これからも、『風雷のヒーローアカデミア』をよろしくお願い致します。
時は流れ、6月最終週──……
……期末テストまで、残り一週間を切っていた。
「まっっっっったく!勉強してねええぇぇ!」
「あははー」
叫ぶ中間テスト最下位、上鳴電気。それに同調して乾いた微笑みを浮かべる20位、芦戸三奈。ここ最近は体育祭やら職場体験やらイベント続きでまったく勉強に身が入っておらず、今から既に特大の絶望感を漂わせていた。
「確かに……イベント続きではあったがな」
同意するのは常闇踏陰。中間テストでは15位であった。彼もまた、結構テストが危ない組の一人である。
「中間テストはまぁ、入学したてだったから範囲も狭くて特に苦労はしなかったけどなあ……行事がいろいろあったのもあるけど、期末は中間とは違って」
「演習試験が有るのも辛いところだよな」
そう。13位の砂籐が言うように、中間テストは対して苦労するような難易度がある問題は特になかった。12位だった口田も、コクコクと首を勢いよく縦に振ってその言葉に同意する。
そしてその言葉を引き継ぐように、10位の峰田が期末テストに存在する演習試験の存在を明らかにする。「アンタは同族だと思ってたのに!」と芦戸が裏切られたような気持ちを峰田に向け、「お前みたいな奴は馬鹿だからこそ愛嬌が出るんだろうが……!どこに需要があんだよ!」と上鳴が叫んだ。
「“世界”……かな」
「ムカつく!」
数少ない、峰田が優位に振る舞える機会。彼はこの機会を存分に堪能していた。
「あ……芦戸さん、上鳴君!弱音を吐く前にまずは頑張ってみようよ!やっぱりみんなで林間合宿行きたいから……ね!」
「うむ!言葉の前に行動だぞ!」
「普通に授業受けてりゃあ、赤点なんてあり得ねえだろ。ちゃんと家で休めてんのか?」
「クソァ!お前ら言葉には気を付けろ!」
中間テスト5位、緑谷出久。
2位、飯田天哉。
6位、轟焦凍。
励ましのつもりだっただろうが……成績上位者である彼らのその善意の言葉が、余計に上鳴と芦戸の心を深く抉ってきた。胸の痛みを鎮めるように、上鳴が拳を胸に当てて悶える。
「お2人とも……私、座学ならお力になれると思いますわ。演習の方はからきしでしょうけど……」
「……?」
「や、ヤオモモ〜!」
「女神……!」
最後の方で自虐をしていたが、それは聞かなかったことにして。中間テスト成績1位の八百万から出たありがたい申し出に、ビリとブービーの2人は遠慮なく飛びついた。
「お2人じゃないけど……ウチもいいかな?二次関数のところちょっと躓いててさ……」
「え」
「悪りぃ!俺も頼めるか八百万!古文マジで苦手なんだよな!」
「え?」
「俺も……一応お願いしてもいいかな」
「えっ!?まあ……!良いデストモ!!!」
友達に頼られて、とても嬉しそうな八百万。大勢からの『勉強教えてください!』の申し出を、全て二つ返事で引き受けるのだった。
8位、耳郎響香。
18位、瀬呂範太。
9位、尾白猿夫。
それぞれ苦手科目があったり、どれもそこそこできるけど所詮はそこそこ止まりだったり。期末テストは中間など比にならないくらい難しくなることを考えると、勉強を教えてもらうに越したことはない面々は喜びを隠さずに両手を上げて喜んだ。
「この人徳の差よ」
「人徳なんざ俺にもあるわてめェ!教え殺したろうかァ!?」
「おっ、ありがてえ!頼む!」
そんな微笑ましいやり取りを見て、15位の切島が4位の爆豪を煽るように言った。当然の権利のように煽りに乗っかった爆豪は、切島の狙い通りにテスト勉強の面倒を見させられるのであった。
「……みんな、楽しそうだね」
「羨ましいなら、混ざりに行ったら?」
「……やめておくよ」
人に物を教えるという経験があまり無い風華は、彼らが楽しそうにやり取りをするのを後ろから眺めるだけに留めていた。ちなみに、風華の中間テスト成績は飯田に並ぶ2位である。
〜
昼休み、食堂。
「筆記試験は、授業の範囲から問題が出るから何とかなると思うんだけど……やっぱり、演習試験の内容が不透明なのは怖いね」
「そう突飛なことはしないと思うがな……」
「筆記は何とかなるんやねえ……」
食卓をみんなで囲みながら、演習試験の内容について予想を立てていく。「筆記はまだどうとでもなる」と言う緑谷と飯田の余裕ぶりに、14位だった麗日は羨ましそうに呟いた。
「一学期で学んだことの総合的な内容」
「としか相澤先生、教えてくれないんだものね」
「一学期でやったことといえば……戦闘訓練とか救助訓練、あとは大体基礎トレだよね」
相澤が演習試験に関して生徒達に教えたことは、『一学期で学んだことの総合的内容』ということだけであった。飯田が言っていた通り、あまり突飛な内容は来ないと思っているが……一学期でやってきたことは麗日が挙げた通りそう多くない。これだけでは内容を考察するのには不十分であった。
「まあ、内容が何にせよ……僕らがするべきことは試験に備えて、勉強も体力面も万全にしておくことくらいで……」
「あ、演習試験の内容ですか?」
「おや、立甲さん!何か知っているのか!?」
準備は万全に。そう言って緑谷が不毛な考察を締め括ろうとしたその時、B組の面々と食事をしにやってきていた葵が話に割り込んできた。職場体験以来の顔合わせということもあって、飯田が久し振りだなと気さくに声をかける。
「演習試験は、入試の時のようなロボット相手の実戦になるそうですよ。一佳ちゃんが先輩から情報を聞いてきてくれたんですよ」
「いち……ああ、拳藤さん。B組の委員ちょ……」
「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね!」
「君は……えっと、物間君!」
葵から齎された演習試験の情報。その出所となった生徒の名を緑谷が言おうとしたその時、大きくて無神経な声がそれを遮った。
B組の負の面、物間寧人。何かにつけてA組を目の敵にして突っかかってくる、ハッキリ言って傍迷惑な男である。
「USJ襲撃とか体育祭とかに続いてほんと注目を浴びる要素ばっかり増えていくよねA組ってただその注目って決して期待値の高さとかじゃなくてトラブルを惹きつけるとか引き起こすとかそういつ意味での注目だよね!」
「!!?」
「あー怖い!いつか君達が呼んだトラブルに巻き込まれて僕らにまで被害が及んでしまうかもしれないなああーそういうことを君達といたら想像してしまうよくわばらくわばら」
「洒落にならん……飯田の件知らないのか?」
「ゴフッ!」
「あ、一佳ちゃん」
相変わらずA組に対して対抗心を向け、ここぞとばかりに捲し立てる物間。段々と言い分がエスカレートして洒落にもならなくなってきたところで、B組の姉御こと拳藤一佳による制裁が入った。
首筋に手刀を一発。目にも止まらぬ早業で物間の意識を一瞬で昏倒させ、倒れ込む彼から持っていた料理の乗ったプレートを奪い取った。そのままそれを机の上に置き、意識を失った物間をしっかりと椅子に座らせる。鮮やかな手捌きに、その一幕を見ていた周りから拍手が巻き起こった。
「ごめんなA組。こいつちょっと心がアレなんだよ」
「心が……」
「まぁ、物間のことはいいや。それよりも演習試験の内容、葵から聞いた?」
「あ……そういえば、一佳ちゃんにみんなに話していいか許可を貰っていませんでした。勝手に話してしまいました、ごめんなさい」
「いいよ別に、どうせ伝えるつもりだったし」
勝手に情報を伝えて済まないと謝る葵に、それをあっけらかんと笑って許した拳藤。さっきの物間とのやり取りも踏まえて、やはり拳藤こそがB組の姉御的存在なのだなとみんなが思った。
「先輩に聞くのは、ちょっとズルいと思ったけど」
「いやいや、ズルくなんかないよ!内容の不透明な試験に関して情報をどうやって集めるのかっていうのもきっと試験の一環として練り込まれていたんだと思うなそうだよ先輩なら去年同じ試験を経験しているはずなんだから内容を知っているに決まってるじゃないか何でこんな初歩的なことを思いつかなかったんだろうそこは本当に悔やまれるぞいやそういえば僕は勉強とかトレーニングとか個性研究所での特訓ばっかりで上級生や他の科の生徒と交流する機会をほとんど得ていなかったなそういう縦や横の繋がりもしっかり大事にしていかなくちゃ」
「……!大丈夫、なんだよな……?」
「うん。スイッチ入るといつもこうなの」
「……ッハ!良いのかい拳藤!?情報のアドバンテージは大事なんだぞ!勝手に情報を横流しした立甲はしっかりと咎めるべきじゃないのか!?こういう機会こそ、憎っくきA組を出し抜くまたとないチャンスだというのに……!」
「憎くはないっつーの」
意識を取り戻し、再び毒づいた物間の首を手刀で落とす。そのまま彼の身体を食事の乗ったテーブルに向けさせ、自分は「それじゃあ」と挨拶をして友人の待つテーブルへと消えていった。
「それじゃA組の皆さんも、試験頑張ってくださいね」
「あ、ああ……」
〜
「何だよー!ロボ相手なら楽勝だぜ!」
「やったー!」
「お前達は、対人だと個性の調整が難しそうだからな……」
B組から入ってきた情報を聞いて、安心したのか高らかに笑い喜びを表現する2人。上鳴の帯電と芦戸の酸は、どちらも対人戦で使うにはとても神経質にならざるを得ない個性。それが相手がロボットで気を使わなくて良いともなれば、テンションが上がってくるのもまぁしょうがないことだと言えた。
「ブッパでラクチン!」
「イェーイ!」
「勉強もヤオモモに教えてもらってな。これは期末テストもバッチリ全員合格かあ?」
「これで林間合宿は確定したようなものだぜ!」
「ケッ……相手が人だろうがロボだろうがブッ飛ばすのは同じだろ。何がラクチンだよアホが」
「アホとは何だアホとは!」
「るっせえな!個性の調整なんざ、意識しなくても勝手にできるものだろうがよ!だからアホだっつってんだよ!なあ!?鳴神ィ!?」
「いや、そんなことはないと思うけど」
高笑いする上鳴に、アホなことを言ってるんじゃないと突っかかる爆豪。突如向いた矛先を、風華はごく自然に受け流した。実際、勝手に制御できるような個性なら苦労はしていない。
「体育祭のような半端な結果はいらねえ……次の期末なら、個人成績で否が応にも優劣がつく!完膚なきまでの差をつけて!俺が頂点だって証明してやらあ!逃げんじゃねえぞ、鳴神……!」
「……荒れてるなあ」
「デクゥ……轟ィ……!てめェらもなあ……!」
「俺もか」
「っ……!!」
教室から出ると、爆豪は開いていたドアを勢いよく閉めて帰っていった。バァンと大きな音を立てて閉まったドアは、そのまま反動で再び元のように全開となる。いきなりキレ出した爆豪に対して、それを見ていたみんなは困惑の表情を浮かべていた。
「何であんな荒れてんだ……?」
「久々のガチバクゴーだったな……」
「焦燥……?いや、或いは……」
「職場体験が終わった後で……葵と2人で、勝己をボコボコにしてやったからかな?」
「それだろ!」