がそれを知る由はないのだが。
「俺の速度と緑谷君の遠距離、どちらかが欠けていれば相手にもならなかったからな……あなたを殺すことへの執着と、俺達への手加減がなければ負けていたのはこっちでした」
「ほんとそうだ……大したもんだよ」
「焦凍君、ちゃんと武装は外しましたか?」
「ああ、その辺は抜かりねえよ」
気絶するステインを轟の持っていたロープで拘束し、ネイティヴに担いで運んでもらう。ビルに光を遮られて暗かった路地裏から出ると、夕暮れの紅い陽射しが5人を出迎えてくれる。暖かな光を浴びたことで、何だかどっと疲れが出てきたのを緑谷は感じていた。
「子ども……と、ヒーロー?担いでるのはヒーロー殺し!?あなた達が倒したの!?」
「エンデヴァーさんに言われて来たけど……大丈夫だったのか!?」
「小僧!?お前座ってろつっただろうが!」
「すいません!」
轟がエンデヴァーに場所を伝えたことで、応援に来てくれたプロヒーロー達。その中に混じっていたグラントリノは、ステインを担いで出て来た一段の中に緑谷がいるのを見つけて彼に蹴りを食らわせる。ボフッ、と枕投げをする時のような音がした。
「まったく、まあ無事なら良かった……伏せろ!」
「えっ?あっ……脳無!?」
「敵!?エンデヴァーさんが取り逃した!?」
グラントリノが安心したのも束の間──翼を備えた脳無が一団に強襲を仕掛け、緑谷を掴んで飛び去っていった。くり抜かれた片目の眼窩から溢れた血が何人かに付着する。
このまま行かせてはならない。グラントリノは大きく息を吸って個性を発動しようとして、すぐにその動きを止めた。
「偽物が蔓延るこの社会も……徒に力を振りまく犯罪者も……粛清対象だ……ハァ……ハァ……」
「コイツ、また……!」
「全ては……正しき社会のために」
武装を全て外し拘束していたはずのステインが。どこからか取り出した折り畳みナイフを使って拘束を自ら解き、近くにいた女性ヒーローに付いた脳無の血を舐めて動きを止めた。そして飛べなくなって落下する脳無の頭を貫き、絶命させて緑谷を救出した。
ここまで全て一瞬の出来事。誰も反応することすらできていなかった。
「助けた……?」
「バカ言え、人質取ったんだよ!」
「躊躇なく殺しやがったぜ」
「いいから戦闘態勢とれ!取り敢えず!」
再起動したステインを見て、少し遅れます戦闘態勢を取るヒーロー達。別件を終わらせて加勢に来たエンデヴァーが、一カタマリになっている彼らを見て「何をボウっと突っ立っている!?」と叱り声を飛ばした。
そのエンデヴァーも、ステインがいることに気付いて炎を盛んに燃え上がらせる。既に息も絶え絶えになっている以上、すぐに終わらせられるだろう。そう判断して一瞬で気絶させようとして──
「待て轟!」
「!?」
「エンデヴァー……!」
──グラントリノの声がエンデヴァーを止めた。
この間静止していたステインが立ち上がり、騒ぎの元となっているエンデヴァーの方を向いた。戦闘でボロボロになっていた目隠しが外れ、その素顔が露わになる。
「偽物……!」
ザッ。
「正さねば……誰かが、血に染まらねば……!」
ザッ。
「英雄を取り戻さねば!」
ザッ。
「来い……有象無象の偽物ども!俺を殺していいのは……オールマイトだけだ!」
殺気……いや、鬼気。ステインの持つ狂ったヒーローへの執着が、ヒーロー達の足を止めた。オールマイト以外のヒーローには、絶対に倒されも逮捕されもしないという執念。
顎どころか、身体中の骨がイカれてしまっているはずだ。衝撃波に脳を揺らされて、立つこともままならないはずだ。焼けた空気を吸って、肺の中も焦がされたはずだ。
なのに。
なのになぜ、動けるというのだ。何がお前をそこまで突き動かすというのだ。ナイフを構えて跳びかかるステインに、誰もがそんな思いを抱いた──
──その時、世界が赫く染まった。
「なん……だ……!?ぐはぅっ…………!」
「ふう……本当に、しぶとい奴でしたねえ……」
赫に染まった空気に気を取られ空を見上げたステインを、葵が発現させた尻尾で締め上げた。全身を締め上げられたことで掛かった圧力に苦悶の叫びを漏らし、三度失神するステイン。今度こそ、完全な捕縛に成功した。
「肩貸しますよ。出久君、大丈夫でしたか?」
「う、うん……でも、これって……」
赫く染まった世界の中で、唯一それに気を取られず動くことができた葵が、倒れたままの緑谷を起き上がらせる。2人とも……いや、飯田と轟もこの赫い世界の正体には気付いていた。何せ、この光景を作り出せる人間を知っているのだから。
「お前、この赤いののこと知ってんのか!?そうってんなら情報を共有してくれ!」
「……少なくとも、敵の仕業ではありません。原因もこの近くにはいないでしょう。いるとしたら……隣県でしょうね」
「隣県!?」
恐らく、この赫い世界を創り出した元凶があるであろう方向……ベストジーニストヒーロー事務所のある方角を見ながら、葵は冷静であろうと努めるグラントリノの質問に答える。
「ふうちゃん……頑張ってくださいよ」
緑谷も、飯田も、轟も。葵のその呟きに心の底から同意した。ステインの鬼気から間髪入れず怒りを孕んだ赫い空気に触れたことで、腰を抜かす者まで出てくる中。この怒りを知っている4人は、風華が制御に成功することを心から祈るのだった。
今までで一番長くなりました。