風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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ワン・フォー・オールの暴走

「出久、今どういう状況か教えて!」

「いっ……痛い……!身体がっ……外側へと引っ張られてるみたいだっ……!」

 

 纒雷により上昇した身体能力で、風華は緑谷の身体から溢れ出る黒い触手を抑えつけていく。触手は緑谷の両腕を起点として全部で10本、それら全てを風華単独で抑えるのは無理がある。増援が欲しいところだが、今はそれも望めない。状況はとても難しいものとなっていた。

 

「クッソ……せめて近付ければ!」

「あの触手、もぎもぎがくっ付かねえ!」

 

 触手の影響がない場所で待機しているクラスメイト達も、どうにかして緑谷を助けようと方法を模索している。しかし有効な対策は出ず、結局見ていることしかできていなかった。どれだけ歯痒い思いをしているのだろうか。爆豪や切島などは、歯が砕けんまでに強く口角を歪ませていた。

 歯痒い思いをしているのは、緑谷を抑えている風華も同じであった。身体の内側から湧き出ている触手は引っこ抜く訳にもいかず、かと言って彼を蝕んでいる痛みをどうこうできる訳でもない。これ以上のことができる立場にいないのである。

 

 一応言っておくなら、A組がするべきことはこのまま緑谷を抑え続けて、飯田が相澤先生を呼んでくるまで待つことである。あの触手が個性の産物である以上、相澤の抹消なら問答無用で打ち消せる。

 このまま余計な手出しはせず、相澤を待つことがこの場で取れる正解。理屈の上ではそうだと分かっていても、どうしてもA組の面々は自分を納得させることができなかった。

 

 ──何か……!何かできることはないのか!?

 

「うぅ……!ううぅ……あ……?」

「出久……どうしたの!何が起きたの……」

「聞こ、えるんだ……誰かの、声……?」

「声……?声……まさか」

 

 抑え続けてしばらくして。緑谷の身に一つの異変が起こった。頭の中で知らない誰かの声が聞こえてくると言うのだ。恐らくは黒い触手の出現に呼応したもの。声の主が誰なのか、ワン・フォー・オールの秘密を聞いている風華は察しがついていた。

 緑谷出久、個性『ワン・フォー・オール』。超常黎明期より脈々と受け継がれてきた聖火の如き個性であり、平和の象徴オールマイトより彼が9代目として授かった個性である。その力は持ち主の力を個性の中にストックして、それを次代に受け継がせることができるというもの。この個性を受け継いだ者は、先代の面影を見るのだという。

 

 個性に残った先代の面影。緑谷に語りかける声の正体はそれだろうと、風華は予想を立てていた。もちろん、ワン・フォー・オールを持たない風華には予想することまでしかできない。だが、見れば先ほどまで痛みに苦しんでいた緑谷が嘘のように静かになっている。

 それを見れば少なくとも、緑谷に聞こえた声は彼の害になるようなものではなかったと分かる。この後がどう転ぶかはまだ分からないが、風華はせめて緑谷が無事で済むようにと祈ることにした。

 

 ──お願い、出久。無事でいてよ……!

 

 

 〜

 

 

「やあ、9代目。お久しぶりと言うべきかな?」

「…………!?」

「ああ、まだ口がないのか。ごめんよ」

 

 手放した意識の中、緑谷は謎の空間で自分と対峙する人物を見た。それは以前、職場体験での訓練中にもみた姿。巨悪を討ち果たすためにその力を次へと託した初代ワン・フォー・オールその人である。

 目の前に座る初代に話しかけようとするが、緑谷は口が黒い靄に覆われており声を出せない。そのことを察しているからか、初代は自身の傍にもう一人の男を呼び出すと、緑谷の意思を無視して自分の話を始めた。傍の男は静かに、耳を傾けていた。

 

「ワン・フォー・オールの訓練、随分と頑張っているみたいだね。君が力を継承したあの頃とは比べ物にならない程、今の君は成長している」

「……」

「さっきまでの訓練中、君の身体から吹き出してきた触手のようなもの。アレはここにいる彼……5代目の個性だ。今までは表面化せずに内側に沈んでいた力……それが、いきなり現れた。ワン・フォー・オールの中にいた僕達にも予期せぬ形で」

「俺達の因子は、ワン・フォー・オールの中に混ざった状態でずっとそこに在った。受け継がれ、培われてきた力の中に埋もれて表面化するはずのなかった小さな点さ。だが、そいつが今になって大きく膨れ上がり胎動を始めた」

 

 緑谷が訓練を重ねるに連れて、少しずつ見えてきていたもの。培われてきた力という『膜』の隙間から見える力の核。ワン・フォー・オールそのものが成長を始めている。

 

「デコピンで空気砲を打ち出す技……確かエアフォースとか言ってたヤツだね。恐らくはエアフォースを撃つ時の衝撃により、力の揺らぎから飛び出してきたのだと思う」

「最初に出てきたのが俺の『黒鞭』で良かったさ。コレは良いー個性さ。だがな、ワン・フォー・オールの力が上乗せされることで、俺の頃よりも黒鞭は大幅に強化されてる!っとと……!」

 

 言い切ったところで、二人の身体は黒い靄に捉われ少しずつ薄れ始めた。時間切れらしい。先代達はワン・フォー・オールの中に残された心だけの存在であり、とてもフワフワしたものである。今回黒鞭の表出をきっかけに、初代と5代目が何とか出てくることを可能としたが。本来はこんなこと、できるはずがなかったのだ。

 せめて消える前にと、5代目は緑谷に黒鞭を扱う上で必要な心構えなどを説く。緑谷は声を出せないなりに真摯に耳を傾け、初代はその様子を優しい目で眺めていた。

 

「いいか?怒りのまま振るえば、力はそれに応えてくれる。怒りは力の源だからな……肝心なのは心を制することさ」

 

 心を制する……そう言って、5代目は緑谷の心臓のある位置に右腕を突き出す。靄で曖昧になっている緑谷の身体は、その腕を簡単に受け入れた。

 言われたことにも、心当たりがある。赫災領域のあの力を、緑谷はこの眼で見ていたから。あらゆる怒りをキッカケに、ヒーローを志した少女のことを知っているから。怒りを制しコントロールしていくことがどれだけの力を自分に与えるのか、緑谷にはそれがよく分かっていた。

 

「8人の人間を渡り、ワン・フォー・オールは途方もなく大きな力となった。良いか坊主!お前にはこれから6つの個性が発現するさ!心を制して俺達を使いこなせ!」

 

 ──頑張れよ、坊主。俺達がついてる。ワン・フォー・オールを完遂させるのはお前だ!

 

 消えていく5代目、そして初代。真剣な眼で自分を見据えながら消えていく彼らを、緑谷もその想いに応えるべく真剣な眼差しで見送った。赫い稲妻が緑谷の身体を迸り、靄を晴らして意識を引き戻したのはその直後であった。

 

 

 〜

 

 

「あ……戻って、きた……?」

「出久!大丈夫、怪我はないかい……?」

 

 意識が覚醒した緑谷が最初に見たのは、自身をお姫様抱っこの体勢で抱える風華の姿と、ワン・フォー・オールのそれとはまた違った輝きを放つ、自身に迸る赫いスパークであった。

 赫雷を分け与えることで、他者に赫災領域(レッドゾーン)の力を一時的に使わせることのできる『天合万雷』。これにより黒鞭に引っ張られて千切られかけていた身体を強化し、暴走が収まるまで緑谷が黒鞭に抗えるようにしたのだ。

 

 黒鞭は個性によって現れたもの。ならば緑谷が個性を制御できる強さを得れば、必然収めることができるはず……そんな狙いもあって使われた技だったが、目論見は上手くいったようである。取り敢えず緑谷が無事でいたことに、風華は安堵し大きく息を吐くのだった。

 

「大丈夫かよ緑谷……!何だったんだアレ!?」

「何か黒いのが、ブワーッて……!」

「新技……にしては、随分と超パワーから逸脱してるように見えたな。どういう原理だ?」

「ごめん……僕にも、ハッキリとは分からない」

 

 力が溢れて、抑えられなかった。今まで信じてきたものに突然裏切られたようで、緑谷自身恐ろしいものを感じていた。風華がすぐに抑えに行っていなければ、このままTDLを破壊するまで止まらなかったかもしれない。

 

「鳴神さん……ありがとう。鳴神さんに止められてなかったどうなっていたか……ヒビ!やばばやばいやばいどうしようリカバリーガールの所に行って早く治療してもらわないとでも治癒力向上の個性でどうにかなるようなものじゃなさそうだしどうs」

「はい、ストップ。出久を強化しても黒いのの暴走が収まるかどうかは分からなかったからね。ありったけの赫雷を渡したんだよ。コレは無茶をした反動だね。すぐ戻るし心配はいらないよ」

「そういう問題か……?」

「ボロボロ崩れてるけど……?」

 

「相澤先生こちらです!緑谷君が黒い触手のようなものを出して大変なことに……なってない!?」

「全速力で来たが……もう終わってたか。オールマイト、顛末を教えてください」

 

 オロオロとして暴走し始める緑谷、それを嗜めるも人のことを言えるような状況じゃない風華。そんな彼らにツッコミをA組の面々が入れていく。相澤が息を切らしながらTDLに戻って来たのは、そんな微妙な空気の真っ只中であった。

 近くにいたオールマイトや教師陣から事の顛末を説明してもらい、相澤は本人から話を聞くべくそのまま緑谷に詰め寄る。プロヒーローの眼光で睨まれた緑谷は一瞬怯むが、臆さず言葉を尽くす。

 

「緑谷、何なんだお前」

「僕にも……よく分からないです。今までのように出力に耐え切れなくて身体が壊れるってのとも違ってて、止められなくて……こんな力が有るなんて僕自身知りませんでした。鳴神さんが止めに来てくれてなければ、どうなっていたか……本当に訳が分からなくて、すごく恐ろしかったです」

「で、今後はどうする」

「制御します。いきなり出て来て怖かった……けどあくまでコレも個性です。セメントス先生達が身を挺してみんなを庇ってくれたおかげで、誰も傷付けずに済みました。鳴神さんが僕を止めてくれたおかげで、この力はあくまで自分の力なんだって気付くことができました。だからこれから──」

 

 ──必ず、モノにして見せます。

 

 緑谷の言葉、目線。それが真剣なものであることを相澤はしっかりと受け取り、ならばしっかり訓練に励めた小言を言うだけに留めた。

 

「じゃ出久、君は医務室だよ。相澤先生、わたしが連れて行きますね」

「おう、さっさと連れてけ」

「えっ、いや、ちょっ……」

「落ちないように、ちゃんと掴まってるんだよ」

 

 風華は有無を言わせず緑谷を背負い、そのまま医務室まで連れていく。自分もヒビをすぐに収めるために行くつもりだったので、そのついでである。風華よりも身長の低い緑谷だが、背中にかかる重みは自分の体重を軽く超えていると分かる。

 いきなりおんぶされた上、その状態のまま医務室まで校舎内を回ることになった緑谷。途中ですれ違った生徒や教師に奇異の目で見られる中、彼は羞恥に顔を埋めるのであった。

 

「あの、鳴神さん……僕歩けるから大丈b」

「おとなしくしてて。いきなり降って沸いた新しい力なんて、どんな影響があるのか分かったもんじゃないんだから」

「はい……」

「よろしい」

 

 そんなやり取りがあって、何とか無事に医務室に到着した2人。状況を聞いたリカバリーガールはすぐに緑谷を座らせ、治癒を始める。黒鞭に引っ張られた上に打たれた身体は、内出血で赤と蒼に腫れ上がってしまっている。「こりゃあまた酷い」という一言から始まった治療により、緑谷の身体は急速に元の色を取り戻していく。

 何度かに分けて行われるリカバリーガールの治療行為。それらは恙無く完了し、緑谷は元通り動けるようになる。特に後遺症などは残っていなさそうな様子を見て、風華はそっと拳を緩めるのだった。

 

「緑谷少年、大丈夫だったかい!?」

「オールマイト!一応大丈夫です、もう痛みはないし身体もちゃんと動きます。けど……」

「話があるなら外でやりな。ほら、出ていった!」

「おっと、申し訳ありません!」

 

 治療の終わった2人はリカバリーガールに医務室を追い出され、迎えに来たオールマイトと共に応接室へと向かう。風華に秘密を聞かれた時のようなポカをやらかさないよう扉をしっかりと施錠し、確認してから黒鞭について言及を始める。

 

「ワン・フォー・オールの力を使ってると、誰かの面影のようなものが見えることがあるんです。いつもなら見えるだけで、コンタクトを取れることなんてなかったんですが……今回、あっちの方から僕に語りかけて来ました。あの黒い触手は5代目の『個性』だって……」

「先代の『個性』か……先代の面影が見えることに関しては、私もお師匠から聞いたことがあるし自分でも見たことがある。コミュニケーションを取ることはできなかったがね。何か情報は無かったかい?黒いのの使い方とか、どうして今になって出て来たのかとか……取り敢えず何か無かったかい?」

「言ってました。ワン・フォー・オールの中に埋もれたままでいたはずなのに、いきなり表に出てこれるようになったと。何人もの人間に受け継がれてきたことで、個性自体が変化を始めていると……」

「今回出て来たのが5代目でしょ。初代の個性はワン・フォー・オールそのものとして、一人が出てきて他がないなんてことはないと思う。出久にはまだまだ出てくるんじゃないの?先代の個性」

 

 出てくると思う、緑谷は歯切れ悪くそう答えた。先代の個性がどんなものかを知らないし、しかもそれらは彼らが持っていた頃よりも強化されているという。何が出てきてどう転ぶのか分からない、そんな漠然とした不安があったのだ。

 

「出てくる、と思う。実際面影の中に出てきた5代目にもそんなことを言われたんだ。オールマイトは元々無個性で、初代の個性はワン・フォー・オールそのもの。だから残りは2・3・4・6・7代目の個性が出てくるんだろうね……」

「先代がどんな方々だったのか、お師匠からしっかり聞いておけばよかったな……緑谷少年、私は先代の個性などについて調べておこう。君は私が情報を持ってくるまでは無理をせず、出力の向上に努めておいてくれたまえ」

「でも、やっぱり不安ですよ。あの黒鞭の暴発はいきなり起こったものですし、今は気配が消えてて出てきそうにないですけど……また暴走させてしまったらと思うと、怖いです」

「じゃあ、やることは一つだね。オールマイトにもちゃんと付き合ってもらいますよ。わたしもできる限り協力しますけど」

 

 いったい何をすると言うのか。緑谷が怪訝に思いながら尋ねると、風華は当たり前のことを聞くなとばかりに即答した。

 

「決まってるでしょ。訓練だよ」

 

 できないことがあるのなら、できるようになるまで訓練すればいいのだ。個性研究所で10年以上それを実践してきたからこその言葉。緑谷には語る風華の微笑みが、悪魔のそれに見えたという。




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