『こちら飯田チーム。無事に発信機の示す場所まで辿り着くことができたぞ!』
「こちら八百万チーム。こちらは少し距離が空いているため、もう少しかかりそうですわ。そちらの信号は私が確認した限り、丸一日そこから動いていないようですが……そこに爆豪さんがいるとは限りません。どうかお気をつけください」
『大丈夫だ。少しでも危険だと判断したら、すぐに止めてみせる。友であるからこそ、警察への通報も辞さないつもりだ……!』
「それでは……よろしくお願い致ししますわ」
「飯田のやつ、なんて言ってた?」
「発信機の示す場所に到着したと。これから確認に当たるそうですが……必要な道具などは、いったいどうするつもりなのでしょうか」
「ま、何かあんだろ。切島が用意するものがあるっつって、見舞いの後何か買ってたからな」
会話を続けていく中で、八百万は『敵がいるからと言って、爆豪もそこにいるとは限らない』と2人に釘を刺す。自分たちがどれだけか細い情報を頼りにここにいるのかというのを、冷静に考えながら行動してほしいと。
耳郎や葉隠のように、隠密行動に優れる者はこの中にはいない。だからこそ行動は慎重に起こさねばならないし、危険だと監視役の3人が判断したならすぐに撤退するように釘を刺している。
緑谷も、轟も……一度決めてしまえば成し遂げるまでは止まらないということを知っている。そんなところを友達として、競い合うライバルとして知っているから。
それに、八百万が自信を取り戻せたのは轟の言葉があったおかげである。今回この作戦に参加したのには、そのお返しというつもりもあったが……それでもこれ以上の譲歩はできない。
──私は、轟さんに救われました。あなた達が爆豪さんを救うというのなら……!あなた達のことは私が救ってみせますわ!
「ありがとう、八百万さん。僕らができる範囲でできること……考えていこう」
「ブツブツ始まったな」
「これぞ緑谷さんって感じですわ」
緑谷がブツブツとできそうな範囲のことを考えているのを聞きながら、3人は発信機の示す場所へと向けて歩いていくのであった。
「電気も点いてねーし……中も人がいるって感じはしねーな」
「木を隠すなら森の中という訳だ。廃倉庫を装ってカムフラージュしてるのだろう」
「どこか中を確認できそうなトコあるか?」
先にもう一つのポイントに到着した切島・飯田・峰田の3人は、廃倉庫を装った敵のアジトに入れそうな所はないかと探しているところであった。途中酔っ払いに絡まれて離れたり、正面のドアに雑草が茂っているのを見たりといろいろあったが。未だに中の確認はできずにいた。
「そう多くはねぇけど、人通りあるな」
「目立つ動きはできんぞ、どうするつもりだ?」
「一旦、裏に回ってみようぜ。人目も避けられるしそれで分かることもあるかもだからな」
細い路地裏を通って、3人はアジトの反対側へと回っていく。胸板の厚い飯田が引っ掛かりかけたりとアクシデントはあったが、回っている内に中の様子を見れそうな窓を発見した。
窓はかなり高い所にあるが、それは肩車などをすればなんとかなる。問題なのは見た感じ中がかなり暗そうなことで、暗視ゴーグルでもあればと飯田が言う。しかし用意のいいもので、切島は事前に購入しておいた暗視ゴーグルを取り出した。それをこの中では一番軽い峰田に渡し、中を確認させる。
「あまり身を乗り出さないようにな!何かあったらすぐに逃げ出せるようにしておくんだぞ!」
「どうだ峰田、何か見えたか?」
「いや……汚ねえだけで特に何、も……!?」
「何だ!?峰田、いったい何が見えたんだ!?」
ゾクリと身体を震わせ、峰田は飯田の肩から飛び降りていく。何を見たのかと尋ねると、質問には答えずに黙ってゴーグルを渡した。仕方なくゴーグルを受け取り、代わりに自分が飯田の肩に乗る。切島が見たのは汚い空間だけだったが……
「左奥だ!切島、奥の方見てみろ……!」
「左奥?いったい何が……うおああ!?」
「切島君!?君までいったい何を見たんだ!?」
「んだよアレ……脳無じゃねえか……!」
……峰田の言う通り奥の方を見ると、そこには大きな箱の中に保存された大量の脳無がいた。施設の正体は、脳無の製造・保存場であったのだ。
どうする?中に潜入して、爆豪がいるかどうかを確かめてみるか?そうやって次の行動をどうするかと話し合っていたその時……
「うおっ……!?」
「何だッ……!?」
「痛ってて……何が起きたんだ!?」
……爆音が、3人を襲った。
〜
『事件の最中、生徒に戦うことを促したとお聞きしました。その意図をお聞かせください』
『当時は私共が状況を把握できなかったため、最悪の事態を避けるべくそう判断致しました』
『最悪の事態ですか?25名もの被害者と3名の行方不明が出たのは最悪ではないと?』
あの場でいう『最悪の結果』とは、生徒が敵に対して成す術なく殺されることであった。確かに今回は最悪に近い結果となってしまったが……あくまで近い結果である。
あの状況で死者が出なかったことは、本当に不幸中の幸いであると相澤ら記者に説明した。
『被害の大半を占めているガス攻撃……敵の個性とその後の成分検査から、催眠ガスの類であったことが分かっています。生徒のメンタルケアなども行っておりますが、深刻な心的外傷などは、今のところ見受けられていません。最悪とは未来を脅かされること……我々はそう考えております』
『拐われた2人にも、同じことが言えますか?』
体育祭準優勝、とある事件に巻き込まれた際は懸命に抵抗を続け、爆豪は経歴こそタフなヒーロー性を感じさせる。
しかし、その体育祭で見せた暴言や相手を甚振るような戦いぶりに、衆人環視の中での大喧嘩、表彰式での不貞腐れた態度。客観的に精神的に不安定な面が散見されていると記者は指摘した。
それだけではなく、記者は葵の経歴の方にも言及していく。かなりの悪意を込めた言い草で。
葵は個性が発現した幼少期、個性のエネルギーが発する熱によって死にかけたことがあった。それ以来ずっと、個性研究所でコントロールのための特訓に勤しんできた。特訓の甲斐あって自らの熱に焼き殺されることはなくなったが……それでも熱が篭る体質は治らず、定期的に発散しなければ身体を焼くリスクは残ったままである。
表には出さずとも、きっと少なくないストレスが溜まっていたのだろうと記者は言う。もしも敵連合がそういったところに目をつけた上で、2人を拉致したのだとしたら?言葉巧みに彼らを勾引かし悪の道に染めてしまったら?
『未来があるとなぜ言い切れるのです?その根拠をお聞かせください』
悪意ある言葉は、相澤を怒らせ怒りに任せた発言をした時にそれをスクープするためのもの。相澤のメディア嫌いを知っての挑発。
相澤が表情を険しくしながら立ち上がるのを見たブラドは、挑発に乗って隙を見せてはいけないと彼を嗜めようとするが……相澤が取った行動は挑発に乗るではなく、真摯な謝罪であった。
『行動については、私の不徳と致すところ。しかし体育祭での爆豪の言動は、彼の理想の強さに起因しています。誰よりもトップであることを求めてもがき、戦っている。アレを見て隙と捉えたのであれば敵は浅はかであると、そう考えております』
『立甲も同様です。彼女は常に、己に課された業と戦いながら研鑽を重ねています。その姿を見ている私としては……彼女が敵に勾引かされることなどあり得ないと、そう考えております』
『根拠となってはおりませんが?感情の話ではなく具体的な対策を伺っています』
『我々は現在、警察と共に敵連合及び2人の捜索を進めております。いつまでも手をこまねいている訳ではありません。爆豪君、立甲さん、2人とも我が校の生徒です。必ず、取り戻します』
「言ってくれるなァ……雄英も、先生も。そういうこったよクソカス連合!」
わざわざ大掛かりな襲撃をかけて、成果は自分と立甲の2人だけ。さっきまでの話で自分が敵連合にとって『利用価値のある重要人物』であると言質も取れている。
心に取り入ろうとする以上、方針が変わらない限り奴らが本気で殺しに来ることはない。ならば自分はどうするべきか……
……決まっている。2、3人は道連れにした上で無事にここから脱出する。それ以外に何をするべきだというのだ。
風華は先程の話ぶりからして、どこか別の場所で始末しようとしているらしい。葵の方も情報を敵連合が漏らさない限りは、爆豪にその居場所が分かることはない。行方も無事かも分からない相手を気にするよりは、まずは自分だけでも無事でいるべきだろうと爆豪は判断していた。
「言っとくが、俺はまだ戦闘許可を解除されてねえからな!ぜってえぶっ殺してやらァ!」
「自分の立場、よく分かってるじゃないの!ホント小賢しい子ね……!」
「血ィ吸っときますか?おとなしくなりますよ」
「いや……バカだろ。その気がないなら懐柔されたフリでもしときゃよかったのに……やらかしだ」
抵抗しようとする爆豪に、敵連合の意識はそっちに釘付けになる。しかし黒霧だけは、爆破で掌を弾かれた死柄木のことを心配していた。
飛ばされた掌は、言うなれば死柄木の精神安定剤のようなもの。それをぞんざいに扱われては激怒すると思った黒霧は、冷静でいろと死柄木を嗜めようとするが……
「……手を出すなよ、お前ら……コイツは大切な駒なんだからよ」
「死柄木弔……?」
黒霧の心配に反して、死柄木は意外と冷静であったしあまり怒ってもいなかった。
「できれば、少しは耳を傾けてほしかった。君とは分かり合えると思っていたからな……」
「ねェわ、ふざけろ」
ならば、仕方がない……死柄木はそう言って大きくため息を吐き、ここまで意図して避けていたモニターに目を向けた。
ヒーロー達は、敵連合の調査を進めていると会見で言っていた。ならば悠長に説得をしている時間はもうない。自分でできないのなら、できる者の力を借りる……そのために、死柄木はモニターから様子を見ている『先生』に協力を呼びかける。
「先生……力を貸せ」
『いい判断だよ……死柄木弔』
自分の手に余る案件ならば、それができる者の力を借りる……教え子の成長を受けて、オール・フォー・ワンはニヤリと顔を歪めた。
「先生だぁ……!?てめェがボスって訳じゃねえのかよ、白けんな」
「黒霧、コンプレス。また眠らせてしまっとけ。ここまで人の話聞かねーとは……逆に感心するぜ。あと敵連合のアタマは俺だよ。『先生』はあくまで善意の協力者さ」
「聞いてねーんだよ。話聞いてほしけりゃ土下座してあと死ね!」
にじり寄る死柄木に対して、背は向けずに一歩ずつ後退していく爆豪。最大火力で吹き飛ばせればそれが簡単だが、考えなしに撃っては黒霧のワープで対応されてしまう。
どうにかして隙を作って、この状況を覆し裏の扉から脱出する……その方法を焦れる頭で何とか考えだそうとしていると──
「どーもォ、ピザーラ神野店でーす」
「は……?何でピザ……ッ!?」
──爆音と共に壁が砕け散り、そこからオールマイトをはじめとする大勢のヒーロー達がなだれ込んで来た。壁破壊の衝撃で、スピナーとコンプレスが飛ばされ瓦礫の直撃を受ける。
「何だっ……黒霧!」
「ゲート……!」
「先制必縛……『ウルシ鎖牢』!」
「木ィだと!?こんなもの……!」
連合が何事かと狼狽えている間に、シンリンカムイの必殺技が彼らを絡め捕らえる。こんな木くらい燃やしてやると、個性を発動しようとした荼毘にはグラントリノの一撃が入り、彼を失神させた。これにより動きを封じられた連合は、この拘束を突破する手段を失った。
「流石は若手実力派だシンリンカムイ!そして目にも止まらぬ古豪グラントリノ!もう大丈夫だぞ爆豪少年!何故って……」
いつもの口上。雄英に入ってからは生で聞く機会も増えた、憧れの人の決め台詞。今の爆豪にとってその言葉は、安心を齎すものであった。焦って狭まっていた視野にその大きな身体が映ると、自然に口元が歪んで笑みが溢れてくるのが分かる。
「……我々が、きた!」
ヒーロー、逆襲の時来たる。
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