風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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戦闘訓練 その2

 10分間の戦闘訓練はつつがなく終わり、風華の出番となった。

 それまでの間はずっと観戦。オールマイトによる訓練中の実況解説を聞いたり、講評で良かった点や問題点をみんなで洗い出したりした。緑谷が大怪我して保健室送りになるなどハプニングもあったが、それ以外は特に大した問題は起きなかった。せいぜい『尻尾』の尾白と『透明』の葉隠が、轟にレベルの違いを見せつけられたくらいである。

 

「さて……次はわたし達だ。頑張ろうね、実」

「おうよ!轟に勝てる気しねえけど、鳴神と一緒なら何とかなる気がするぜ!」

 

 この訓練では鳴神・峰田ペアがヒーロー側。轟・爆豪ペアが敵側となる。敵側の二人が作戦タイムと事前準備のためにビルの中に入ったところで、風華達も作戦タイムだ。

 

「初日に一応聞いてるけど、もう一回お互いの『個性』について知っておこう。わたしの個性は『疾風迅雷』……風と雷の字が入っているけど、もっと正確に言うなら空気と電気を操る個性だ。空気の流れを操ったり、発電したりできる」

「改めて聞くとやっぱヤベェな」

「まぁ、10年くらい鍛えたからね。今回の訓練なら、ビル内の気流から二人と核兵器の位置を割り出したり、核兵器までの最短ルートを確保したりって使い方をすると思う。電気の方は核兵器への影響を考慮すると使い辛いかな」

「オイラの個性の名前は『もぎもぎ』だ。頭の房をもぎることができる。コレはオイラ以外の人や物に超くっつくし、逆にオイラに対してはめちゃくちゃ反発する。房はすぐ生え変わるけど、やり過ぎると出血してダメージを食らっちまう」

 

 互いの個性について特性や出来ること、この訓練でどのような使い方を想定しているのかなどを擦り合わせていく。その上で、10分間の間にどうやって勝利までつながるかを考える。

 

「確実に轟と爆豪を無力化する手段は有るには有るんだけど……室内の広さによってはかなり時間がかかるから。並行して進められるもう一つのプランが欲しいところだね」

「じゃあよ、こんなことできるか?」

「……いいね、プランBはそれでいこうか。上手くいけば速攻で終わらせられる」

 

 作戦の目処が立ったところで、オールマイトからの『作戦タイム終了だ!用意は大丈夫かい!?』のアナウンスが流れる。さっさと所定のスタート地点に着いて、二人は始まりの合図を待った。

 少しの緊張こそあるものの、そこに不安や恐れは微塵も無い。今か今かと、開幕の合図を待ち構えていた。

 

『第11戦目……ヒーロー側、峰田・鳴神ペア!敵側、轟・爆豪ペア!戦闘訓練スタートだ!』

「よし、実は所定の位置に付いていてくれ」

「おうよ!索敵は任せたぜ!」

 

 スタートの合図と同時に峰田はビルの壁前に位置取り、風華はその場から動かずじっと空気の掌握に勤しむ。

 

「鳴神の奴、動かないで何やってんだ?」

「索敵じゃない?」

 

 モニタールームで観戦するクラスメイト達が、思い思いに感想を語っていく。刻一刻と制限時間が迫ってくる中、落ち着いてその場を動かない風華と峰田のことを気にするのは必然であった。

 

 ……このビルは五階建てになっていて、部屋は各階に2つずつ。核兵器は5階の階段奥の部屋で轟に守られている。爆豪は3階の階段を降りているところか。1戦目の時のようなやる気や覇気があまり感じられないね。核兵器の部屋にいないのなら、爆豪はスルーして構わないか。轟の動向をこのまま把握しつつ、予定通りプランAと並行してプランBを進めていこう。

 

「……オーケー。核兵器の場所と二人の位置は分かった。実は5階の窓付近にもぎもぎを使って待機していてくれ」

「分かった。待機場所は……ここから上まで登っていけば良いのか?」

「それで良いよ。タイミングを見てそこの壁に穴を開けるから、突入して大量のもぎもぎを投げつけてくれ。頼んだよ」

「おう……任せとけ」

 

 二人の考えた作戦、プランBとは。

 まず、風華が空気の流れを掌握することで核兵器と敵二人の位置を把握。そのまま風の弾丸で核兵器の在処へ直接道を拓き、そこに峰田が突入。もぎもぎを使って敵を拘束し、その隙に敵または核兵器の確保をするというものである。

 短い時間で考えたにしては、上出来な方ではないかと風華は勝手に思っている。轟は『半冷半燃』、爆豪は『爆破』と火力や範囲攻撃に優れた個性を持っており、これに対応される可能性は高いが……あくまでこれはプラン「B」なのだ。

 

「轟が核兵器から少し離れた……いくよ実、用意してくれ」

「お、おう!こっちはできてるぜ!」

「分かった。飛んでいけ……『吹き荒ぶ風(チープストーム)』」

 

 事前に渡した酸素マスクを峰田が付けているのを確認してから、風華は集めていた風をビルの壁へとぶつける。超速の空気の弾丸が、瓦礫すら落とさせずに文字通り風穴を開けた。そこへ間髪入れずに峰田が突撃。氷で壁を作り空気の弾丸を防いでいた轟めがけて、大量のもぎもぎを投げつけていく。

 

「っち、壁から奇襲かよ!」

「さっきの試合見た時は勝てる気しねぇって思ってたけどよぉ……!今なら負ける気がしねぇぜぇ!」

「クソ……!爆豪!早くこっち来い!奇襲を受けてる!」

「アアッ……!?命令すんじゃねえぞ半分野郎!」

 

 床、壁、天井。峰田は辺一面にもぎもぎを投げつけていき、轟の足を奪ってから核兵器へと一直線に向かう。それを見た轟は爆豪へと連絡を入れつつ、氷で峰田の足止めをする。自身に反発するもぎもぎを踏んで大ジャンプを狙っていた峰田だったが、床を伝って目の前にいきなり現れた氷の壁を前にあえなく激突してしまった。

 

「へぶうっ!?」

「あっぶねぇ……!危うくこんなのに出し抜かれるところだった……爆豪?おい爆豪どうした、返事しやがれっ……!?」

『何だ!?爆豪の奴いきなり倒れやがった!』

『鳴神さんの個性でしょうか……?いったい、何をしたというのでしょう』

『轟もなんか苦しんでるぜ!?』

 

 いきなり爆豪が苦しみ出したかと思えば、気絶して倒れる。すぐさま風華に確保されて2対1になったのを見て、モニタールームで見ていたみんなが驚きの声を上げた。オールマイトもこんなこともできるのか……と感心している。

 

「実、勝己は確保した。そっちはどう?」

「轟の奴気絶しやがった……けど、オイラ凍らされてて動けねえ。悪いけど、鳴神が捕まえてくれ」

「オーケー。すぐそっちに向かうよ。マスクはちゃんと機能してるかい?」

「バッチリだぜ。思ってたのとはちょっと違うけどよ、プランAは上手くいったな!」

 

 駆け足で5階まで上がり、轟が気絶しているのを確認して風華は彼に確保テープを巻く。敵側の二人が確保されたことで、訓練はこれで終了。オールマイトの『ヒーローチーム、WIN!!』という、大音量のアナウンスが流れた。

 

『何が何だか、分からない内に終わっちまったな』

『何をしたのかは、後でオールマイトが解説をしてくれるはずさ!』

 

 涙を流して喜ぶ峰田と、微笑む風華がハイタッチをしているのを尻目に、みんなはモニタールームを出る。入試トップの爆豪と推薦の轟を出し抜いた作戦がいったいどういうものだったのか、みんなの興味はそこに移っていた。

 

「今回のMVPは鳴神少女だ!開始前はしっかりと互いの個性を踏まえて作戦を立案し、始まってからは索敵に突入経路の確保、二人の確保と実に多くの仕事をこなした!突入作戦が失敗した時を見越して別のプランを用意していたのもグッドだ!」

「ありがとうございます」

「峰田少年も良かったぞ!迅速な突入、個性を活かして轟少年の機動力を奪いつつ、核兵器へ向けての突貫!失敗こそしたものの、できることをしっかりやり切っていたその姿勢は高評価だ!」

「お、おお、オールマイトに褒められた……!」

「すげえ鮮やかだったぜ!最初は何で動かないんだって思ってたけどよ!」

 

 轟と爆豪が意識を取り戻したので、オールマイトは講評に移る。しっかり仲間とコミュニケーションを取って作戦を立て、できることをやり切った風華と峰田の姿勢はオールマイトから高評価を貰っていた。

 轟と爆豪も、瞬殺されて見せ場こそあまり無かったものの、互いの個性を活かして役割立てていたのは高評価をされていた。それを聞いていた轟は負けた悔しさに歯を食いしばり、爆豪はいつものように叫んだりもせず静かに下を向いていた。

 

「ところで鳴神さん、一つ質問いいだろうか!爆豪君と轟君を気絶させたのはおそらく君の個性によるものなのだろうが、あれはいったい何をしたというんだい!?」

「それ気になる!風華ちゃんアレどうやったん?」

「索敵する時に、ビル内の空気は掌握したから……空気中から酸素を奪っていって、低酸素状態を作り出したんだよ」

「だから、オイラは始めから酸素マスクを付けていたわけだな!」

 

 飯田がビシッと手を上げて、風華に質問をする。別に隠すことなんて何もないからと、風華は正直に答えた。

 

 人間は酸素濃度が下がると、呼吸困難やチアノーゼをはじめとしてさまざまな障害が起こる。今回、風華はビル内の空気中における酸素濃度を低下させることで二人の換気を不十分にさせて、これにより急性の低酸素障害を引き起こさせたのだ。これこそがプランBで目眩ししていた本命の作戦、プランAである。

 同じビル内にいる都合上、峰田も本来ならば巻き込んで気絶させてしまうところであった。だが、そんな時のために風華はコスチュームの備品として、いくつかの携帯型酸素マスクを用意している。事前にこれを付けさせておくことで、峰田を巻き添えにすることを防いだのだ。

 空気の低酸素化は、抗う術の少ない便利な技である。風華のそれは、広範囲になってしまって味方や助けるべき人々を巻き込んでしまう恐れが今回のようにあるので、予め酸素マスクを作ってもらっていたのである。

 

「本当に……君の個性はいろいろなことができるのだな。よければ今度、君が入所しているという個性研究所について、いろいろと話を聞かせてもらえないだろうか?」

「いいよ、時間がある時にね。……今回は、これを使う機会がなかったのが残念だったね」

「そういや、腰に下げてる武器あるな。大型のナイフか?」

 

 講評も終わり、更衣室へと向かう中で話題は風華の腰に下げられた一振りの刃物へ向かう。ナイフかと質問する瀬呂に対して、風華はニヤリと微笑みながらその質問に答えた。

 

「そんなチャチなものじゃないよ。こいつは高周波ブレード……特殊な合金でできた刀身に、毎秒40万回の超振動を乗せることで、より斬れ味を高めたわたしの愛刀さ。鋼鉄だって豆腐のようにスパッといけるし、わたしが電気を流せばスタンガンとしても扱えるんだよ」

「そ、そうなのか……」

「こいつの力もみんなに見てもらいたかったね……見せ場がなかったのが残念だよ」

 

 悪どい笑みを浮かべる風華。普段は無表情気味の彼女が珍しく表情を変える姿を見て、みんなは同じことを考えていた。

 

 ……このブレードを使うような、物騒な作戦じゃなくて良かった。




高周波ブレードの振動数って、斬れ味に関係するのでしょうか。

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