風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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長めです。


鳴神雷羽の交流日誌

 5月○○日

 今日は、叔母さんと一緒にたくさんのプリンを作りました。上手くできた分をお姉ちゃんに渡しに研究所に行くと、立甲のおじさんが出迎えてくれたのでプリンをお裾分けしました。甘いものが大好きらしいおじさんはとても喜んでいました。葵お姉ちゃんの分も渡したけど、おじさんが勘違いして二つとも食べていないかが心配です。

 

 お姉ちゃんがいつも使ってる研究室に行くと、いつもはお姉ちゃんと研究員さんしかいないはずの研究室に知らない人がいました。知らない人達は二人ともお姉ちゃんの同級生で、体育祭で活躍するために特訓に来たのだそうです。もじゃもじゃした緑色の人が緑谷さんで、メガネのロボットみたいな人が飯田さんという名前だと教えてくれました。

 

 わたしが持ってきたプリンは多かったので、緑谷さんと飯田さんにもお裾分けして一緒に食べることにしました。緑谷さんはプリンの味についてとても早口で喋っていて、何て言ってるのか全然聞き取れませんでした。飯田さんも食レポは下手くそで、何を言いたいのか全然分かりませんでした。二人ともご飯の時は喋らない方が良いと思いました。

 

 一緒にプリンを食べながら、緑谷さん達には雄英でのお姉ちゃんのことやどんな授業をしているのかなどを聞きました。ヒーロー基礎学という授業がとても面白そうで、わたしも高校は雄英に通いたいなぁと思うようになりました。授業の時に敵の襲撃を受けた時の皆さんのお話は、ヒーローらしいとてもカッコいいものだと思いました。

 

 緑谷さんと飯田さんは、これからも暇さえあれば研究所に訓練をしに来るそうです。また今度会った時にも雄英のお話を聞かせてくれると、わたしが研究所を出る時に約束してくれました。新しいお話がもう待ち遠しくてたまりません。お話のお礼に体育祭では二人を応援してあげようと、わたしはコレを書きながら決意するのでした。

 

 6月○○日

 今日は緑谷さんに会いました。明日からヒーロー事務所での職場体験が始まるので、その前の追い込みをしていたのだそうです。飯田さんはヒーローをやっているお兄さんが敵にやられたらしく、今はここに来ている場合じゃないと言っていました。飯田さんのお兄さんはあのインゲニウムで、わたしでも知ってた名前にびっくりしました。

 

 最近は週末に毎回会うので、お姉ちゃんへの差し入れのついでに緑谷さん達にも手作りのお菓子や飲み物をお裾分けしていました。緑谷さんの早口な食レポも、飯田さんの何を言いたいのか分かり辛い食レポも分かるようになってきたので、しばらくは感想をもらえないのが残念です。今日のお菓子はチーズケーキでした。

 

 緑谷さんに職場体験でどんなヒーローのところに行くのかと聞くと、グラントリノというヒーローの事務所だと答えてくれました。ヒーローに詳しい緑谷さんでも聞いたことのないヒーローで、調べても情報が全然ありませんでした。緑谷さんはとっても張り切っていたので頑張ってくださいと言っておきましたが、何だか心配になってきます。

 

 帰ろうとすると、お姉ちゃんに呼び止められてどんな訓練をしているのか見せてもらいました。体育祭でも見た緑谷さんの個性はあの時よりも更に速くなっていて、お姉ちゃんとの組手はすごいスピード感でとても見応えがありました。わたしもいつかは雄英を受験しようと思っているので、二人のように強くなろうと本気で思いました。

 

 6月○○日

 職場体験は今日までと聞いていたので、お姉ちゃんに会いに行くと、お姉ちゃんは葵お姉ちゃんと一緒に知らない人と組手をしていました。その人は爆豪さんという名前で、お姉ちゃんのクラスメイトだそうです。髪の毛がツンツンしてるし、目つきがとっても悪いし、態度も粗暴そうでヒーローやれるのかなぁこの人と思いました。

 

 二対一の戦いは一方的なもので、爆豪さんは殆ど成す術なく組み伏せられていました。赫災領域の暴走を克服したお姉ちゃんと、龍化した時の力強さに磨きが掛かってた葵お姉ちゃん。この二人相手に15分近くも粘っていた爆豪さんはとっても凄い人なんだなと思いました。爆発の余波でモニタールームが揺れるのを、今でも覚えています。

 

 休憩に出てきたお姉ちゃん達に、わたしはいつものように持ってきたお菓子をあげました。今日は芋羊羹です。爆豪さんはいらないと拒否しようとしていましたが、子どもの好意をヒーローが無碍に扱うんじゃないと言われて渋々ながらも受け取ってくれました。味の感想はありませんでしたが、完食はしたので美味しかったのだと思いたいです。

 

 爆豪さんにもいろいろと雄英でのお話を聞かせてもらいたかったけど、あんまり人のこととか興味がないタイプのようで、あんまり面白いお話はありませんでした。その代わりに、体育祭の決勝戦でお姉ちゃんと戦った時のお話を聞かせてもらいました。爆豪さんは粗暴だし口も悪いけど、いろいろ考えてて頭がいいんだなと思いました。

 

 爆豪さんはとっても口が悪くて、話しているとごく自然に暴言を言ってしまうみたいです。わたしの前で汚い言葉を使うなと、お姉ちゃんに逐一小言を言われ続けていました。そんな注意にも暴言で返してしていたので、アレはもう治らないのだと思います。三つ子の魂百までということわざを習ったことを思い出しました。

 

 6月○○日

 今日もまた、初めて来たお姉ちゃんのクラスメイトがいました。尻尾が生えてる尾白さんと、頭のいい八百万さん。そして高校生なのにわたしよりも身長が低い峰田さんです。尾白さんは峰田さんの様子を何やら不思議そうに見ていたのですが、何かいつもと違うところでもあったのでしょうか。わたしには分かりませんでした。

 

 緑谷さん達ではなく尾白さん達が来たのは、もうすぐ期末テストがあるからだそうです。雄英は日本一のすごい学校だし、きっとそのテストも凄く難しいのだと思います。今日研究所に来た三人の中で、峰田さんが尾白さんが一番成績が低いと聞いた時は驚きました。あんまり頭良さそうには見えなかったからです。

 

 お姉ちゃんと三人の個性訓練が終わってから、いつものように作ってきたお菓子をあげました。三人とも爆豪さんと違い、喜んで受け取ってくれた上にしっかり感想までくれました。今日のお菓子はお茶っ葉を使ったクッキーでした。八百万さんはお菓子が出るならお茶を用意してくれば良かったと言っていました。次はそうしてみようと思います。

 

 お菓子の時間の後は、三人にわたしの勉強を見てもらえることになりました。学校の勉強で苦戦してるみたいでも、教え方が上手でとても分かりやすくて、すんなりと勉強したことが頭に入りました。後で話を聞くと、八百万さんは推薦入学の上にテストでも学年主席だったそうです。そんな人に見てもらえたわたしは、すごい幸運だと思いました。

 

 お姉ちゃんが席を外している間、峰田さんにわたしから見たお姉ちゃんは、どんな人なのかと聞かれました。お姉ちゃんはお父さんもお母さんも赤ん坊の頃に亡くしたわたしにとって、唯一の家族であり憧れのヒーローです。そう言うと、峰田さんは何だかとても嬉しそうに笑っていました。峰田さんにとっても、お姉ちゃんはヒーローなのだそうです。

 

 7月○○日

 今日もまた、知らない人達がたくさん研究所に来ていました。ツートンカラーなイケメンの轟さんと身体の大きな障子さん、ビリビリしてる上鳴さんにツンツン頭の切島さんです。最近は緑谷さんや飯田さんじゃなくていろんな人達が変わりばんこに研究所に来るのは、お姉ちゃんがクラスのみんなに研究所のことを知って欲しかったからだそうです。

 

 今日来た四人のお兄さん達は、期末テストの反省会をすると言っていました。雄英の先生を相手にチームを組んで二対一で戦う試験で、切島さんと上鳴さんは、ほとんど何もできずに負けてしまったのだそうです。わたしは二対一でボコボコにされてた爆豪さんを見ていたので、雄英の先生は強いんだなぁと思いました。

 

 上鳴さんにわたしの個性について聞かれたので、立甲のおじさんの許可をもらってわたしも皆さんの訓練にちょっとだけ混ぜてもらいました。わたしの個性は『電象』と言って、電気を操っていろいろな形を創ることができます。お姉ちゃんと違って風は起こせないし赫い雷も出せないけど、発電力に関してはお姉ちゃんより上の自慢の個性です。

 

 どんなことができるのか見せて欲しいと皆さんに言われたので、見本として龍化した葵お姉ちゃんを再現してみました。かなり出来のいい作品になったし、みんなからも高評価で嬉しかったです。作ったものはしっかり動かせるというところも見せると、皆さんとても驚いていました。雄英生を驚かせることができたので、大満足でした。

 

 今日は休憩しておやつタイムを取ることがなかったので、皆さんが帰る時に持ってきたお菓子を渡すことにしました。今日作ったのはべっこう飴で、飴が大好きなお姉ちゃんがとっても喜んで食べてたのが印象的です。上鳴さん以外は帰る時、わたしの頭を撫でながらまた研究所に来ることを約束してくれました。上鳴さん、大丈夫でしょうか。

 

 7月○○日

 今日はお姉ちゃんが、クラスのお友達と一緒にショッピングモールにお買い物に行く日でした。お姉ちゃんはあんまりお洋服に頓着しないので、前日にお買い物のためのお買い物をしましたが、ちゃんとその成果は実っていたのでしょうか。わたしは部外者なので葵お姉ちゃんと一緒に遊びに行ってましたが、やっぱり心配です。

 

 そしてその心配は、予想とは全く違った形で現実となってしまいました。何とお姉ちゃんはモールを回っている時に、緑谷さんと二人きりになったところを敵に襲われたのだそうです。幸いなことに死傷者は一人もおらず、お姉ちゃんも緑谷さんも無事だったみたいですが、警察署で確認するまでは本当に生きた心地がしませんでした。

 

 パトカーに乗って個性研究所までお姉ちゃんを送り届けてもらう間、わたしは今日、葵お姉ちゃんと一緒にバイクでいろんな所に遊びに行ったことを話しました。警察署にいた間は何だか悔しそうに顔を俯かせていたお姉ちゃんでしたが、わたしが話している内に少しずつだけど顔を上げてくれました。やっぱりお姉ちゃんは笑顔が一番です。

 

 研究所に着いてからは、わたしや叔父さんたちもすぐ家に帰るのは危険だということで、研究所で一日宿泊させてもらえることになりました。久しぶりのお姉ちゃんと過ごせる一日でしたが、それができた状況が状況なのであまり喜べません。日付が変わる頃くらいまでずっと、お姉ちゃんとお話ししながら眠れるのを待ちました。

 

 お姉ちゃんもそうですが、葵お姉ちゃんも何だかピリピリしているのが分かりました。もうすぐ夏休みで林間合宿が始まるのに、その出鼻から敵に遭うなんてなれば無理もないでしょう。二人ともとっても強いのだし、敵に襲われたところで返り討ちにできると思いますが……お姉ちゃんと同い年だったら良かったのに。思わずにはいられません。

 

 8月○○日 ○○日 ○○日

 大変なことになりました。雄英高校の林間合宿先が敵に襲われて、生徒に被害が出たそうです。ちょうど夏休みの宿題が全部終わって、もう寝ようかなと思った時にみたニュース速報は、わたしや叔父さん達を驚かせるには十分過ぎました。今はいずれ報じられるであろう次のニュースを待ちながらコレを書いています。

 

 お姉ちゃんの緊急連絡先の一つでもある叔父さんのところへ、警察からの連絡が来ました。雄英の先生や生徒さんからの事情聴取で、お姉ちゃんは敵を追って行方不明になったことが分かったそうです。お姉ちゃんが行方不明。敵と一緒に何処かへいなくなってしまった。何処へ?お姉ちゃんはいったい何処へ消えたというのですか?

 

 その日は結局、わたしは一睡もすることができませんでした。お布団を被っても目はバッチリと冴えたままで、そんなすぐには来ないと分かっている新しい情報をずっと待ち続けていました。結局お姉ちゃんのことは何も分からず、そのまま夜明けが来てしまいました。お姉ちゃんは生きています。絶対に無事です。そう信じるしかありませんでした。

 

 朝になると、わたしは叔父さんと叔母さんに頼んで一緒に雄英高校まで行きました。きっと忙しくて連絡が取れてないだけで、捜査は進展してるに違いありません。だから少しでも情報を得るため、雄英に説明責任を追求しに行きました。この時、一緒に立甲のおじさんも着いてきてくれました。葵お姉ちゃんが敵に拐われたのだそうです。

 

 雄英に着くと、スーツを着た大きなネズミさんがで迎えてくれました。なんと、この方が雄英の校長先生なのだそうです。わたし達は校長先生によって応接間に案内され、そこで今分かっているだけの情報を教えてもらえることになりました。とは言え教えられるのは、お姉ちゃんの安否に関わることだけでしたが。

 

 今回の事件で行方不明になったのは、お姉ちゃんと葵お姉ちゃん、それに爆豪さんだそうです。葵お姉ちゃんと爆豪さんは、敵のしていた会話からして元々奴らの狙っていた標的だったらしく、お姉ちゃんは二人を追って敵のワープゲートに突入し、そのまま行方不明になったということでした。今はまだ消息を掴めていないそうです。

 

 元々敵の狙いだったらしい葵お姉ちゃんと爆豪さんに関しては、利用しようとする意思がある分命を奪われることは考え難いそうです。しかし標的外のお姉ちゃんは、仮に敵に利用価値を見出されたとしても生きているかどうかは怪しいとのことでした。生きているかどうかは怪しい……わたしの頭は真っ白になり、気付いたのは家の中でした。

 

 わたしが目を醒ました時には、もう雄英に行った日からは丸一日経っていました。その間もお姉ちゃんの行方に関して新しい情報はなく、いても経ってもいられなくなったわたしは、無我夢中で外に駆け出して行きました。当てもなく彷徨い歩こうとしたわたしはすぐに立甲のおじさんに止められ、すぐに家に帰されたのですが。

 

 お姉ちゃんは無事でした。先んじて行方の分かった爆豪さんの救出作戦の中、唐突に始まった謎の男とオールマイトの戦い。戦いの中で萎びた骸骨のようになったオールマイトが、男とお姉ちゃんに似た女にやられる中で、赫い暴風と共に現れたお姉ちゃんは身体中にヒビが入って今にも崩れそうになっていました。

 

 取り敢えず、お姉ちゃんが生きていたことを喜んだのも束の間、お姉ちゃんに似た白い女がお姉ちゃんに襲いかかりました。結果はお姉ちゃんによる瞬殺でしたが、とても肝が冷えました。寿命が縮むような体験とは、きっとこのようなことを言うのだと思います。もっとも、より肝が冷えたのはその次のことでしたが。

 

 白い女を瞬殺した後、お姉ちゃんはオールマイトに向かって自分の赫い電気を差し出しました。すると萎んでいたオールマイトの身体が再び膨れ上がったのと引き換えに、お姉ちゃんは意識がプッツリと途切れたかのように倒れてしまいました。それをみた瞬間わたしは思わず叫び出し、家のちゃぶ台を粉々に破壊してしました。

 

 オールマイトは倒れたお姉ちゃんを人のいるところまで運ぶと、すぐに戦闘に戻りました。お姉ちゃんが託した赫い雷と共に、神野を地獄に変えた仮面の男を倒しに行ったのです。壮絶な殴り合い、託された雷と共に放たれるお姉ちゃんの技、素振りだけで雲が晴れ、満天の星空を暴き出したオールマイトの最後の一撃。その一部始終を、見届けました。

 

 8月○○日

 神野の時間から三日、お姉ちゃんが搬送された病院から連絡が届きました。お姉ちゃんは面会が可能になるレベルまで回復し、わたしが会いに行く許可を出せるようになったとのことです。いても経ってもいられなくなったわたしは、すぐに叔父さんからタクシー代を貰い病院に一目散に向かいました。会う前から涙が止まらず、とても大変でした。

 

 受付の職員さんに病室を聞いてすぐ、わたしはそこにダッシュで向かい看護師さんにきつーくお叱りを受けました。お説教から解放されて即病室に入りお姉ちゃんに会うと、わたしはお姉ちゃんに飛びついて思いっきり抱きしめました。行方不明になったと聞かされてから、ずっとずっと心配してたんです。涙でお姉ちゃんの顔がよく見えませんでした。

 

 ちょっとだけ落ち着いてから、お姉ちゃんと同じ病室だった葵お姉ちゃんと一緒に、いろいろと積もっていた分のお話をしました。お姉ちゃんは行方不明の間いろいろとあったらしく、身体に赫いヒビの痕がたくさんありました。命を永らえるために風雷回帰を使い続けた、その反動が来たのだということらしいです。

 

 葵お姉ちゃん曰く、これからは安全の観点から今までのように会うことは難しくなるそうです。実際にどういう対策を雄英が講じるのかはまだ不明ですが、それでもこれからは生徒だけでなく、その家族をはじめ、近しい人物にまで危害が及ぶ可能性を考えなければならないのだそうです。寂しく思うわたしに、お姉ちゃんは頭を撫でてくれました。

 

 今までのように気軽に会いに行くことは、確かにもうできなくなるのでしょう。しかし、それでわたしとお姉ちゃんの絆が切れるなんてことは絶対にあり得ません。お姉ちゃんが雄英を卒業してプロヒーローになったら。わたしがもっと成長してヒーローを目指すようになったら。きっとまた、会える日は来ます。その時を気長に待つことにしました。

 

 

 〜

 

 

「雷羽ちゃん、今日も日誌書いてるの?ほんとうにマメな子ねぇ……ウチのバカ息子にもこの持続力を見習ってほしいもんだわ」

「えへへ……これは趣味みたいなものだからね。ジロちゃんもこれくらい熱中するものあるでしょ」

「ゲームとか漫画ばっかりだけどねぇ……」

「立派な趣味だよ。もしかしたらそれが高じてプロの漫画家とかゲーマーになるかもよ?」

 

 月が最も高く昇る夜。雷羽はいつものようにその日あったことを日誌に書き込むと、それを褒めた叔母に照れながら話を返した。ちなみに話に出てきたジロちゃんというのは、叔母夫婦の実の子どものことである。雷羽と同い年の小学五年生だ。

 日誌を纏める習慣が付いたのは、離れて暮らす姉に自分にあったエピソードを少しでも多く伝えたかったからである。放課後や週末に気軽に会いに行けるとはいえ、その時間は限られており一度に話せる内容も吟味する必要がある。だから会えた時にいろいろなことをしっかりと姉に話せるよう、エピソードを纏めておく。それが雷羽が日誌を付け始めた動機であった。子どもなりの工夫である。

 

 姉に会えなかった日のことを纏めていただけの日誌は、いつしかその日あったことを纏める日誌へと変わっていった。姉が雄英に入学してからは文字量も増え、自分も姉も生活がとても充実してきたのだということを強く感じる。

 姉が雄英に入学してからは、姉や雄英に関する内容が圧倒的に多くなった。クラスメイトとの交流や訓練の様子の見学、ショッピングへの連れ出しに敵に襲われた時の焦燥や心配。書かれる内容は楽しいものばかりではないし、これからも心配になるようなことは増えていくと雷羽は思っている。しかしそれでも、この日誌を振り返った時の自分は当時を懐かしみ、幸せだったと言うだろう。雷羽はそう強く確信していた。

 

「今はしばらく会えないけど……またいつか日本が平和になって会えるようになったら、いっぱいお話ししようね。たくさんのエピソード用意して待ってるから……期待しててね、お姉ちゃん」

 

 いつの日か、姉との間にある隔たりが全て払われた時。自分の人生を振り返る時。自分はこの日誌を読み返して、過ごした日々は幸せなものであったと語るだろう。

 そんな日が来るのはいつになるのか、それはまだ分からない。それでもいつかは必ず、そんな日が来ると確信して。雷羽は使い古してヨレヨレになったページを閉じ、眠りにつくのだった。




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