風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ

「とまぁ……一昨日の件があって。敵の動きを警戒して、例年使わせていただいていた合宿先は急遽キャンセル。行き先は合宿当日まで明かさない運びとなった」

「えー!」

 

 合宿先が分からなくなるという相澤の言葉に、生徒達は不満の声を上げる。既に親に行き先を伝えてしまったという瀬呂や、使う予定だった合宿先を調べて楽しみにしていた風華などは、かなりのショックを受けていた。風華に関しては、当事者なのでショックを受ける筋合いはあまりないのだが。

 

「面白そうなトコだったのに……」

「マジかよ……親にもう言っちゃってるよ」

「故に……ですわね。話が誰に、どう伝わってるかなんて学校側も把握し切れませんもの。思い切ったやり方ですが、スマートですわ」

「でも合宿自体はキャンセルしないの、マジで英断過ぎるだろ!?」

 

「デク……てめェ何で逃してんだよ。こういう時には刺し違えてでも殺しとくモンだろうが」

「いやいやかっちゃん、無茶言わないでよ……」

「ちょっと爆豪!緑谷と風華の状況がどんなだったのか聞いてないの!?そもそも、公共の場での個性使用は原則禁止だし!」

「知っとるわだが骨は折れろ」

 

 わいわい、がやがや。相澤の苛立ちが最高潮に達して強制的に終わらせられるまで、葉隠と爆豪の言い争いは続いていた。

 こうして濃密だった前期は終わり、夏休み。林間合宿当日の朝を迎えた。

 

「え?A組補習いるの?つまり赤点取った奴がいるってこと?ええ!?おかしくないそれっておかしくない!?A組ってB組よりもずっと優秀なクラスなんじゃかったっけ!?あれれれれぇっ……」

「毎度ごめんなA組。コイツ最早、対抗心が疾患のレベルに達してんだ」

「物間、怖ァ……」

「体育祭じゃあ、なんやかんやあったけどさ。まァ改めてよろしくね、A組」

 

 集合場所に辿り着いて早々、風華はA組の面々に突っかかる物間の姿を見た。そして拳藤の早業で沈められる姿も。風華がこの光景を見たのは先日の終業式も含めて二回目だが、実際は結構な頻度で見られるありふれた光景らしい。

 

 意識を刈り取られるのが、ありふれた光景……?

 

 思っても口には出さない。変に突っかかってくる奴など、黙っていてくれた方が助かるからだ。物間が拳藤に引き摺られてB組の列に戻される光景を見ながら、風華はその光景を頭の中から排除してB組女子陣の挨拶を受けるのだった。

 

「B組……よりどりみどりかよ……!」

「お前、ダメだぞそろそろ」

「切島君峰田君、A組のバスはこっちだぞ!席順に並んで乗りたまえ!」

 

 B組の女子達をまじまじと見つめながら、峰田はそのレベルの高さに涎を垂らして喜んだ。人としてダメな域に達しようとしているぞという、切島からの冷静なツッコミも入る。そんな状況を知ってか知らずか、飯田からの催促も入った。

 それでも峰田は興奮を抑えられないまま動こうとしなかったが、切島が風華の名前を出したことで正気を取り戻した。峰田にとっては最早、風華の名前は精神安定剤のような扱いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一時間後に一度止まる。その後はしばらく……」

 

「音楽流そうぜ、何か夏っぽいやつ!チューブとかモンゴル800とか!」

「バッカ野郎、夏といえばキャロルの夏の終わりが一番だろ!」

「終わんのかよ」

 

「しりとりの『り』!」

「り……りそな銀行!『う』!」

「う……ウン十万円!あっ……」

「はい、負けー!」

 

「ねぇねぇ、ポッキーを一本ちょうだいな!」

「仕方ないにゃあ……大サービスで二本あげる!」

「ワオ太っ腹ぁ!」

 

「みんな、席を立ってはいけないぞ!走行中は危険だから静粛にして立つべからずなんだ!」

「飯田君?君も立ってるけど……」

「人のこと言えないじゃん、天哉……」

「しまった……委員長たる者、率先して規範となる行動をしなければならないのに!クソゥ!」

 

「……まぁ、今くらいはいいか」

 

 騒がしいのを注意しようとして、相澤は出かけた言葉を喉の奥へと引っ込めた。わいわいと楽しく騒いでいられるのは今の内だけ。ならば、今くらいは楽しみの中に浸らせてやろう。そんな、せめてもの親切心からの判断であった。

 

 そして、一時間後。休憩のために一時停車したバスは、パーキングエリアではない何処かに停まっていた。当然訝しがる生徒達だが、峰田だけはトイレを求めてもぞもぞと股を動かしていた。

 

「ここ、パーキングじゃなくね?」

「アレ?B組はいないの?」

「トイレ……何処……?」

 

 この時点で、風華は何かロクでもない企みがあるのだろうということを悟った。何をさせられるのかは知らないが、警戒するに越したことはない。周りの様子から何が始まるのかを予想しようと、辺りをぐるりと見回していると、相澤が「注目」と言って生徒達の注意を向けさせて話を始める。

 

「あの先生……?トイレ……」

「目的もなく、ただ合宿所に向かうだけでは意義が薄くなってしまうからな。……来たぞ」

「よーうイレイザー!」

「ご無沙汰してます」

 

 ザッ……と足音がした方を振り返ると、ヒーローコスチュームを身に着けた2人組がそこにいた。そしてもう1人、恐らく一般人であろう幼い子どももそこに。いきなりの登場に生徒達が唖然として固まっていると、彼女らはその気不味い空気を知ってか知らずか自己紹介を始めた。

 

「煌めく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「……」

 

「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」

 

「猫……だったんだ」

「ウサギとかだと思ってたや」

 

 バッチリセリフとポーズを決めて、自己紹介を成功させた2人のヒーロー。風華はその決めポーズを見て、「自分がプロになったらああいうポーズ作ろうかな……」と考えた。どうやら心の琴線に触れたらしい。

 

「今回お世話になるプロヒーロー、『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

「連名でヒーロー事務所を構える4名一チームのヒーローだ!ワイプシ!山岳での救助活動を得意とするベテランチームだよ!キャリアはもう今年で12年にも……」

「心は永遠に18歳!」

「へぶっ……すいませんでした!」

 

 キャリアまで言おうとしたところで、緑谷は顔面を抑えつけられて阻止された。アイアンクローを継続したまま、心はいつでも18歳と復唱させて刻み込ませる。

 その焦りに焦った姿を見て、女子陣は「ああいう大人にはならないようにしよう……」と心に決めるのであった。

 

「ちなみに、この辺一帯はウチらの私有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね」

「遠っ!」

 

 指差された先を見ると、そこは本当に建物など在るのかと問い詰めたくなる程の緑であった。あまりに遠い道のりに、みんなで口を揃えてツッコミを入れる。流石にこの辺りで、みんなひしひしと嫌な予感を感じるようになってきた。

 

「じゃあ……何でこんな半端な所に?」

「いやいや……まさか、な」

「バス……戻ろうぜ?な?」

 

「現在時刻はAM9:30……早ければ、だいたい12時くらいには辿り着けるかしらん?」

「ダメだ……おい……!」

「戻ろう!早くバスに乗り込もう!」

「12:30までに辿り着けなかったキティはお昼抜きだからね!」

 

「そして、悪いが諸君……合宿はもう始まってる」

「あんぎゃあああぁぁ!!?」

「やっぱり、ロクでもないことになったね」

「やるねぇお嬢ちゃん!今みたいに、私有地につき個性の使用は自由だからね!ここから三時間!自分の足で施設までおいでませ!このプッシーキャッツ謹製『魔獣の森』を抜けて!」

 

 大慌てでバスに乗り込もうとした生徒達を、プッシーキャッツの片割れが個性で起こした山津波で飲み込んでいく。風華は土の中に埋まったクラスメイト達を風を操って引っ張り出し、そのまま流されていくのを防いでみせた。

 抜けていけと言われた森の入り口に救出したクラスメイト達を置き、安全に着地させる。山津波に飲まれた瞬間に全員を助け出せた判断力、土を剥がした上で20人+自分を浮かせられる出力と範囲、そしてしっかりと地に足付けた状態で降ろしてやれる操作精度。プロヒーローからもお墨付きの言葉が出る程に、この時の風華は冴えていた。

 

 こういうの初めてだし、張り切ったなぁ……

 

 風華は小学校、中学校とこういった行事に参加したことがない。当時はまだまだ個性の制御が未熟であり、何かあった時に対処できる研究員が近くにいなくてはならなかったからだ。

 中学校の修学旅行があったのは二年次で、風華が十分に個性を制御できるようになったと認められたのは三年次。ギリギリ、修学旅行に参加することは叶わなかったのである。それ故に、初めてのクラスのみんなとの宿泊学習ということで、風華はとても張り切っていた。今回いち早くみんなを救い出せたのは、その張り切りで精神がとても冴えていたからなのである。

 

「魔獣の森……?」

「何だ、そのドラクエめいた名称は……」

「雄英こういうの多過ぎやろ……!」

「文句ばっか言っててもしょうがねえや。何が出てこようと行くっきゃねえだろ!」

 

「耐えた……オイラは耐えたぞぉ……!」

「あっ……実!止まって!」

 

 いきなりの山津波にも、風に浮かせられたのにも耐えることができた。森の中ならばもう大丈夫だろうと、峰田は用を足せる場所を求めて腹を抱えながら走り出していく。その目の前に化け物が現れたのに気付いて、風華は峰田の足を止めさせようと叫んだが……遅かった。

 

「あっ……☆」

「ま……マジュウだー!?」

「静まりなさい獣よ、退がるのです!」

「口田!」

 

 峰田を見つめて唸り声を上げる魔獣を遠ざけようと、口田が自身の個性を発動する。

 口田甲司、個性『生き物ボイス』。その声で動物を従え、使役することができるのだが……目の前の魔獣に対して、効いている様子がない。爪を振り上げてむしろ、口田を傷付けようとしていた。

 

 土くれ……そうか!

 

 魔獣の身体から崩れ落ちた土の欠片から、緑谷はその正体に気が付いた。同時に正体を看破した轟と爆豪、飯田も動き出す。

 

「しっかし、無茶なスケジュール組んだよね。子ども達耐えられるの?イレイザー」

「まァ……例年なら二年の前期から『取得する予定のモノ』を、前倒しで取らせるつもりで来ましたので。どうしても、無茶をしなければならない部分は出てきますね」

 

 緊急時における、個性行使の限定許可証。ヒーロー活動認可資格、その『仮免』を取らせるための無茶なスケジュール。

 

「敵が活性化した今……生徒達にも自衛の手段が必要になります。引き続きお願いしますよ、ピクシーボブ」

「お任せ!くぅー、逆立ってきたなぁ!」

「洸汰、行くよ」

「……ふん、くだらん」

 

 ピクシーボブは魔獣を難なく撃破したA組の面々に鳥肌を立たせ、もう一人のマンダレイは連れ添っていた子どもと共に施設に帰還する。既に進んでいって見えなくなったA組の進路を見つめ、子供……洸汰はくだらないと彼らの努力を吐き捨てた。

 その表情には、確かな侮蔑が刻まれていた。




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