風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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期末テスト:その5

「あ……治療ありがとうございます……リカバリーガール……」

「まったく、アンタは本当に加減を知らないね!もう少し強くやってたら、2人とも怪我が取り返しのつかないことになってたよ!特に緑谷の腰!神経が傷付いてたらアタシでも治せないんだからね!」

 

 試験を終えて、緑谷と爆豪はオールマイトに連れられてリカバリーガールの治癒を受けていた。途中で意識を取り戻した緑谷は、オールマイトがリカバリーガールにきつく説教をされているところを見てしまっていた。憧れの人が叱られて縮こまっている姿を見るのは二度目だが、やはり何とも言えない気持ちになる。

 

「爆豪の方は、まだしばらくは目覚めないだろうから校舎内のベッドに寝かせておきな。緑谷、アンタももう少し治癒をしたら移動させるよ。先に合格した轟達も、そっちで休んでるからね」

「あ……リカバリーガール。僕、ここで見てちゃダメですか?」

「フラフラなってんだろ、しっかり休まんと……」

「いや!こんなじっくりプロとみんなが戦っているところを見れることなんて、そうそうない機会だと思うので……!」

 

 いや、割と機会はあるだろう。そうツッコんだリカバリーガールだったが、無茶なことはしないという条件で承諾した。許可を貰えたことで緑谷はすぐにベッドから起き上がり、身体をモニターの正面に向ける。動きが速過ぎたのか、背中に激痛が迸って「イッヒ!」と叫び声を上げていた。

 

 まったく……強くなるよ、君は。

 

 そんなやり取りを微笑ましいもののように眺めながら、オールマイトは心の中でそんなことを思った。

 見るのはそこそこに、気絶している爆豪を抱え上げて校舎内のベッドまで運んでいく。いつも騒がしい男が大人しくなっているのは、それをさせたのが自分とはいえ不思議な気分であった。

 

 そして爆豪少年……君もだ。

 

 入試で多くの仮想敵に当たった時。USJで敵連合の襲撃を受けた時。体育祭で緑谷や風華のような強敵と対峙した時。爆豪は、困難や高い壁を前にした時こそよく笑う。

 自分の前に立ち塞がる壁など、成長のための糧でしかないと言わんばかりに。

 

「運び終わったら、私も休まないとな!鳴神少女と立甲少女を同時に相手取るのはキッツいぞ……!」

 

 あと20分もすれば、オールマイトには次なる戦いが待っている。それに備えて、今は休もう。爆豪を運ぶ道すがら、そんなことを考えるのオールマイトなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……今回テストとは言いつつも、各々の課題を意図的にぶつけてるんですよね?」

「そうさね」

「何となく分かる組もあるんですけど……僕らみたいに仲が良くないとか。中には見ただけじゃあんまり分からない組もあって……」

 

 蛙吹・常闇ペアの映るモニターを見て、緑谷は疑問を口にした。コミュニケーションにも問題はなく個性の使い方も上手い蛙吹と、黒影との連携でほぼ無敵の状態になれる常闇。緑谷では、この2人にどんな課題があるのかというのがいまいち想像できなかった。

 エクトプラズムの個性は『分身』。口からエクトプラズムを飛ばすことで、任意の位置に自分の分身を送り込める。一度に出せる人数はだいたい三十二くらいであり、喉の調子が良ければ更にそれ以上の数を出すことも可能となる。

 

「先生の個性は確かに強いけど……あの2人にとっての天敵だとは思えなくて……」

「いや、天敵さね。特に常闇にはね」

 

「すまん、黒影!」

「キリがないわね」

 

 黒影の真価は、中距離戦で発揮される。それは裏を返せば近距離戦では脆いということ。

 間合いに入らせない射程距離と、素早い攻撃速度。黒影の耐久力や耐性なども相まって強い相手にはとことん強いが、間合いに入れる相手に対してはほとんど無力なのだ。

 

「なるほど……それで、数と奇襲性のエクトプラズム先生なんですね。常闇君の個性って、ほぼ無敵のようなものだと思ってました」

「その一方で、蛙吹梅雨……彼女の方は課題らしい課題のない優等生だね。故に、今アンタが言ったように『強力な仲間の僅かな弱点』をもサポートできるか否かってところが見られてる」

 

「常闇ちゃん……見えてきたわ。恐らくご本人」

「ゴールもあるな……ここが正念場か」

「アノ数ヲヨクゾ凌イダナ……ダガ、コレナラドウカナ?」

 

 脱出ゲート前までやって来た2人を見て、エクトプラズムはその実力を讃えながらも最後の関門となる必殺技を発動した。

 

『強制収容ジャイアントバイト』

 

 複数に分けられていた分身を一つに纏め、それによって超巨大な一つの分身を創り出す。その大きさと言えば、生成されたその瞬間にもう2人の元へ辿り着くほどであった。

 

「避けっ……!」

「……」

 

 避けようとしたが、それは不可能である。巨大な分身の口に一瞬にして飲み込まれ、肉の中に拘束されてしまった。

 

「数ハ出セナクナルガ……視認デキルナラバコノ一体ダケデ事足リル。分身ノ解除ハ、我ノ意思デノミ行ワレル……サァ、ドウスル?」

「何たる……万能個性!」

「フミカゲ、動ケネエ!」

「ゲコ……」

 

 拘束された常闇は、せめて黒影だけでも脱出ゲートをくぐれるようにと彼を向かわせる。しかし当然エクトプラズムはそれを阻み、突破しようとする黒影と阻むエクトプラズムで千日手となった。

 

「やはり、プロを相手に真正面は無理か……!」

「でも、届いてる。これならチャンスはあるわ。黒影ちゃんに先生にバレないようにこれ持たせてちょうだい、常闇ちゃん」

「コレ……どれだ?」

「あんまり……見ないでね。先生にバレちゃうしそれに……とっても醜いから」

 

「ギャン!」

「アト10分弱……コノママ続ケルカ?我ガ欲スルノハ、逆境ヲ打チ崩スヒーローノ瞬キ」

 

 エクトプラズムの蹴りによって、常闇の元まで飛ばされた黒影。蛙吹から渡されたそれを受け取って再び突撃。エクトプラズムにぶつけた。

 

「身動きを封じられたら、勝機がコレだけになっちゃうから……咄嗟に飲み込んだのよ。私の胃袋は物の出し入れが可能だから」

「ナルホド……!」

 

 黒影がぶつけたのはハンドカフス。ジャイアントバイトに捕まる前に咄嗟に蛙吹が胃袋の中に隠していたことで、拘束された後でも問題なく黒影に渡すことができていたのだ。

 これにより、蛙吹・常闇ペアも条件達成。3組目の試験合格チームが誕生した。

 

「カフスは掛けることさえできればクリアだ!常闇君と梅雨ちゃん、両方の個性を巧く活かした!」

 

『蛙吹・常闇ペア、条件達成だよ!』

 

 

 〜

 

 

【芦戸・上鳴ペア】

 

「上鳴〜放電で何とかできない!?」

「無茶言うな!どこに潜んでるかも分からないのに無駄撃ちなんてできねーよ!そんなに足手纏いが欲しいのか!?」

「いやい……どわあ!?」

 

「何処を壊せば、どう連鎖していくか!そんな計算は紅茶を美味しく淹れるよりも簡単なことさ!そして君達は気付かない……脱出ゲートへの道は着々と封鎖されていっていることにね!」

 

 ──頭脳派敵は高みの見物さ!

 

 根津は高笑いしながら紅茶を飲むが、まったく喉を通っていない。かつていろいろと人間に弄ばれた過去がある根津は、こういう時になるとうっかり素が出てしまうのだ。

 

 根津、個性『ハイスペック』。人間以上の頭脳という個性が発現した動物である。世界にも類を見ない唯一無二の存在だ。

 

「これは……あの2人にはキッツいぞ……!」

「根津……私怨が出てるよ……」

 

 

【切島・砂籐ペア】

 

 

「壊しても壊してもキリがねえ……!」

「うう……眠い……ダルい……」

「おおい砂籐!しっかりしろぉ!」

 

 砂籐力道、個性『シュガードープ』。糖分10gにつき、3分間パワーが5倍になる。しかし個性の使用後は、糖分不足で次第に脳機能がダウンしていってしまう。セメントスのどれだけ壊してもキリがないセメントの壁の波状攻撃に、個性の限界を迎え始めていた。

 

 切島の方も、かなり限界が近い。何処から来るか分からないセメントの硬さを突破するために常に気張らなければならず、自慢の硬度には既に綻びが出始めていた。

 

「……君達は、消耗戦に極端に弱い。速攻で僕を抑えるべきだったね。戦闘ってのは、どれだけ自分の得意を押しつけられるかだよ」

 

 最早、打つ手なしである。

 

 

【飯田・尾白ペア】

 

 

「くけけ……足場が悪いなら、そもそも地面に立たなきゃいいか。いい発想だったぜ」

「お褒めに預かり光栄です!」

「飯田……せめて土中から出な?」

 

 パワーローダー、個性『鉄爪』。自慢の硬い爪で土中を掘り進んで足場をガタガタにし、落とし穴をいくつも作って2人を埋めるつもりであったが、飯田が『レシプロエクステンド』によるエンジンの超稼働を空中に浮かびながら使ったことで、接地することのない高速の平行移動──擬似的な飛行を可能として目論見は崩されてしまった。

 

 いや、それだけでは2人が脱出ゲートまで届くことはなかった。飯田1人分の重量ならばともかくとして、今回は尾白を背負っていたことで2人分の重量がエンジンにかかっていたからだ。

 脱出ゲートまでは僅かに届かず、飯田は落とし穴にすっぽりとハマってしまった。しかし背負われて尾白が、付近で唯一の安定した足場である飯田の背中を使って尻尾による跳躍を行ったことで、パワーローダーに捕まる前に脱出ゲートをくぐることができた。両者の個性をしっかりと活かしたことで、見事に条件を達成することができたのだった。

 

「尾白君……引っ張り上げてくれないか。上がろうとしたら土が崩れて上がれんのだ」

「締まんないなあ……」

 

 

【瀬呂・峰田ペア】

 

 

「ちくしょおおおぉぉ!羨ましすぎるぞ瀬呂てめぇこの野郎おおおぉぉ!!」

「グレープジュース……そっちじゃないわ。そっちはゲートとは反対方向よ?」

 

 ミッドナイト、個性『眠り香』。身体から放たれる香りで、強制的に相手を眠らせる。男性の方が女性よりも効きやすい。

 瀬呂は真っ先にこの香りを食らい、ミッドナイトの膝の上でダウンしてしまっていた。今は試験など忘れてグースカと寝息を立てている。峰田はその様子を、血涙を流しながら見ていた。当然、眠り香の範囲外に逃げることは忘れていないが。そのせいで脱出ゲートとは反対方向に行ってもいた。

 

『青山・麗日ペアが条件達成だよ!』

 

「んだよ……ギリギリでどんどこクリアしていきやがって……!何でオイラの試験はこんなクソゲーなんだよ!一嗅ぎすりゃその時点で瀬呂みてぇにゲームオーバーだぞ!?」

 

 この少し前に、障子・葉隠ペアが条件を達成したという報告もされている。そのことが少なからず峰田を焦らせていたが……実のところ、彼は合格するための策を実行している最中であった。

 

 モテたいと、思っていた。この小さくてあまり格好良くはない体格のせいで、この公衆の面前に出していいようにはできていない性根のせいで、峰田はモテるどころか異性とコミュニケーションを取った経験すら殆どなかった。

 ヒーローになれば、ヒーローはカッコいいものだからモテるだろうと漠然と思っていた。

 

 

 ──君のヒーローとしての心は……性欲なんかに負けたりしないって信じてるよ。

 

 ──戦って……勝つこと!

 

 

 そう、思っていたのだ。

 

「ホギャアッ!?」

「時間いっぱいまで、ゲート前で粘るってのも考えてたけど……やっぱりそんなのあんまりよね」

「もう追いついてきたのかよ……!」

「こんなに、ピーピー喚きながら逃げられちゃうとあたし……嗜虐心が疼いちゃって仕方ないの」

 

 逃げる足を背後から飛んできた鞭が止める。起き上がりながら峰田が背後を振り向くと、そこには笑みを浮かべたミッドナイトの姿があった。嗜虐的にペロリと舌を舐めざる姿は、まるで野生の捕食者のそれを彷彿とさせるよう。峰田は、自分がコレから捕食される獲物のように感じられていた。

 

「やっべ……!」

「そう……鼻でも口でも、一度でも吸い込んでしまえば昏倒する!その状態で、あなたにいったい何ができるっていうのかしら?」

「〜〜!」

「そうよね、逃げるしかないわよね!」

 

 ヒーローは、カッコいいからモテるのだとずっと思っていた。でも、それは違うと知った。

 

 USJで本物の敵の悪意に晒された時、緑谷は自分にできることを探してそれをやり遂げた。蛙吹は常に冷静でいるように努め、暴走する風華をここぞというタイミングで抑えられるよう仕向けた。

 その姿を見ていたから、その場に自分も立ち会っていたからこそ分かった。ヒーローだからカッコいいのではなく、カッコいいからヒーローと呼ばれるのだと。

 

 自分も、そうなれると言ってもらった。今までまともに女子と話した経験なんてなかったのに、その女子は峰田に、「君はヒーローになれる」と言ってくれた。

 

 あの時、誓ったのだ。彼女の言葉に恥じないようなヒーローになってみせると。

 

「あと2分ちょっと……その間ずっと、息を止めてるつもりかしら!?」

「違ぇんだよなあ……!オイラが、アンタみたいなドスケベヒーローのファンじゃない訳がねぇだろ!ここまで逃げてきたのも!弱音ぶちまけてたのも!アンタの嗜虐心を煽ってここまで引っ張ってきたのも!」

「へぇ……!」

「全部!カッケぇ男になるためなんだよなあ!」

 

 岩陰に隠れ、一旦鞭の射程から外れる。ミッドナイトの煽りを流しながら、峰田は着々と勝つための用意をした。そして覚悟を決めて──自身の決意を込めて叫んだ。

 

「手の内ってこと!?いいよ、させたげない!」

「アンタの香りも……これなら効かねえ!」

「これは……瀬呂君のテープ!?でも、そんな窒息状態でちゃんと戦えるのかしら!?」

「戦う必要は……ねぇ!」

 

 飛び出した峰田は、事前に瀬呂の個性で出してもらっていたテープを口に巻きつけて眠り香を嗅ぐのを防いでいた。しかし、これでは呼吸をすることができずにいずれ窒息してしまうだろう。そこを指摘しながらミッドナイトは鞭を振るったが、そうさせることこそが峰田の狙いであった。

 もぎもぎを大量にちぎって投げつけ、ミッドナイトの足元や手元、振われた鞭にくっつける。鞭や靴に付いたもぎもぎはミッドナイトをしっかりと地面にくっつけ、離せなくした。その瞬間を見届ける前に峰田は全速力で瀬呂の元まで走り、彼を担いで共に脱出ゲートをくぐる。嘔吐しながらも必死に酸素を補給し、残り時間数十秒というところで条件達成と相成った。

 

「ゲートから離れた所に張り付けて、眠り香の射程範囲外に……!」

「器用だねぇ……あたしゃすっかり騙されたよ!」

 

 モニターで見ていた緑谷とリカバリーガールも、太鼓判を押す程の名演技。『モテたい』も突き詰めれば一つの目標である。ゲートをくぐる峰田を見てリカバリーガールは、彼への評価を上方修正するのだった。

 

「今回ばかりは……オッパイお預けだぜ!」

 

『瀬呂・峰田ペア、条件達成だよ!そしてタイムアップさね!期末試験これにて前半終了だよ!』

 

 終了を告げるアナウンスが流れる。この試験で一歩前に進んだ者も、壁に阻まれた者も。悲喜交交の中で20人の山場が終わった。

 

「あれ……前半?」

「まだ終わってないのがいるだろ?」

「あ……そうだった!鳴神さんと立甲さん!」

 

 前半終了、という言葉に緑谷が疑問を唱える。リカバリーガールはその言葉に対して、呆れたようにそう答えた。これからさっきまで自分達が戦っていたあの場所で、再び戦いが始まるのだ。一緒に行ったのに忘れてたとは薄情な、と。

 

「うぅ……これもちゃんと見とかないと!」

「オールマイトの戦い……直に経験するのと側から見ているのではまた違うからね。見るならちゃんと見ておくんだよ!」

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし。いこうか」

「ええ、合格してやりましょう!」

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