風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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職場体験:その7

「今日は……どっと疲れた……」

「お疲れ様です。赫災領域(レッドゾーン)の相手をさせるのは大変だったでしょう?よく引き受けてもらえましたね」

 

 職場体験も3日目が終わり、個性研究所に帰ってきた風華はソファに寝そべり息を吐いた。

 赫災領域(レッドゾーン)に入った反動で、帰ってくるまで葵に肩を貸してもらわなければ真っ直ぐ歩くこともままならなかった。今ももう、ソファから起きあがろうとする気力が湧いてこない。明日も職場体験で朝早いのに、頭が入浴も自室に帰ってから休むことも拒否しようとしていた。

 

「そっちこそ……ヒーロー殺しと交戦したってね。どんな奴だったの?」

「僕らは最後の一足をしたくらいで、特に何もしていませんけどね。ヒーロー殺しを倒したのは、出久君と天哉君の功績ですよ」

「へえ……あの2人がね……凄いじゃない」

「そうですね。それで、ヒーロー殺しがどんな奴であったかと聞かれれば……僕の印象的には、『強迫観念に囚われた病人』でしたね」

 

 ……病人、か。

 

 赫災領域(レッドゾーン)に入った時の自分と、同じような感じだったのだろうか。そんなことを考える。

 自分の中の感情を絶対的なものとし、それ以外の全てを悪と断じて、排除しようとする。赫災領域(レッドゾーン)に入った風華の見えるものを全て敵と見做すあの思考と、オールマイト以外のヒーローを全て偽物として排除しようとするヒーロー殺しの思考は、似たもの同士なのではないか。そこまで考えてから、風華は首をブンブンと振ってその思考を振り払った。

 

 もう、あの力は制御できる。何に対する怒りだったのかも、何のために怒っていたのかも思い出すことができた。これからはもう、間違えずにこの力を使うことができる。

 狂気じみた思考の果てに、ヒーローの排除という外道を選んだヒーロー殺しとは違うのだ。

 

「ヒーロー殺しの逮捕……きっと全国で大きく報道されるだろうね。葵達も一躍人気者かな」

「いやぁ……どうでしょうか。エンデヴァーに個性使用の許可を貰ってから出て行った、僕と焦凍君はともかくとして。出久君と天哉君は、プロの許可を得る前に飛び出していったそうですから。法律的に2人が行ったことは重大な違反です。むしろ処罰を下される可能性の方が高いでしょうね」

 

 法律により、『一部の例外』を除いてプロヒーロー以外の人間は私有地以外での個性使用を禁じられている。今回の緑谷と飯田が行ったヒーロー殺しとの戦闘は、この法律に違反した行為である。

 超常黎明期、個性の発現によってそれまでの社会は完全に崩壊した。秩序を失った社会の中で、警察は統率と規格を重んじて、個性を『武』に用いないこととする。ヒーローは、その穴を埋める形で台頭してきた職業である。

 

 個性とは、容易に人を殺められる力。本来ならば糾弾、排斥されて然るべきこの力が公に認められているのは、先人がモラルとルールを遵守してきたからである。

 

 個性を扱う資格を持たぬ者が、個性を用いて保護管理者の許可なく危害を加えることは……例えヒーロー殺しが相手であったとしても、立派な法律違反なのだ。

 

 善行のためとはいえ、秩序は一度乱されてしまえば歯止めが効かなくなってしまう。だからこそ2人には厳罰が下される必要があるが……正しい行いをした者を『違反だから』と問答無用で裁くこともまた、秩序を乱す要因となってしまうであろうことは容易に考えついた。

 

「あー、そうか……そうなる前に何か、細工はしてくれると思うけど……やっぱり心配になるね。立場もそうだけど……怪我も」

「そうですねえ……明日、僕はお見舞いに行くのでその時にいろいろ聞いておきますよ。ふうちゃんは職場体験頑張ってくださいね」

「わたしも勝己も……心配してるって伝えておいてくれよ。それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみなさい。また明日」

 

 明日からは、赫災領域を正気を保ったまま制御する訓練に入る。パトロールにもより一層気合を入れてかからなければならないし、クライアントからの依頼があるなら、相談業務の見学もさせてもらえることになっている。やることはこれまで以上にいっぱいだ。

 緑谷達のことは葵に任せて、風華はソファから立ち上がって自室へと戻っていった。

 

 

 〜

 

 

『ヒーロー殺し逮捕!エンデヴァーお手柄』

【保須市で暴動徒党組んでの犯行か】

 昨夜八時頃、保須市にて3人の敵による暴動が起こった。死傷者はおよそ60人を超えたとされているが、街への被害は甚大であり今後更に増える可能性が高い。この3人の陰で犯行に及ぼうとしていた全国指名手配犯、赤黒血染(敵名:ステイン)が現行犯で逮捕された。全国各地に神出鬼没に現れて、17名ものヒーローを殺害した男の逮捕に日本中が安堵している。

【ヒーロー殺しの最後】

 これまで多くの犯行が人目のつきにくい路地裏などで行われてきたが、今回捕まったのは江向通りの真ん中だった。その場に居合わせた7名のヒーローと、4名の高校生が向かい合っていたところを駆けつけたエンデヴァーが仕留めた形だ。

【エンデヴァーお見事 雄英生にも称賛の声】

 エンデヴァーヒーロー事務所で会見を行ったエンデヴァー。会見中の応対は普段と変わらず冷静であったが、その表情は曇っていた。保須市は管轄外であったが、ヒーロー殺しのこれまでの犯行傾向を分析して動向を把握したことで応援に駆けつけることが可能となったことを明かす。自分だけでなく、最後に逃げようとするヒーロー殺しを捕獲したという雄英からの職場体験生に対しても称賛してほしいと言っており、謙虚な一面を見せていた。

 

『3人の敵はいずれも住所・戸籍不明の男。その外見的特徴とNHAテレビが捉えた二人の男の姿から、先日雄英高校を襲った『敵連合』との繋がりを指摘する声も上がっています』

『オールマイト台頭以降の単独犯では、最多の被害者数。犯罪史上に名を残すであろう敵、ヒーロー殺しステインの犯行の詳しい動機など追ってお伝えします』

 

 

 

 

「何処もかしこもヒーロー殺し……脳無のことはついでかよ……」

 

 

 ──ハハハ……夜が明ければ、世間はアンタのことなんか忘れてるぜ。

 

 

「忘れるどころか……俺達がオマケ扱いか」

 

 

 

 

「昨晩発生した、保須市での事件……みんな気になっていることだろう。ああ私も当然、大いに気になっている」

「……」

「人は大きな事件に目を奪われる。しかし、こういう時こそヒーローは冷静でいなければならない。混沌は時に人を惑わし、その根底に眠る凶暴性を引き摺り出そうとしてくる」

「……!!」

「という訳で、今日もピッチリ平常運行。タイトなジーンズで心身共に引き締めていこう」

「シュア!ベストジーニスト!」

 

「髪型……戻らないね」

「来る場所……間違えた……」

 

 

 〜

 

 

 時は流れて、職場体験7日目。

 

「今日も頑張ってるね!お疲れ様!」

「ありがとうございます。これからも応援よろしくお願いしますね」

「爆豪君も、コスチューム似合ってるよ!まるで敵みたいだ!」

「誰が敵だこの野郎!せめてもう少し普通に褒められねえのか!?」

 

 市民に当たり散らすなと、爆豪がベストジーニストから叱られる。流石にこれは理不尽じゃないかと風華は思ったが、爆豪の口が悪いのはいつものことなので黙殺する。パトロール中声をかけてくる市民が爆豪をいじってくるのを黙って聞いていた。

 サイドキックが赫災領域(レッドゾーン)のことを周知してくれていたおかげで、風華は特段腫れ物扱いされたりすることもなく周りに受け入れられていた。雑木林から被害が広がらず、街に被害がなかったことも一因である。

 プロの働きがあったからこそ、風華は排斥されることもなく職場体験を続けられている。彼らを君沢のヒーローのような偽物だと思うことは、風華にはもうできなかった。

 

「……本当に、ありがとうございます」

「そう何度も言わなくていい。どうしても礼がしたいというなら、そうだな……卒業後はサイドキックとしてウチに来るといい」

「……はい!」

 

 オールマイト以外のヒーローなんて、すぐに化けの皮が剥がれる偽物だと思っていた。けれど、少なくともベストジーニストヒーロー事務所の面々に関しては間違いだったと思い知った。

 この恩はいつか、返さねばなるまい。ベストジーニストのサイドキックへの勧誘を、風華は二つ返事で受け入れるのだった。

 

「話しはこの辺にしておこうか。フーライ、爆豪!次の場所へ行くぞ!」

「はい!」

「おうよ!」

 

 

 〜

 

 

「緑谷出久!まったく……おかげで半年間の減給と教育権の剥奪だ!まァ、いろいろと情状酌量あってのこの結果だがな。取り敢えず身体が動いちまうところとか、本当にお前そっくりだよ俊典!」

「申し訳ございません……いやはや、私の教育が至らぬばかりに……」

「ま、教育権なんぞどうでもいい。もともとお前を育てるためだけに取った資格だったからな」

「その節は本当にお世話になりました。あなたの教えがあるからこそ、今の私があるのです」

「その割には忘れてたらしいな」

 

 いくらかゴタゴタも収まって。グラントリノはオールマイトと電話をしていた。内容は言わずもがなヒーロー殺しの件である。

 

 グラントリノがヒーロー殺しと相対したのは、時間にして数分もない短い時間。それでもあの殺気には戦慄させられた。強い思想……強迫観念からくる威圧感。オールマイトの持つ平和の象徴としての思想と似たような『カリスマ』があった。

 今後取り調べが進む度、ヒーロー殺しの思想は各メディアやネットで垂れ流されるだろう。今は良くも悪くも抑圧された時代である。必ず奴の思想に感化された人間は現れてくる。

 

「しかし……個々で現れたところで、今回のようにヒーローが対処するでしょう?」

「そこで『敵連合』だよ」

 

 繋がりが示唆された……この時点で敵連合は『雄英を襲って返り討ちに遭ったチーマーの集まり』から、『高潔な思想ある集団』であるとして、世間に認知される。

 

 受け皿は整えられていた。個々の悪意は小さいものであっても、集まればそれは何倍にも何十倍にも膨れ上がる。

 着実に外堀を埋めて、己の思惑通りに状況を動かそうというやり方。このやり方好む者を、2人はよく知っていた。

 

「俺の盟友であり、お前の師を殺し。お前の腹に穴を開けた男……オール・フォー・ワンが再び動き出したとみていい」

「信じ難い事実です。よもやあのような傷で生きていたとは……」

「ワン・フォー・オールの全て……ちゃんと緑谷に話しておけよ」

 

 バラバラだった悪意が、一つの熱に当てられて敵連合へ向けて動き始めている。今後の日本を襲う未曾有の危機……今回はまだ、そのきっかけに過ぎない些事であるということは、オールマイトは考えないようにしていた。

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