風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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合宿は事前準備が一番楽しい

「合理的虚偽……またしてもしてやられた!しかしこうも虚偽を重ねられては、信頼に揺らぎが生じてしまうと思います!」

「わあ、水差すね飯田君」

 

 合理的虚偽によって、何とか林間合宿への参加権利を得ることができた不合格組+瀬呂。彼らが感激に咽び泣く中で、飯田は委員長として嘘を何度も重ねるのはよくないと相澤に忠言した。

 相澤には個性把握テストの時も嘘をつかれていたこともあって、二度も騙されたことへの悔しさがあるのだろう。

 

「確かにそうだ。省みるよ。ただ、全部が嘘って訳じゃあない」

「え?」

「赤点は赤点だからな。お前らには合宿中、別途で補習時間を設けてある。ぶっちゃけ、学校に残っての補習よりもキツいからな」

「────!!」

 

 押し黙る不合格組。いったい補習ってどんなことをするんだとか、キツいってどれくらいのことを言ってるのとか、いろいろ言いたいことはある。だがそんな葛藤を無視して、普通に合宿のしおりを配り始めた相澤の姿を見れば、口を噤むしかなかった。

 

 

 

 

「ま、何はともあれ。林間合宿全員で行けるようになってよかったな」

「一週間の強化合宿か……!」

「一週間分となると、結構な大荷物になるね」

「水着とか持ってねーや。パンツとかも履き古したの持ってく訳にもいかねーし……いろいろ買わないといけないか?」

 

 着ていく服やタオル、自由時間に思いっきり遊んでやるための水着など。一週間分の荷物ともなれば必要なものはかなり多くなる。買わなければいけないものが多くなるなという上鳴の言葉に、それならばと反応した葉隠がクラスに提案をした。

 

「じゃあさじゃあさ!明日は祝日でお休みだしテスト明けたばっかだしさ……A組のみんなでお買い物に行かない?」

 

 クラスのみんなでショッピング。こういったプライベートな場で全員が集まったことは、これまでは一度もない。初めてのクラス会的な催し物の提案を受けて、ほぼ全員が乗り気となった。

 

「良いね!何気に初めてじゃんこういうの!?」

「おい爆豪、お前も来いよ!」

「誰が行くかよ、かったりィ」

「轟君も一緒に行かない?」

「悪いな……休日はお母さんの見舞いだ」

「ノリが悪いよぉ!空気読めやお前らあ!」

 

 わいわい、がやがや。周りと積極的にコミュニケーションを取る気がない爆豪と、用事があって行けない轟以外はみんな参加することが決定した。後はそんな騒ぐ彼らの様子を、何だかソワソワとしながら眺めていた風華だけ。

 

「風華ちゃんは、どう?一緒に行く?」

「うん……こういうのは、初めてだから。ちょっと楽しみにしてるんだ」

「なら鳴神ィ!オイラが着いてってやるぜ!」

「それはいいかな……」

「何でだよ!?」

 

 風華は中学までずっと、プライベートの時間は個性研究所での訓練に当ててきた。関わりがあった相手といえば、葵をはじめとする研究の面々や雷羽と叔父夫婦くらいであり、クラスメイトと一緒に何処かへ出かけるという経験はこれまで一度もしたことがなかったのだ。

 故に、葉隠の提案に対して風華は少なからず期待を寄せていた。

 

「じゃあ明日、11時に現地集合ね!」

 

 

 〜

 

 

「お姉ちゃん、明日はお休みだったよね!一緒にどっか遊びに行こうよ!」

「ごめんね、雷羽。明日はクラスのみんなと一緒にお買い物に行くことになってるんだ」

「A組も皆さんで一緒にお買い物ですか?」

 

 放課後。

 

 研究所に遊びにきた雷羽が、明日は一緒に遊びに行きたいと風華におねだりする。しかし風華は既に約束を取り付けているので、雷羽のお願いを聞くことは叶わなかった。雄英に入ってからの姉はとても忙しそうであり、一緒に遊ぶ機会も昔と比べてかなり減ってしまった。

 久しぶりに一緒に過ごせると思ったのにと、頬を膨らませて不満を露わにする雷羽。風華はそんな妹の頭を撫でて、宥めてやるのだった。

 

「しょうがないですね……雷羽ちゃん、明日は僕と一緒に遊びに行きましょう!何処でも行きたい所に連れてってあげますよ!」

「あれ……さっきの口ぶりだとさ、B組もみんなでお買い物に行くんじゃなかったっけ?葵お姉ちゃんは参加しないの?」

「僕はもう必要な品は揃えてありますから。一緒に買い物に行かずとも良いのですよ。という訳でふうちゃん、雷羽ちゃんは僕が見ておきますから、安心してお友達との交流を深めてきてください」

「ありがとう、葵。助かるよ」

 

 準備の良い葵のアシストも受けて、明日は何も気にすることなく出かけられるようになった。強いて言うなら、預ける相手が葵であるというのが不安要素であるが……小学生相手ならば、いつもより用心深くなるであろうし大丈夫だろう。

 もう10年以上、葵との付き合いはかなり長い。風華は彼女のことを信じることにした。

 

「お姉ちゃん、行こっ!葵お姉ちゃんも!」

「もう帰るの?叔父さんもまだ迎えには来ないはずだけど……」

「ちーがーうよ!明日、お姉ちゃんが着てくためのお洋服を買いに行くの!お姉ちゃんはいっつも訓練ばっかりで、よそ行きのお洋服なんて制服くらいしか持ってないでしょ?だから買いに行くよ!」

「今から?それに、僕も行くんですか……?」

 

 問答無用!と、雷羽に連れ出されて2人は研究所の外に出ることになった。時間はまだ夜の8時くらいなので余裕はあるが……ファッションなどには疎い風華と葵は、姉にオシャレをさせようと張り切る雷羽によって二時間程振り回されるのだった。

 

「さ、まだまだ回るよ!」

「強引過ぎですよ……いったい、誰に似たからこうなったんですかまったく……!」

「叔父さんじゃないかな……あと、しっかり付き合ってくれてありがとうね」

「……帰りに、コーヒーでも奢ってください」

 

 

 〜

 

 

 翌日。

 

「ってな訳でやって来ました!県内最多の店舗数を誇るナウでヤングな最先端!木椰区ショッピングモール!」

「昨日はここじゃなかったからな……こんな大きいショッピングモールなんて初めてだよ」

「マジかよ鳴神!」

「じゃあ、今日は特別な日だね!」

 

 結局爆豪が参加することはなく、当初の予定通り轟と爆豪を除いた19人がショッピングモールに集合した。風華は初めてということもあり、遊園地に来た幼児のように、目を輝かせて辺りをグルグルと見回していた。

 昨日雷羽に服屋を連れ回されたことで、よそ行きの服装もバッチリ決まっている。買い物に行くための買い物をするのはどうなのかと昨日の時点では思っていたが、こうしてみんな普通にオシャレをしているのを見てしまえば、ちゃんと買い物に行って正解だったと思うものだ。

 もしも着ていく服がないからと、制服で風華がこの場にいたならば。その浮きっぷりは尋常ではないものとなっていただろう。

 

「腕が6本のあなたにも、ふくらはぎがゴツゴツしてるあなたにも!きっと見つかるオンリーワン!」

「個性の差によって生ずる多様な個々人の差や形態をただ数でカバーするという訳じゃないんだよねティーンからシニアまで幅広い世代の感性に合ったお店の様式やデザインが集まっているからこその県内最高の売り上げや集客数を誇っているんだ駐車場を見たら家族連れが乗るような大きめの車ばっかりでそれはつまり大人から子どもまで誰もがこのモールにニーズを持っているという訳で」

「緑谷、幼児が怖がるぞ。よせ」

 

「え、アレ雄英生じゃん!?一年の!みんな体育祭カッコよかったよー!ウェーイ!」

「うおお……まだ覚えてる人が!」

 

「取り敢えずウチ、大きめのキャリーバッグ欲しいんだけど何処に売ってるかな?」

「一緒に回りますか?私、このモールには何度も足を運んでおりますので。案内できるかと」

「マジ!?よろしくヤオモモ!」

 

「ピッキング用品とか、小型ドリルとか暗視ゴーグルとかって何処に売ってるんだ?」

「やめなさい」

 

「俺はアウトドア系の靴が欲しいな!」

「あ、それ私も欲しいかも!」

「いや、しかし靴は履き慣れた物の方が結局は快適だということもままあるぞ!それに履き慣れた物にしろとしおりにも書いてあ……いや、しかし成る程用途に合わせるべきなのか……?」

 

「みんな欲しいもの違うっぽいし、時間決めて自由行動ってことにするか!」

 

 切島の鶴の一声で、ワイワイ買いたい物や揃えておくべき物について話し合っていたみんなは一斉に散開した。

 ポツン、と3人が残される。独りぶつぶつとモールの凄いところについて呟いていた緑谷と、特に買いたい物が多くない麗日、そして浮かれている間にみんながいなくなっていた風華だ。

 

「みんな、行動早いな……」

「だねぇ……」

「2人はどうするの?わたしは昨日で衣服系は買い揃えたから、後は容量の大きな蓄電池とかあったら買いたいんだけど」

「蓄電池……何に使うん?」

「葵の熱を発散させるためのものがね。あの子は個性を使わないと身体にたくさんの熱量を溜め込んじゃうから、定期的に何かしらして発散させないといけないんだよ」

 

 普段はバイクのエネルギーとして消費することで熱量を発散しているが、合宿中にバイクを運転する訳にもいかない。個性を強化するための林間合宿であるし、個性が使えないということはないはずだとは思っているが……それでも、用意しておくに越したことはないだろうと考えていた。

 

「はあ……立甲さんも大変なんだね。僕は、新しいウェイトリストとかのトレーニング用具かな。麗日さんはどうするの?」

「ウチは虫除けを……」

 

 緑谷に話しかけられ、彼の顔を見つめる麗日。その目は何だか熱を帯びているようで、それはまるで恋する乙女の──

 

 

 ──君、緑谷君のこと……

 

 

「虫除けぇ────!」

「えっ……麗日さん!?麗日さーん!?」

「……行っちゃったね」

 

 演習試験の時、ペアとなった青山に言われた言葉が頭の中から離れてくれない。そんな感情じゃないはずなのに。言われてからずっと緑谷のことを意識してしまっている。

 

 違うのだ。別に、そういうのではないのだ。

 

 本当に……

 

「せっかくみんなで来たのに、2人だけになっちゃったね。どうする?わたし達も買い物しに行く?」

「あっ……そうだね!行こうか鳴神さん!」

「おー、雄英の人じゃん!スゲー!」

「……」

 

 もう誰もいなくなってしまったが、自分達も必要な物をちゃんと買いに行こう。そう風華が提案して2人が動こうとしたその時、背後から現れた黒いパーカーの男が声をかけてきた。

 緑谷はその声を聞いた風華から、沸々と怒りが湧き上がってきているのを感じた。赫災領域は展開されていないはずなのに、怖気と鳥肌が止まらなくなってしまっている。いったいこの男に何があるというのだろうか。振り返って確認しようとしたその時には、男は馴れ馴れしく2人と肩を組んでいた。

 

「んで確かさぁ、保須でヒーロー殺しと遭遇したんだって!?よく無事でいられたよなぁ!」

「よくご存知で……?」

「……」

「いや、ホント信じらんないぜ。まさかこんな所でまた会うとは!」

「は……?」

「ここまでくるとさ……運命とか感じちゃうよ」

 

 違和感を感じた時にはもう遅かった。男は緑谷の首筋に中指以外の4本の指を当て、左手でも風華に対して同じようにしようとしたが……そっちは逆に手を掴まれて失敗に終わる。

 

「ははっ……痛ってえ」

「……何をしに来た?死柄木弔」

「しっ……!?」

「しー。別に、何か企んでる訳じゃねえよ。今回はただお前らと話をしてみたかっただけだ。お茶でもしようぜ……緑谷出久。鳴神風華」

 

 大勢のお客さんで賑わう、休日の大型ショッピングモールではあり得ないはずの邂逅。始まりとなる雄英襲撃以来……敵連合の首魁、死柄木弔と期せずして二度目の相対をするとなった。




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