風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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インタビュー・ウィズ・緑谷&鳴神

 ──信念なき殺意に、何の意義がある?

 

 深くフードを被って顔を隠しながら、死柄木はショッピングモールの中を練り歩いていた。ステインとの邂逅以来、ずっと心に引っかかっている疑問の答えを探すために。

 

「……見てみろよ、ヒーロー殺し。お前のやったことなんて、この中の誰にも響いちゃいねえ」

 

 ヒーロー殺しの行った所業など、大多数の一般市民にとっては対岸の火事……いや、そうとすら思ってもいないだろう。

 何処で、誰が。どういう信念を抱いて何を壊し殺そうとも、そんな事情など知る由もない一般市民はヘラヘラと笑いながら生きている。よくて金儲けのためのオモチャとして使われるくらいだ。

 

「うっわ……良いのかよコレ?」

「ヒーロー殺しのコスプレセット……こんなん絶対問題になるだろ!」

「チョー不謹慎じゃん!面白!」

「ハハハ、すっげえ!」

 

 その一方で……偽物のヒーローを間引き、危機意識を与えることで、ヒーローと社会をより良いものとする。そんなステインの思想とはおおよそ遠いところで彼のシンパが生まれている。彼の主張に熱いものを覚えた、彼の最も嫌悪する人種が、こぞって敵連合に向けて動き出している。

 

 ──何なんだ?

 

 やったことは同じだ。ステインも死柄木も、自分の気に入らないものを壊そうとしただけだ。結局2人のやっている所業は、根っこのところでは同じものであったはずなのだ。

 

 ──いったい、何が違うというんだ?

 

 ショッピングモールの真ん中で、ポツリと2人して佇んでいる緑谷と風華を見つけたのは、そんな問に答えを出そうとしている時であった。

 

 

 〜

 

 

「俺に気付いたのは、大したモンだが……今はごく自然に、旧知の友人と再開した時のように自然に振る舞うべきだ。決して騒ぐな。落ち着いて呼吸を整えろよ。さっきも言ったが……俺はお前達と話をしてみたいんだよ」

「……!」

「……」

「少しでもおかしな動きを見せれば……この中指もお前に触れさせる。俺の個性についてはもう知ってるだろ?五指で触れたものを崩壊させる……喉の皮膚を起点に、1分も経たない内にお前の全身は塵と化すんだ。鳴神、特にお前は気を付けろよ」

「こんなっ、人混みで……!そんなことしたらすぐヒーローが駆けつけてくるぞ……!」

 

 だろうな。死柄木はそう言って、緑谷の言葉を肯定する。その後でジェスチャーを使って周りにいる客を見渡させ、言葉を続けた。

 

「見てみろよ、コイツらを。いつ誰が個性を振りかざしてもおかしくないってのに、どうして笑って群れていられる?法やルールってのは、つまるところ個々人のモラルが前提だ。『誰も、こんなところで凶行に及ぶ訳がない』って……そう思い込んでいるのさ」

「……!」

「ヒーローが駆けつけてきて……捕まるまで20人いや、30人は殺せるだろうなあ……」

「そんなこと……わたしがやらせると思うのか?」

 

 死柄木の手を掴む腕に力が入る。自分が人殺しはさせないと凄む風華だったが、死柄木はそんな風華を恐ろしいとは言いつつも、しかし怯むことはせずに飄々と言い放った。

 

「お前の個性ならイチコロだろうな……俺も。でもお前は個性を使えないだろ?ヒーローになる人間が率先してルールを破るなんて、あっちゃいけないことだからなぁ……」

「……」

「卑怯な……!」

「ま、ここはおとなしく俺と話をしてくれ。アテもなく歩き続けるのも何だし、どっかに腰掛けてまったりと話そうじゃないか……」

 

 中心にある円形のベンチに3人で座り、死柄木はおとなしく話し合いに応じる意思があることを確認してから本題に入った。

 緑谷も風華も、死柄木の一挙一動を見逃さないように観察する。ここで下手に行動を起こせば、奴は必ずここにいる一般人を道連れにして逮捕されていくだろう。今のところそのような気は起こしていないようなので、刺激しないように話に応じるしか手段はないのだ。

 

 個性を使えたなら、緑谷は死柄木の五指が触れる前にその手を振り払えるだろうし、風華もものの一瞬で意識を刈り取れるだろう。だが、そうすることは学生の身分には許されていない。己の無力を噛み締めながら、おとなしく敵の狙いに乗るしかない現状に悔しさを覚えていた。

 怒りを鎮め、死柄木の言葉に耳を傾ける。できることが会話しかないのならば、それをやり遂げなければならないのだから。

 

「俺は、だいたいどんなモノでも気に入らないんだけどさ。今一番腹が立つのはヒーロー殺しだ」

「ヒーロー殺し……仲間じゃなかったのか?」

「世間じゃあそういうことになってるな。俺はそんなこと認めちゃいないが。問題はそこさ。ほとんどの人間が、ヒーロー殺しに目を奪われてる」

「それが……何だっていうんだよ」

 

 雄英を襲撃したのも、保須で3体の脳無を放ったことも、全てヒーロー殺しの話題に関心を持っていかれてしまった。

 

「誰も俺を見ないんだよ。何故だ?」

 

 ステインは、死柄木と会った時にいろいろと能書きを垂れていたが。結局は自分と同じで、気に入らないモノを壊していただけだろう。なのにどうしてこうも差がついた?どうしてステインは、世間の関心を集めることができたのだ?

 

 

 ──死柄木弔と、ステイン。いったい何が違うというのだ?

 

 

「なぁ……何が違うと思う?緑谷、鳴神」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムムム……動揺して、ついつい全速力で走っていってしまった」

 

 デク君も風華ちゃんも、訳分からなかっただろうなと自身の奇行を反省する麗日。紅潮して熱を帯びる顔に手扇で風を当てながら、誰に聞かせるでもなく心の中で言い訳を重ねた。

 

 悪いことしちゃったなあ……うん……だから戻って謝りに行かんとなあ……うん……戻らんと……いや違うけど?戻って謝るだけやし?ウチのせいで変な空気になっちゃっただろうことを謝りに戻るだけやし?

 うん……うん、そうやん別にデク君と2人だけでお買い物に来た訳ちゃうしそういうんとは違うもんそもそも別に同じヒーロー志望として凄いなあってなっただけやしうん戻ろう青山君に言われたこととか全然関係ないし違うし青山君うんホントちゃうってちゃんちゃらおかしいわさーて戻る戻るぞ本当にもう変なこと言わないでほしいわ2人ともまだそう遠くまでは行ってないよねさー戻ろー

 

 緑谷の呟き癖が伝染したかのような、心の中での物言いをしながら引き返す麗日であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が……違うかって……?僕はお前のことなんて理解も納得もできないけど……ヒーロー殺しのことは少しだけ、理解できたよ……」

 

 保須での事件の際、ステインは脳無に何処かへと連れ去られそうになった緑谷を助けた。正しき社会を実現する……そのためにやるべきと思ったことをやっていたのであり、少なくとも気に入らないモノを壊したいだけという訳ではなかった。

 死柄木が雄英を襲撃した時のように、勝ちの目がなくなったからといって徒にしでかしたことを投げ出すような真似もしなかった。

 

「僕も、ヒーロー殺しも……始まりはオールマイトだったから……アイツは……やり方は間違ってたけど、理想に生きようとしてたんだと……思う」

「ヒーロー殺しの動画……何度もアップされては削除されてるやつはわたしも観た。オールマイトの姿に当てられて、その背中の心強さを自分で再現しようとして、それができなかったんだ……だから粛清という、間違った道を選んだ」

「気持ちは……分かるんだ。オールマイトのようになるって言うのは、口にするだけなら簡単でも実行するのはとても難しいことだから……」

「ああ……なるほどな」

 

「!!」

「!?」

 

 ゾワリ。死柄木が身に纏っていた殺気や狂気といった類のものが、爆発的に膨れ上がっていくのを2人は実感した。何かに気付き、考え続けていた問に答えを出せたその顔はとても晴れやか……には到底思えない程歪んでいた。

 

「ああ……何かスッキリした。点と点が繋がって線になったような気分だ……どうしてヒーロー殺しがムカつくのか、どうしてお前らを鬱陶しく感じるのか、分かった気がする」

「……!」

「全部、オールマイトだ」

「ハッ……!」

 

 結局は、そこに辿り着くのだ。何を悶々と考え事なんてらしくないことをしていたんだと、死柄木は何かを愚弄するように笑う。

 

「コイツらがヘラヘラ笑って過ごしていられるのも全部、オールマイトがヘラヘラ笑ってるからだ」

「うっ……!」

「っ……止めろ、死柄木弔!」

「オールマイトが……あのゴミが!救えなかった人間など誰一人としていなかったかのように!ヘラヘラと笑ってるからだよなぁ!」

 

 緑谷の首に当てた手に、力が篭っていく。風華がそれに気付いて止めようとするのも構わず、感情が昂ると共に更に力が入っていった。

 息苦しさに緑谷がもがこうとするが、死柄木はその抵抗を許さない。周りの一般人を巻き添えにしてもいいのかと脅し、強硬策に2人が出られないようしっかりと釘を刺した。

 

「ああ……話せてよかった!ありがとう2人とも!良いんだ!俺は何ら曲がることはない!皮肉なモンだよなぁ、ヒーロー殺し……!」

 

 死柄木の表情が、更に歪んでいく。

 

 自分の理想とは対極にある自分を生かしたステインの理想や信念は、全て踏み台となる。悪意と嘲笑を孕んだ笑みを、死柄木は更に深めた。首を絞められている緑谷の顔が苦痛で歪み、風華が無理矢理にでも止めさせようと右腕を伸ばしたその時──

 

「デク君?」

 

 ──救いの手が、やってきた。

 

「お友達……じゃないよね。手、離して?」

「麗日さっ……!?」

「お茶子……来ちゃダメだ!コイツは……!」

「ああ、連れがいたのか!ごめんごめん」

 

 雰囲気の悪さを察し、緑谷から手を離させようとする麗日。緑谷はその来訪に驚き、風華は下手に死柄木を刺激してはマズいとその歩みを止めようと叫んだ。しかし、そんな2人の考えなど知ったことかとばかりに死柄木は手を離した。わざわざ、悪意を隠した作り笑いを浮かべて。

 

「ゲホッ……ゴホッ!」

「デク君!大丈夫……!」

「んじゃ、俺は行くわ。もしも追ってきたりしたら分かるよな?」

「待て……ゲホッ!死柄木……『オール・フォー・ワン』は、何が目的なんだ!」

 

 緑谷のその言葉に、ギョッとしたように死柄木を見る麗日。その死柄木は緑谷の問いには知らないと返し、そのまま消えていった。

 

「気を付けとけよ。次、俺がお前らと会う時は……殺すと決めた時だろうからな」

「違う……次会う時は、お前が捕まる時だ」

「へっ……よかったな。俺の機嫌が良くて」

 

 理想も信念も、最初から死柄木の中にあった。やるべきことも、やりたいことも何も変わりはしないが……これからの行動には全て、繋がる一つの想いがある。

 

 ──オールマイトのいない世界を創り、正義とやらがどれ程脆弱なモノであるかを暴こう。

 

 今日からそれを、信念と呼ぼう。そうこれまでの問いに結論付けて、死柄木は人混みの中へと消えていった。

 

「もしもしっ、警察ですか!?敵が現れたんです!今……木椰区のショッピングモールで……」

「ゲホッ……がっ……!ふう……!」

「落ち着いて、出久。大きく息を吸って、吐いて」

 

 麗日が警察に連絡している間、風華は首を絞められて呼吸できていなかった緑谷を、自身の個性による空気操作で助けていた。公の場で資格を持たない者が個性を使うことは禁じられているが、こういった小さな使用くらいならば、見て見ぬフリをされて許される。

 

 ……オール・フォー・ワン、か。

 

 呼吸補助をしている間、緑谷が最後に問いかけたその名がずっと頭の中を回っていた。以前に忘れ物を届けにいった時、期せずして耳にしてしまった巨悪の名前。

 

 

 ──全て……オールマイトだ。

 

 

 因果は、繋がっている。




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