風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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仮免試験 その1

「えぇ……ではアレ、仮免のヤツ、やります。僕はヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠……よろしく」

 

 疲れを微塵も隠し切れていない男による司会のもと、この場に集まった受験者達に仮免試験についての説明が為されていく。

 ざっくりと言うならばそれは、受験者総勢1540人による勝ち抜き戦であった。ヒーローが飽和している現代社会、多くのヒーローが救助や敵対時で切磋琢磨してきた結果、事件の発生から解決までの速度はとても迅速なものとなってきている。だからこそ仮免許を取ろうと思うのなら、そのスピードについていけなければならないのだ。

 

「よって試されるのはスピード!この試験は条件達成者『先着』100名を通過とします」

「はぁ!?」

「何だよそれ!?」

「15分の1以下じゃねえか!」

 

 受験生の騒めきが会場中に響き渡る。それもそのはずであろう、本来ならば仮免の合格率は、例年5割程というのが当たり前だったのだから。それが1割以下となるのでは、話が違うと叫びたくなるのも無理はない。

 

「そんで、条件というのがコレです。このボールとターゲットが鍵となっています」

 

 そんな喧騒もどこ吹く風か。目良は何事も起きていないかのように説明を続けていく。彼の話を真面目に聞いていた者達が理解した内容は、下記の通りとなっている。

 

 1.身体の三ヶ所、ただし常に晒されている場所にターゲットを取り付ける。禁止となっているのは脇や足の裏、股の間など。

 

 2.支給される6つのボールは、ターゲットに当てるとその箇所が発光する。3つのターゲット全てが発光したならば、その受験者は脱落となる。

 

 3.3つ目のターゲットにボールを当てた者が、相手を『倒した』ことになる。2人倒したらその時点で勝ち抜き。

 

「入学試験と似てる……いや!」

「対人と対ロボじゃ、まるで話が違うよね」

「ボールの所持数は合格ラインぴったり……3つ目を掠め取るとか、そういった策を取ることを推奨しているということか……?」

「雄英の入試よか、幾分苛烈なルールだな」

 

「ルールは以上です。じゃ、展開後ターゲットとボールを配るんで。全員に行き渡ってから1分後にスタートとします」

「展開?」

 

 試験の内容について各々が思いを馳せていると、目良は何やら意味深なことを言い出した。その言葉を疑問に思った轟がオウム返しすると、天井から不意に光が差し込んでくる。会場がダンボールのように展開し、真の姿を曝け出したのだ。

 

「なんて大掛かりな……」

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「頑張ってね」

 

 一気に広くなった空間を見回して、風華は呆れたように1人聞かれるでもなくそう呟く。仕掛けの無駄な凝り具合には最早、風華は呆れを通り越して尊敬すら抱き始めていた。

 

 係員からターゲットとボールを受け取り、適当な位置に貼り付けると風華は空高くへと浮かび上がっていく。1分しかない準備時間の間に、なるべくアドバンテージの取れる位置を確保する。

 

「あ、鳴神さん!あまり仲間同士では離れずチームアップをするのが勝ち筋だと思うんだ!ここは協力して一緒に戦おう!僕らは周りに手の内もバレてることだしさ……!?」

「お断り。大所帯じゃ力を出し辛いからね。わたしは独りで行かせてもらうよ」

「鳴神さん!?」

「俺も……個性の効果範囲が広いからな、大所帯じゃみんなを巻き込みかねねぇ」

「轟君も!?」

「フザけろ、遠足じゃねえんだぞ」

「かっちゃん!?」

 

 A組の高火力な3人は、それぞれの思惑で緑谷の提案を無視し単独行動に打って出る。仲間同士固まって協力することを想定していた緑谷は、その行動に面食らうも『5!』という合図に頭を切り替え、残った仲間達と動き出した。

 

「出久が率いるなら、みんなは大丈夫かな。協力を無視して単独行動するんだし……わたしはわたしで頑張らないとね」

 

 緑谷が動いたのを見た風華は、意識をそこから切り替えて周りに散らばる敵に向ける。宙に浮かぶ自分を警戒している者に、他の敵を見据えていて警戒の一つもしていない者。そして……

 

「さっきからずっと、見られてるね」

『4!3!2!1!』

 

 ルール説明の時からずっと、自分に意識を向け続けている者。合格するのならば、警戒の薄い者を2人雷上動で仕留めればいいのだが。残念ながらその手は使えない。何故なら、風華はこの勝ち抜き戦のルールを聞いた時点で戦う相手を一人分、既に決めていたのだから。

 

「上等……」

 

 赫災領域(レッドゾーン)を発動し、世界を赫く染め上げる。その力の根源である深い怒りに触れて、多くの者が恐れを抱き足を止めた。だがその中で、恐れの「お」の字も感じさせず風華に向けて突撃する旋風が一つ。試験開始を告げるアナウンスと同時に、二つの暴風は激突した。

 

『スタート!!』

 

「考えてたことは同じ……なのかな」

「ハッハ────アァァ!」

「夜嵐イナサ……お望み通り、遊んであげるよ」

「これが赫災領域(レッドゾーン)!テレビで見た通り……めちゃくちゃ怖いっス!だけど!同じ風系の『個性』を持つ者として、アンタとは一度こうして戦ってみたかった!力試しさせてもらうっス!」

 

 夜嵐イナサ、個性『旋風』。風を巧みに操るその個性でもって、雄英の推薦入試をトップの成績で合格した実力者。

 彼もまた、試験の内容を説明されてからは風華と同じことを考えていた。同じような『個性』の持ち主でありながら、雄英体育祭を優勝し神野の事件でもオールマイトを援護できる実力を持つ少女。気にならない訳がないのだ。この試験で倒すべき2人のターゲットの内、一人は必ず鳴神風華だと夜嵐イナサは心に決めていたのである。

 

 ……赫災領域(レッドゾーン)は初見のはずなのに、こうも落ち着いていられるのか。流石は士傑生ってところかな?これ以上続けるのもあんまり意味ない、か。

 

『おーっと!?開始から僅か数秒!雄英生達が続々と試験を突破していったぞ!?』

 

「早っ!もう終わったんスか!?」

「……目的は果たせたみたいだしね」

 

 アナウンスを務める目良の驚きの声が会場中に響き渡る。赫災領域(レッドゾーン)の出現によって怯み、一瞬動きを止めてしまった者を見逃さず、雄英生達が倒していったからである。その結果、試験開始から僅か8秒という短時間で、緑谷率いる協力組は試験通過を果たしたのだった。

 

 赫災領域(レッドゾーン)を発動すれば、風雷回帰の超再生に風力及び電力チャージの短縮、空気掌握の迅速化などといった利点が生まれる。しかし、敵という訳でもなく大半はそれほどの実力者でもない受験者を相手に使う意味は薄い。

 それでも今回発動したのは、自己中な理由で協力を拒んだ自分が少しでも協力するため。赫い空気に触れた者は、その強い怒りに怯む。それはあのオール・フォー・ワンも例外ではない。そんなものにただの一学生が触れてしまえば、立ち直るまでは相当な時間がかかるだろう。そんな隙を皆が見逃すはずはないと、確信しての援護であった。そしてその一瞬だけの援護は、見事功を奏したのだ。

 

 役目を終えた赫災領域(レッドゾーン)を解除し、改めて風華は距離を取り夜嵐と向かい合う。笑みを絶やさないその顔を見て、改めてコイツは必ずここで倒す……と決意を固めるのであった。

 

「どしたんスか、赫災領域は使わないんスか!?」

「うるさい。食らいな、『吹き荒ぶ風(チープストーム)』」

 

 吹き荒ぶ風(チープストーム)と夜嵐の放つ竜巻がぶつかり、弾けて辺りに烈風を撒き散らしていく。その余波で何人かが吹き飛ばされていくのを尻目に、2人は次に放つ風を集める。再び吹き荒ぶ風(チープストーム)を放つ風華だが、夜嵐はこれを更に上へ飛ぶことで回避。温存できた突風の弾丸をこれ幸いと撃ち放った。

 

「うおっ……マジっスか!?」

「『疾風迅雷』は空気と電気を操る個性……空気の流れだって、思うがままに操れるんだよ」

 

 だが、撃ち放ったそれが風華にダメージを与えることはなく。逆に空気を自在に操る風華の個性によって掌握され、夜嵐自身へ牙を剥いた。

 相殺して態勢の立て直しを試みるが、そうは問屋が卸さない。八方から襲い来る吹き荒ぶ大風(バンパーストーム)を見てしまったからには、それをどうにかしなければその時点で終わりだからだ。

 

「うおお……ヤベェっス、マジ絶対絶命っス!でもこんな時こそ……!プルスウルトラァァ!!」

 

 夜嵐は意を決すると、ありったけの風力を自身に集めて自身を竜巻へと変えた。そのままの勢いで襲い来る吹き荒ぶ大風(バンパーストーム)の一つに突貫。嵐そのものと化した己の突撃により、無理矢理最小限の被害で絶対絶命のピンチを乗り切って見せたのだった。

 だが、相殺したとは言え風華の必殺の一撃に突貫したことによるダメージは大きい。夜嵐ズタズタに刻まれたコスチュームを叩きながら、細かく息を吸って吐いて呼吸を整える。

 

 鳴神はどこだ。この状況で攻撃を仕掛けてこないなんて、そんな虫の良い奴ではないだろう。

 

「ハッ……ハアッ……流石に……大技に飛び込むのは自殺行為だったっスね……!」

 

 正直、このまま浮いているだけでも辛い。このまま降りて適当な相手を倒し試験を通過して、さっさと休みたいという気持ちもかなりある。でも、夜嵐がそれを実行しないのは。鳴神風華という自身の上位互換たり得る強敵を、この手で越えてみたいという気持ちの方が余程強いからであった。

 

「見回してもどこにもいない……どこに隠れて」

「ここだよ」

「なっ……!?」

「おっと。君の声はデカいんだよね。口は閉じててもらおうかな。……まさか吹き荒ぶ大風(バンパーストーム)を突き破ってくるとはね。大したものだよ」

 

 夜嵐の驚愕する声が響き渡る。それもそのはず、どれだけ探しても見つけられなかった相手が、急に自らの目の前に現れたのだから。

 そんな驚きをよそに、風華は夜嵐の口元へそっと掌を当てる。理由はうるさい声を出させないようにするためと、もう一つ。『疾風迅雷』の空気を操る力を、そこで使うため。

 

「わたしの個性は空気を操る。空気中の酸素や水素などといった物質の濃度を変えたり、空気の流れそのものを操って風を起こしたり。水中にある酸素だけを取り込むことで、肺呼吸の必要なく水中で活動することなんかも可能だ。そして、その力はわたしに触れている空気や、近い範囲にある空気程精密かつ迅速な操作が可能となるんだ」

「……」

「ま、もう聞こえてないか。気絶してるや」

 

 夜嵐の周りにある空気の酸素濃度を下げ、酸素の少なくなった空気を吸わせることで、風華は彼をたったの一息で昏倒させて見せた。意識が途切れたことで浮遊を維持できなくなった夜嵐は倒れ、ゆっくりと音もなく地に堕ちる。

 気絶したままの夜嵐が、落下によって怪我をしていないことを確認しながら風華も着地する。命に別状がないことを確認すると、横たわる彼に付けられていたターゲットを、風華はしっかりと全て光らせたのだった。

 

「……君は最初に言ってたよね、『力試しさせてもらう』って。これで確かめられたかい?」

 

 力試しとは、格下が格上に対してどれだけ通用するかを確かめるというもの。そんな言葉を使っていた時点で、夜嵐は風華の方が格上だと認めていたということになる。風華としても、自分のことを格下だと言っている相手に負けるつもりはなかった。だから彼の望み通り、格上として格の違いを見せつける戦法をとって戦った。

 

 赫災領域(レッドゾーン)を開始の一瞬いこう使わなかったり、吹き荒ぶ風(チープストーム)で夜嵐の風と撃ち合ったり、逆に利用してカウンターを放ったり、彼よりも大規模な風を複数起こしたり。そうして部分部分で上回っていることを見せつけ、最後は風を操るだけではできない酸素濃度操作で瞬殺した。力試しを称して襲ってきた相手に対して、風華は十分過ぎる程力を見せたと言えるだろう。

 

「これに懲りたら……パーソナルスペースは弁えるようにしてね」

 

 聞こえるはずのない捨て台詞を残して、風華は次のターゲットを探しに行くのであった。

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