「必殺……ソレ即チ必勝ノ技ソシテ型!」
「その身に染み付いた技や型は、他の追随を許さない圧倒的な力となる。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるか!」
「技とは己の象徴!今時必殺技の一つも持たないプロヒーローなんて絶滅危惧種よ!」
特別講師としてやって来た3人の教師、エクトプラズム・セメントス・ミッドナイトが、それぞれの必殺技論を語る。A組の生徒達は、それを神妙な面持ちで聞きながら相槌を打っていた。
必殺技を作る場所は体育館γ……トレーニングの台所ランドことTDLである。セメントス考案の訓練施設であり、彼が全面に張り巡らされたセメントを操ることで生徒一人一人に合わせた地形や物を用意することができる。少し危なっかしい略称を無視すれば、とても合理的な施設である。
「質問をお許しください、相澤先生!何故仮免を取得するために必殺技が必要になるのか、その意図をお聞かせいただきたいのですが!」
「順を追って話すから落ち着け」
飯田がいつものように爆速で手を上げ、質問を相澤は受け流す。もはや様式美とも言える流れを済ませたことで、教師陣から今回の訓練における詳しい意図が説明された。
本試験もそうだが、仮免試験でも多くの適性を毎年違う試験内容で受験者は試される。戦闘力や機動力といった基本的なものから、情報力や判断力にコミュニケーション能力、人としての魅力に集団の統率力など。本当に様々な力を試されるのだ。
その中でも特に、戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重要視される項目となる。敵の活性化によって国民に不安がよぎる中で、迅速かつ安全に敵を倒せる戦闘力を持ったヒーローは、それはもう大事にされるだろう。
備えあれば憂いなし。状況に左右されることなく安定して行動することのできる必殺技があれば、そのヒーローはそれだけで高い戦闘力を持っていることになるのだ。
「必殺技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハナイ。例エバ飯田君ノ『レシプロバースト』ヤ、鳴神サンノ『雷上動』……片ヤ超高速機動ニ片ヤ瞬間移動……ソレソノモノガ脅威デアルタメ、コレラハ必殺技ト呼ブニ値スル」
「あれ必殺技でいいのか……!」
「成る程な……自分の中に『これさえできれば有利もしくは勝てる』っていう型を作るのか」
「その通り!プロで言うなら先日も活躍してたシンリンカムイの『ウルシ鎖牢』とか、この中で言うなら鳴神さんの
敵襲撃によって中断された合宿は、この必殺技を作り上げるためのプロセスであった。即ちここから後期の授業が始まるまでの夏休みは、個性を伸ばしつつ必殺技を編み出す圧縮訓練となる。
個性の成長や、編み出した技の性質に合わせたコスチュームの改良も並行して考えていく。予期せぬアクシデントが起きた分、使える時間はとても短くなってしまっている。だが……ヒーローたるものそれすらも乗り越えなければならない。
「プルスウルトラだ……準備はいいな?」
「──……ワクワクしてきたァ!」
〜
「どうしようかなァ……?」
「どうしたんだい出久、ボーッとしちゃって」
「あ、鳴神さん。必殺技のことなんだけどさ……僕腕に爆弾ができちゃってさ。あまり無理することができなくなってるんだ。正直なところさ、必殺技の新しいビジョンが全然見えてこなくて……」
「フルカウルとエアフォースじゃ足りない?」
緑谷は悩んでいた。林間合宿での天威との戦いによって、緑谷の腕は靭帯が劣化してしまいリハビリと慎重な運用が必要となっている。あまり無理はさせられない以上、どうしてもこの腕で扱う必殺技のイメージができなくなっていたのだ。
まとまらない考えに唸っている時に、風華はタイミングよく緑谷に話しかけていた。話を聞いた彼女は既にある必殺技では足りないのかと聞くが、緑谷の返事は良ろしくない。どうやらそれだけでは足りないと思っているようであった。
「新技、無理に作らなくてもいいと思うよ。出久の個性を考えれば、今以上にできそうなことといえばオールマイトが期末テストでやってた……空中歩行くらいしか思いつかないんだよね。わたしに思い浮かぶのはこれくらいだし、出久が自分でアイデアを出せないのなら……今は個性伸ばしに専念した方が良いと思うんだ」
「うーん……やっぱりそうか。爆弾を抱えるようになって焦ってたかな。言われてみればフルカウルもエアフォースも、まだまだ改良する余地がたくさんあるし、個性伸ばしに専念するよ」
「それが良いと思うよ。必殺技なんて、一朝一夕で作れるようなものじゃないしね。今は『12%』の定着と瞬間的な……今の限界は25%だったっけ?『25%』への引き上げを、当たり前にできるようにすること。エアフォースの訓練も忘れずにね」
「そうだね……頑張ってくるよ。何だかこうやって話してるとさ、鳴神さん先生みたいだね」
緑谷の今の限界出力は、全開時の25%まで上がっている。15%を超えると行動に風圧が付随するようになるため、普段の出力は12%くらいで固定し瞬間的に引き上げるようにする。
エアフォースに関しては、命中精度の向上や範囲の自在化などが課題となる。こっちはサポートアイテムでどうにかするべき問題なので、緑谷がすべきことはあまりない。やれてデコピンで弾くようにして撃っているのを、他の部位でもできるようにすることくらいだろう。
自身の課題を明確化してもらった緑谷は、風華に礼を言うと訓練をしに駆け出していく。その後ろ姿を見た風華は、緑谷の心の靄が取れたなら良かったと小さく微笑むのだった。
「鳴神、お前人に構ってる場合か?」
「相澤先生。大丈夫ですよ……必殺技なら今ある分だけで十分に足りてますし、やるべきことのビジョンも見えてますから。出久のモヤモヤも晴れたことですし、今からわたしも始めるところです」
「ならいい、さっさと始めろ。お前は元から完成に近い分レベルアップには手間がかかる。そのことをしっかりと自覚して、自分のやりたいことやできることを考えた訓練をしろよ」
「勿論です。それじゃあ相澤先生……わたしも訓練行ってきますね」
アドバイスは教師のやることだと相澤に叱られた風華は、そそくさと彼から離れるように自分も訓練に向かう。とは言え、今の時点で形にできそうな必殺技というのは思い浮かばない。なので今日はできることの再確認の時間にすることにした。
今まで『疾風迅雷』を使ってやってきたことや、難しいからやらなかっただけで、できることなどを併せていけば、クラスメイト達がやっているような技も再現できるかもしれない。そうして使えそうなものがあれば、それを鍛えるべき必殺技としようと決めたのであった。
「まずは……こんなのからかな」
左手を上空に向けて、辺り一帯の空気を少しずつ掌握していく。赫災領域なら一瞬で済ませることができるのだが、今はリスクを考えて使わない。普段の力だけで熟していく。
掌握を終えれば、上空の冷たい空気を引き寄せてTDL内の気温を少しずつ下げていく。天井の方に開いた換気用の穴からしか空気を持ってこれないため時間がかかるが、それでも数十秒程で寒さに弱い蛙吹の動きが止まる程度には気温を下げることができていた。
蛙吹は個性のせいで極端に寒さに弱いが、普通の人間でも低気温のの中では身体のパフォーマンスが鈍るようになる。炎熱系の個性を持つ者や対策をしていない者でもない限り、多くの相手に対して有効なデバフとなるだろう。もちろん自分も寒さ対策をしていることは前提だが。
「燎翠……『火雷』」
高めた電熱により火炎を灯す技、燎翠『火雷』を用いて冷えた空気を逆に暖めてみる。冷えた空気に強い熱を加えることによる膨張効果による爆発を狙ってみたのだが、失敗に終わった。上空から持ってきた空気程度の冷たさでは、膨張させて武器として使うには不十分ということなのだろう。
轟レベルで冷やすことができたのなら、話は全く変わってくるのだが。風華は取り敢えずこの方法で必殺技を作るのは取り止めた。また別のアプローチを考えていくが、いい考えは浮かんでこない。
──そもそも、
アイデアが出ないのなら、自分も緑谷のように個性伸ばしに専念していくべきかと考える。今やっていることをより早く、より確実にできるようにすることも大事なことだ。緑谷に言ったように、必殺技などそう簡単にはできないのだから──
──出久みたいに?
さっきまでの緑谷とのやり取りから、風華は一つのアイデアを思い浮かべた。すぐさまそのアイデアを実践するべく、
そのデメリットを、少しでも軽くする。これから先無闇に頼ることができなくなったとは言え、強力な力であることは間違いない。怒りを暴走させていたあの頃よりは遥かにマシと考えて、無理なく運用していく方法を探っていくべきなのだ。
そうして思いついた一つのアイデア。緑谷が自身の技を一つ一つ昇華していっているように、ずっと両方の力を同時に使っていた
最初から違和感なく両方の力を行使することができていた風華には、一つ一つの力を分けて考えるという発想がこれまでなかった。二つの力をそれぞれで使うようにして、尚且つ技を使うその瞬間だけに発動時間を限定することができれば……きっと制限時間を大幅に引き延ばすことができるだろうという考えであった。
「空気と、電気……力を分けて使う……!」
赫に染まった空気が元の色を取り戻し、皆の背筋を強張らせていた緊張が解けていく。纒雷として身に纏う稲妻だけが赫々と弾け、風華の全身に絶え間なく迸っていた。
そのままの状態を維持しつつ、軽く動き回りながら状態を確かめてみる。
まず一つ目の試みは成功。次は反対に纒雷を解除して空気を赫く染め上げていく。怒りがもたらす緊張感に再びTDLが包まれる中、風華は指先で弾けさせたスパークが赫に染まっていないことをしっかりとその眼で確認した。
再び、キチンと運用できるかを確認する。赫い空気を左掌に集めていき、纒雷を発動。釣られてスパークが赫くならないように気を付けながら、集めた空気を弾丸として天井に撃ち放った。空気の弾丸は逸れることなく天井に巨大な風穴を開け、纒雷も翠から色を変えず弾けている。こちらの方でも目論見が成功したと、風華は一つ息を吐いた。
「よっ、鳴神少女!やってるねぇ!」
「オールマイト!怪我はいいんですか!?」
「ハハハ!大丈夫さ、心配ありがとな!今日は特に用事もなかったんだがね、暇だから来た!」
「そんな……今は療養に専念するべき時期なのに、わざわざありがとうございます!」
「頑張ってるみたいだな!新しい必殺技はどうにかなりそうかい?」
「そうですね……新しい必殺技という訳ではないんですけど、いい感じにできてますよ。仮免試験までにはモノにできると思います」
「それは楽しみだな!君の実力なら余程のことがなければまず合格できるだろうが……驕らず慢心せずしっかり励んでいけよ!ところで、緑谷少年は何処だい?ちょっと話があるんだが」
「出久ですか?彼ならあの高い所に……!?」
オールマイトに緑谷の居場所を聞かれ、彼が訓練をしている場所を風華は指差した。セメントスが造った小高いセメントの丘を、アクロバティックに登っていく緑色のシルエット。動きが派手だから分かりやすいなあとか思いながら緑谷が着地するまでを見ていると、彼は突然丘の頂上で蹲る。
「あッ……!?あああァッ!?」
何事か……そんなことを考える暇もなく、事態は動き出した。痛みを抑えるように腕を抱える緑谷の背中から、黒い触手のようなものが突き出して丘を粉々に破壊したのだ。
「な、何だァ!?」
「デク君!?何アレ……触手?」
「おい、大丈夫かよ!ダメだ近付けねェ!」
「あ、相澤先生は!?」
「引き継ぎでB組のトコ行ってる!」
「ならば俺が呼んでこよう!緑谷君、苦しいだろうがしばし待っていてくれたまえよ!」
「オールマイト、アレは……」
「いや……ワン・フォー・オールには、そんな力はなかったハズだが……!」
「分からない、ですか。しょうがないね……ならばわたしが止めておきます!」
「な、鳴神少女!気を付けておくれよ!」
先生達は黒い触手を抑えようと頑張ってくれてはいるが、セメントは破壊されてしまい、眠り香も分身も触手に払われて届かない。かと言って他の打開策は出てこず、触手に全身を引っ張られるような感覚に激痛を味わっている緑谷を、他の生徒達を避難させながら、遠巻きに眺めていることしかできなかった。
相澤の抹消ならばあの触手を消すことも簡単なのだろうが、肝心の相澤は席を外しておりいない。暴れる触手をどうにかして抑え、相澤が来るまでの時間稼ぎをしなければならない……風華が飛び出していったのは、そんな思惑の真っ只中であった。
「なっ……鳴神ざ……来ちゃ、ダメだ!」
「そういう訳には……いかないだろ!」