風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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龍を堕とせ

「おい研究所の!お前らこの化物どもについて何か知ってるようだな!何でもいいから情報を提供しろどこまでも湧いてくるぞ!」

「とは言ってもなエンデヴァー……俺達の知ってる葵ちゃんはこんな大きくないし、分身を出すことも雷を操ることもできなかったハズなんだよ!」

 

 龍の分身体『小外道衆』を払い除けながら、その弱点などについて話し合うヒーロー。しかし、この化物の元となったであろう葵の『個性』にこんなことはできないハズであった。

 おかげで誰も、対処法が分からない。あの出てきた後は吠えただけで動かない親玉なら、あっちは葵に似ていることもあって同じ対処法が使えるかもしれないのだが……どちらにせよ小外道衆に苦戦させられている今は、こっちが優先である。

 

「一応、気絶させれば動かなくなる!コイツら全部倒して、とっとと親玉も倒すぞ!」

「小さいの相手なら、強い火力で攻撃すればそれでいい!思いっきりやってくれ!」

「無茶を言ってくれるな、どれだけ奴ら数がいると思ってる!だが……単純で分かりやすい!」

 

 赫灼熱拳でぐるりと辺り一帯を焼き払い、化物を気絶させていく。エッジショットも自身を刃に変化させて化物の中身を弄り、気絶させる。数を数えるのも億劫になる程大量に湧いて出てきた化物どもであったが、ヒーローの活躍によって順調にその数を減らしていた。

 動かなくなった化物の一部からアウェイクがサンプルを採り、性質などを探っていく。機材はちょっとしたものしか用意できない都合上、大したことが分かるわけではないが……それでも何も分からず対処療法的に対応するよりはマシだろう。そうやって少しずつ情報を仕入れていく中で一つ、化物に関して分かったことがあった。

 

「この鱗……葵が『龍化』した時のとまったく同じものだな。やはりあの親玉は……」

 

 よく見ると、武装の増加や体色の変化など様々な違いはあるが、一際大きい親玉の姿は龍化した葵の姿に瓜二つであった。その上小さい方の化物から採れたサンプルが同じ性質を持っているとあれば、これはもう確定と言っていいだろう。

 

 あの化物の正体は、敵の手によって何らかの細工を受けた立甲葵そのものである。

 

 まったく同じように見えても、一人一人で個性の性質が実は違っているように。造られたクローンなどはオリジナルと微妙に異なった性質の『個性』を持って産まれる。それがまったく同じ性質を持っているということは、あの小さな化物達は葵から分けられて産まれたものということになる。

 生きていることが分かったのは喜ばしいが、敵対することになっては喜んではいられない。もう何年もあの子の個性について研究と分析を重ねてきた研究員達は、その強さや厄介さ、面倒臭さまで含めて全部把握しているのだから。

 

「だが、アレが葵なら……やりようはある!」

「アウェイク、何か分かったことは!?」

「ちょっと待ってろ、拡声器の用意をしてくる!」

 

 大きな化物が動かない理由……何をされたのかは分からないが、葵は龍の中で戦っているのだろうとアウェイクは感じていた。それは血を分けた娘だからこその直感か、それとも多くの個性を見てきたが故の経験則か。

 今やるべきことは敵を倒すことではなく、親玉の化物を正気に戻して葵を取り戻すこと。そう結論付けたアウェイクは、『蒼龍』のウィークポイントを伝えるべく大声で叫んだ。戦場に子を想う父の怒号が木霊する。まるでそのテの『個性』でも持っているのかと思う程の大声は、近くにいた小外道衆を音のストレスで残らず失神させた。もはや一種の音響兵器だと、間近で爆音を聴いてしまった警察が後にそう証言する程であった。

 

「みんな!あの龍の弱点は肩甲骨の間辺りに潜んでいる本体だ!あの化物は恐らく、我が娘の『龍化』という個性を元に造られている!もしもアレが僕の想像通りなら……そこに葵がいるはずだ!」

「娘……拐われた少女の方か!」

「傷付けずに本体を回収か、面倒な!」

 

 葵の個性と同じ性質なら……というよりアレが葵であるのなら、本体となる人間の姿が背中の辺りに埋まっている。そこを引っ張り出すことができれば『龍化』は解けて、あの化物どもは消失するであろうという算段であった。

 だが、それをやるにはヒーロー達の火力の高さに全てが懸かっている。ただでさえ強靭無比な龍の肉体に加えて、あの装甲のような甲殻や身に纏う鎧まで突破しなければならないのだ。生半可なパワーでは本体の回収どころか、龍に傷を付けることすら不可能。攻撃役となるエンデヴァーやエッジショットでどうにもならなければ、最早ヒーロー側の勝利は不可能と言っていいだろう。

 

「俺達がアイツを何とか足止めする!だから本体を引っ張りだすのは頼んだぞエンデヴァー、エッジショット!」

「無茶なことを言ってくれる……!」

「だが、やれねば勝機はないぞ!」

「『スキャナ』、『セーバー』、お前達も足止めを手伝ってくれ!あと龍が受けたダメージはある程度本体にも反映される!やり過ぎて引っ張り出す前に本体が死なないよう気をつけてくれ!」

 

「それを!」

「早く言え!」

 

「とは言え、足止めと言ってもどうするんだ?」

「あの巨体……生半可なやり方じゃ、確実な効果は望めんぞ。ただでさえ俺達の『個性』は、拘束には向かんというのに」

 

 スキャナの個性は『解析』。これはラグドールの個性『サーチ』の範囲を個人対象に狭めたもの。

 そしてセーバーの個性は『保存』。生物以外の物をその時の状態で固定することができる。どちらもサポート系の拘束には向かない個性であった。

 

 しかし、アウェイクは個性で足止めができないのならアイテムを使えばいいと言う。そのため研究所の中でも特に、アイテム開発能力に優れたお前達を呼んだのだと。使える物は何でも使う、そのために使える物を作れる2人の力が必要だと言った。

 

 材料は警察が用意した備品や、研究所から持ってきたいくつかのアイテム達。これらを上手く活用し有効なアイテムを作り出すのだ。

 

 親玉の化物はまだ動く気配を見せない。小さい方も少なくなってきた今こそが、アイテムを作れる最大のチャンスなのである。

 

「この辺か……エッジショット、どうだ!?お前の個性でどうにかなりそうか!?」

「無理だな……分厚い上に隙間がほぼない!本体を抉り出す作戦は不可能だ!」

「よし、ならば予定通り行くぞ!さァ化物よ、俺の一撃を食らえ!赫灼熱拳『フレアバーン』!」

「グルルゥ……?」

 

 炎の噴射により強烈なスピードを得た拳が、鎧と激突して衝撃音を打ち鳴らす。鎧は少し凹みができた程度で大した損傷もなかったが、これによりここまで動きを見せていなかった外道大厳雷神がついに動き出した。

 左腕の爪を掲げ、地面に向けて振り下ろす。動作は緩慢でヒーロー達にとっては容易く見切れる程度のものであったが、ただそれだけの動作でアスファルトを超えて土の地面を露出させた。腕を引き戻す時に地面が掘り返され、それに巻き込まれた警官が何人か生き埋めにされてしまう。

 

「何人やられた!?」

「13人です……すぐに回収します!」

 

「ちょっと動いただけでこれか!バケモノめ!」

「これは、さっさと終わらせんとマズいな……!」

 

 外道の百足のような姿をした尻尾が、本体には近づかせまいとエンデヴァー達をこぞって襲う。迎撃しようとしても殻が硬過ぎて炎は通らず、刃も通すことができない。仕方なく2人が回避すると、外道は巨体らしい緩慢な動作で振り返り、無数の眼球がへばり付いた顔面を向けた。

 間近でその異様な風貌を見たことで、一瞬怯んでしまう2人。しかしいちいち驚いたり恐れてたりしては時間がないと、エンデヴァーはエッジショットを掴んで再び炎を噴射。背後に回り込んだ。

 

「赫灼熱拳『ストライクバーン』!」

「忍法『紙肢微塵切り』!」

 

 背後に回れば当然、七対の百足が迎撃するためにやってくる。そこを先読みして、予め炎を溜めていたエンデヴァーが赫灼熱拳で百足を根元まで焼き尽くした。百足は炎が消えると再生する兆しを見せ始めたため、エッジショットが再生もできない程に細かく斬り刻む。またそう時間もかけずに根元から生えてくるだろうが、時間は稼げるだろう。

 

「砕けんのなら、剥がしてやる!」

「エンデヴァー、俺を使え!」

 

 エッジショット、個性『紙肢』。身体を紙のように薄く引き伸ばすことができ、その速度は音速を優に超える。その力で外道の肉と鎧の隙間に入り込んでから手を繋ぎ、エンデヴァーが鎧を剥がしやすいようアイテムの役割を果たした。

 エンデヴァーは薄くしたエッジショットの身体を思いっきり引っ張ってみるが、鎧の接着が強過ぎて中々外せそうにない。このままでは失敗に終わってしまうと判断し、エッジショットが戦闘不能になるのを覚悟で炎の出力を更に高めていく。

 

 エンデヴァー最大火力、赫灼熱拳『プロミネンスバーン』。持てる中での最大の力で噴射された炎の威力は、外道の鎧を溶かした上で見事その背中を曝け出させた。

 肩甲骨を守っていた鎧が剥がれ、抉り出すべき部位が露わとなる。代償としてエッジショットが火傷を負い戦闘不能となったが、そこはアウェイクがどうにかできる。エンデヴァーの手を離れ、落下していくエッジショットをキャッチし小外道衆のいない場所まで連れていくと、すぐに治療を始めた。

 

「アウェイク!アイテムの用意はできたのか!?」

「ああ、バッチリだ!僕はエッジショットの治療に当たるから、後のことは2人に任せる!引き続き頼むぞエンデヴァー!」

「任された。さァ、本体を引っ張り出すぞ!」

「なるべく早く終わらせる!」

 

 ヒーロー達が明確に危害を加えてくるようになったからか、先程までおとなしくしていたのが嘘のように暴れる外道。緩慢で避けやすい動作しかしてきていないが、少し動かれただけでビルが倒れ道路が粉々に砕け散る。さっさと終わらせないと、街への被害は深刻なものになってしまうだろう。

 それだけは、何としても避けねばならない。完成したアイテムを持ってきたスキャナはエンデヴァーに外道の身体を浮かせるよう指示を出し、セーバーはここまで何度も熱を放出してガタが来始めているサポートアイテムが壊れないよう、自身の個性で状態を保持した。

 

「アイテムその一、『強化トリモチ』!」

「これで、アイツはこの場から動けなくなる!」

 

 エンデヴァーが力を振り絞り、外道を浮かせたところに撒かれる白い粘性の液体。着地したことでそれに触れた外道は、咄嗟にそれから離れようとするもくっ付いたところが離れない。警察が敵を無力化させるために使用するトリモチを更に強力にした拘束用具が、外道の身体を完全にその場へと繋ぎ止めた。

 

「アイテムその二、『耐熱ドリル』!」

「エンデヴァー、装備しろ!」

 

 エンデヴァーが使用することを前提に、耐熱性を強化した腕に着けるタイプのドリル。放出される熱をエネルギーとして回転するドリルは、龍の甲殻を砕きながら確実に肉を抉っていく。建築業者もビックリの突貫工事で抉られていく龍の肉体。何度も何度も掘り進めていく中で、エンデヴァーは龍の中に人のような気配を感じた。

 

「そこにいるのか、立甲……!貴様には焦凍の嫁となってもらう予定なのだ、絶対に帰ってきて……ぐああァ!?」

「黒い雷……!」

「エンデヴァー、大丈夫か!?」

 

 中々に気色悪いことを口走りながら、輪郭が見えてきた葵を引っ張り出そうとしたところで。エンデヴァーを黒い稲妻が貫いた。もともとある程度の防電が為されているコスチュームを貫いて、その上でダメージを与えてくる。順調だった掘削作業は強制的に止められ、口から黒煙を吐いてエンデヴァーは意識を失った。

 その光景を見て、2人はすぐに同じ武装をしてエンデヴァーの救出に向かう。削った肉の内側にいるエンデヴァーは、外道が身体を再生させる時に巻き込まれて埋もれてしまう。そうなってしまえばもう助けられないだろうから。ドリルの出力は、エンデヴァーレベルの火力がなければ再生に追いつかれてしまう小さいものなのだ。

 

「クッソ……硬い!」

「早く出ろ!エンデヴァーごと呑まれるぞ!」

 

 実際、脱出はギリギリとなった。エンデヴァーが開けた穴はすっかり閉じられて、苦労が水の泡となってしまう。本体を守っている部位だからか、再生が異様なまでに早かった。

 

「アウェイク!」

「分かってる、エンデヴァーこっちに投げて!あとトリモチはどのくらい保ちそう!?」

「2……いや、1分保てばいい方だな!」

「そんな短っ……ええい、早よ終われ!」

 

 焦る心に追い討ちをかけるように。外道は大きく顔を上げたかと思うと、首を振り下ろして大量の小外道衆を吐き出した。警察とヒーローがやっとの思いで減らした敵が、ここで再び今度はさっき以上の数で襲いくる。

 必死に応戦して此方にまで小外道衆が来ないようにしてくれているが、その頑張りがいつまで保つかは分からない。その上、外道はトリモチの拘束から逃れかけているときた。

 

 ここまでなのか……そう思い始めたところで、エンデヴァーとエッジショットが立ち上がる。2人とも肩で息をしており、眼には少したりとも生気が宿っていない。だがその眼は、確かに救うべき相手がいる地点を見据えていた。

 

 まだ、誰も諦めてはいない。

 

「エッジショット、コレを!」

「さっきの連携みたいにやってくれ!ドリルじゃあの電撃を食らう距離に入っちまう!」

「今度は僕も着いていく……回復は任せろ!」

「ふう……今度こそ救け出すぞ!」

 

 おう!全員が同時に吠えた。

 

 スキャナが葵の位置を正確に捕捉、巻き添えにしないよう攻撃する地点の指示を出す。セーバーがトリモチを追加して拘束を継続、拘束力が劣化しないよう維持し続ける。

 エッジショットはアイテムその三『全身刃』を装着して身体を伸ばし、一つの大剣となる。エンデヴァーがそれを振るい、アウェイクは満身創痍の2人が限界を迎えないように回復し続ける役割だ。黒い雷を受ければどうなるかは、先程のエンデヴァーが証明済み。だからこその、雷を受けないように遠く距離を取ったフォーメーション。

 

 残りのヒーロー達と警察は、追加された小外道衆の排除と非難誘導の完遂。決して外道の犠牲となる人間が出ないよう、最新の注意を払う。

 

「いくぞエッジショット!気絶するなよ!」

「そっちこそ、しっかりと力を込めろよ!」

 

 赫灼熱拳『ジェットバーン』による、炎の噴射で無理矢理剣を振るう力を確保。肉の中に潜む葵を傷付けないよう慎重に、かつ大胆にピラミッド状の切れ込みを入れた。深く差し込まれた剣の痛みを味わったからか、外道は雷を迸らせながら悶絶するような叫びを上げる。

 そうして稲妻が止まったその瞬間。エッジショットを切れ込みの内側に差し込み、その肉を外道から一気に引き抜いた。じゅぼっ……と肉が抜ける音と血の滴る音が鳴り、外道の悶絶がそれらの音に更なるアクセントを加えていく。

 

「赫灼熱拳……『プロミネンスバーン』!」

「見えたッ……僕がキャッチする!」

 

 引き抜いた肉に向けて、プロミネンスバーンの炎を浴びせ焼き尽くす。周りを囲む肉は焼失し、その中身である葵が遂にその姿を表した。

 気を失っていた彼女は、リアクションのないまま落下しようとしアウェイクに受け止められる。

 

「おかえり、葵……無事でよかった!」

「怪我人と一緒に運んでもらおう。行くぞ」

 

 敵に連れ去られたと聞いてから、研究所の仲間達ともども気が気でなかった。愛娘を生きて取り戻すことに成功して、アウェイクは安堵と喜びを抑え切れず涙を流す。それに釣られたスキャナとセーバーの2人も、潤んだ目尻を指で拭くのであった。

 

 本体であった葵が離れたことで、外道の身体は崩れ黒いヘドロのような液体となり消失した。時を同じくして、猛威を振るいヒーローと警察に多くの死傷者を出した小外道衆も消滅する。神野の戦いその一角が、ここで終わりを告げたのだった。

 

「あとは、オールマイトと……」

「風華ちゃん、何処に行ったんだか……」

 

 ここの戦いは終わったが、まだオールマイトの戦いが残っている。敵に連れ去られた爆豪と未だ情報のない風華のことを思い浮かべ、アウェイクは一つ小さな息を吐いた。

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