風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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仮免試験 その2

「この辺りもだいぶ少なくなってるね。わたしと夜嵐の戦いから遠ざかろうとしてたのかな?」

 

 夜嵐を倒して辺りを見回した風華は、想定よりも遥かに人の気配が少ないことに気付く。どうやら暴風咲き乱れる風華と夜嵐の戦いに巻き込まれるのを避けるべく、皆離れていったようだ。

 電磁波による探知で確かめてみたところ、だいたいのところは集団戦となっていて割り込むのは少々リスクが高い。潜伏している相手や一対一など少人数で戦っている相手が狙い目なのだが……すぐに調べられる範囲にはそんな奴は見つからなかった。

 

「仕方ないか……もう一回、赫災領域(レッドゾーン)を発動させてみようかな」

「その必要はないですよ」

 

 背後から聞こえた声に、風華は反射的にブレードを抜き振り払った。声の主は咄嗟に放たれたその攻撃を軽々と避けると、近くの高台に登って上から風華を見下ろす。Sの校章が付いた帽子に、ライダースーツを彷彿とさせるコスチューム。偶然かまたは必然か、風華はまたしても士傑高校からの刺客と相対することとなった。

 

「ありゃりゃ、反応が早い。でもボーッとしてたらダメですよ」

「……随分と、かくれんぼが得意なんだね」

 

 電磁波による感知では、近くに気絶させた夜嵐以外の気配は見つからなかったはず。なのに何故この女は、自分に不意打ちを仕掛けることができたのかを疑問に思う風華。

 

「何故、不意打ちができたのか不思議って感じなんですかね?いいよ教えてあげる。私はあなたとイナサの戦いが終わってからすぐ、イナサのそばまで行って身を潜めていたの。あなたが感知能力を使おうとしてイナサから目を離した隙にね」

「……感知能力なんて、大概は大雑把にどこに何が『居る』か、もしくは『在る』のかを探るものでしかない。わたしが元からそこにいた夜嵐イナサの電磁波だけを感じ取っていると、そう勘違いするように仕向けたという訳だね。そして、その目論見は見事成功した。士傑じゃ忍法でも教えてるのかい?」

 

 少女の語る説明を聞いて、風華はその隠密機動に舌を巻いた。口で言うだけならば簡単だ。気絶した夜嵐に重なって2人分の電磁波を1人に見せかけるというのはまだいい。気絶している夜嵐から放たれる電磁波は常人のそれよりも微弱であり、その差に気付かなかった風華の落ち度である。だが、そこに至るまでに全く気付けない程音もなく素早く移動できるというのは、脅威と言う他ないだろう。

 咄嗟に反撃ができたから良かったが、間に合わなければターゲットを一つ潰されていた。いくら強力な個性を持つ風華とはいえ、未知の相手とターゲット一つ分のハンデを背負って戦うのは厳しい。この不意打ちを防げたのは僥倖であった。

 

 ……周りに他の電磁波はない。つまりこの女は単独でわたしと戦おうとしてるということ。どんな個性を持ってるのか知らないけど、随分と自信があるみたいだね。

 

「こういう乱戦が予想される試験だと、まず情報の多いところを狙うみたいな発想をする人もいるらしいの。だから雄英が早めに脱落する可能性を考えて会いに来たの。せっかくの強豪校との交流のチャンスだし、あなた達のこともっと知りたくて。とはいえ他は通過しちゃったみたいだから、私が会えるのはあなたしかいなかったのだけど」

「会敵した状況で……ペラペラとよく喋る」

 

 少女の並べる御託を一通り聞き、風華はそれが仲間が来るまでの時間稼ぎでもないただの雑談だと判断した。罠でもないのにこれ以上は構っていられないと、ボールを一つ投げつける。纒雷によって強化された膂力で投げられたボールはしっかりと少女のターゲットの一つに命中して、そこを光らせたのであった。

 

「余計なことは、しない方がいい」

「あらま、やられた。それじゃあ仕方ない」

「っ……!?何処に」

「こんなんボールで殴ればいいじゃんね」

 

 ターゲットが一つやられたことなど知らないとばかりに少女は笑い、風華の見ているその前から忽然と姿を消した。一瞬驚いて身構えるが、聞こえてきた声に反応して何とか殴りつけてくるボールを回避する。纒雷の速さがなければ、確実に当てられていたタイミングであった。

 距離を取った風華は体勢を立て直して反撃に出ようとするも、すんでのところで止まる。今のように少しでも目を離せば、その時点で電磁波ごと見失ってしまう。電磁波はそこにあるはずなのに、実際の居所が掴めない。あの少女を意識できない。どんなに強く見ようとしても、感じようとしてもそんな意識を逸らされてしまうのだ。

 

「個性、じゃないね。これは技術。僅かな挙動で自分の存在から相手の意識を逸らし、その瞬間に身を潜める。大した技術だよ」

「褒めてくれてありがとう。実際正解よ」

「最初に不意打ちを仕掛けてきたように、隠密機動が大得意という訳だ。でも……」

「きゃっ!?」

 

 相手に存在を意識させない誘導技術。恐らく士傑高校で学んだであろうそれは、もはや達人芸と読んで差し支えない練度である。だが、攻撃前に話しかけてくるということもあり、風華ならば気付いたギリギリで対処できる範囲であった。

 背後からの一撃を右腕でボールを奪い止めると、雷上動で逆に背後を取り二つ目のターゲットを光らせた。ついでに地面に少女の身体を押し付けてその上に乗り、抜け出せないよう潜翠『伏雷』で拘束。最後のターゲットを光らせるまで秒読みという状況を作り出した。

 

「君が隠密機動なら、わたしは高速機動だ。これならご自慢の意識逸らしも、意味がないでしょ?」

「うーん、確かに動けない。これはもうダメかもしれませんね。最後に一つ、質問いいです?」

「ダメ」

「あれま、つれない人」

 

 時間稼ぎには応じず、風華は少女の最後のターゲットを光らせた。アナウンスが試験を通過したことを伝え、それを聞いて一つの山場を超えたことに安堵の息を吐く。

 

「ねえ、今なら質問いい?」

「そんなに聞きたいことあるの?……いいよ、答えられることなら答えるよ。一つだけね」

「あなたは、どうしてヒーローを志したの?」

「どうして、って……」

 

 名誉から誇りか。もしくはお金か、はたまた誰かの為か。少女は風華に、ヒーローを目指した理由を問う。その声はまるで、風華を値踏みしているかのようで。何だか不快なものを感じながらも、風華はその質問に答えてみせた。

 

「オールマイトみたいになりたいって、そう思ったんだよ」

「オールマイトに?」

「……昔、敵に襲われたことがあってね。その時にわたしは、オールマイトに救けられたんだ。あの時の彼の背中……守られる安心感は今でも鮮明に思い出せる。あんな風になりたいと思った。あの背中に少しでも近付けたら……憧れの人に近付けたなら、それはどんなに素敵なことなんだろう、ってね。それがわたしの、ヒーローを志す理由」

「成程ね……それがあなたの理由なんだね。もっとあなたのこと、知りたくなっちゃった」

「一つだけって言ったでしょ。あんまり人の秘密に踏み入ろうとするのは良くないよ」

「あらま、ケチくさい」

 

 まだまだ風華のことを知りたい。そう食い下がる少女であったが、風華はそれをつれない言葉で一蹴する。もうこれ以上は無理と悟った少女は、諦めて捨て台詞を残し去って行った。

 去っていく背中を見届けた風華は、自分も試験通過車が案内される控え室へと向かう。中に入るとそこには、既に試験を通過し終えていたA組のクラスメイト達が待っていた。

 

「あ、鳴神さん!無事に通過できたんだね!」

「そっちこそ。随分と早かったじゃないの」

赫災領域(レッドゾーン)のおかげだよ!アレで他の受験者が怯んで動きを止めたことで、そこを狙い打って先手を取ることができたんだ。早々に通過できたのは鳴神さんのサポートがあってこそさ!」

「ふふ……協力できてたなら良かったよ」

 

 緑谷が控え室に戻ってきた風華に気付き、彼女が無事通過できたことの喜びを伝える。単独で行動していた内の1人が脱落せずちゃんと戻ってきたということで、単独行動を諌められなかった身としてホッとしたとのことであった。

 ちなみに風華が通過する少し前に、轟も合格して控え室に戻ってきている。これでA組であと通過できていないのは、爆豪と彼について行った切島・上鳴の3人。残りの枠もそろそろ少なくなってきている中で。風華達にできることといえば、通過できることを願うばかりであった。

 

「あと残っているのはかっちゃん達か……何か士傑の人に絡まれてるみたいだけど大丈夫かな?」

「まぁ、勝己なら大丈夫でしょ。鋭児郎も電気も一緒にいるんだし、勝己も必要とあればちゃんと連携は取れるタイプだ。単独行動に拘って、勝てる勝負を落とすようなタマじゃないよ」

 

 かくして結果は、その通りとなった。爆豪が爆破による高速機動と煙で相手を翻弄し、その間に上鳴が電撃で拘束。切島が動けなくなった相手に向けて必殺の一撃。触れた相手を挽き肉にするという恐ろしい個性の相手であったが、3人の連携はその脅威を完全に上回っていたのだ。

 士傑生を倒した勢いそのまま、元に戻った彼の個性によって挽き肉にされていた他の受験生を3人は薙ぎ倒していく。目良のアナウンスによって切島の試験通過が報告され、これによってA組全員の試験通過が確定。その瞬間をモニターで確認していた風華と緑谷は、反射的に固い握手を結んだ。

 

「あ、ごめん……!」

「こっちこそ。つい、反射的に……」

「仲良いよなぁお前ら」

「訓練とかでもだいたい一緒だもんなぁ」

 

 他のクラスメイト達に揶揄われ、2人はすぐに握っていた手を振り解いた。ほとんど条件反射的にやってしまったこととはいえ、揶揄われてしまうとやはり恥ずかしいのであった。

 

「何やってんだお前ら」

「あ、かっちゃん……」

「てめェに先越されてるとはな。まぁ、そんな力がありゃ当然受かるか」

「え……!?かっちゃんが、え……!?」

 

 爆豪が自分を褒めるようなことを言い、緑谷はそれはもう言葉も出ないほどに驚いた。それはそうだろう、爆豪が緑谷に対して言うことといえば、普段は怒鳴るか罵るかしかないのだから。

 

「ったくよ……!てめェはそんなんだからいつまで経ってもクソナードなんだよ。デ……出久。てめェはオールマイトに認められてんだ、ちったあ堂々としてやがれ」

「え!?あ……うん!そうだね!」

「……借り物、ちゃんとモノにしとけよ」

「……うん!」

 

『100人目が通過しました!終了でーす!これより残念ながら脱落してしまった皆さんの撤収作業に移ります』

 

「終わったね」

「全員通過できて本当によかったわ。そういえば風華ちゃん、まだターゲット外してないわね。奥の方にターゲットを外す鍵とボールの返却口があるから行ってくるといいわ」

「あ……そういえばそうだったね。今の内に外してくるよ。ありがとう、梅雨」

「いいのよ」

 

 蛙吹に言われて、風華は控え室の奥にターゲットを外しに行く。目良から次の試験を伝えるアナウンスがされたのは、ちょうど全てのターゲットを外し終えた時であった。

 

『えー……通過した100人の皆さんは、こちらの映像をご覧ください』

 

 そう言って映し出されたのは、先程まで戦っていた会場が爆破されて粉々になっていく映像。

 当然、室内は騒めく。どうしてこんな映像を?ていうか何で会場を壊してんの?出てくる疑問に答えが浮かぶのは、すぐであった。壊れた会場に現れた大勢の人間とアナウンスが、次なる試験の内容をしかと伝えてきたのだから。

 

『次がラストです。皆さんにはこれからこの被災現場で、バイスタンダーとして救助活動に当たってもらいます!』

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