風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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林間合宿:その6

「洸汰君……絶対に僕より前に出ないでくれ。君は必ず……必ず僕が助けるから!」

「威勢のいいこと……嫌いではありません、しかし力の差を分かっていないのはいけませんね!」

 

 フルカウルを発動し、洸汰を始末せんと飛びつく敵をカウンターで蹴り飛ばす。再び洸汰との距離を離して、彼の安全を確保した。

 未知の敵を前に、緑谷は集中力を高めていく。身体中を迸る紅色のスパークから察するに、この敵の個性は風華の『纒雷』のようなもの。全身に電気を巡らせることで、身体能力を大幅に強化することができるシンプルな個性。『電気を操る』個性の一環という線もなくはないが……いや、風華にそっくりな容貌のことを考えれば、その可能性はかなり高いと言えるだろう。

 

 敵の個性は、『電気を操る』系統のもの。緑谷は思考にそう結論付けて、再び敵を見やった。

 

「緑谷出久……あなたは『優先殺害リスト』に名前が載っていました。ここで相対した以上、私はあなたを殺さなければなりません……そして後ろにいるその幼児もです。覚悟はよろしくて?」

「覚悟ならできてるさ……お前を倒す!洸汰君には指一本だって、触れさせてやるものか!」

 

 緑谷はフルカウルを現状の最大出力、22%まで上昇させる。纒雷を使った風華とは、個性研究所で何度か戦ったことがあるが。その時の彼女は自分に合わせて出力を抑えてくれていた。

 だが、コイツはそんなことお構いなしに最大出力で向かってくるだろう。相手の出力上限が分からない以上は、自分も最大出力を維持しなければやられる恐れがある。骨が軋み、筋肉に痺れが迸るような感覚に顔を歪めながら、緑谷は覚悟を決めた。

 

 戦えるのは自分だけ。先生達に連絡して、応援に来てもらうこともできない。負ければ自分もろとも洸汰が殺されてしまう。

 

 ──僕一人で……やるしかない!

 

「いくぞ、敵!」

「敵、ですか……そんな一括りにするような呼ばれ方は嫌いです。私には『天威』という名がありますので、そう呼んでください」

 

 敵と呼ばれたことに憤慨して、『天威』と自身の名前を宣言する。ムッと頬を膨らませると、紅い雷を纏って白い髪をたなびかせた。そのまま徐ろに腕を上げると、緑谷のデトロイトスマッシュを正面から受け止めてみせる。

 

「何っ……!?」

「身体能力を強化できると言っても、私の足元にも及ばない程度のものですか。この程度では……遊び相手にもなりませんよ!」

「アッガ……アッ……!?」

「それっ……飛んでいきなさい!」

 

 掴んだ拳から電撃を流し込まれ、緑谷は強制的に動きを止められてしまった。一瞬身体が麻痺したことで、次への対応ができなくなる。

 拳を掴んだまま緑谷を振り上げ、岩山にその身体を叩きつける。衝撃で硬い岩が緑谷のシルエット状に砕け、破片を散らした。

 

「ガハッ……!」

「必ず助ける……でしたっけ?ヒーローというのはどいつもこいつも……あなたのように、何処にでも現れては正義ヅラをするのでしょうか」

「クッソ……なんて馬鹿力だ……!」

「私、()()()()()()()でして。社会のことはあまりよく分からないのですよ。良ろしければ……後学のために、色々と私に教えてくださるととても助かるのですがっ!」

 

 岩山から抜け出そうともがく緑谷。その隙を逃しはしまいと、天威は追撃を仕掛けていく。鞭のようにしなやかに振るわれた裏拳を左腕で受けると、骨が砕ける嫌な音がした。更にそこへ、鳩尾に爪先を突き刺す中段蹴りがクリーンヒット。

 腹の中の物を吐き出しながら、むせることもできずに悶絶する緑谷。左腕が使い物にならなくなった上に、鳩尾に綺麗に一発を貰ってしまったせいで下半身に力が入らなくなっていた。

 

 ──ケタが、違う!

 

 赫災領域(レッドゾーン)に入った風華とほぼ同質の紅い雷によって強化されたパワーとスピード。更には攻撃を食らう度に一緒に流されてくる電撃。フルカウルで耐久力や抵抗力が上がっているおかげで、一瞬麻痺する程度で済んではいるが。少しでもフルカウルを途切れさせてしまえば、瞬く間もなく感電死させられるであろう。

 

「ああ……そうだ。私は、爆豪という生徒を探しているのですが。心当たりはありませんか?」

「かっちゃん……!?」

「答えは『知らない』でいいですか?ならば、このままあなた達を殺すとしましょう」

「だから……させるかって、言ってんだ!」

 

 敵の狙いは爆豪勝己。そのことを聞いてしまった緑谷の思考は、「何故」「どうして」という疑問に支配されていく。

 

 ──ダメだ!かっちゃんのことは考えるな!

 

 思考を打ち切り、目の前の敵に集中しろと自身に言い聞かせる。生半可な覚悟や思考で、この敵を打ち崩すことは不可能なのだから。

 

「テキサス……スマッシュ!」

「身体能力を強化する、フルカウル……でしたか?パワーもスピードも私未満……先程も言いましたがこの程度では、私の足元にも及びませんよ!」

「ぐあっ!」

「私の個性は『威紅』……紅き雷の力を、思うがままに操ることができます。身体能力の向上効果だってあなたのソレ以上……!あなたは私の、完全なる下位互換なのですよ!」

 

 スパークをより強く迸らせ、天威は彼我の力の差を知らしめようと高らかに宣言する。下位互換が勝てる道理など、あるはずがないと。

 フラつく身体を無理矢理起こしながら、緑谷はその言葉に反論しようとするが……膝がガクガクと震えて上手く立つことができない。このままではマズいと焦りが出てき始めたところで、悠々と歩を進める天威のこめかみに小石がぶつかった。

 

「やっ……やめろっ……!」

「洸汰……くん……?」

「おや……驚きましたよ。あなたがでしゃばってくるとは思っていませんでしたからね。そんなに死を急がなくてもいいでしょうに」

「お前みたいな奴のせいでっ!パパ……ママもっ!お前みたいな奴に殺されたんだっ!人を甚振るのがそんなに楽しいのかっ!?」

 

 石を投げたのは、場所を変えて遠ざけていたはずの洸汰であった。両目に涙を溜めながら、それでも毅然とした態度で立っている。

 来てはいけない、逃げてくれと緑谷は本気の声量で叫ぶも、洸汰は聞く耳を持たない。両親を敵に殺された恨みをぶつけることで、頭がいっぱいになってしまっていた。

 

 天威は倒れる緑谷を踏み越えて、ゆっくりと洸汰に近付いていく。あまりにも強すぎる殺意を間近で受けて、恐怖に股を濡らす洸汰。しかしそれでも目を逸らすことはせず、強がる姿勢を崩さない。目の前の敵に対して恨み言を繰り返す。

 

「お前みたいな奴のせいで……いつもいつもこんなことになるんだ!」

「言っている意味が分かりませんね。話を聞く限りあなたの両親はヒーローだったのでしょう?ならばその死の理由は、当人の力不足以外の何物でもないでしょうに。責任転嫁ばかりしていては、ロクでもない大人にしかなりませんよ」

「そんなこと……ある訳ないだろ!」

「っと……そう来ますよね、当然!」

 

 洸汰の恨み節を鼻で笑いながら、天威は右の手先に紅雷を集約させてその身体を貫かんとする。そして雷の迸るその手先を、洸汰ではなく背後に迫っていた緑谷へと向けた。

 不意打ちは読まれていた。このまま激突し合えば確実に、こちらがやられるだろう。そうして自滅することだけは、絶対に避けなければならない。

 

 ──スピードでも、パワーでも劣っている!このままではダメージを与えることもできない!この敵は強い!助けだって期待できない!自分一人だけでこの窮地を脱しなければならない!ならば、勝つために……守るために!僕は何をするべきだ!?

 

 勝利のために、緑谷は頭を回す。痛む頭で思考を巡らせ……そして一つの答えに辿り着いた。それは捨て身の賭けに近い愚策だが、この状況で考えられるたった一つの対応策。通じなければ、洸汰と諸共に未来を失う特攻。

 

「これで……速さは関係ない!」

「……それで、何ができると?力不足ということが理解できていないのですか?」

 

 ボタ、ボタ……と、貫手が直撃した左腕から血が零れ落ちていく。使い物にならなくなった腕を犠牲にして自分と天威の位置を固定し、回避を許さない状況を作り出すことに成功した。

 しかし、それがどうしたと天威は笑う。緑谷の攻撃くらい簡単に受け止められるし、たとえ直撃させられたとしてもそれでダメージを食らうということはあり得ない。結局は力不足、これ以上のことなどできはしないと笑うが……緑谷にとっては、できるできないというのは何の問題にもなりはしない。

 

「できる、できないの問題じゃない!やらなければいけないんだよ!ヒーローってのは……命を賭して綺麗事を実践するお仕事だ!」

「なっ……!?何です、この力はっ……!?」

「『100%』……デトロイトスマッシュ!」

 

 フルカウルを習得して以降、久しく使っていなかったワン・フォー・オールの100%。貫かれた左手で天威の右腕を握りつぶし、怯んだところに全力のスマッシュを撃ち放った。

 

「うわあぁっ!ああっ……!?」

 

 衝撃の余波が岩山を砕き、洸汰の小さな身体を浮き上がらせて転がしていく。強烈な土煙も巻き上がっていく中で、転がっていった洸汰はそのまま崖から落ちそうになってしまう。

 落下死の恐怖で泣き叫ぶ洸汰だったが、緑谷が間一髪服を咥えたことで事なきを得た。

 

「あ……あり、が……!?」

「はぁ……はぁ……」

 

 引き上げてもらった洸汰は、お礼を言おうとして緑谷のボロボロになった身体を見てしまった。全身から血を流し、右腕は100%の力を出した反動で青黒く染まり、左腕は筋肉を貫通させられて骨が露出してしまっていた。

 意味の分からないものを見てしまったと、洸汰は言葉の出ない口をパクパクと開かせる。どうしてこんなにボロボロになってまで、他人のために戦うことができるのか。洸汰にはどうしても、その考えを理解することができなかった。

 

「何で……」

「施設に戻ろう……ここからは距離もそう遠くないし、僕の個性ならすぐ……に……?」

「ふう……危ないところでしたね」

「は……?ウソだろ……100%だぞ!?」

 

 ──オールマイトの、力だぞ!?

 

 ワン・フォー・オールの100%を、オールマイトの力の直撃を受けたにも関わらず、天威は大したダメージなど負っていないとでも言うように平然と立ち上がった。服に付いた埃を手で払って、危なかったと小さく息を吐いた。

 天威はまだ、全力を出していなかったのだ。故に緑谷の全力を受け止めるだけの余力と防御に集中するための余裕があり、殆どノーダメージでいられたのである。

 

「咄嗟に出力を上げていなかったら、危ないところでしたね。テレフォンパンチでしたが……死を覚悟したのは初めてです」

「クソッ……近寄るな!」

「嫌です。近寄りますよ」

「何が……何がしたいんだよお前らは!?敵連合はいったい何を考えているんだ!?」

 

 首を回しながら悠々と近寄ってくる天威に、何かいい考えが浮かばないかと時間稼ぎをしようとする緑谷。しかし考えは纏まり切らず、天威を射程範囲に入れてしまう。

 

「訂正しますよ……あなたは私の下位互換ではなく確かな実力を持っていると。敵連合の目的とは何かと聞かれれば、今の社会を壊し混乱に陥れるとだけ言っておきましょう」

「っ……!洸汰君、ごめん!」

「えっ……ああっ!?」

「目的のために、あなたの存在は邪魔です……ここからは全力で、あなたの排除に当たります」

 

 更に増大するプレッシャー。嫌な予感を感じ取った緑谷は、咄嗟に洸汰を突き飛ばして自分達から距離を取らせた。その瞬間、それまで緑谷がいた場所に爆風が巻き起こる。

 ギリギリのところで、緑谷は思いっきりジャンプすることでその攻撃を回避していた。岩山に足を着けて次の行動保証をしようとしたところで、天威の追撃が迫り来る。足を踏み出してそれも何とか回避に成功したが……砕けた岩の破片を背中に受けて、地面に叩き落とされてしまった。

 

「ぐっ……う!」

「おっと……まだ避ける元気がありますか」

 

 ──ダメだ……ダメだ!恐れるな!

 

 施設まで逃げ果せれば、相澤先生に天威の個性を抹消してもらえるだろう。だがここから施設までの距離を、追いつかれることなく踏破することは可能なのか?

 ただでさえ、合宿の疲労が溜まっている。逃げるならば洸汰を背負って行かなければならない。獣道は悪路で渡り辛く、その上逃げる間は背中を見せることになってしまう。

 

 ──考えるな。無理だなんて思うな!今、ここで戦って……勝つ以外にお前に道はないんだぞ、緑谷出久!

 

 ──救けるために。今ここで、限界を超えろ!

 

「下がっててね、洸汰君……でも離れ過ぎると的になるから、7歩くらいがいいかな……うん。そしてぶつかったら……全力で施設まで走るんだ」

「ぶつかったらって、お前まさか……!無理だよ逃げよう!お前の攻撃効いてないじゃん!それにその両腕、もう使い物に……!」

「…………………大丈夫!」

 

 岩山を蹴って加速する天威。ここまでで一番のスパークを見せる紅雷を纏わせ、緑谷をこの場で葬り去らんと腕を振りかぶった。

 緑谷も迎撃の用意をする。再びの100%……限界を超えた一撃で迎え撃つ。自身最高の一撃『デトロイトスマッシュ』で。

 

 ぶつかり合う二つの衝撃。拮抗する間もなく緑谷の膝が崩れ、紅い電撃が彼の全身を蹂躙した。

 迸る痺れと痛み。神経が狂ってしまったのか、涙が溢れるのも身体が震えるのも止まらない。殺意に満ちた雷に蹂躙される中で……緑谷はそれでも自分より、洸汰のことを案じていた。

 

「大丈夫!こっから後ろには絶対行かせない!だから走れ!全力で走れえええぇぇ!!」

「このっ……いい加減くたばりなさい!」

「うるっ……せえええええええぇぇぇぇ!!!」

「何処までも……しつこい!」

 

 ……ごめん、お母さん!ごめん、オールマイト!

 

 緑谷の頭に浮かんだのは、母と師匠への謝罪の言葉であった。同時に今までの人生の記録が思い返されていく。これが走馬灯というやつなのだと、確信することができた。

 

 

 ──ヒーローとは、常にピンチをぶち壊していくものだからね!

 

 

 幼い頃に見たニュース。オールマイトが凶悪な敵を倒し、その取材を受けていた時のものだ。その時のことがなぜか頭に思い浮かんだ。他にも思い出なんてたくさんあるはずなのに、ピンポイントで思い出した記憶が何故これだったのか。

 

 常に、ピンチを。

 

 そう……このピンチだって、ヒーローならばぶち壊していかなければならない。だが既に満身創痍の緑谷に、そこまでの力は残っていない。

 爪が、骨が砕けて。皮膚が、血管が裂けて。電撃の痛みで痙攣する身体に力を入れることに精一杯の緑谷では、実践できない教えであった。

 

「これで……終わりですよ!」

「やっ……やめろおおおおおぉぉぉ!」

「幼児……あなたもすぐに、後を追わせてあげますから!ここは待っていて……!?」

「殺っ……させてえぇ……!たまるかあァ!!」

 

 トドメの一撃、最大電力『大雷』をぶちかまして終わらせようとした天威。しかし腕を振り下ろすその瞬間に、大規模な放水を受けて電気を散らされてしまった。

 水の飛んできた方向を見ると、それをやったのは洸汰であることが分かった。涙を溜めて足を震わせ股間を濡らしながら、それでも緑谷を死なせまいと勇気を振り絞ったのだ。

 

 そして……洸汰が命を賭けて気を逸らした一瞬の隙が、緑谷に限界を超えさせる。

 

 痺れる身体を起こして、ワン・フォー・オールの出力を100%以上に引き上げ、天威の腕を掴んで目の前まで引き寄せる。

 

「まずっ……!?」

「『1000000%』……!デラウェア・デトロイトスマッシュ!!」

「ガハッ…………………!?」

 

 デラウェアスマッシュ……デコピンで鎧のように纏っている紅雷を剥がし、デトロイトスマッシュで投げ飛ばす連撃。纒雷の護りが薄くなった腹部に向けて放たれた掌底がクリーンヒットし、岩山へ天威の身体を叩きつけた。

 

「何も……知らない癖に……!」

 

 

 ──洸汰。アンタのパパとママ……ウォータホースは確かに、アンタを遺して逝ってしまった。でもね……2人が身を呈したお陰で守られた命が確かにあるんだよ。

 

 

 決着。

 

 その瞬間を見届けて、洸汰は尻餅をつく。

 

 

 ──アンタもいつか、分かる時が来るよ。命を賭してアンタを救う……アンタにとっての……

 

 

「何で!」

 

 涙が溢れて止まらない。それは命が助かった安堵からくるものか、それとも何か別のものか。

 

「何で……そこまで……!」

 

 分かっている。あのボロボロの背中に対して抱いた気持ちということは分かっている。

 きっと、ウォータホースもこうして救けられた経験があったのだと思う。自分の命すら厭わずに誰かのために動き、そして救い出す。そんな経験をして自分も、他の誰かのために動こうとした。今ならば洸汰にも分かる。こうして救けられたからこそ。

 

 血塗れになって、右腕は青黒く染まり、左腕は骨が露出してしまっている。いつかにマンダレイが言っていた、命を賭して誰かを救う者。緑谷出久という男は、まさしく洸汰にとっての──

 

「ありがとうっ……!」

 

 ──僕の、ヒーロー。




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