毎日投稿が続けられる内にキリの良いところで終わっておきたいという気持ちや、他原作の二次SSも書いてみたいと思っていることなどが理由です。
最後まで原作を追い切ることを楽しみにしてくださっていた方がいましたら、申し訳ありません。
再開するとしたら、原作『僕のヒーローアカデミア』が完結してからになると思います。どうかご容赦ください。
いつもこのSSを読んでくださり、本当にありがとうございます。
襲撃の翌日。
雄英高校の門前では、多くの近隣住民が講師陣に対する非難の声を浴びせていた。その中には敵襲撃の的になるくらいなら、この街から出ていけなどといった声もあった。もしも、雄英高校がこの街からなくなれば敵の活動はより活発化するだろうというのに。対岸の火事気分で呑気なものである。
野次馬のことは置いといて。夏休みということで生徒のいない雄英の会議室では、事の当事者である相澤とブラド以外の講師陣が全員集まって緊急会議を開いていた。議題は当然、『林間合宿襲撃事件における今後の対応・対策について』だ。
「敵との戦闘に備えるための合宿で、敵が襲来して生徒が被害を受ける……恥を承知で宣うが、認識が甘かったね」
「敵活性化の恐れ……奴らは既に、超人社会を壊すための戦争を始めていたんだ。例え認識できていたとしても防げていたか……」
要は、知らず知らずの内にみんな平和ボケしていたのだとプレゼント・マイクは言う。「備えるための時間がある」……そう認識していた時点で、敵の後手に回っていたのだと。
「己の不甲斐なさに腹が立つよ……!彼らが必死で戦っていた頃、私は半身浴に興じていた……!」
自分があの場にいられたなら……オールマイトがあの場に来ることは不可能であったと、本人も含めみんな分かっている。オールマイトを狙った行動に巻き込ませないために、わざわざ最強のヒーローを同行させなかったのだから。
だから、オールマイトが半身浴を楽しんでいたということは誰にも責められなかった。自分達だって情報が入るまで、呑気に休んでいたのだ。いったい誰がオールマイトを責められよう。
「体育祭の時のような……『敵に屈さない』という姿勢はもう取れませんね。生徒が拉致されるなんて失態としてデカ過ぎる。奴らは爆豪・立甲の身柄と同時に、ヒーローへの信用も奪ったんだ」
「……行方不明は鳴神さんもよ」
「確か、一緒に黒霧のワープゲートに飲み込まれたんだったな。3人とも無事だといいが……」
「メディアは雄英への非難でもちきりさ。立甲君を狙った理由は想像がつかないが……爆豪君を拐ったのは体育祭や職場体験で、彼の粗暴な面が少なからず周知されていたからだろうね。もしも、彼が敵に懐柔されるようなことでもあったら……教育機関としての雄英はお終いさ」
一面にデカデカと今回の襲撃事件を載せた新聞を開き、根津は雄英への信頼がガタ落ちしていることを見せつける。新聞だけでなく、ニュースや週刊誌にネット記事なども同様に。ネットなどはコメント欄まで大炎上していた。
信頼云々という話が出たところで。この際だから言わせてもらうがと、プレゼント・マイクが新たな話題を切り出す。
「……USJの時には、薄々感じていただけだったんだがな……今回の事件で決定的になったぜ。いるだろ、内通者」
それは、とてもセンシティブな話題であった。
合宿先は、プッシーキャッツの4人と教師陣しか知っている者はいないはずだった。それに、生徒も携帯電話を使えば位置情報サービスなどで情報提供が容易に行え──
──最後まで言う前に、スナイプ先生がマイクを制止した。生徒を守る教師として、その先の言葉は言ってはならないものであったから。
「止めろマイク。お前は自分が100%シロである証拠を出せるか?ここにいる者の誰がシロで、誰がクロであると断言できるか?」
「そうよマイク、やめなよ」
「内通者がいる可能性は、確かに低くない。だけどその捜索は積極的に行うものでもない。疑心暗鬼になれば内側から崩壊していくからな」
「少なくとも、私は君達を信頼しているよ。私自身シロであるという証拠は出せないが……」
内通者がどうこうは後にして。取り敢えず学校側が今やるべきことは、生徒の安全を保証することであると根津は言った。
「内通者の件も踏まえて……かねてより考えていたことがあるんだ。それは……」
『でーんーわーが────来た!』
「あ……すみません電話が」
「会議中っスよ!電源切っといてくださいよ!」
「何あの着信音……」
「ダッせえ……」
根津が今後の安全対策として考えていたという案を言おうとしたその時、オールマイトのスマホからとてつもなくダサい着信音が鳴った。電源を切っていなかったことを注意されるも、電話は出なければならないのでオールマイトは席を外した。
「……ごめん、会議中だったんだ。それで何の要件だい……塚内君」
「会議中に済まないな。イレイザーとブラドの2人から調書を取っていたんだが……思わぬ進展があったぞ!」
電話を入れたのは、イレイザーヘッドとブラドキングから調書を取っていた塚内であった。
その内容は、『敵連合のアジトを突き止められるかもしれない』というもの。その発言に驚きを隠せず、オールマイトは目を見開く。
二週間程前、塚内の部下が聞き込み調査で『顔中ツギハギの男がテナントの入っていないはずのビルに入っていった』という情報を入手していた。男は20代くらいだというので、過去の犯罪者を漁ってみるも目ぼしい者はおらず。更にビルの所有者に確認を取ったところ、所謂隠れ家的なバーがちゃんと入っているという話だったため、捜査には無関係だと流されていたが──
──その『ツギハギの男』と、今回生徒を拐った敵の1人が同じ特徴を持っていた。
「事態が事態だし、情報の精査が終わり次第すぐにカチ込みをかける!これは極秘事項だが、君だからこそ話している!今回の救出・掃討作戦、君の力を貸してくれ!」
「……私は、素晴らしい友を持ったな」
「オールマイト?」
「奴らに会ったら、こう言ってやるぜ……!『私が反撃に来た!』ってな……!」
マッスルフォームに変わり、作戦にかける自身の意気込みを電話口から伝える。その力強い宣言を耳に入れて、塚内は「それは頼もしいことだ」と薄く微笑むのであった。
「……何を話してんだ?」
「さぁな」
〜
更に翌日。
緑谷はどうなったかというと、合宿所近くの病院に搬送されて緊急手術となった。二日もの間気絶と悶絶を繰り返し、40度を超える高熱に昼夜問わずうなされ続けていた。
この間、リカバーガールが治癒を施してくれたり起きている間に警察が訪ねてきたりということがあったのだが……緑谷の記憶には、一つとして残ってはいなかった。
「……」
茫然、放心。心ここに在らずとでも言うべき虚無の表情で、ずっと天井を見つめている。ふと視線を移すと、そこには母の字で書かれた書き置きと剥かれたリンゴがおいてあった。
──お母さん、心臓保たないよ……!
「洸汰君……無事かな……?」
「お、緑谷!目ェ覚めてんじゃん!」
「USJの時の比じゃねえ大怪我だな」
「メロンあるぜ!みんなで割り勘したんだ!」
「テレビ見たか?学校やべーぞ」
ドアを開けて上鳴が入ってくる。その後に続いてA組の仲間達がぞろぞろと入室し、意識が戻ってきた緑谷に無事で良かったと声をかけた。
「どうだ緑谷、でけえメロンだろ?」
「そだね……A組みんなで来てくれたの?」
その質問に全員が声を詰まらせる。しばらくの間沈黙が続き、代表して飯田が話した。
耳郎と葉隠は未だ敵のガスによって意識が戻っておらず、別の病院に入院中。八百万は頭を強く打っていたことで手術となったため、緑谷とは別の病室で療養している。ただし、こちらは昨日無事に意識が回復したという報せが届いていた。
「だから、ここにいるのはその3人を除いた……」
「……15人だよ」
「爆豪と鳴神、いねぇもんな」
「ちょっと轟、いきなり……!」
轟の言葉を聞いた緑谷の眼からツー、と一筋の涙が溢れ伝う。言葉を紡ごうとする口の震えが、彼の心に伸し掛かる悔しさをよく表していた。
「オールマイトがさ……言ってたんだよ。手の届かない場所は救けに行けないって……だから手の届く範囲の人は、絶対に救けるんだって……僕は……手の届く場所にいた」
「緑谷……」
「デク君……」
必ず、救けなければならなかった。緑谷の個性はそのために、授かったものなのだから。必ず救けるための個性だったはずなのに、あの時はどうしても身体が動かなかった。
──お前は、1人救けて木偶の坊になるだけだ。
相澤先生の、言う通りになってしまった。そうならないように鍛えてきたのに、そうしないために強くなってきたのに。
結局、自分は何も変わってはいなかった。緑谷はそのことが堪らなく悔しかった。
「だったら、今度は救けよう」
「え……?」
「切島君!?いったい何を……」
「実は、俺と轟……昨日もここ来ててよ……そこでオールマイトと警察が、八百万と何か話してるのを聞いたんだ」
『B組の泡瀬さんに協力いただいて、敵の内1人に発信機を取り付けました。これは、その信号を受信するデバイスです。捜査にお使いください』
『……相澤君は、君のことを咄嗟の判断力に欠けると評していたが。素晴らしい成長だよ!ありがとう八百万少女!』
『級友の危機に……このような形でしか協力できず悔しいですが』
『その気持ちこそ、君がヒーロー足り得る証!後は私達大人に任せておいてくれ!』
「つまり……そのデバイスを、八百万君にもう一つ創ってもらうと……?」
「ああ……それなら俺達も、敵連合を追える」
何を馬鹿なことを言っているんだと、飯田が切島を一喝する。オールマイトが言っていた通りこれはプロに任せるべき案件であって、生徒が出しゃばっていい舞台ではないのだと。
切島だって、そんなことは分かっている。だけどそれでは、友達が狙われているというのに何もできなかったことへの負い目は消えないのだ。
「ダチが狙われてるって聞いて……!それでも俺はなんっにもできなかった!しなかった!ここで動かなきゃ俺ァ、ヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ!」
「落ち着けよ切島、ここ病院だぜ。こだわるのはいいけど今回ばかりは……」
「そうよ、飯田ちゃんが正しいわ」
「そうだよ!飯田が正しいよ……間違ってるのは俺の方だ!でもなァ緑谷!」
顔を赤く染め、目尻に涙を浮かべ、切島は緑谷に手を差し出した。
「まだ…手は届くんだよ!」
プロが動くのはいつになるか分からないが、それまでならまだ救けに行くチャンスはある。行くなら速攻……今晩決行すると切島は言った。
「ヤオモモから発信機のやつ貰って……それを辿って自分らで爆豪を救出するってことだよね……?」
「敵は飯田や緑谷のことを殺害対象として、爆豪のことは殺さずに拐っていった。口ぶりからして爆豪をどうこうしたいんだろうが、爆豪が目的に沿わなければ殺されてもおかしくねえ。そうなる前に、俺と切島は行くと決めた」
「ふ……ふざけるのも大概にしたまえ!」
「飯田、落ち着け」
激昂する飯田を障子が制し、彼に代わって言葉を続ける。
障子もまた、爆豪が連れ去られるその瞬間をこの目で見ていた。だから轟の『目の前で連れ去られた悔しさ』も、切島の『何もできなかった悔しさ』もよく分かる。分かるが……これはもう、感情で動いていい問題ではないのだ。
「オールマイト達に任せようよ☆僕らの戦闘許可はもう解除されてるし……やれることはちゃんとやり切ったと思うよ……」
「青山の言う通りだ。ついでで拐われるところだった俺は強く言える立場ではないが……」
「みんなショックなのよ。でも、一旦冷静になりましょう?どれ程正当な感情であっても、また戦闘を行うというのならそれは……ルールを破るというのなら、それは敵の行為と同じよ」
沈黙が訪れる。救けに行きたいと思う理由も、救けに行ってはならない理由も嫌という程分かっているからこその静寂。診察の時間になったと医者が緑谷を呼びに来るまで、重苦しい空気はずっと病室中に漂い続けていた。
「お話し中にごめんねー。緑谷君診察の時間だから呼びに来たよ」
「あ……すんません」
「行こうぜ……八百万の方も気になるし、この後は耳郎と葉隠の所にも行かんとだしな……」
「……重傷で動けるかも分からねえお前を誘ってるのは、お前が一番悔しいだろうと思うからだ。もしお前も来るってんなら……今晩、病院の正面玄関前で待ってるからな」
そうボソリと言い残した切島を最後に、A組のみんなは緑谷の病室を去っていった。今晩……切島のその言葉がずっと、案内されながら診察室に向かう緑谷の頭の中でグルグルと回っていた。
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