風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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仮免試験までの一括投稿となります。


2章
プロローグ:入れ寮


「さて……こんなものかな」

 

 ハイツアライアンスに入った風華達は、相澤から設備や間取りなどの説明を受けた後に自分の部屋を探して入り、自分好みに作り替えていく。机の上に敷いたマットを綺麗に整えると、風華は一仕事を終えた社会人のようにフウ、と息を吐いた。

 

 ベッドに腰を下ろし、少し考え事をする。引越し準備やマスコミのあしらいなどで、この瞬間まで一息吐く余裕もなかった風華であったが、今日はもうやることはないと相澤に言われている。やることがないのなら、勉強なりなんなりすればいいということは分かっているが……せっかく久しぶりにゆっくりできる環境を作れたのだ、少しくらい物思いに耽ってもいいだろうと心の中で言い訳する。

 

 ──オール・フォー・ワンは逮捕された……でも死柄木は依然健在のままだ。大きな後ろ盾を失ったアイツらは、これからどうしていくんだろうね。

 

 考えるのは、つい先日終局したばかりの神野での一件のことであった。天威はオール・フォー・ワンと共に逮捕され、外道大厳雷神は逆に葵の中に取り込まれて彼女の力となった。奴らが拠点にしていたというバーに現れた化物や脳無はあれ以降一切姿を見せず、品切れが予想されている。

 オールマイトの終焉を引き換えに、敵連合は大幅な弱体化を余儀なくされている。死柄木の幼稚な性格を考えれば、内側から瓦解しても何らおかしくない状態にあると言えた。

 

 しかし……数を集めたり、脳無を何体も出して考えなしに暴れるだけだった死柄木は、保須の事件と風華・緑谷との問答を経てより回りくどく、周囲への影響を考えて立ち回るようになった。これまでの行動を踏まえて、死柄木も成長しているのだ。

 風華は知る由もないが、オールマイトはUSJ襲撃の際に死柄木のことを『幼児的万能感の抜け切らない子ども大人』であると分析していた。つまりは言い換えれば、死柄木弔には成長する余地があるということでもある。彼の教師を務めていたであろうオール・フォー・ワンは既におらず、これからの死柄木は独りで敵連合を引っ張ることになる。それが果たしてどのような結果をもたらすのか。考えてもさっぱり分からないことが、風華の心に得も言われぬ不安を募らせていた。

 

「もしもーし!風華いるー!?」

「三奈……?あれ、どうしたのみんなして」

「突撃、お部屋訪問ターイム!」

「いや……何の話か分かんないんだけど……」

 

 考え事を打ち切らせるかのように、ドアをコンコンと叩く音が聞こえてくる。いったい何事かと思いながら開けてみると、そこには一部を除いたA組の仲間達が立っていた。

 何の用かと聞くと、全員を代表して芦戸が『全員の部屋を回って部屋王を決める審査をしている』と答えてくれる。寝ていた爆豪や気分が優れないらしい蛙吹、全員からスルーを食らった峰田の部屋を除けば、後は風華だけなのだそうである。

 

「面白いモノなんてないと思うけど……遊びに来るくらい別に構わないよ」

「よっしゃ、おっ邪魔しまーッす!」

 

 意気揚々と入室するクラスメイト達。入ってすぐ彼らの目に映ったのは、緑谷の部屋でも存在が確認された大量のオールマイトグッズであった。

 いつもの様子からはあまり想像もつかないようないわゆる『オタク部屋』に、少なからず面食らい言葉を失うクラスメイト。あまり自分のことを話そうとしない風華の意外な一面を見たことで、その表情は微妙なものとなっていた。

 

「まさかの!オールマイト塗れ二軒目!」

「ちょっと意外だったかも……」

「女子の部屋なのに……色香の欠片もねえ!」

「同志はこんな近くにいたのか……!」

 

「みんな……好きに言い過ぎじゃない?」

 

 流石に、好きなものを置いていただけでここまで言われるのは不本意である。風華はみんなに抗議の意を示したが、同志として好意的な目を向ける緑谷以外からの反応は変わらなかった。

 クラスメイト達が出て行ったところで、風華は勢いよく扉に鍵をかける。昔からコツコツ集めてきた好きな人のグッズに対して微妙な目を向けられるのは、友達であってもいい気分はしないのだ。

 

「まったく、何でこの良さが分からないのかな」

 

「……鳴神ちゃん、まだ起きてるかしら」

 

「梅雨?体調悪いんじゃなかったの?」

 

「……今は大丈夫よ。少しだけお話ししたいことがあるの。時間を貰ってもいいかしら」

 

 クラスメイト達が去ってしばらくした頃、再び扉を叩く音が聞こえてきた。響いてくる声から、向こうにいるのは蛙吹であると分かる。

 さっきは体調が悪いそうだからと不参加を決めていた蛙吹が来たことに、風華は不思議に思いながらも扉を開けて彼女を迎え入れた。俯いて見えにくいその表情は、明らかに晴れたものではない。どんな用があるのかは知らないが、あまり良い用事ではないということは容易に察せられた。

 

「遅くにごめんなさいね……緑谷ちゃん達にはもう言ってあるのだけれど、鳴神ちゃんともお話ししておきたかったの」

「出久達と……そういう用件かい」

「彼らが爆豪ちゃんを助けに行くの、私は辛い言い方をしてでも止めようとしたわ。それでも今朝、みんな行ってしまったと聞いて……とてもショックだったの。それに鳴神ちゃんも……オールマイトから行方不明の間、どんなことがあったのか教えてもらったわ。それを聞いても私……どんなことがあったのかって想像ができなかったの」

「涙……ハンカチ貸そうか」

 

 話をしている内に、蛙吹は感情を抑え切れずに涙をボロボロと流していく。自分のことを想って涙を流す彼女を見て、風華はそっと自分のハンカチを蛙吹へ差し出した。

 いつもなら、今日みんながやっていたような集まりには率先して参加していたのに。緑谷達を止めたつもりになっていた不甲斐なさや、行方不明の間に風華が受けていたであろう苦しみを考えると、色々と嫌な気持ちが溢れてきていた。何を言えば良いか分からなくなって、みんなと一緒に楽しむなんて気分にはとてもなれなかったのだと。

 

 日常を取り戻すため、どれだけ悲しくてもしっかりと言葉にして蛙吹は語ってくれた。今日この瞬間までずっと、風華のことを考えてくれていた。

 

 芦戸達が『部屋王』をやっていたのもきっと、同じ理由だったのだろうと思う。危険も規則も顧みず爆豪を救けに行った緑谷達の気持ちは分かっていたからこそ、彼らにいつまでも後ろ暗い気持ちでいてもらわないように、寮への引越しに託けて明るい話題を作ったのだろう。

 風華にもそう。ようやく日常に復帰できた彼女に気を遣って、参加せずに部屋に篭っていたのを引き摺り出したのだ。みんな……ヒーローを目指して切磋琢磨する日常を、取り戻そうと頑張ってくれていたのだ。今にして思えば、芦戸達も無理矢理元気を捻り出していた感があったと風華は思い返す。

 

「ありがとう、梅雨。わたしのためを想って泣いてくれてありがとう。そして……あなたに心配をかけてしまったこと、本当にごめんなさい。これからはまた……楽しく騒げるように頑張っていこうね」

「ケロ……また、またみんなで楽しくお喋りできるようになるかしら?」

「なるさ。誰かのために泣けるんだから……きっとこれからは大丈夫だよ」

「答えになってないわ……」

 

 まだまだ蛙吹の涙は止まらない。彼女が落ち着いて自分の部屋に戻れるようになるまで、風華はその胸で嗚咽を受け止め続けるのであった。

 

 

 〜

 

 

「えー……昨日も話した通り、『ヒーロー仮免』の取得が当面の君達の目標となる」

「はい!」

 

 ヒーロー免許とは、人命に直接係るとても責任重大な資格である。当然だが、取得のための試験はとても厳しいものとなる。それは仮免ですら合格率が例年5割を切る程。生半可な実力と覚悟では、ヒーローなど夢のまた夢なのだ。

 

「マジか……仮免でそんなキツいのかよ!」

「そこでだ……君達には今日から、最低でも一人につき二つの『必殺技』を作ってもらう!」

「必殺技ァ!?」

「学校っぽくて、それでいて……!ヒーローっぽいヤツきたァ!」

 

 相澤の宣言と共に、ミッドナイトをはじめとする3人の教師が入室してくる。これから始まる訓練の内容が内容だからか、3人ともそれぞれの決めポーズらしきものを取っていた。いつもなら心をくすぐるカッコいいポーズだと思うのだが、今の風華は別のことを考えていた。

 

 ──必殺技、か……

 

 風華には既に、必殺技と呼ぶべき技が幾つか存在している。瞬間移動の『雷上動』に衝赫『大雷』をはじめとする雷撃シリーズ、吹き荒ぶ大風(バンパーストーム)や飛行もそうだし、赫災領域(レッドゾーン)などもそれそのものを必殺技と呼んで差し支えないだろう。

 正直なところ、そういった技のバリエーションなどで風華が困ることはそうそうない。その代わり今は別の問題が発生しているのであるが……

 

 左頬に伝うヒビ割れを撫でながら、風華はその原因となったであろう出来事に想いを馳せる。日本海の底にあるオール・フォー・ワンのアジトから脱出するため、風華は『風雷回帰』を何度も繰り返し使用していた。水圧に潰される度に、深海魚に身体を貪られる度に、何度も何度も繰り返した。

 その結果、反動が来たというべきか。赫災領域(レッドゾーン)に入り続けていると、『風雷回帰』を使った時とは反対に身体が風や電気に変換されていくようになってしまったのだ。入院中に試したところ、維持可能な時間はおよそ200秒程度。これまでは体力の続く限り何の問題もなく扱えていた力に、かなりの制限がかかってしまったのであった。

 

 ──制御できるようになって以降、赫災領域(レッドゾーン)にはずっと頼りっぱなしだったからね……流石に新しい戦い方を模索する必要があるかな。

 

 諸刃の剣となってしまった力に、いつまでも頼りきりでいるわけにはいかない。そのためにも新しい戦法が風華には必要となる。今回の訓練が必殺技に関するものなのは、まさに完璧グッドタイミングと言えるだろう。

 クラスメイト達が、これまで頭の中で温めていたという必殺技の構想を教え合いながら体育館に向けて移動する。そんな中でも風華は一人、己の編み出すべき技について考えを巡らせていた。

 

「な、鳴神さん……移動しないと先生が怖いよ?」

「あ……そうだね。ありがとう、出久」

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