第一種目 50m走
最初に走って見せた飯田が3秒台の好成績をマーク。個性『エンジン』の出す超スピードに皆が感心した。彼の言葉からして、これでもトップスピードではないというのだから尚更。
続いて、腹からレーザーを射出してその勢いで進む青山優雅に、足元を凍らせてその上を滑ることで速度を出した轟焦凍。掌から放つ爆破で加速し、飯田には及ばないものの好成績だった爆豪。この辺りがしっかりと個性を活かし、普通ではないやり方で好成績を叩き出していた。
「風華ちゃん、ウチは負けないからね!」
「お茶子。速さを競う勝負ならば、わたしが負けることはない」
へ?と間抜けな声を上げる麗日。そんな彼女を見つつも相澤はスタートの合図を切る。その瞬間、走り出そうとした麗日の横で稲妻が迸った。
「……0.14秒」
「はぁ!?速すぎだろ、何が起こったんだ!?」
「今、稲妻のようなものが……光の速さで動ける個性?」
「ウッソだろ……!俺、電気であんなことできねえぞ!上位互換かよ!」
電気は光とほぼ同じ速さを持つ。風華はスタートの合図と同時にゴールまで電気のラインを作り、その上に「乗っかる」ようにして移動したのだ。少し間違えれば光の速さで弾き出されてしまう割とリスクの高い技だが、10年制御を続けてきた風華にとっては、この程度は大した技ではなかった。
「鳴神さん、君の速度は凄まじかったな!俺は個性のおかげもあって、スピードには自信があったのだが!やはり上には上がいるということだな!思い知らされたよ!」
「まあ、光の速さに勝てる奴はそういないと思う」
自身の速さを上回った風華に、悔しさを滲ませながらも飯田は敬意を表する。そんな一場面を、なんとか走り切った麗日は見ていたのだった。
ちなみに。麗日は驚いて出遅れたこともあって、10秒台という遅めのタイムとなってしまった。
第二種目 握力測定
身体の部位を『複製』することのできる個性を持つ障子が500kgオーバーの記録を叩き出し、個性によって万力を『創造』した八百万が2tという握力計の上限値を出した。
「物使うってアリなんです?」
「個性で出した物だからな。問題ない」
そんなこんなで風華の出番。大量の空気を集め、握力計を握る右手に圧力をかける。結果は207kg。やり過ぎると手が潰れるので程々にしたが、なかなか満足のいく結果となった。左手でも同じようにして計った結果、213kgとなった。
「さっきみたいに電気の力なん?」
「いや、これは違うよ。わたしが操れるのは、電気だけではないからね」
「へえ〜!強い個性なんやね!」
握力に活かせる個性ではなかったため、平凡な結果に終わった麗日が風華に話しかける。50m走で見せた光の速さだけでなく、握力測定でもいい結果を出せた風華の個性に羨ましそうに言った。
全員が測定を終えてから、コッソリと個性無しでも計ってみる。結果は右手54kg、左手61kgであった。
第三種目 立ち幅跳び
「浮いた!」
「これは……無限大だな。降りてきていいぞ」
麗日が両掌を合わせ、自身の個性を発動させて『浮遊』する。フワフワと宙を舞い続ける姿を見て、相澤は彼女の記録を測定不可能……無限大とした。インフィニティな記録が出たことに、見ていた生徒達が興奮と感嘆の声を上げる。
「今度は鳴神さんと一緒か!よろしくね!」
「出久か、よろしく。……多分、わたしも無限大になると思うよ」
「え?」
スタートの合図と同時に、風を纏って宙へと浮かび上がる風華。疾風迅雷の本領の一つ、それは空気を操ること。その力を使えば、浮遊や飛行など造作もないことなのだ。
「緑谷は4m53cm……と。鳴神、お前はどれくらいその状態を維持できる?」
「意識が続く限り、いつまでも」
「オーケー。なら、お前も無限大だな」
2度目の無限大の記録に、生徒達が再び歓声を上げる。そんな中でも対抗心丸出しで轟は風華を睨みつけ、爆豪は聞こえるように大きく舌打ちをするのだった。
第四種目 反復横跳び
ここでも風華は活躍を見せる。風を左右から起こして交互に自分をスライドさせることで、僅か20秒の間に127回を記録した。あれは跳んでないからダメでしょ!とクレームが相澤に入るも、個性を使った結果だから問題ないと彼はスルーした。
ちなみに、一位は頭の球体を『もぎもぎ』して左右に配置し、それに跳ね飛ばされることで200回以上跳んで見せた峰田であった。
「面白い個性だね。個性を活かしにくそうな反復横跳びで負けるとは思わなかったよ」
「おぉあっ……!?女子が、女子が俺に話しかけてきて……!?」
「おーい?どうした、大丈夫か?君の名前を聞きたいんだけど?」
自分に有利そうな種目で上回ってきた峰田に対して話しかけた風華だが、ここでは彼と話すことは叶わなかった。生来の気性のせいで女子との関わりが少なかった峰田にとって、自分から関わりに来てくれる女子というのは劇物も同然なのであった。
「おーい?あ、気を失ってる……」
「ほっとけ。さっさと次の種目いくぞ」
第五種目 ソフトボール投げ
「『
「なんつー風圧……台風かよ!?」
「あれって、試験の時の……」
左掌に集めた風にボールを乗せ、撃ち出す。視界に映らなくなったって、ある程度は風の操作は自由に効く。しかしどこかでボールは気流から落ちてしまったようで、記録は32567mとなった。麗日が再び出した無限大には及ばないまでも、凄まじい記録である。
「これ、確実に学校の敷地出ましたけど……」
「問題ない。回収はできるようになってる」
素材的に誰かに当たっても問題ないようになってると続け、相澤は予備のボールを用意した。今度は緑谷の出番だ。
「ワン・フォー・オールを活かせるのはもうここくらいしかない……絶対に失敗はできないぞ、どうにかしないと……」
「はよやれ」
「デク君、大丈夫かな……ここまであんまりよろしくないみたいやけど……」
「デク?」
「ハッ!デクに結果出せるわけねーだろ!無個性なんだぜあいつはよ!」
無個性?爆豪は試験で緑谷がしでかしたことを知らないのだろうか。飯田がそう問い詰める中、相澤の「46m」という声が聞こえてきた。
「なんで……今、確かに使おうって……!」
「個性は消した……つくづく、あの試験は合理性に欠ける。お前みたいな奴でも合格できちまうんだからな」
個性を消す……その一言で、緑谷は相澤の正体を理解した。メディア嫌い故に表に出てくることこそ少ないが、確かな実力を持つ「抹消ヒーロー」イレイザーヘッド。ヒーローオタクの緑谷だからこそ正体を察することができたが、風華をはじめ他の生徒達は「誰?」となるほどマイナーなヒーローでもあった。
自傷するほどの超パワー、制御も何もないまま使ったって、せいぜい一人を助けてお荷物になるだけ。そんな奴はヒーローになる資格などないと相澤は緑谷を叱責する。
「個性は戻した……ボール投げは2回だ。さっさと戻って続きをやれ」
「……はい!」
ソフトボール投げの円に戻った緑谷の表情は、どこか吹っ切れたようであった。すぐに投げる構えを取り、人差し指に個性を乗せて投げ放つ。反動で指がぐしゃぐしゃになるが、ボールは遥か彼方まで跳んでいった。
「先生……まだ、動けます!」
「ほう……!」
反動が来てしまうのなら、その範囲をできる限り小さく。緑谷は相澤に言われた自身の課題を何とか越えてみせた。痛みを堪えて脂汗をかきながらも「まだ動ける」という緑谷に、相澤も感心したように結果を見せた。
液晶には「705m」と書かれていた。
「……どういうことだぁ!デクゥ!?」
第六種目 持久走
個性を使って記録を出した緑谷に爆豪が詰め寄るというアクシデントがあったが、相澤がすぐに拘束したことで事なきを得た。そのまま他の生徒もつつがなく測定を終え、今度は持久走。
一周1kmあるトラックを五周し、そのタイムを計る。走るのは得意分野だと飯田がひどく張り切っていた。
「出久、指は大丈夫?」
「一応……テストが終わったら、リカバリーガールの所へ行くつもりだけど」
「そうしな。こういう怪我はクセになるからね……早く、制御できるようになるといいね」
応急処置くらいなら風華でもできるが、ここにはそのための道具がないので流石にできない。テストには支障がないことを一応確認してから、風華はトラックに向かった。
……流石に、ちゃんと五周したって分からないと記録できないよね。
50m走の時のように、電気に乗っかって高速移動する技『雷上動』を使えば一瞬で終わる。しかしそれでは記録ができないだろうと、風華は別のやり方を使うことにした。
スタート同時に風を纏って浮かび上がり、クラスメイトを巻き込まない高さから風を噴射して高速移動する。速さに自信のある飯田と負けん気の強い爆豪、オートバイを創造して駆ける八百万が追い縋るも、彼らをぶっち切り風華は圧倒的な速さでゴールした。
「あの高速移動はなぜ使わなかった?」
「流石に速すぎますから……機械でも追えないだろうと思って」
ちなみに、二位は5秒遅れて飯田。三位は八百万であった。
第七種目 長座体前屈
これに関しては、個性の使い所がない。風でいくらでも遠くに飛ばすことはできるが、機械に手をついていなければいけないからだ。
なので、ここは普通に行う。個性研究所で個性を扱うための訓練の一環ということで、体は常に鍛えてきている。それは柔軟性だって例外ではない。
「72cm……まぁ、こんなものか」
「やっぱ個性の使い所無かった?」
「そうだね。個性使えてるの、あの蛙の子くらいじゃないかな」
「ケロケロ、蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
舌を4m程も伸ばして圧倒的一位となった少女と、新たに交流ができる。動物系の個性はその動物のようなことができるというが、『蛙』はどこまで蛙っぽいことができるんだろうと風華は考えた。
「よろしくね、梅雨」
「ちゃんまで付けていいのよ」
第八種目 上体起こし
これが最後の種目となる。電気を全身に巡らせることで身体能力を強化し、30秒に臨む。足を押さえてくれている麗日を感電させないよう気をつけながら動き、記録は59回。バネを創造して65回の八百万、頭の球体で自身を弾いて62回の峰田に続く三位であった。
「電気、大丈夫だった?」
「大丈夫よ。個性の扱い上手いんやね」
そういう麗日は50回で四位。自身の個性『無重力』で自重を減らし、その分高速化して叩き出した結果であった。
〜
これにて全種目が終了となる。最下位はもれなくヒーロー科から除籍となってしまうが……皆の視線は一人だけを向いていた。ソフトボール投げ以外、大した成績の出せなかった緑谷である。
全員が集合したところで、相澤が纏めた結果をプロジェクターで投影する。ランキング形式になっているそれの最下層にあった名前は、やはり緑谷のものであった。
「ちなみに除籍は嘘な」
「へ?」
「君達の本気を引き出すための合理的虚偽」
「えええぇぇぇ!!??」
最下位という結果に俯いていた緑谷が、除籍されなくてよかったと安堵していた者達が驚きの叫びをあげる。そんな中で八百万が冷静に「除籍なんて嘘に決まってるじゃない……」と呆れるように言った。
いや、これは……本当に除籍するつもりだったな。
風華は察した。相澤は本当に最下位となった生徒を除籍するつもりであったと。緑谷がソフトボール投げでいいところを見せたからこそ、取り止めたといったところだろう。言葉にはせず、あくまで想像に留めておく。
「それじゃ、テストはこれで終わりだ。教室に時間割りとか置いてあるからちゃんと目を通しておけよ」
除籍の危機を回避したことで、皆はホッとしたようにゆっくりと更衣室へ向かう。
風華もいきなり同級生が欠けることがなくて良かったと、安心してポケットからキャンディを取り出した。マゼンタなそれを口に加えると、ミックスジュースのような味が広がる。テストの後だからか、いつもよりも美味しく感じた。