「か……神無……討也……?」
討也の自己紹介を聞いて、アルシエルの笑みは凍り付いた。
先日、魔王様から伝えられた知らせを思い出す。
内容は、神無討也と言う人物が来た際には失礼のないようにと言うものであった。これは、ルシフェルを倒したのが討也だと考えた魔王が、他の大元帥がルシフェルの二の舞になるのを防ぐために伝えたのだ。
止めを刺したのはエミリア達だが、ほとんど討也一人でライフを削り切ったようなものであるので、魔王の考えは外れていない。
アルシエル、と言うより、悪魔大元帥全員に伝えられた内容はもう一つ。
絶対に戦うな、と言うものである。
が、ゆえに逆にアルシエルは興味を持った。目の前の間違いなく人間にしか見えない少年が一体どれほどの力を持っているというのだろうか?
どうやら多数の悪魔を一人で相手にするほどの力はあるようだが……。
戦うな、とは言われたが戦ってみたい。
「突然で申し訳ありませんが………少々手合せ願えますかな?」
アルシエルの言葉に討也は笑顔を消した。というかつまらなそうな顔をした。
まあ、討也は魔王を圧倒できるくらいの力を持っているのだ。アルシエルが相手になるとは、とても討也には思えない。
「まあ、良いぜ。どこからでも来ると良い」
もっとも、相手にならないなどと言う理由で挑まれた戦いを討也は断ったりはしない。
構えもしないまま、アルシエルにいつ始めていいと告げる。
アルシエルは、討也の言葉にすぐさま戦闘姿勢を取るとまっすぐに踏み込んで拳を放つ。
つまらなそうな顔をしたままの討也は、その攻撃を避けようとすらしなかった。
「……………………で?もう終わりか?」
「うぐッ!?ば……バカなッ……」
十分くらいが経過しただろうか。
エフサハーンの城内で戦いが始まった時と全く変わらない位置に立っている討也と、右腕を押さえ苦しげな表情を浮かべるアルシエル、そしてそれを柱や壁の影に隠れながら見ている悪魔たちがいた。
討也は一度も攻撃していない。アルシエルが魔力や自分の肉体を使って攻撃を放ち続けただけの事であるが、討也は一歩も動かないままそれらを全て表情も変えずに防ぎ切った。
「(一体どんな体のつくりをしている?)
討也を殴った拳の方が逆に傷んでしまった。少なくとも見た目通りの存在ではないらしいと、アルシエルは改めて認識し、今度は尻尾の鍵爪で討也の心臓部を狙った。
が、その攻撃は討也の着ているコートに当たった瞬間弾かれる。
「バカなッ!?」
驚愕の声を上げるアルシエルに。
「まだやるか?ぶっちゃけ飽きてきた。そろそろ終わりにしたいんだが?」
と、先ほどから変わらぬつまらなそうな顔のままで討也が言う。
「終わりにだと………できるならやってみろ!」
今度こそと、全力を込めて拳を叩きつけるアルシエル。
討也はそれをぺちっと軽く弾き飛ばす。
「じゃ、そうさせてもらおうかな」
ゆらりと、討也の眼が攻撃色に染まった。