風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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逆襲の鬨

「あの会見、まさか……!」

「示し合わせてたってのか……!」

「その通り……攻勢に出た時程、守りは疎かになるもの。ピザーラ神野店は俺達だけじゃない」

 

 エッジショットが扉を開けると、機動隊が突入し死柄木達に銃口を向ける。あの会見は根津に協力を頼み、まだまだ捜査は難航していると思わせるような態度を取ってもらっていた。敵もまさか、会見のその日に突入されるとは夢にも思っていなかったであろう。困惑ぶりからよく分かる。

 

 外にも警察と、エンデヴァーをはじめとする手練のプロヒーローが包囲している。突入と同時に周辺住民への避難要請も行っており、もはや全方位隙はないと言っても過言ではなかった。

 

「怖かったろうに……よく耐えた!だが我々が来たからにはもう大丈夫だぞ、爆豪少年!」

「こッ……怖くねーよ!ヨユーだわクソ!」

 

 オールマイトがここまでの心労を労うと、爆豪は照れ臭そうにその言葉を否定した。口では強がっているが言葉は震えており、彼でも敵と7対1の状況は流石に怖かったのだろうと分かる。

 

「クソが……せっかく色々と小細工を考えてたのに何で、ラスボスの方から来るんだよ……!」

 

 既に全員拘束されており、ここから逃げ出すのは簡単ではない。先生に何度も頼りたくはなかったが仕方ないと、死柄木は『持てるだけ持ってこい』と黒霧に命令した。

 

 ──脳無だな!

 

 当然、オールマイトも構えを取る。脳無がここに転送されることなどないとは分かっているが、念のためである。

 

「俺達だけじゃないってのは……こっちだって同じだぜ!って……おい黒霧、早く出せ!」

「すみません死柄木弔……!所定の位置に格納してあるはずの脳無が……ない……!」

「はァ!?何がどうなって……」

「やはり……君はまだまだ青二才だ、死柄木!」

 

 死柄木は……敵連合は舐め過ぎたのだ。

 

 

 ──俺ァそこだけはもう、曲がらねえ!

 

 

 爆豪のヒーロー精神を。

 

 

 ──生徒の仕掛けた発信機の信号と、聞き込み調査によって判明した複数のアジト。拉致被害者の一人がいる場所の特定はできたので、主戦力をそこへ送り被害者の奪還を最優先とする!

 

 

 警察の懸命な捜査を。

 

 

 ──こちらベストジーニスト、脳無格納庫の制圧無事完了した!

 

 

 そして……ヒーローの怒りを。

 

 発信機の信号の動きから特定した、いくつかのアジトを別働隊が制圧。『座標移動』の個性を持つと推測されている黒霧が、脳無を移動させるのを妨害するべく中の物を動かしておく。

 これにより敵の加勢を予め防ぎ、最も警戒が薄くなる謝罪会見のその日に強襲。この場にいた敵連合の構成員を、全員捕らえることに成功した。

 

「おいたが過ぎたな……敵連合!死柄木、お前達はここで終わりだ!」

「クッソ……ふざけんな……ふざけんな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒーローと警察……もう動いてたのか!」

「八百万の発信機が役に立ってたか」

「お2人とも……ヒーローが動いているなら我々の出る幕はありませんわ。ここはひとまず集合場所に戻り、飯田さん達に連絡しましょう」

「そう……ここは君達がいちゃいけない所だよ」

 

 背筋が凍るというのはこのことだろう。発信機の示す地点に辿り着いた緑谷達3人は、そこに爆豪がいるのか確認しようと動き出したが警察とヒーローがいたので動けずにいた。

 大人が行動しているのなら、子どもが要らぬ真似をして邪魔になってはいけない。八百万が2人に別行動中の3人と落ち合う予定の場所に戻ろうと、声をかけたところ……背後から更に、別の人間が声をかけてきた。

 

「緑谷君だろ?変装までしてこんな所に来て……君達も爆豪君を取り戻しに来たのかい?」

「り、立甲さん……?どうしてここに」

「緑谷さん、お知り合いの方ですの?」

「知り合いと言えばそうだね。でも今はプロとしてここにいるから、本名じゃなくてヒーローネームで『アウェイク』と呼んでくれ」

 

 声をかけてきたのは、『アウェイク』こと個性研究所の研究員である立甲醒であった。風華の担当研究員でもあり、拐われた葵の父親。緑谷も研究所を利用する時は、彼にお世話になっている。

 個性研究所に務める者は一部を除き、全員がプロヒーローとしての資格を持っている。今回は相手が相手だし拉致被害者もいる、その上被害者の一人が身内ということで、敵連合逮捕に研究員総出で協力しているのであった。

 

「無茶するなぁ、君達も。友達が拐われて心配する気持ちは分かるけど、これは大人の仕事だ。勝手な動きをして、逮捕の邪魔になってはいけないよ」

「はい、おっしゃる通りですわ……」

「すんませんでした……」

「……まぁでも、オールマイトのおかげでそろそろ終わりそうだし見届けていくといいよ。こういった大きな事件は、職場体験じゃあ経験することもなかっただろうし……何だ?」

 

「何だ、コイツはッ……!トカゲ!?」

「噛みついてくるぞ!近寄らせるな!」

 

「何だ、何が起こってるんだ……!?」

「見ていけと言おうと思ったけど!この様子じゃあそんなこと言ってられないね!君達は警察の誘導に従って離れていて!」

「あっ、立甲さ……アウェイク!」

「何なんだアレ……脳無の新種か?」

 

 せっかくここまで来たのなら、ヒーローが敵連合を終わらせるところを見ていくといい。そう言ってアウェイクがオールマイトの突入した穴を指すと、そこから大量の黒い化物が溢れてきた。

 

「オールマイト、いったい何が……!?」

「分からん……!だが、爆豪少年と敵連合の連中が連れて行かれた!私はそっちを追うが、コイツらの相手は任せてもいいか!?」

 

「何が起こってるんだ……脳無格納庫はベストジーニストが制圧していたはずだぞ!おいどうしたジーニスト!?応答しろ!」

「塚内、避難区域を広げろ!コイツら、何処までも湧いてきやがるぞ!」

 

「銃が効いてない!硬いぞこい……ぎゃああ!」

「人を食って……この、化物があァ!」

 

 阿鼻叫喚。

 

 オールマイト達、アジト内に突入したヒーローはその一部始終を見ていた。捕らえられた死柄木が負け惜しみの言葉を叫んだと思えば、突如虚空から湧いてきたヘドロのような液体が無数の化物を吐き出したのだ。その上で、ヘドロは敵連合と爆豪を飲み込んで消失させる。

 黒霧はグラントリノが気絶させ、ワープによる移動や新たな戦力の投入は封じたはずだった。にも関わらず現れた、脳無とはまた違う化物。龍化した葵に似た姿をした化物の正体が何なのかは、オールマイトにはわからない。しかし、誰がこの化物どもを送り込んできたのかは分かる。

 

 ──ワープなど、以前戦った時は持っていなかったはずだ……!雌伏の間に手に入れていたか、オール・フォー・ワン!

 

 敵連合を逃したこともそうだが、何よりこのままでは爆豪の身が危ない。オールマイトは化物の処理をヒーローと警察に任せ、自分は全速力で敵連合を追いかけていった。

 

「何なんですのいったい……ッ!」

「分かんねえ……脳無ではねえみてェだが」

「あ……!?2人とも、上見てッ……!」

「上……?いったい何があるって……ッ!?」

 

 この場を離れようとしたところで、緑谷は恐ろしいものを見てしまった。全長40mはあろう超巨大な体躯に、左腕に備わった鉄筋のビルをいとも容易く斬り裂いた鉤爪。腰からはそれ自体が巨大な龍と思ってしまうような、蠢く七対の大百足。

 

 そして……全身に迸るのは、他の全てを塗り潰し妖しく煌めく黒い稲妻。

 

「グオオオオオォォオォ!!」

 

 天を斬り裂く咆哮が轟く。葵を取り込んで更なる進化を遂げた御雷入道……改め『外道大厳雷神(げどうおおいかづちのかみ)』がその姿を現した。

 

 

 〜

 

 

「何だよ……何なんだよアイツは!?」

「切島君、声を抑えろ……!気付かれるぞ!」

 

 峰田など、声も出せていない。それ程に目の前で起きた事態は異様なものであった。

 

 少し前のこと。個性によっておよそ20m程に巨大化できるヒーロー『Mt.レディ』の一撃により脳無格納庫は破壊された。そのままベストジーニストや虎、ギャングオルカといった名だたるヒーロー達が突入して制圧。迅速に全ての脳無を捕らえることに成功する。

 ヒーロー達は『オールマイトの方』という話をしていた。即ち、爆豪はチーム八百万が行ったであろうその場所にいる。ならばもう自分達がここにいる意味はないし、戻って3人と合流しようとしたその時であった。

 

「すまないな、虎。いい『個性』だと、前々から思っていたんだが……この際だし丁度いいから貰うことにしたんだ」

 

 悪の足音が、聞こえてきたのは。

 

 敵連合の仲間が来た、そう判断したヒーロー達だったが暗くてよく分からない。足跡が進み靴が見えてきたところで、ベストジーニストは自身の個性を用いて男を拘束する。もしも一般人だったら大目玉だぞとMt.レディが言うが、ジーニストはそれに取り合わず縛りを強めていく。

 

「状況が状況だ、こういう一瞬の迷いが現場を左右する。『敵でした』では遅い……ノコノコとやって来るような奴だ、何もさせるな」

 

 そう言って、謎の男を引き寄せた瞬間……風華の吹き荒ぶ大風にも匹敵する風の暴威が、周りのビルごとアジトを消しとばした。

 

「せっかく、弔が自分で考え……自分で導き始めたんだ。できれば邪魔はよしてほしかったな」

 

 何が起こったのか?一瞬の出来事で、誰も起きたことを認識できていなかった。

 一瞬……いや、一秒にも満たない短い時間。それでも男の気迫は、3人に確実な『死』を鮮明に思い浮かばせる。現実少しでもあの衝撃波のようなものがズレていたら、死んでいたのだから。

 

「コイツっ……話が、違う……!」

 

 ベストジーニストは、今回の作戦会議で警察から言われていたことを思い出していた。

 

『敵連合には、オールマイトに匹敵するブレーンがいる』

 

 狡猾で用心深く、自身の安全が保障されない限り表に出て来ることは絶対にない……、だからこそ連合の確保から被害者の救出、ブレーンの捕捉までを可能な限り迅速に行うという手筈であったのに。

 

 ──なぜ、そのブレーンが戦場に出ているのだ!?

 

 衝撃波が来る瞬間に、仲間のヒーロー達は可能な限り端に寄せて直撃を回避させた。そのことをまるで子どものお遊戯会を褒めるように、乾いた拍手で男は褒めそやす。そして腕を伸ばすと、その先から飛ばされた『何か』がベストジーニストの腹を深く抉り取った。

 

「相当な練習量と実務経験で培われた強さ……君の個性は要らないかな。弔とは性が合わない」

 

 一瞬で戦況がひっくり返った。逃げなければと分かっているのに、身体が動いてくれない。心の底から染み入る恐怖が、身体をこの場から動かすことを拒んでしまっているのだ。

 自分の心臓の音だけが聴こえる中、聞き覚えのある声が向こうから聞こえてきた。ゲホゲホと吐き気を抑えるような咳払いに、『くっせえ……何なんじゃこりゃあ!』という叫び声。別の所にいたはずの爆豪が、この場所に連れて来られたのである。

 

「ゲホッ……臭っせえ……!」

「また失敗したね……弔。それでも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も爆豪君も取り戻した……君が『大切なコマ』だと判断したからだ。いくらでもやり直せ。そのために僕がいるのだからね」

 

「爆豪……それに死柄木……!」

「死柄木に……師がいたのか!」

「ダメだ切島……今はダメだ!」

「分かって……クソ!」

 

 衝動的に出ようとした切島を、峰田が止める。

 

 補習のために最初から施設にいた切島は、みんなが生死を懸けて戦っている中で待っていることしかできなかった。なのに今、目の前に助けに来た相手がいるのに怖くて動けない。なんて情けのない奴だろうと自嘲する。

 まだ、自分たちには気付いていないはず。出なければあんな悠長な話はできないだろう。ここからの距離は6〜7mくらいなので、自分の硬さなら耐え切れるかもしれない。だが、その後のことがどうしても思い浮かばない。考えなしに動けば全員を危険に晒すし、早く動かなければ爆豪が再び拐われてしまう。そして……それを分かっているからこそ飯田も峰田も切島を止めているのだ。

 

 ──今度は、俺が守るんだ……!

 

 救けたいと思う気持ちは変わらない。だからこそ動かさせはしない。学級委員長として、友達として止めているのだ。戦闘せずに救出するという目的はもう果たせないだろう。ならば今やるべきことは無事にこの場から脱出すること。

 

 そして、それをする機会は──

 

「全て返してもらうぞ、オール・フォー・ワン!」

「また僕を殺すか、オールマイト!」

 

 ──空を駆けて、やって来た。




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