風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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個性制御訓練

「さぁ出久、最後の仕上げにいくよ」

「うん!鳴神さん、今日もよろしくね!」

「2人とも、あんまり無理はするなよ!」

 

 緑谷に黒鞭が発現してから6日が経ち。オールマイトを監督として秘密の訓練を積んだ彼は、ある程度の制御が可能となっている。

 今は風華を相手にした組手から、黒鞭の有効な使い方を模索しているところである。仮免試験を明日に控えている以上、使える手札は少しでも多くあった方がいい。少しでも扱いを実践レベルに近付けるために、訓練は苛烈さを増してきていた。

 

「スマホのパスコードを外すように……鍵を外して中から力を引き出す!」

「……いいね。それじゃあその黒鞭で一度でも、わたしに触れてみるんだね」

「手加減なし……いくよ!」

「どこからでも、かかっておいでよ!」

 

 黒鞭は初めて出た時の暴走からずっと、ロックを掛けられたかのように出てこなくなった。しかしそこは自分の力、緑谷はスマホの暗証番号を入れる時をイメージすることで、ロックを外して黒鞭を暴走させることなく引き出すことに成功した。

 出せるようになったならば、次はそれを使いこなせるようにする必要がある。鞭ということで相手に叩きつける飛び道具として使ったり、相澤の捕縛布のように周りのものに引っ掛けて立体機動をしてみたりと、少しずつ練度を上げていく。

 

 オールマイトが監督をして、黒鞭が暴走しても止められる風華がストッパー兼相手役をする。ワン・フォー・オールの秘密を知っている者以外には、事情を明け透けにできないということもあるが。この日まで何とか暴走を抑えながら、黒鞭の制御訓練をすることができていた。

 ちなみに、昼の訓練中は黒鞭を使っていない。サポートアイテムの確認や新しい戦闘スタイルの開発など、やるべきことが多いからである。

 

「先制必縛!」

「よーいドンで始めるのに、無理があるよ!」

 

 暴走させることなく黒鞭を引き出すことに成功した緑谷の訓練は、風華を相手とした一対一の鬼ごっこであった。オールマイトが持っているストップウォッチが時を告げるまでに、風華を捕らえることができれば緑谷の勝ち。逃げ切ることができれば風華の勝ちである。

 ただし緑谷は訓練のため、確保には黒鞭を活用していなければならないという縛りがある。とは言えワン・フォー・オールの素の力だけで風華を捕まえるのは、緑谷には難しい話ではあるのだが。

 

「クッソ……分かってたけど、速い!」

「お喋りしてる暇があるなら、手を動かしなよ!」

「絶対、捕まえてやる!」

「ホラホラ!もっと早く、速くだよ!」

 

「うーん……やっぱり付け焼き刃では、大した戦力にはなりそうにないな。いや……あれは鳴神少女が大人気ないだけか……?」

 

 オールマイトは2人の戦いを観察し呟く。緑谷は風華を捕らえようと懸命に駆け回り黒鞭を振るっているが、纒雷を発動している風華の機動力には翻弄されっぱなし。慣れない力を使っている分、むしろ普段よりも動きが硬くなっていた。

 尚それを差し引いても、鬼ごっこで雷上動を使うのは大人気がなさ過ぎるんじゃないかとオールマイトは思っていた。瞬間移動する敵を捕まえるには移動するコースを予測しながら動かねばならず、そこに思考のリソースを割けば黒鞭の扱いが疎かになってしまう。ただでさえ風華には赫災領域(レッドゾーン)という切り札も残っているというのに、ハンデも含めて使える力に差があり過ぎるだろうと。

 

「まあ……Plus Ultraと言えばそれまでなんだけどなぁ。流石に雷上動の使用は自重してもらうべきだったかなぁ……」

 

「どうしたの、もう終わり!?」

「まだっ……まだまだァ!」

 

 手元のストップウォッチを確認する。残り時間はあと1分程だが、緑谷はまだ風華に黒鞭を触れさせることすらできていない。立ち回り自体は段々と洗練されてきてはいるが、この一回で風華を捕らえられるようになるのは無理だったか……オールマイトがそう思った矢先に、鬼ごっこはその展開を急激に変えていく。

 

「セントルイススマッシュ……エアフォース!」

「うわっ……!?」

「まだまだァ……!マンチェスタースマッシュ……エアフォース!」

「ぐうぅ……!」

 

「おおっ、エアフォースを足で!」

 

 緑谷はこれまで、制御の利かせやすいデコピンでしか使ってこなかったエアフォースを、殴打や蹴りでも使うようにした。デコピンの時と比べて精度は落ちるが、その分威力は高く射程も長い。その上風華にとっても初見の技であるため、対応までにどうしても時間をかけざるを得なくなる。

 ここまで思考を巡らせ続けながら黒鞭を振るってきたことで、緑谷は今までの手札では風華を捕らえることは不可能だと判断した。それ故に投入した一か八かの手札。少しずつ黒鞭の扱いに慣れてきたことで並行してできるようになった、足技をメインとして戦う『ワン・フォー・オール フルカウル シュートスタイル』。

 

 蹴りを回避しようと後ろに飛んだ風華は、放たれたエアフォースの衝撃で吹き飛び地に足を付ける。そこに間髪入れずやってくる踵落としも回避しようとすると、今度は空中で踵落としの反動を利用して勢いを付けた緑谷が、両方の足でもう一度エアフォースを放った。

 左右の逃げ道を空気の弾丸によって潰され、後ろに跳ぶが前に進むしか退路がなくなる風華。しかしそのか細い退路は、どこも黒鞭の射程圏内。自分に絶対有利なルールの鬼ごっこでここまで追い詰められてしまったことに、ギリリと歯を軋ませた。

 

「マンチェスタースマッシュエアフォース……ダブル!」

 

「空気の弾丸で逃げ道を塞いだ!」

 

「これで……チェックメイトだ!」

「甘いよ……わたしの個性を忘れたかい!?」

 

 だが、緑谷もオールマイトも……風華本人でさえも一瞬だけ失念していた。鳴神風華という人間が持つ個性の力を。

 

 エアフォースによって放たれた空気の弾丸、風華はそれに手を当てると更に多くの空気を集めて圧縮していく。二組の暴風は風華の掌に収まると、そのまま緑谷に向かって放たれる。

 風の暴威は風華を捕らえるべく伸ばされた黒鞭を蹴散らし、そのまま緑谷の顔面と股を撃ち抜いて意識を刈り取っていく。墜落した彼が落下地点に先回りした風華によって受け止められたと同時に、ストップウォッチが制限時間を告げたのだった。

 

「よし……わたしの勝ち!」

「相当ズルい勝ち方だったけどな!」

「それでも勝ちは勝ちです!オールマイトは勝者をたくさん労ってくれていいんですよ?」

「ははは……まぁ、事前に雷上動を縛っておかなかったのは私の責任だからな!お疲れ様!」

 

 吹き荒ぶ大風(バンパーストーム)で股間を撃ち抜かれた緑谷の痛みを想像し、無意識に股に力を込めるようになるオールマイト。流石に訓練で相手側の勝ち筋を全部潰そうとするのは良くないと風華に注意をして、白目を剥いて気絶する緑谷を叩き起こした。

 足でエアフォースは撃てないと風華が油断していなければ、緑谷はそもそも追い詰めることもできていなかった。最後まで瞬間移動に翻弄され続けたまま終わっていただろう。実践ならば、相手の勝ち筋を全部潰して自分の有利を押し付けていくことは正しい戦い方と言える。しかしこれは訓練である。内容に合わせて戦法を限定することも必要だと、オールマイトは風華を諭すのであった。

 

 オールマイトからのお叱りを受けて、風華はバツが悪そうに笑う。彼は良いところを見せようと張り切りすぎていたことを自覚し、次からはちゃんとやり方を考えると約束した。負けず嫌い故に、捕まりそうになったらまた、雷上動を使うのだろうという自覚もあったが。

 

「うーん……ハッ!しまった、訓練は!?」

「一旦休憩だよ。わたしの技が急所に当たって出久を気絶させちゃったからね。オールマイトにやり過ぎ、大人気なさ過ぎって叱られちゃったや」

「うん……僕も鬼ごっこで雷上動はズルいと思う」

「……次からは自重するよ」

 

 あまり反省はしてなさそうな口調で、風華は緑谷と会話しながらスポーツドリンクを流し込む。もし今後捕まえられそうになったとしても、風華はきっとその時は縛りを破るんだろうな。緑谷はそうなった時のことを考えて苦笑するのだった。

 

「まぁ、確かにズルいとは思うけども。おかげで瞬間移動や高速移動をする相手の立ち回りとかの勉強になったよ!黒鞭もだいぶ上手く振り回せるようになってきたし!」

「新たに降って沸いた力、暴走の懸念もあるし訓練も大変だろうが……使いこなせればそれは強力な武器になる!今の段階でも、仮免試験では有効な武器になってくれるだろうな!」

「そうだね。その調子で頑張って……」

 

「……見つけたぜ」

 

 ザッ、と土を踏む音が聞こえる。誰かが様子を見にきたのだろうか、まぁ大きな音を立て過ぎたかなと風華が考えながら振り向くと、そこには仁王立ちする爆豪の姿があった。

 

「かっちゃん!?」

「爆豪少年!?」

「勝己……」

「いつもアンタら3人……こうして夜中にコソコソしてやがったのか」

 

 爆豪は返答を待たず、話を続ける。誰もその言葉を遮ることなく、静かに彼が言葉を紡ぐのを聞いていた。

 そして、爆豪は緑谷を指差す。「ずっと気色悪い奴だと思っていた」と言い放って。緑谷はその言葉に身構えた。爆豪が何を言わんとしているのかを察してしまったから。

 

「無個性で出来損ないだったハズのてめェが、どういう訳だか雄英に合格して、どういう訳だか個性を発現させてよォ……」

 

 

 ──人から授かった『個性』なんだ。

 

 

 ──いつか、ちゃんと自分のモノにして……『僕の』力で君を超えてみせるから!

 

 

「訳の分かんねえ奴が、訳の分かんねえことを吐き捨てて……自分一人だけ納得した気になって、どんどんどんどん登って来やがる。ヘドロの時から……いや、オールマイトが街にやって来たあの時から。どんどん、どんどんとなァ……」

「……」

「ずっと気色悪くて、ムカついてたぜ!訳分かんねえこと言いやがって……けどなァ、神野の一件でなんとなく察しが付いた」

「……!」

 

 話に着いていけない。2人とは雄英に入学してからの付き合いになる風華は、2人が仲悪く何かしらの因縁を持つことは知っていても、それ以上のことは分からない。

 分からない以上、何をしようとこの場では余計なことになるだろう。風華は黙って、この話がどこかに着地するのを待つことにした。

 

「ずっと、考えてた……」

 

 ──オールマイトから貰ったんだろ、その個性(ちから)

 

 核心を突いた発言。緑谷の失言から辿り着いた答えとはいえ、自力でその考えを持てたことにオールマイトは驚き、風華は自分が偶然聞いてしまった秘密に爆豪が自力で辿り着いたことに感心し、緑谷はその言葉が来ると分かっていたからこそ、沸いて出た生唾をグッと飲み込んだ。

 

「敵のボスヤロー、アイツは人の個性をパクって使ったり与えたりできるそうじゃねえか。信じらんねえけどな。プッシーキャッツ(ネコババア)の一人が個性の消失で活動休止したこと、脳無とかいうカス共が個性を複数持っていることから考えると信憑性は高え」

「……」

「そして、オールマイトとボスヤローには面識があった。個性の移動っつーのが現実的にあり得ることで、オールマイトはソイツと関わりがあって、それがてめェの『人から個性を授かった』っつー発言と結びついた。オールマイトと会って、てめェが変わって、オールマイトは力を失った」

「……」

 

 

 ──次は、君だ。

 

 

「てめェだけが、違う受け取り方をした」

 

 神野の事件後、オールマイトが最後にテレビカメラに向けて放った言葉。メディアや国民はその言葉をまだ見ぬ敵に対する警告と解釈したが、緑谷だけは違った。その言葉がこれからのヒーロー達への世代交代という意味だと理解していた。そしてその筆頭となるべきが、自分であることも。

 

「家庭訪問の時、オールマイトには質問したけど答えてはくれなかった。だから代わりにお前に聞いてるんだ。どうなんだ?」

「……そうだよ。それを聞いてどうするの?」

 

「緑谷少年──」

「待ってください」

 

 緑谷は認めた。爆豪がここに来た時から、こうなることはもう覚悟していた。戦闘訓練の時に言いつけを守らず、余計なことを口走ってしまった報いを今、受けているのだ。

 オールマイトは言うべきではないと、緑谷が語るのを止めようとする。もう今更止めても遅いと分かっていながらも、口に出た緑谷の名前。その後に続くはずだった言葉を、風華は遮った。

 

「戦え。今、ここで俺と」

「……!」

「てめェも俺も、オールマイトに憧れたからヒーローを目指した。なのに、ずっと路肩の石ころだと思っていた奴はオールマイトに……共に憧れた相手に認められて……だから、俺に確かめさせろ。お前の何がオールマイトにそこまでさせたのか」

「かっちゃん……」

 

「2人とも、ここはもう寮に戻っ……」

「……ここは、見守ってあげてください」

 

 

 ──オールマイトは凄いんだ!どんなにピンチになったって、最後は絶対勝つんだよなぁ!どんなに大変な状況でも、どんなに困ってる人がいても、笑顔でみんな、救けちゃうんだよ……!

 

 

 爆豪が跳ぶ。離れていた緑谷との距離を一度の爆破で近付き、そのまま大振りの右フックを仕掛けていく。緑谷はそれに対して身構えるも、これは既に戦闘訓練で破った戦術。フェイントの可能性を考えて頭の中に迷いが生じたところで、その一撃をモロに食らってしまった。

 

「なぁ……デク。オールマイトはてめェの憧れの方を正しいって判断したのかよ?だとしたら……俺がオールマイトに憧れたこの気持ちは、間違いだったっていうのかよ?」

「憧れに……正しいも間違いもないよ!」

 

 こんな戦い、無意味だ。どちらが勝ってもどちらが負けても、所詮はただの喧嘩。教師の見ている前ということもあり、大目玉を喰らうだろう。

 今は風華がオールマイトを制止しているが、それだって本来は間違っている。風華はオールマイトではなく戦おうとする2人を止めるべきであり、その判断は誤りと言わざるを得ない。そのオールマイトにしたって、自分では止められそうにないのなら応援を呼ぶべきで、風華の静止を受け入れて棒立ちしている場合ではない。

 

 今この場にいる4人、全員間違っている。

 

 

「避けんじゃねえ、戦え!」

 

 

 それでも、爆豪は戦うことを選んだ。

 

 

「やるなら全力だ……!僕はサンドバッグになる気はないぞ、かっちゃん!」

 

 

 緑谷は、爆豪を受け止めることを選んだ。

 

 

「ええい……もう!この戦い私が見届ける!この際思う存分本音をぶつけ合っちゃえよ!」

「何かある前に、わたしが止めますから」

「よろしく!」

 

 

 オールマイトは、見届けることを選んだ。

 そして、風華も。

 

 

「ちょうどいい……黒鞭とシュートスタイルの合わせ技、君で試してやる!いくぞかっちゃん!」

「クソデクがァ……調子乗ってんじゃねェ!」

 

 どうしようもない悩みを、迷いを……戦うことで発散させたいだけなのかもしれない。それが分かっていても、緑谷は爆豪を一蹴できなかった。思い出すのは初めてあった頃。

 幼稚園から始まり、今に至るまで……2人の付き合いは10年以上にもなる。しかしその中でも2人が腹を割って話せたのは、体育祭で戦ったあの短い間だけ。お互いに、言いたいことを言い切るよりも先に体力の限界が来てしまっていた。

 

 だから、ここで全部出し切る。あの時は言い切れなかったことから、あの時以降相手に言いたくなったことまで全て。

 

「あああああ!!」

「オラアァァ!!」

 

 試合じゃない。本気の『喧嘩』が始まった。




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